蒼閃の軌跡   作:衝動エンジョイ勢

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幕間なのでちょっと短め。
後書きに自己満設定入れておくので興味ある方は読んでいただけると前回のシーンがイメージしやすいかなと思います。

8/26 ここ一週間熱が出まして38前半から全く下がらない状況が続いていました…。PCRを受け陰性であることはわかったのですが、現在風邪疲れとでも言うべきか全く気力がなくて書けていません…。ここまで待たせておきながらではありますがもう一週間ほどお時間を頂きます。よろしくお願いします。





幕間2 選定/独白1

 

「おい」

 

「あら、何かしら?」

 

「オルディーネの脚に砂がこびりついてたんだが、お前メンテナンスとか言って何したんだよ」

 

「それはメンテナンスよ。あんなの公衆の場で見せれるわけないでしょう?近くの海岸に人払いを張ってメンテナンスをしていた。それだけよ?」

 

「……ほーん」

 

 クロウは面白くなさそうに返事をしていた。

 …この子と出会ったのはいつ頃だったか。確か、彼と出会って半年後くらい、盟主様に下り結社に入ったあと帝国中を旅をして回っていた頃…久しぶりにカイエン公爵の屋敷に立ち寄った時鍛錬場でただ一人、濁った目の中で一つだけ曲げられないものを秘めた男の子に出会ったのが懐かしい。

 

 

 

 

 

 

───────────────────────

 

 

 

 名前を聞いてみれば、その子の名前はクロウ・アームブラストと言うようだった。聞き覚えはないけれど、ジュライの市長のお孫さんらしい。彼はカイエン公の誘いを受け、あの歳にして帝国解放戦線のリーダー…大したものだ。

 

 

 出会って半年、彼の雰囲気は柔らかくなり他の解放戦線のメンバーとも打ち解けるようになった。私もよく見かけたという理由で声をかけてきていた。とてもいい兆候だ。

 

 

 出会って一年、カイエン公爵の勧めにより彼を、起動者(ライザー)にすることになった。あまり望ましくはないが…帝国に蔓延る呪いをどうにかする足がかりになるかもしれない。

 目の前の男の子は私の悩みや葛藤も知らないで…新たな力を手に入れることに歓喜している。こうなったら散々扱いてやるんだから。

 

 

 あれからもう一年経った。出会って早二年。騎神での戦闘訓練のことも考えるともう刻限はすぐそこまで来ていた。

 今日は予定を繰り上げ、最終試練に向かってもらう。クロウは独学で双刃剣(ダブルセイバー)を準達人級と打ち合えるレベルまで仕上げていた。それでも…心配なものは心配なのだ。私にとってクロウはもはや弟や息子のような、いや、そんな役割を超越したもうひとつの『家族』同然の彼を私は谷底へ突き落とすのだから。

 

 クロウが挑んでもらっていたのは蒼の騎神の試練。蒼を選んだのにもしっかりと理由がある。

 騎神は灰、蒼、紫、緋、銀、金そして、黒。騎神は初代の起動者以降、彼らを導いた魔女によって試練を課せられて封印された。そう、騎神には、騎神が求める能力に対応してそれぞれに固有の試練が設定されている。

 まず紫。紫の初代起動者は矜恃を重んじていたという。そして紫の起動者を導いた魔女は矜恃を試す試練を課して封印したらしい。場所は不明。

 次に金。歴史の表舞台に出ることは全くと言っていいほど少なかったが幸い情報は得られた。あの騎神が起動者に求めるは純粋な力。今も尚地脈をさまよっているため、正しい手順で儀式を行えば任意の場所に試しの場を建て、容易に金の騎神を得られることだろう。──────力を試す試練を簡単に突破できるなら、だが。

 今度は緋の騎神。この騎神の初代がそうだったのもあって、求められるのは血統。皇族でなければ起動者になれないというあまりにも高い敷居がある代わりに試練が備えられていない。生まれこそが最大の試練と言うわけだ。

 そして銀。かつてからずっとそう。この騎神を乗りこなした者達はその命が擦り切れるまで忠義を尽くしたという。試練の場所はローエングリン城。もうあそこは空っぽで、今の起動者は、まぁ…何となく察してはいる。

 そろそろ彼らの話をしなくてはならない。灰だ。灰が求めるものは絆。これはかの大帝の頃からだったと言うが、動乱の時代を仲間たちと駆け抜けた大帝は次に灰を継ぐものが、同様に支え合える仲間がいることを望んでいた。

 正直、この灰に選ばれた者は可哀想と言わざるを得ないだろう。多くの絆を紡ぐという条件があるせいで試練を乗り越えるための期間に目安が付けれないのだ。せっかく騎神に認められたのに戦闘訓練も出来ないまま実戦、なんて笑えないだろう。

 同様に異端であるもの、黒。居場所、試練の形式、存在、過去、全てが不明。分かっているのは、奴にこの帝国にかかった呪いの秘密がある可能性が高いことだ。いち早く究明し、帝国を救ってみせる。

 最後に、これからクロウが挑む蒼。蒼の騎神の試練に認められるために必要な素質は信念。矜恃とも、正義とも違う。矜恃と言えるほど大したプライドをクロウは持ち合わせていない。正義なんておこがましい。クロウは自分がやろうとしていることは普通ではないことを分かっている。ただそこにあるのは自分が彼を食い止めるというエゴ、それはまさに信念と言えるもの。そんなクロウだからこそ私は蒼の起動者へと導いたのだ。

 

 

「いい?クロウ。場に入るまでは私も共に行くわ。だけど、結局この戦いを決めるのは貴方。私がどれだけ力を奮っても試しは終わらないわ。貴方が死にそうになれば私が勝手に回収するけれど…それが私たちの終わりだと、分かっているわね?」

 

「…あぁ」

 

「フフ、そんなに緊張しないで?これで失敗しても貴方は切り札を一つ掴み損ねるだけ。貴方の努力次第では騎神に並ばないにしてもそれなりの力は得られるはずよ。それとも、貴方が信じるそれはそんなに薄っぺらかったの?」

 

「はぁ…、そんな挑発されなくても。ちょっと強ばってただけだ。お前こそ自分が手塩をかけて育てた倒れるかもって心配なのか?」

 

「あら、言うじゃない」

 

「そっちこそ」

 

 彼の顔の強ばりは軽減された。これなら少しはマシになったかしら…。

 私は彼に蒼に選ばれる条件を伝えていない。試しは潜在的な部分まで感知する。候補者の思いが魔女によって意識的に誘導されたものだとするならば試練の抹殺対象となる。いくら私でも瞬きする間に殺されるなら、魔術の起こりを許されないそれは必殺。そんな形で死ぬのは私としても不本意だ。

 ようするに彼が戦いの中で自分の信念を再認識、確立させなければ試練は突破できない。本人の本質、人間性そのものを試すものこそが試しなのだ。

 

 

「これが…最後の試し───────!」

 

「実物は初めて見るけれど…圧倒されるとはまさにこれこの事ね」

 

 蒼色のチカラが顕現する。文献でしか知らない蒼の騎神に一致する形の影。地下水路のずっと深く、水底のような暗い場所に鎧や剣の残骸が突き刺さった陰鬱とした場に悠然と存在するエネルギーの奔流はこの世のものでは無い感覚がした。

 ここから私が出来ることはほぼと言ってもいいほどない。私が手を出せばその分だけ相手にダメージを与えられるのだけど、それで勢い付かれて大切なものを見失われても困る。

 まずはクロウに補助の魔術でもかけて─────

 

Guoooo───!

 

「ぁ」

 

「バッカ!」

 

 突然の横薙ぎは私の半身をお別れさせようとしたところでクロウが割って入り、双刃剣で受け止めきれず吹っ飛ばされたことにより無事で済んだ。

 正直、自分の実力を信じすぎていた。相手は尋常ならざる存在だ。気を抜けばどんな存在であろうと鏖殺されることが私の頭からは抜けていた。

 

「ぁ…ありが」

 

「───────おい、散々俺に言っときながら開戦数秒にあの世行きしそうになったバカ魔女」

 

「なっ…!そんな言い方ないじゃない!」

 

 それがこれまで面倒見てやってきた人間に言う言葉か?

 

「つべこべ言うな。心配して俺に変な気を回されたって邪険にする気はないがな、目の前で死なれるのは気分悪いもんなんだよ。いいか──────黙って俺を導け」

 

 ─────本当に、大した子に成長したと思う。これは一本取られた、導き手とかそういうの以前に、歳上として負けた気分。いいわ、そんなに言うならちょっとだけ本気出しちゃうんだから─────!

 

 

 

 

 

 

 

 

 随分と追い詰められた。いつものドレスのような格好で来るんじゃなかったと後悔している真っ最中。触媒としても利用しているドレスは破れ血が滲み、杖を握るのも手がビリビリと痺れて難しい。

 後ろで援護や攻撃をしていただけの私よりもクロウはもっと重傷だ。治癒魔術で負傷と回復を繰り返したせいか痛みで頭が働いていないのだろうか、覚束無い動きが増えてきた。私の魔術が追いつかないせいか肩の肉は裂け左脚も震えている。

 蒼色のチカラ自体はかなり追い詰めているのだ、あと一歩、最後の決め手が足りていない。もう、潮時なのだろうか…。

 

「もう、終わりだ。武器もまともに握れないのにどうしろと?」

 

 彼の心ももはや折れている。離脱だ。生きて帰れば戦う力は蓄えられる。騎神の試練への挑戦権を失うがそれでも人生は終わりじゃない。あの鉄血に一矢報いる方法はいくらだってある。

 

「すまん、ヴィータ。お前に選ばれても結局、ただのガキの地団駄だったのかもしれねえ」

 

「いいえ、いいえ…貴方はもう十分頑張ったわ…!ただ一人でここまで…っ!」

 

「でも」

 

 頭の傷から流れた血が目に入り、彼の目を濁らせていた。だけど、その目に残る、秘められた光はまるで出会いのようで─────。

 

「それでも…!諦めたくないんだ…ッ!」

 

 

「────────そう、だからこそ貴方を選んだの。自分の間違いを受容し、その上で前に進む意志を持つ貴方を!だから、行って!」

 

 そうだ。私は彼のまさにこの信念を見込んで選んだのだったな。

 余っている魔力をフルで廻らせて彼の肉体に最大限のブーストをかける。クロウの身体が壊れる寸前まで魔力を注いだら残りの魔力は対概念存在の武装刻印を急造で組み上げ、双刃剣に焼き付ける。信念の火が点った今最も警戒すべきは体力の消耗による膂力の減衰。その穴は、この導き手()が埋める──!

 

「─────ありがとうヴィータ。今決めてくるから治療の準備をしてくれると助かる」

 

 クロウが腰を低くして双刃剣を構える。片方を身体の前、もう片方を踵の方へ。前側の刃がすんでのところで避けた横薙ぎ一閃を受け止める。柄を腰骨に当てて踵側の刃に伝わる力を利用して跳び上がる。

 

「本命はその先だ…死ね、騎士擬き…ッ!」

 

 振り抜いた双刃剣は綺麗に蒼色のチカラの頭部を貫いた。蒼の騎神はクロウの信念を受け入れて晴れて起動者に認められたのだった。

 

 

 

 

 クロウが起動者に認められてから一年と少しが経った。あともう少しで出会って四年が経とうとしている。今彼は何をしているのかと言うと…。

 

「………うーん…………………」

 

「ク、クロチルダ様っ…クロウ様がダウンなされました…!」

 

「いいえ、それはブラフよ。さっさと叩き起して教えこんでちょうだい」

 

 トールズに入学するための試験勉強の真っ最中。市長のお孫さんだということもあり基礎知識は詰まっていたのだが、あの学校に入るにはまだまだ足りない。あの男に頼るのは癪だが、カイエン公のお抱えの教師を利用させてもらうとしよう。

 願わくば彼が日常の一端を思い出せますように────

 あの後クロウが学院に入ったあと、コンタクトは最低限にした。本当に大事な時は彼の方から連絡してくるし、私は私で別の仕事もあるし。存外普通に生活を楽しんでいるようで安心したものだ。

 終わりが来るその日までを、目いっぱい楽しんで欲しい。

 

 

 

 

 

─────────────────────────

 

 このようなことがあったからこそ、いざ久しぶりにあの地に戻った時、変容したチカラと彼が相対していたのを目にした時は焦りを隠せなかった。

 そして何より、■の■■、その■である彼が、いくら変容したにしても信念を持つものにしか斃せないアレを殺した時、驚愕は危惧へと変わったのを今でも覚えている。

 

 

 

「…深淵サマ?これは…」

 

「これをトリスタの第三学生寮まで渡してきてくれるかしら?道化師サマ?」

 

 臙脂色のスーツを着た者が納得いかないと言わんばかりの顔で箱を持って部屋を去った後、ヴィータは部屋でパタリと倒れ、席を外していたクロウが本気で心配したらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは?」

 

「あぁ、覚えてる。これは」

 

 これは一つ目の失敗。あの蒼色の影は紛れもなく俺を殺し得る存在だった。確かに死の恐怖から逃れようと必死になっていた。俺の力があれだと言うのにだ。

 あの時、俺はもっと弱者で居られただろうか。目の前の存在を滅ぼそうとするよりも先に、無様にも生き残っていられればいいと思い続けられたら。猫を噛み殺そうと虎視眈々と機会を伺う窮鼠になれるほど、大胆な人間でもなかったはずなんだけどな。

 結局、何をどう足掻いても結末は変わらず、あそこに至っていたのだろうさ。自分から枷を外し昇華するか、周りから望まれて堕とされるか…どちらにせよ時期が少し違うだけでどうせこうなる。その枷が外していいものかどうかも知らないで…本当に愚か過ぎて振り返るだけで頭が痛くなる。

 

「まぁ駄目でしょう。それのせいで─────」

 

「あー分かった分かった。今から変えようとしたって限度あるだろ、それくらいにしてくれ」

 

「………では、次は?」

 

「次か。次は、湖と霧の町、レグラムだ。第二の失敗、今振り返るとこの失敗はかなり致命的だったと思う」

 

「致命的…貴方の失敗はいつも致命的でしたがね」

 

「うるさい。ほら──────」

 

 ゆらゆらゆらゆら。夜は更ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蒼色のチカラの影
見た目のイメージはロボトミーのラ・ルナが蒼くなった感じ。
試練ということでLvは挑戦者のLvに+40くらいかなと思っています。ロア・エレボニウスみたいに名前つけてみたいな〜とも思ったんですがロア・オルディアナみたいのしか浮かばず…これエレボニウスと同じ感じでつけれてるのかな…と思ったので却下。皆さん各々で適当な名前で補完してくれると助かります。
クラフトも大体は一緒かな。直剣がメイン武装でエレボニウスよりも物理寄りの想定です。
影のLvは280です。なんでですかね。

現在だいたい6000字半ばになるようにしていますが皆さんはどれくらいが好みですか?

  • もうちょい少なめ(3000~5000)
  • 今くらい(5000~7000)
  • もうちょい多め(7000~9000)
  • 一章三話ペースで進めろ(9000~)

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