-碇シンジ-
「ふ~、今日もお疲れさま、シンジ君。」
「お疲れ。それにしても、アークなんていつ作ってたんだろ…。」
「わかるわそれ。あ、今夜は俺が夕食つくるからさ、シンジ君は休んでていいよ。3日も家空けちゃったしね。それのお詫びということでさ。」
「わかった。それじゃ、お先に。」
「おう。」
エイジ君は携帯で連絡が来ているかを確認しているようだ。…なんか、ミサトさんより保護者してるようなしてないような…。更衣室を出ると、綾波がいた。
「あっ、綾波。どうしたの?」
「影嶋君、待ってる。」
「エイジ君なら中でまだ何かやってたよ。」
「そう。」
「それじゃ、またね。」
「ええ、さよなら。」
なんか、エイジ君の名前が出てくる時の綾波って、表情が柔らかい。やっぱ、両思い…なのかな。そんな二人が、一緒に暮らしてた…い、いやいや、エイジ君は変なことはしないよね。
『不潔よ!!!』
そ、そんなことは……しちゃってるのかな。
へへ変なこと考えてないで、さっさと帰ら…ん?電話?
「もしもし?」
『ああシンジ君?家にカレールーってあったっけ。あと野菜。』
「えーっと、ルーは今日買う予定で、野菜はあんまり…夕飯?」
『うん。それなら俺がついでに買うからそのまま帰っていいよ。』
「わかった。」
今日はカレーにするんだ。
葛城宅。
「ただいま。」
「お帰りーシンジ君。あれ?エイちゃんは?」
「なんか、夕食の買い物してから帰るらしいですよ。」
「そうなの。久々のエイちゃんの手料理、楽しみだワ。」
「ほんと、エイジ君の料理って上手ですからね。」
「あら、シンジ君のも美味しいわよ?エイジ君のお陰かしら。」
「やめてくださいよ、もう。」
テーブルを拭きながら待っていると、エイジ君が帰ってくる。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
「おかえりー…え?綾波?」
「あら~、こんばんはレイ。エイジ君、やるじゃない。」
「はいはい、俺は夕食作らないとなんでさっさと上がらせてください。こんなとこで足止めしてると飯抜きになりますよ?」
「わかったわよ。楽しみにしてるワ。レイ、座って待ってましょ。」
「はい。」
「あ、お茶出すよ。」
「シンジ君助かる。」
エイジ君はもう着替えて、台所へと向かっている。何だかんだいいつつ、ほんと手際がいい。ほんとに今まで何度もやってきました、って感じがする。これまでどんな生活してきたんだろ…?
「そういえばさ、綾波は何でうちで夕食食べたいって思ったの?」
「影嶋君のご飯、また食べたかったから。」
綾波は少し顔を赤くしながら言う。確かに美味しいけど、そこまでなのかなぁ。
「お、そいつァ嬉しいな。」
「エイちゃん、ほんとやるわねぇ。レイの家に入り浸ってる間も料理作ってあげてたんでしょ?こりゃ恋人ってより主夫ねぇ。」
「そらミサトさんがアレなせいもあると思いますよ。中学生に負けて恥ずかしくないんですか?」
「うっ、ほんとたまーにトゲのある言い方してくるわよねぇ…。」
「まあなぁ…。」
エイジ君の言い分はとてもよくわかる。綾波だけは話についていけてないようで、ずっとキョトンとしていた。
「はい、お待たせ。今日は野菜カレー。レイでも問題なく食えるから安心してな。」
「うん。」
「お~、美味しそ~!」
「よそるのくらいは手伝うよ。」
「ありがとうなシンジ君。」
「「「「いただきます。」」」」
「それじゃまずはいっぱ…」
「あ、まだビールはやめてくださいよ?」
「ちぇ~。」
僕ら全員の視線がが綾波へ向く。彼女は、少しスプーンによそって、一口。
「…おいしい。」
「よかった~。」
「可愛い…。」
「いいなぁ~、レイってばこんな美味しいの毎日独占してたなんて~。ズルいわよ~?」
「…?シンジ君、何で手をつけてないの?」
「え?いや、その…エイジ君だって手をつけてないじゃん!」
「俺はレイの反応見たいからいーの。シンジ君はどうなの?」
「何だよそれ…。」
僕もスプーンによそって一口食べる。…ちょうどいいさらさら加減で、肉が入ってなくても食べやすい。
「美味しいよ。やっぱ料理上手だね。」
「ありがと。そんじゃ、俺も…うん、美味い!作った甲斐があるよほんと。」
こういう時のエイジ君って、本当に嬉しそうだ。
「にしてもエイちゃん、どうしてうちにレイを呼んだの?」
「まあ、そりゃずっとレイの家に入り浸るわけにもいきませんし、一応二人も同居人ですからね。後は…レイの食生活が酷いもんだったからってのが一番大きいです。レイ、話してもいい?」
「…うん。」
綾波の顔が暗くなる。どうしたんだろ?
「食生活って、どういうこと?エイジ君。」
「レイはね、俺が弁当渡すようになるまで食事は栄養剤で済ませてたって話だったんだ。成長期の子供がんなモンで足りる訳ないよな。それだからだよ。あとレイが食ってるときの顔がめっちゃ可愛かったから。なんかレイってさ、見てると庇護欲が出てこない?」
「そ、そんなことを恥ずかしげもなく…。」
言ってる人は頬が赤くなることすらないのに、聞いてる僕はめっちゃ顔が赤くなる。ミサトさんは前半は真面目に聞いてたものの、後半になるにつれ顔がニヤけていった。
「へぇ~。それならさ、レイもうちで暮らさない?それなら家を行き来しないでも大丈夫よ~?」
「ミサトさん、この家のキャパ考えてください。3人でギリギリなのに、4人になったら部屋どうすんです。」
「そ・れ・は、エイジ君の部屋で一緒に寝ればいいじゃない?」
「ええっ!?」
「ダメですよ。」
「影嶋君と、一緒…。」
僕らの反応は全員違った。ミサトさん、とんでもないことをさらっと言うなぁ、ほんと。
なんか、僕ばかりダメージを受けてるような…?
「もー、エイちゃんたら真面目ねぇ。」
「真面目だとかそういう話じゃないでしょ!?保護者なんだからそういうことは冗談でもやめてくださいよ、ったく…。せめて、この部屋よりふた回りくらい大きい部屋じゃないと無理ですね。…レイ?そんな顔しないでくれ。葛城一尉がどうにかしてくれるってよ。」
綾波が残念そうな顔をするのに合わせて、エイジ君はミサトさんに半ば強引に言う。ミサトさんのこのひきつった顔…。ここまで動揺してるのも珍しい…気がする。
「え゛。」
「本当…ですか?葛城一尉。」
「ひ…卑怯よエイジ君!?」
「保護者なんだから、子供の我儘くらい聞いてくれますよねェ勿論。か つ ら ぎ み さ と い ち い ?」
「ぎ、逆にハメられた……やるわねエイジ君。…わかったわ、指令と交渉する。」
「ありがとうございます、ミサトさん。」
エイジ君は笑顔で缶ビールを差し出す。エイジ君、やっぱめちゃくちゃ強引だ…。
「「「「ごちそうさま。」」」」
せめて食器を洗うのくらい手伝おうと立つと、綾波が自然にエイジ君の横に行き、洗うのを手伝ってる。僕が代わろうと台所に向かおうとすると、ミサトさんに引き留められる。
「ダメよ~シンジ君。二人の邪魔しちゃあ。」
「え?でも…」
「でもじゃないの。」
「はあ…。」
たしかに、二人とも楽しそう…。邪魔しちゃいけないのかな。
「んじゃ、家まで送ってくから。」
「お邪魔しました。」
「また来てね、レイ。」
「おやすみ、綾波。」
「おやすみなさい。」
僕らは玄関で綾波を見送る。お風呂入ろ…
「あ!しまった!!」
「ミサトさん、どうしたんですか?」
「レイの更新カードとか、あなたたちのカード渡すのすっかり忘れてた…。シンジ君、全部渡しておくわ。よろ!」
「え!?ちょっと!?…何で僕なんだよ……。」
そんなことを言ってる間に、お風呂に先に入られた。
更新カード…綾波の顔写真を見ていると、さっきの笑顔が頭に浮かぶ。可愛かった…。
『めちゃ可愛かったから。』
エイジ君の言葉が彼の笑顔と共に頭に浮かぶ。…顔が赤くなってくようだ、もう何回目だろ。たしかに、エイジ君の言った通りだ…。
-影嶋エイジ-
ミサトさん、逆にやり返されるとは思っちゃなかったろうなァ。面白かった。
「レイ、どうだった?他の人と食事するの。」
「楽しかった…気がする。」
「よかった。ね、他にもあったでしょ?レイとの繋がり。」
「繋がり…あれが…?」
「そ。俺らのパイロットとして以外の繋がり。同級生、保護者、恋仲なんて色々言い方はある。いいと思わない?そういう他の人との繋がりってさ。」
「……まだ、よくわからない。」
「そっか。まあ、ゆっくり理解してきゃいいよ。」
「…でも、嫌な気持ちにはならない。あそこに、もっといたいと思った。」
「それだけでもいい成長だよ。…ここら辺でいいかな?」
「ええ。ありがとう、影嶋君。」
「…明日の再起動実験、上手くいくよ。」
「……ええ。」
「じゃ、俺はこれで。また明日な。」
「さよなら。」
家に帰る、二人はもう風呂には入ったようだ。風呂に入る前に、一回だけ曲を弾く。…久々に弾く曲だ。この曲、誰か歌が上手い人に歌って欲しいなァ…
「エイジ君?聞こえる?」
「え?ああ、失礼。何も聞こえてなかったわ。何?」
「お風呂冷めちゃうからさ、早めに入った方がいいよ。」
「ありがと。んでも俺はシャワーだけでいい派だから大丈夫よ。気ィ使ってくれてありがとね。」
「あ、ご、ごめん。…にしても、ピアノ弾けるのって凄いなぁ。こんなに黒い楽譜、見たことがないや…。」
「練習すりゃ誰でもできるようになるよ。にしてもさ、シンジ君て何か楽器やったことあるの?その楽譜を楽譜として読めてる感じとか。」
「僕は昔チェロをやってたんだよ。楽器はあるんだけど、最近は全然弾けてなくて…。」
「へぇ~、聴いてみたいな、演奏。」
「え?」
「俺、生のチェロの音って聴いたことがないんだよね。録音したのしか聴いたことがなくてさ、凄く興味がある。」
「そ、そんなに?それじゃあ、今度の休日にでも…。」
「いいねぇ。あ、そうだ!確か都市の中心部あたりに弾けるとこあるからさ。そこ行かない?俺も久々にちゃんとしたピアノ弾いてみたいんだよね。」
「それじゃ、今度の日曜に行ってみる?」
「決まりだ。経路は俺が調べとく。」
「それなら送迎は私がしてあげるわよ。大きい楽器を持ち歩くのは大変でしょう?」
「ミサトさん!?聞いてたんですか!?」
「お、食いつくと思ってましたよ。それじゃ、よろしくお願いします。」
「まっかせといて!」
「それじゃ。俺は風呂入るから。おやすみ、シンジ君、ミサトさん。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
次の日。零号機の再起動実験は午前中から行われた。
[これより、零号機再起動実験及びアークシステム連動試験を行います。]
[レイ、準備はいいな?]
[はい。]
[エイジ君もいいわね?]
「俺はいつでも。」
[第一次接続開始]
[主電源コンタクト]
俺が初号機の起動実験をやったときと同じ流れだ。違うところといえば、シンクロが一発で上手く行っていること。ま、大丈夫。今度は上手くいくよ、レイ。
[0.3、0.2、0.1、ボーダーラインクリア!]
[零号機起動!]
[引き続きアークシステムとの連動試験開始!]
[LCL電荷!]
来た。リラックスさせていた意識を今度は集中させる。
[クロッシングスタート!]
[MAGI・メルキオールとシステム直結!リンクスタート!]
[システム、オールグリーン!クロッシング成功!]
目を開くと、零号機の視覚情報がプラグ内に映し出される。監視塔には指令、副指令、赤木博士、シンジ君ほかオペレーターがいる。
このままジャック試験かと思いきや、指令が突然叫ぶ。
[総員、第一種警戒体制!初号機を出撃させろ。]
使徒か。
「指令、すぐにエヴァを出すのは危険です。」
[何?]
「指令は、前回の作戦の失敗原因が何かをご存じですか?」
[初号機パイロットの命令違反だろう。]
「いいえ、彼は初期の作戦は忠実に従っていました。命令違反こそしたものの、作戦失敗の原因はパイロットにはありません。」
[…私らはお喋りをするためにここに居るのではない。]
「そう焦らずに。結論だけ言いますと、敵のスペックがわからないのに盲目的にエヴァを上に出すのは危険です。通常兵器で動向を見るべきですよ。
前回の赤い奴なんかは攻撃方法をエヴァと対面するまで隠していました。つまり、今回の使徒もそうしてくる可能性があります。」
[ふむ、彼の言葉にも一理ある。どうかね碇。]
[…たまたま2回上手くいっただけの子供に何がわかる。]
「はァ、それで無理矢理出して初号機壊されても知りませんよ?今ちゃんと動かせるのは初号機だけなんですから、その運用は慎重になるべきです。」
零号機を通して指令を見る。「初号機」というワードを出したとき、指令の眉が動いた。初号機には何かあるんだろな。
[…わかった、好きにしろ。]
「ありがとうございます。それじゃ、全体の指揮は俺じゃなくてミサトさんに頼んでください。そういう組み立ては葛城一尉の管轄なので。」
[わかった。君も作戦発動したら、前線指揮を頼む。]
「了解。赤木博士、とりあえずコントロールジャックだけ確かめておきましょう。これでちゃんと全部動けば零号機も何とか使えますよ。」
[そうね、すぐ終わらせるわよ。]
「了解。」
事実、前回の作戦に関しては、暇な授業中に冷静に分析をしたことがある。聞いててダルい担任の隙自語なんて聞いてたら寝ちまうよ。それで第四使徒戦を客観的に見たときの感想でも言っておこう。
まず、大まかな作戦は合っていた。ある程度リーチがある攻撃方法ってのは前回の使徒にもあったし、それを見越してのガトリング掃射からの待避は正解。民間人二人を回収するためにも、プラグに収容して地面落としでの回収も正解だった。逆に、ガトリングが効いていないことを瞬時に判断できずに、ライフルを持たせようとしたのは悪手。更に、ヤツは敵…つまり初号機が出現してから鞭を出してきた。これはさっき言った、攻撃能力を隠されていたことになる。
体型が人間とかの生物から遠ざかるほど、攻撃方法はわからなくなっていく。そのためにも、スペックを調べるための通常兵器というのは重要だ。
尺稼ぎ終わり。ジャックテストも問題なく終わった。そんでもって、俺はシャワーを浴びて、一度着替えてから発令所へ向かう。
「あら~、有能な前線指揮官様は重役出勤ですの?ご苦労様ですコト。」
「こういうときにふざけるのはよくないですよ、葛城一尉。んで、状況はどうです?」
「今色々やって、あいつのことが結構わかってきたわよ。」
話を要約すると、
1. 敵は本部直上で静止、ドリルを出して穴堀り中。10時間後に全装甲板を破られる。
2. 敵の主要な攻撃方法は荷粒子砲。
3. 敵は攻撃意思をもったものに対して極めて正確な当て返しをする。
「こいつはなかなか強敵ですね。荷粒子砲の精密射撃となると、近づくことは絶望的ですねこりゃ。フィールド中和の攻撃方法は余程の事がない限り無くなる。ドリル側に攻撃方法があるかが不明だから真下からの狙撃も危険。うーん、今NERVにある武装じゃだいぶ厳しくないですか?パレットライフルやガトリング程度じゃ近付いてる間にドン!ですよ。」
「ええ。状況はかなりこちらが不利ね。零号機はどう?」
「直接制御によるシンクロの他、アークによるクロッシング、コントロールジャック共に問題なし。」
「命令があれば、いつでもアークに入れますよ。」
「実戦は何とかできそうね。問題は攻撃方法…。」
「どうします?白旗でもあげますか?」
「投降しても全滅の未来ですよ。俺は冗談でも嫌ですね。」
「ナイスアイデア。でもその前に、やれることはやっとかなきゃね。戦自行くわよ。」
「戦自ですか?何があるんです?」
「うちの諜報部のリークでね、面白いモン開発してんのよ。」
俺らはこれから徴発される陽電子砲を見下ろしながら、作戦についてまとめ終わった。
「…以上、これが作戦よ。作戦名は『ヤシマ作戦』。」
「ヤシマ?何から取ってるんですか?それ。」
「『屋島の戦い』…源平合戦ね。」
「なるほど、スナイパーは那須与一ってことですか。でも何発も撃つことになるのは御免ですよ?伝説も―」
「それ以上言わない方がいいわ、現実になるわよ。…エイジ君、あなたが全力でサポートしてあげて。」
「…はい、わかりました。」
俺は先に本部へ戻る。
現在、2015年9月9日、15時30分。
まともな対策ができない絶望的な状況の中、決死の使徒殲滅作戦が実行されようとしていた。