蒼閃の軌跡 作:衝動エンジョイ勢
GYAaaaaaaaaaaaa!!!!!!
激昂。死を目の前にして、今再び無理矢理起こされた身体に先程まで以上の力が流れる。張り詰めた全身の筋肉により、力だけでなく存在感すら増したように感じる。
「───────ぁ」
「…は?」
「エリオットッ!焔よ…ぐっぅううッ!」
「何で…?どうして…っ!」
立ち上がるグルノージャを目の前に全員の思考が止まる。エリオットに目掛けて振り下ろされるヤツの巨大な拳をどうにかしようとリィンが動き出すも、刀に宿った焔が再度その身を焼く。痛みで腕に集めきることが出来なかった焔は全身に迸る。刀を握る右腕は焦げて震え、ただ持っていることしか出来ない。振り上げることで肩に走る痛みにもはや耐えることは難しくなってきていた。脚も熱に負け、リィンの技の要であるスピードは出せないどころか逃げるために立ち上がるのもやっとだ。
誰も一歩も動けず、振り下ろされる拳は止まらない。エリオットの体躯であの拳を受ければ、骨折は免れないだろう。今まさに、あの拳は到達する。
いや、一人だけそれを良しとせず、そのうえで動けた者がいた。
エリオットにはただ剣を受け止めるために構える青い髪の少女だけが見えていた。
「──────ゴッッッ!」
「────ラウラアアア!」
吹き飛ばされる少女を見ることしか出来ない。
「ラウラ!ラウラ!どうして僕なんかを…!まともに戦うことすら出来ないのに…!」
「何を言っている…そなたはこの班の要。そなたがいなければ、私たちは傷ついたままだ…そなたがいるから、私たちは身を投げ出せる…だから────」
「ラウラ…?ラウラ!」
他の者たちも即座に動き出す。アリサがラウラに駆けつけて応急処置を行う。ジェイルは次の標的に定められたリィンの元へ。
「エリオット、落ち着いてッ!…大丈夫…脈は落ち着いてる。頭も飛ばされた時の擦り傷だけ…!大丈夫…大丈夫よ…!」
アリサはもう誰に言っているのか分からなかった。ただ持っている全てを使ってラウラの手当を行う。自分に言い聞かせるための、うわ言のような大丈夫は、図らずしもエリオットの心を落ち着けさせていく。
「退けジェイルッ!今戦えない俺を庇う意味は───!」
「うるせえ黙れ」
拳が
退かない。絶対にここだけは退いてたまるものか。エリオットもこいつも馬鹿なんだよ、守る意味なんて要らないだろうが。
GAaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!
「──────────ッッ!」
落ちた槌は、槌に覆われてしまうほど小さい杭を簡単に地面に埋め込んでしまう。
このガントレットは特別製、そのことを軽い自慢にしていたが、今ばかりはそれを恨んだ。ガントレットは壊れず、行き場を失った衝撃は全て腕に響いた。
「───フゥーッ…────フゥーッ…」
「もういい…っ!もういいから!」
「まだ一発だ。気絶もしてない。まだ行ける。──────エリオット、ラウラの手当任せた。アリサ、予備でつけてるティアがあるだろ、やってくれ」
「何言ってるの!?これ以上受けたらどうなるか分からないのよ!?」
「早く」
「っ!!…もう嫌よ…っ!」
文句を言いながらもアーツを詠唱してくれる。ほんといい子だ。
俺たちは依頼を全てこなした。今俺たちに残った課題は、全員生きて帰ることただそれだけだ。それをこなすために犠牲が必要だと言うなら、一番元気で丈夫なやつがなればいい。幸いヤツは俺に意識を向けているし、俺は膝下まで地面に埋まってるから逃げるに逃げれないし丁度いい。
─────────来る
ズガンッ
「──────────────おっと」
地面に沈み込む。腕が崩れ去る錯覚を覚える。感覚が無くなる前にアリサのティアが間に合い、何とか腕の形を保っていられた。
「もうやめて」
力強い声が聞こえた。────あぁそうか、まだアリサとは戦術リンクを繋いだままだったから。
「あと何回受けるつもりなの?本当に何度でも受けるつもり?腕がもう持たないっていうのに?」
「──────────」
全部ダダ漏れ。不信感が少し、恐怖心が大半、心配がまあまあ。俺の思考がアリサに流れ込んでいるというのなら、それは俺も同じ。アリサの感情が全部聞こえる。そうか─────ありがとう。
────パキン─────
「えっなんで」
静かに音が響いた。アリサがただ焦っている声が聞こえる。なるほどこっちから切った場合はこんな感じなのか。
これが、アンバランスな片方からだけの極度の拒絶が感知された時に起きるリンク切断状態…これが起きた時は、どのARCUSとも戦術リンクが一定時間接続が出来なくなるとか言ってたな。共同体における危険分子である可能性が何たらかんたら─────今はいいか
来い。アリサはもう頼れない、つまり次のティアはない。俺の右腕は次で終わる。それでも。
GYAaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!
「来いクソゴリラ。人様舐めんな」
「うああああああああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
─────────?
「ゴッッ!うぶッッッッゲホッッ────ハァッハァッハァッハァッ──────何だ、案外生きてるじゃ、ないか」
「僕、戦えないから。ラウラに守られた意味が、今でもわかんないんだ。何言ってるか、あまり聞こえなかったし、はは…。だから、この班の中で、一番強いひとを、
何だ、案外ちゃんと男してるじゃんか。そんなことは考えられるのに、身体は動かない。エリオットはもう一度立ち上がって、ふらふらしながら俺の前に立つ。拳が落ちてくる。
「僕一人満足に殺せないんだ。案外大した奴じゃないさ」
───────フォン───────
そなたの余裕とやらがどこから湧いてきて、どうして保っていられるのか全くわからん。だけど、そなたの背中はただひたすらに温かかった。今は、任せておくことにしよう──────
ふざけんな。絶対に許さないけど土下座したなら考えてあげるから、生き残りなさいよ。あれ、死ぬほど辛かったんだから───────
絶対に護るんだ。僕の後ろにはリィンとジェイルがいる。ラウラは目を覚ましたけどまだ動けないしアリサは突然動かなくなった。僕達を守らせる為に彼らは消耗させられない。二人が動ければ絶対にどうにかなる。だから絶対に──────────
ジェイル、任せた。俺は、さっきの焔で、腕が焼けちゃったみたいだから。壁になることしか出来ないけど。でも、もう壁もいらないだろう?────信じてる─────
「──────えっ」
エリオットが気の抜けた声を出した。そりゃそうか、護ろうとした奴に後ろから引っ張られたら驚くわな。
それより────ほんと何だこいつら。システムの壁超えんなよ。ラインフォルトとエプスタインの傑作だぞ?何でお前らは俺とリンク繋いでんだ。しかもここで突っ立ってるだけのやつを信じると?
「すまん、エリオット。痛かったよな。もう、大丈夫だから」
─────ズルッ……──────
GAGuuuuuuGYaaaaaa!!!???
うるせえよ。右腕の拳が無くなっただけで騒々しい。
自分の生死が関わらない場面で、初めて自分の意思で眼鏡を外した。視界に黒が滲み出す。頭が痛み始めて足元が覚束無い。
何故か身体に馴染んでいたやり方で全てを零に戻す。深呼吸をし自分を消していって、そして俺は少女の前にただ一人跪いていた。誰だろう。心当たりはないけれどこの姿勢が正しい気がした。
振るうのですか?これまで一度も見向きもしなかったくせに─────
───────仰る通りだ。これからちゃんと見るよ。悪かったって。
半狂乱状態で血を垂れ流しながらも振り回してきた右腕を、左腕を振って落とす。
覚悟もなしにその刃を振り回すというのですか─────
───────リィンに見せた時だって覚悟はしてなかった。今更だよ。それに、俺の代わりにエリオットがしてくれた。
振り下ろしてきた左腕を、拳諸共切り落とす。
もう貴方は終わりへの道を歩み始めました。もはや誰も止めれない──────
───────その終わりが来るのは今日じゃない。なら何かしらの方法が見つかるさ。
GAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!
行くぞ、獣畜生。お前に完膚無きまでの死を。終わって、果てで救われるといい。
「
線をなぞって、線をなぞって、交差する場所が胸に見える点に重なるように。そして最後に点を貫いて殺し切る。
そしてグルノージャは消え去った。この世界にヤツが存在したことを証明できるのは、セピスとも呼べない色鮮やかな石だけだった。
──────────────────────────
グルノージャが消え去り静寂が帰ってきた時、A班の面々は慌ただしくしていた。気絶から意識を取り戻したラウラとアリサが怪我人の治療にあっちへこっちへ走り回っていた。リィンは冷却スプレーと数少ないキュリアの薬を使い切り、自分で処置をした後ジェイルとエリオットの治療を手伝ったのだが…。
ジェイルは右腕部の内出血、及び骨折。まだ右肩甲骨、両脚部にヒビを抱え普通に重傷。エリオットはエリオットで肋骨二箇所の骨折、左脚部にヒビと、ジェイルより軽いにしろ、間違いなく重傷だ。アーツによる骨の回復の補助は効果的ではあるものの、骨の強度を元のものに近づけるためあまり推奨はされていない。この様子だと完治させるのに、アーツを用量を守って活用しギリギリ一ヶ月を切れるくらい。アーツがないと思うとゾッとする。
骨折者を運ばなければならない、しかし捕縛した犯人は連れて帰らないとならない。そうして困っていたリィン達に救いの手が差し伸べられた。
「三名は私と共に彼らの保護をしてください!二名で捕縛された者たちの事情聴取と再拘束を。残りの者たちで商品の確保。急いで!」
『Yes,ma'am!』
「あれは…鉄道憲兵隊だ…」
「知ってるのか?エリオット」
「うん、あいてて…帝都を中心に鉄道を利用した治安活動をしてる、言葉通りの人達なんだ」
「大丈夫でしたか?何度も轟音が聞こえて…本当はもっと急ぎたかったのですが、装甲車でこちらに突入するのは危険だという判断をしたため遅れてしまい…申し訳ありません」
「あー…、話すのもそこそこにこっちも何とかしてくれます?クレアさん」
「………えっ」
「ん?」
────────────────────────
教会の寝台を借りて治療をしてもらっている間、A班のメンバーはクレア大尉と話していた。
「それにしてもどうして鉄道憲兵隊がケルディックに居たんですか?」
「はい、昨日の深夜巡回の際に、私の部下がケルディックの東方面である程度の大きさの音と黒い雷を見た、という報告があったんです。新たな大型魔獣の可能性もあるため、予定を変更しケルディックに向かい到着したあと東側に出て調査したものの何の成果も得られず…」
「なぁジェイル、もしかして…」
リィンが俺に声をかけるのはそれもそうだ。多分この黒い雷とか音とか…俺たちのやり合いよね…。謝らんと。
「クレアさん、東側の方は俺たちです。それ以上の調査は必要ないとお伝えください」
「えっ…後で何をしたか教えてもらいますからね!…まぁそれから街の方に戻って来たのですが、いつもと様子が違ったので調査したところこちらに行き着いた、という感じです。正直あまりに杜撰な計画に、強引過ぎる手段…呆れてしまいそうでしたが、四大名門にそれだけの力があるのも事実ですから」
「でも、彼らが領邦軍に繋がっていた割には、何も関わってこなかったわね」
「そちらに関しては大市で行った事情聴取を含めた調査書を領邦軍に提出させてもらい、こちらの介入の許可を取ったので…さすがに正式に取られた許可を無視してまで私たちの妨害をする気は起きなかったのでしょう」
リィンには俺たちの荷物を取りに行ってもらった。そんなに多くなかったから時間はかからないと思うけど…
逆に鉄道憲兵隊がなんのアクションもしていなければ、俺たちの今は怪しいということだ。憲兵隊様々、感謝してもしきれないな。あ、サラ教官だ。
「アンタ達、無事!?」
「無事だったらここで寝てないよ。あ〜痛てぇな〜!」
「あ、アハハ…ちょっと無茶しちゃいました…」
教官が顔を青くして驚いている。今回の実習、振り返ってみれば依頼の内容は協力すれば一切詰まるところは無かった。おそらく初の実習ということで比較的安全な場所、危険度の低い依頼を選んだ。はずなのにこの大怪我、想定外過ぎたのだろう。
「おかえり、ありがとうリィン。さすがにこれじゃ取りに行けんくてな」
「丁度いいわ、ちょっとリィン何が起きたか説明──────何その包帯!!アンタもなの!?」
「えっと…自分の技で焼いちゃって…」
「─────────」
あーあ、知らね。
帰りの列車で他の皆は疲れ切り、痛みを抱えた者だけ起きていた。サラ教官も何か言いたげにしていたがすぐに寝てしまった。
「ねぇジェイル。腕は大丈夫なの?あの時はだらんとしてて危なそうに見えたんだけど…」
「正直ベアトリクス教官に見せないと分からないけど、多分肘から下はぐちゃぐちゃだと思う。肩や二の腕、足は痛いけど、こっちは何も感じないから」
「そっか…治るといいね。ううん、皆を守ってくれたんだもん。きっと治るよ」
「エリオットの方こそ。人生初の骨折なんだって?大丈夫、名誉の怪我っていうのは周りに言いふらす前に治るもんさ。すぐ治るよ」
「うん!」
少しして、貰った薬のおかげか痛みが和らいだことによってエリオットは眠りについた。骨折の痛みも結構強いんだけどな。これもエリオットが持つ耐え忍ぶ強さというか。
「あっそういえば」
「どうしたんだ?ジェイル」
「お前らは普通じゃないことをしたんだ。後でARCUSのマニュアル読み直しとけよ」
「えっ、あ、あぁ」
後でレポートに書き足しておかないと。『ただし普通じゃないやつに限り、強引にリンクを繋ぐ可能性あり』。結局、レポートも真面目にやらざるを得なくなったのか。ただのテストユーザーのつもりがイレギュラーを呼び起こしてしまったのはなんとも…。あの時奇跡と評された複数人でのリンクをまたもや成功させてしまったし、うぅむ。
「なぁ、ジェイル」
「ん?」
「ありがとな」
「あぁ?あれは見捨てたら負けってもんよ。気にすんな」
「そっちじゃなくて。俺の信頼に応えてくれてありがとう」
「…ハッ、お前だけじゃないけどな。そんな感謝をするんならあのとんでもねえ焔で自分が燃えないように頑張るんだな。そうすれば俺の負担はマシになるんだから」
「うっ…まさか自分で自分を焼くとは思ってなくて。あっあと最後に言いたいことがあったんだ」
「俺からも、ひとつ壁を乗り越えたお前に」
『お疲れ様』
通っていく列車を眺める影が二つ。
「《C》、君の命令で初の笛の重ねがけを実行したよ。上手くいったのは次に生かせる成果だが…彼ら程度に念入りにする必要があったのかい?」
「フン…あの中にいた魔獣にトドメを刺した者はヤツに懇意にされているからな、念の為の力試しといったところだ。妙な力は見えたが、あの程度なら避けれる。大したことは無かったな」
夕日を背にした彼らの影は、這い寄るかのように伸びていた。
──────────────────────────
実習を終え数日。ガイウスなどの男子に支度を、食事を付き合って貰える者に、座学をエマやリィンに任せ切りひたすら楽をしていたジェイルは今日もまたリィンをこき使っていた。
「技術部…?なんの用事があるんだ?」
「まぁまぁ」
「やぁジェイル君、頼まれていた物だよ。…おや?手伝いはリィンくんだけかい?君は運べないし…大丈夫?」
「大丈夫です!コイツ頑張るんで!」
「グッ…!重っ…俺だってまだ治ってないんだぞ!?おいジェイル!」
「ほら行くぞ〜」
俺の部屋に着く頃には肩で息をしていた。もはや俺に文句を言う体力も残ってないようだ。
「結局、これ、なんな、んだ…?」
「ただの鉄くず。ジャンクだよ」
そう言ってジェイルは自分の眼鏡を外して、腰に着けていたナイフを抜いた。中からジャンクを取り出してはゆっくりと奇妙なラインでナイフを動かすと、パキン…と音を立ててジャンクは割れた。
「それって…」
「お前も向き合うし、俺も向き合うって言ったからな。こうやって小さなもんでもいいから慣らして行こうと思ったんだ。幸い何で貰ったかは分からないけど、丁度いいナイフがあったからな。こいつを手に慣らすついででもある」
「俺を止めたのや、あの魔獣にトドメを指したのと同じ…」
「そ。あれ、あの時は上手くいったけど、いつもは終わったあと頭が死ぬほど痛くて倒れちまうんだ。実戦でそうなると困るからな」
これは覚悟だ。あの時皆に背中を押されて高揚し、思わず使ってしまった妥協違う。次こそはただ、自分だけの意志でコイツを使う、そう決めたんだ。
「────そっか。扱いきれるといいな」
「お前こそ。使う時は呼べよ、教官引っ張って相手してやる」
彼らは邁進の道を進み始めた。いつか迎える終わりへ近づいていることに、いつ気づけるのだろうか。
まさか直死使ってデメリット無しなわけwwww
今回もプロローグと同様幕間挟んで2章に入ります。
現在だいたい6000字半ばになるようにしていますが皆さんはどれくらいが好みですか?
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もうちょい少なめ(3000~5000)
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今くらい(5000~7000)
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もうちょい多め(7000~9000)
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一章三話ペースで進めろ(9000~)