軽く音速を超える速度で接近した俺に、フェンリスは反応した。
切りつけたナイフの一撃を、俺の腕をはじくことで躱すと、さらに手にした大剣をなぎ払うようにたたきつけた。
「あ?野生の感ていうやつか?」
正直反応されるとは思っていなかった。
いや、そう言えばディアブロも反応してた気がする。音速に対応できるとか王ってのはみんなチートばっかか?
たたきつけるような斬撃を空気を蹴って躱すと、着地と同時にナイフをフェンリスに投げつける。
もちろん当たるなんて初めから思ってなんかいない。
ただの牽制だ。
だが、そのおかげかこちらとの距離を詰めようとしていたフェンリスは、即座に剣を振ってナイフをたたき落とした。そこにさらに取り出したナイフを連続で2本、続けて残りの三本をすべて投げつける。
それらをフェンリスは正確にたたき落としていく。
狙い通り。
おれは、先ほどと同じコートから獲物を取り出すという動作で、コートの内側の闇から「暗黒物質」を作り出し、それをナイフとほぼ同じ形状にして投げつけた。
当然、フェンリスは投げつけられたそれが形状、材質共に今まで俺が放ったナイフと異なることに気付いただろうが、それでも「暗黒物質」製のそれを今までどうり剣でたたき落とそうとした。
だが、今回は先程のようにはいかなかった。
鈍い金属音がして、フェンリスが手にした大剣の切っ先が吹っ飛ぶ。
フェンリスの剣を俺が投げたダークマタ―のナイフが切り裂いたのだ。
もっとも一瞬早くフェンリス自身には躱されたので、ただ単純に相手の武器を傷つけるだけに終わったが。
地面を蹴って距離を取ったフェンリスが先端が切れてちょっとカッコ悪くなったバスターソードを構えなおす。
「くはッ。ま、あの程度じゃ驚きはしたってビビったりはしねえよな」
『いや、さっきより警戒されてるぞ』
「あ?まあ大丈夫だろ。次は手加減しないし」
そう言って俺は、自分の影からダークマタ―を引き出す。
ゾブリと、時代劇で槍か何かで人を突き刺した時の効果音みたいな音を出して、生まれたダークマタ―を俺は長い定規みたいな薄さにして握る。
これだけで色んなものをスパスパ切れる刃の出来上がり。
これを左右の手に一本ずつ握る。
ちなみに、俺自身はこのダークマタ―では傷つかないようだ。まあ、電撃使いがスタンガン通じないのとおそらく一緒なのだろう。
ついでに言うならば、このダークマタ―影や闇から切り離しても消えたりしない。俺が任意で消すか、俺から一定以上の距離が離れると消えてしまう。
これが、媒介となる自分や物体の影、もしくは光の当たらない闇から切り離して独立した形状に変えた場合。
生み出した後に、形状を変える段階で、媒介となる影や闇と接続したままなら好きなだけその体積を増やしたり形状を変えたりできる。
まあ、チートな能力だ。自分で申請したんだけど。
ダークマタ―製の刃を手にした腕を気持ち広げると、最初に仕掛けたより強く地面を蹴り、先ほどよりも速い速度でフェンリスにせまる。
フェンリスの直前で再度地面を蹴った俺は、後ろへ回り込みつつ、体の方向をフェンリス側に向け、二本の刃を振りおろした。
もっともフェンリス自身には当てていない。
だが、それでも音速を超える速度で振られた刃が烈風を生み出し、その衝撃だけでフェンリスを弾き飛ばした。すさまじい轟音とともに、大量の砂埃が巻き上がる。
「くははッ!さっきまでみたいに行くと思うんじゃあねぇよ」
俺のそんなある意味独り言に答えたのかどうかわしらないが、晴れた土煙の中からフェンリスが大剣を振りかざして襲いかかってきた。
「そうでなきゃ……面白くねえよなぁ!」
俺はさらにダークマタ―の刃を二、三本生み出して迎え撃つ。
「暗黒物質」=ダークマタ―
です。確かこの訳で合ってると思うんだけど違ってたらすみません。