叩き伏せられたクトゥールが、ゆらりと立ち上がる。
その顔に浮かべられた笑みは、恐怖から来るものか、あるいはまた別のものか。
青い魔道士の姿をした邪悪の化身は、地面を蹴って自分を空中から見下ろしていた討也に高速で迫る。そのまま、人間であれば一撃で肉塊と化す威力のこもった拳を叩きつける。
要はゼロ距離で衝撃波を放つようなものである。
が、討也はその攻撃を避けようとはせず、放たれたクトゥールの拳に、自分の拳を叩きつけた。
ゼロ距離で互いの拳が衝撃を生み、両者の体を揺さぶる。だが、討也は楽しげな笑みを浮かべたままそこに踏みとどまり、対するクトゥールは紙きれのように吹き飛ばされた。
もっとも、それでもクトゥールが簡単に倒れたりしないのは、さすがは水の時代の王と恐れられることになるゆえんでもある。
空中を蹴って地面に着地したクトゥールは、討也が生み出した衝撃波によろめきつつもその場に何とか踏みとどまった。
『あれ、もしかしたら、身体能力だけならお前クラスになるかもしれないぞ』
「あー、レヴィアの肉体を乗っ取ったクトゥールならあり得るな」
まあ、それはまだ何十年も先の事なので気にしないでおく。
「さて、そろそろ始めるか」
『ああ、選定の方は俺もサポートする』
討也とベリタスがしようとしていること。それは、簡単に言えば水の時代にイデアがやったことと同じようなものである。
違いがあるとすれば、自分にクトゥールの魂を定着させるわけではないというところ。
つまり、ファウストの体からクトゥールの魂だけを抜き取るのだ。
魂を抜き出す程度の事は討也にとっては造作もない。問題は「クトゥールの魂だけ」をというのが難しいところである。が、それについてもベリタスの発案でどうにかなった。
あとは実行するだけ。
「焔牙の炎刃(ひのがのえんじん)」
討也の声とともに、「朱竜の焔の眼」が赤く輝き、刀身に炎をともす。
さらに討也は、手にした、焔を纏った赤いマチェットのような武器を無造作にクトゥールに向けて振った。瞬間放たれたのは凝縮された炎の刃。それがクトゥールの足元に命中し、地面を抉るとともに、視界をふさぐ。名の如く、竜の牙の一撃にも劣らない威力である。
クトゥールの視界を土ぼこりがふさぐと同時に、討也は今まで外側に向けて放っていた「王威」を隠す。クトゥールからしてみれば、肉眼でも、気配でも討也の居場所を探れなくなった。
そして、音もなく討也は空中を蹴ってクトゥールへと迫る。
『魂の選定』
ベリタスが、クトゥールの魂を選定。
そして、土煙を割いてクトゥールの正面に現れた討也は、クトゥールが反応するより早くその頭を右手でつかみ。
「ソウルハント!」
魂を奪取するスキルを発動した。