とある湖畔に、とても美しい歌声が響いていた。一人の神が奏でる旋律に合わせ、二人の少女が歌っている。ヴェルブラッド家の邸宅から少し離れた湖畔に、傷ついた一人の神が身体を休めるために身を寄せた。その神[水神]ヴィーラは、そこで二人の少女、姉妹と出会った。
神は本来、人をけがれたものとして忌み嫌っている。それはヴィーラも例外ではなかった。
だが、姉妹から傷の介抱を受ける間に、その心のうちは大きく変わっていった。
さて、その頃討也が何をしていたかというと、やはり討也もヴェルブラッド家にいた。
討也はヴェルブラッド家に仕えているというよりも、ヴェルブラッド家のお抱えの騎士的なことをやっている。
本当なら、討也はそんなことをするつもりはなかった。
ヴェルブラッド家は王都からあまり遠くない所にある、その規模は大陸の約三割を収めるという非常に強い力を持った家である。先の時代、つまり火の時代に、その一帯で起きた厄災から民を守り、その功績を讃えられている。
実は、ヴェルブラッド家がこのような功績を収められたのには理由がある。それが、「朱竜の焔眼(しゅりゅうのひのめ)」。ただし、討也が持っているのではなく、火の時代に回収されたもう片方である。これは、実は討也がオーガスタスに渡してあったものである。
朱竜から抉り取ったその眼球は、朱竜が倒れてなおも焔を発し続けた。それを効率的に使っているのが討也の武器である。
「朱竜の焔眼」は、普通の人間には制御しきる事が出来ない。だが、おそらくヴェルブラッド家の人間には使用できたようである。
つまり強力な武器を扱う事が出来たからこそ、今のヴェルブラッド家の栄光はあるのだろう。
で、それがどう討也がお抱えの騎士になるのと関係しているかというと、討也が「朱竜の焔眼」を使った武器を使用していたこと、そしてもう一つは、討也の知名度にある。
800年以上たっても、火の時代の勇者オーガスタスは、未だに多くの人に知られている。それこそ「軍神」と呼ばれているほど。それと同時に、名前が知られているわけではないものの、王都の騎士や、王族をはじめとして、神無討也も一種の伝説としてかなり広範囲に定着しているのである。
「素手で幾多の竜を屠った黒の騎士」と、「火の時代の勇者にして軍神」である、討也とオーガスタスは、二人で朱竜を倒したこともあり、「赤と黒の英雄」という風にセットにされることも多い。
討也は、そのことを知らずに王都の付近で自分に襲いかかってきたドラゴンを、素手で殴り殺したりしていた。それを、この時代の王都の騎士団が見て、「伝説の再来」として讃えたのである。
ちなみに余談だが、討也は最近になってドラゴンとエンカウントする回数が多くなったのだが、それは、討也が持つ「朱竜の焔眼」の武器が影響していたりする。
その後、この時代の騎士王が討也を騎士団に誘ったりもしたのだが、討也はそれを断った。しかしその後、噂を聞いたヴェルブラッド家から声が掛かったのである。討也は、最初迷ったのだが、特に断る理由がなかったのと、ヴェルブラッド家の中にいたほうが、討也の目的を達成しやすいというのもあって、その誘いを受けることにした。
討也は、オーガスタスやヨハン、ドミニクには自分が「咎人」似た存在であることを明かしていた。ヨハンとドミニクは知らなかったが、オーガスタスは「咎人」の存在を知っていた。
ついでに言うと、その事もあって、王族の中には、「伝説の再来」である討也が実は伝説本人なのではないかと思っている人間もいる。ヴェルブラッド家で、「咎人」の存在を知っている者は、討也が「朱竜の焔眼」の武器を持っていることを知っている者限定で、討也が本人であることを確信していた。
というわけで、討也はヴェルブラッド家の人間と共に竜の討伐を手伝ったりする傍ら、ある程度の自由を与えられていた。
そのため、ヴェルブラッド家の領土内のとある湖畔に神が現れたことを、討也はすぐに知ることになった。
……………セリフが一個もないね。
…………うん。まあいいか。