神が、神殺が、互いが互いに向け繰り出した刃が、目標に突き刺さったのはほぼ同時だった。
そして、お互いがやろうとしていたこともほぼ同じ。
「ドラゴン・インジェクション」
「メタモル・フォーゼ」
神は、討也を竜へ。
討也は、神を変質させようとした。
スキルを使ったのもほぼ同時、そして、その効果が発動したのも、ほぼ同時だった。
槍が突き刺さった討也の右肩から、その身が竜の物へと変わっていく。
ナイフが突き刺さったデウスの脇腹から、その肉が金属のように変質した。
「うがぁああッ!!」
体を金属へと作り替えられたデウスは、あまりの激痛に顔を歪め、槍を討也から引き抜き蹴り飛ばす。
それは竜の腕に受け止められたが、そのまま受け止めた腕ごと吹っ飛ばした。
吹っ飛ばされた討也は、水面を蹴って地面へと着地した。
「!?」
『おいッ!?』
様子を見ていたヴィーラとベリタスが、同時に慌てた。
が、それは討也には、いや、もともと討也だったソレには届かなかった。
ゆらりと地面に立ち上がったその黒い影は、完全にドラゴンの物だった。
人間の物とは比べ物にならない太さの両腕、二本足で立ちつつも、前傾姿勢をとるその背には、黒い剣のような物がせり出していて、普通の竜にはある翼は無かった。頭部や手からは、背に生えているものと同質の爪や牙や角が並んでいる。
竜のような咆哮を上げたソレからは、討也が完全に竜へと変わったことが覗えた。
デウスは、腹の激痛に顔を歪めながらも、やはり歪に笑みを浮かべる。
彼は勝利を確信していた。
まさか自分にスピードで追いつき、さらにダメージまで与えてくるとは思いもよらなかったが、討也が放った技は、自分の身体の一部を変質させただけである。対して、自分が放ったスキルは、相手を完全に竜へと作り替えた。
魂だけの存在と処分すべき神から動揺の気配を感じ取りつつ、デウスはゆっくりと黒い竜へと近づく。大きさは、2メートル前後。竜としてはかなり小さいが、その形は完全にドラゴンの物であった。
「無様だな」
ゆらりと槍を構える。
これで終わりだと、これで最期だと。
槍をその黒き竜に、神速で突き出す。
それは、黒き竜の鎧のごとき鱗をいとも簡単に砕き、その肉を抉り、そして敗者たる少年が変貌した竜の命を散らす―――はずだった。
「!?」
神速で突き出した槍、それはいつの間にか、黒い竜の左の爪でガチリと受け止められていた。
槍を引こうとする。が、動かない。ならばとばかりに押してやる。だが、やはりびくともしない。
「なんだと!?」
―――何故?
自分の攻撃は、確実に相手を貫いたはずだ。
なのになぜ受け止められている!?
―――違う。
何故?何故、総ての龍を支配できるこの自分に、この竜は抵抗できるのだ?
ゆらりと、目の前の黒い竜の眼に、攻撃色がともった。
それとともに、明確な敵意がデウスへと向けられる。
考えるまでもない。確認するまでもない。目の前のこの竜から向けられている。
攻撃色の竜の眼が、嗤うようにゆらりと光る。
なんだ?
なんなんだコイツは?
「誰だ、お前は!?」
何故そんなことを自分は聞いたのだ?
聞いたデウス当人にも、自分が何故竜にそんなことを聞いたのかは分からなかった。
だが、竜は答えた。
応えた。
言語でそれを示す代わりに、ただ単純に行動で。
自分の影に右手の爪を突き立てたその竜は、次の瞬間には大きな、死神が持つかのような大鎌が握られていた。
「!?」
―――くたばれ
そんな声が、デウスには聞こえた気がした。そして同時に、黒い凶刃がデウスへと振り下ろされた。