-碇シンジ-
「エイジ君!起きたんだね!」
「よ、おはよう。何ヵ月ぶりの再会かな?」
「やめてよ…本気で心配したんだから。」
「はは、悪ィね。…ねえ、レイに弁当作ってやったでしょ。ありがと、シンジ。」
「え、気付いてたの?」
「まあ、俺しか触らないのがテーブルの上にありゃね。明後日まで俺は帰れないだろうけど、その間ミサトさんとレイをよろしく。」
「わかった。エイジ君も、無理しちゃダメだよ。」
「勿論。」
なんだか、少しの間動いていなかっただけで、こんなにも弱々しく感じてしまう。でも、彼が少しでも元気になってくれて、嬉しかった。
-影嶋エイジ-
今日はやっと退院できる。昼を食ってからミサトさんが剣崎さんをつれて送迎に来てくれた。車に乗っている途中、急にミサトさんに眼鏡を奪われて目隠しをされた。訳が分からないが?
「な、ミサトさん!?どういうつもりです!?」
「ふふ~、着いてからのお・た・の・し・み☆」
「まさか…!」
俺の反応には答えなかった。よくあの
…車が止まった。少し長い距離だったな。ミサトさんは俺の手を取って、車から降りるように促す。
「さ、着いたわよ。足元、気を付けてね。」
「はい。」
ミサトさんの手をしっかり掴みながら、ゆっくり車から降りる。また少し歩く。エレベータに乗った。普段のマンションみたいだな。んでも、メーカーが違うからやはり明らかに違うマンションだってことがわかる。また歩くと、どうやらドアの前に着いたようだ。ミサトさんが俺の後ろに回り、目隠しをほどく。
「さ、メガネかけて、入ってちょうだい。」
「はい、ありがとうございます。」
ドアを開くと、前にはシンジとレイが立っていた。
「おかえり、エイジ君/影嶋君。」
「ただいま。」
「さー、今日はシンちゃんがパーッ!とやってくれるそうだから、あなたは自分の部屋に行って。」
「わかりました。ま、どーせ部屋の前に名前が書いてあるからわかりますよね。」
実際そうだった。でも、俺のだけ真面目なものになってたし、流石にミサトさんも気を遣ってくれたのだろう。ドアを開くと、まだ誰も手をつけていないのか、きれいな状態だった。鞄をベッドに放り投げると、机の上を見る。中学、高校の参考書、漫画が綺麗に並べられている。電気スタンドに、楽譜が畳まれているクリアファイル。端には、ケースが置かれていた。これには見覚えがない、何だろう?上にテープで張り付けてあったメモを見る。
机の上のプラモなんだけど、そのままは壊しそうだったから、壊さない範囲で分解して、梱包しておきました。勝手なことしてごめん。
シンジ
中を開くと、丁寧に梱包されたプラモのパーツが顔を見せる。ざっと見ても、破損箇所はない。
「十分丁寧だよ。ありがと。」
これは後で組み立てて、また飾ろう。机の隣にはヘッドホンが掛けられ、真隣の空間にはキーボードがカバーを被せられて置いてある。…そのままでもいいレイアウトじゃん。
個人のクローゼットもあるし。この個室だけで完璧な個人の空間が確保されている。俺の好きな部屋だ。外の風景もいい。こんな部屋をとっておいてくれたのは本当に有り難い。
ふと、腹が鳴る。リビングに行きつつ、間取りなんかも確認しよう。部屋に来るまでも思ったけど、だいぶ広い家だ。…ん?空いてる部屋がある。まァ足りないより全然いいけどね。風呂場も前の家の倍くらいはある。リビングも然り。あれ、そいやレイの姿が見えねぇな。台所かな?
そっちの方向に行こうとすると、突然現れたミサトさんに引き留められる。
「そっちは行っちゃダメよ!」
「え?俺だって明日の朝食作らないとですし、配置も覚えたいんですけd―」
「何があっても
「おっかね…わかりましたよ…。」
「よろしい。」
ここまでミサトさんが引き留める理由…。あっ、もしかして。それはそれで楽しみだ。
「それじゃ、俺は大人しく待ってます。部屋に…え?部屋の端にあるカバーってもしかして。」
「それも後で。ほら行った行った。」
部屋に戻り、メールを確認すると、割と色々来ていた。半分近くはクラスメートからの質問。これじゃまるで俺が教員だな。
他には、雑多なメールと仕事のメールが数件。どれも大したことはないし、先にクラスメートへの返信から始めるか。
1時間くらい、メールへの返信をしていた。やってる間は別に何も感じなかったけど、終わったら急速に腹が減ってきた。…もうすぐ17時か。早めの夕食くらいの時間かな?
そんなことを考えていると、リビングから声をかけられる。
「エイちゃ~ん、ご飯よ~。」
「あい今行きます!…楽しみ。」
リビングに行くと、既に全員が座っていた。俺が一番最後だったか。
座りながら、ミサトさんと話す。
「も~、遅いわよエイちゃん。」
「すみませんね。…これはもしかしなくても、アレですか?」
「そうヨ。…ゴホン。
それじゃ、ヤシマ作戦成功を記念して…また、新たな同居人を歓迎して、カンパーイ!!!」
「乾杯。」
「カンパイ!」
「かん…ぱい。」
各々がジュースやら酒やらが入ったグラスを掲げ、乾杯をする。
「あれミサトさん、ワインなんて珍しい。」
「この間は大仕事だったからね。たまにはいいわよ?エイジ君もどう?」
「未成年飲酒を勧めないの。にしても、凄い豪勢な食事ですねぇ…。」
テーブルには、日本人なら欠かせない白米味噌汁の他に、サラダとハンバーグ。それに中央にはケーキが置いてある。他には、え、鶏肉?隣のレイを見ると、レイのとこにも置いてある。
「レイ、食べれるの…?」
「うん。」
レイは頷くと、それに手をとり、軽くかじる。飲み込むと、笑顔でこちらに言ってきた。
「おいしい。」
「食えるようになったんだな、こんな短期間で。凄いよ、レイ。ん…?その指、どうしたの?」
レイの指には絆創膏が何枚も貼られている。…やっぱり。
「頑張って、練習したの。食べて。」
「わかった。」
ハンバーグを一口分切り、食べてみる。お、これも普通のハンバーグだ。
「おいしい。レイ、料理上手いね。」
「ありがとう。」
レイ、顔赤くして俯いている。可愛い~、久しぶりに見れたよこの顔。幸せ。もう寿命全うしていい。
「ほらほら、惚気てないで、もっと食べなさい!ほらシンちゃんも、顔赤くしてばっかじゃないの~。」
「は、はい…。」
「あ、そうだ。シンジ、プラモの梱包ありがとう。めっちゃ丁寧にしてくれて、どこも壊れてなかったよ。」
「本当?よかった。」
その後、俺らは少し話ながら、メインは全員食べ終わると、今度はケーキが分配される。小さめのサイズだったため、ひとりひとりの大きさは丁度よかった。
みんなが半分くらい食べ終わったころ、俺はミサトさんに訊いてみた。
「今なら聞いてもいいですか?あれ、ピアノですよね?マジもんの。」
「そよ。エイジ君のピアノ、家でも聴きたいもん。」
「なるほど~?それなら、弾いてみてもいいですか?久々に鍵盤の重みを感じたいですしね。」
「楽しみ~。」
「俺はもう食い終わったから、手を洗ってくるわ。」
「じゃ、お皿下げちゃうね。」
「ありがと。今日はもう全部まかせちゃうわ。明日からはちゃんと、俺も参加するから。」
手を洗って戻ってきた。カバーを上げ、鍵盤の蓋を持ち上げる。…新品のアップライトなだけあって、鍵盤の白さが美しい。椅子を調整して、いつも通り、2オクターブの指慣らしをする。
心地よい重みだ。学校のピアノや部屋のキーボードじゃ絶対あり得ない感覚に、感動する。
「それじゃ、一曲…。」
最初は穏やかなアルペジオから始まる。前奏は短く、歌い出しがすぐ始まる。
[まるで悲しみの欠片だわ 街を閉ざす ガラス色の雪]
[明日を探す瞳さえも 曇らせてゆくの 闇の彼方]
[見知らぬ力に流されて 心がどこかにはぐれてく]
[はりさけそうな胸の奥で 鼓動だけが たしかに生きている…]
最初のサビは静かに入る。
[光る風の中、聴こえてくる あなたの声]
[Pray don’t break a peace forever.]
[その輝きを信じてる…]
-葛城ミサト-
この曲、私は知らないけど美しい曲ね。
「見知らぬ力に流されて」…まるで、シンジ君たちのことのよう。私たちですら、エヴァの全貌はわからないのに。あと、ラスト直前のフレーズ…
本当は、私たち大人がその未来を作ってあげなきゃならないのにね…。
一人、この戦いの中、見守ってやることしかできない大人がそこにはいた。
-碇シンジ-
[青くけむる水平線を この目はまだ 覚えているから]
[まぶたを閉じれば帰れるの 暖かな時間 思い出たち]
[繰り返す過ちがいつも おろかな生き物に変えていく]
[傷つくだけの生き方でも 涙はそうよ、決して見せないわ]
エイジ君の声、きれいだ。特別高い声を出してるわけじゃないのに、心地よい。
「傷つくだけでの生き方でも、涙は決して見せない」…僕も、こんな強い人になれるのかな。
[光る風の中、微笑んでる あなたがいる]
[Pray don’t break a peace forever.]
[その眩しさを見つめてる…]
-綾波レイ-
[激しい痛みは誰のため? それがやっと わかる気がするわ]
[めぐりあいはそう奇跡なの 幾億の星が さまよう
[さよならが教えてくれたの あなたの本当の優しさ]
[誰よりも大事な人と 胸を張って言えるわ いつの日も]
誰よりも大事な人…影嶋君、そう思ってくれているの?でも、その私自身は…。
[光る風の中、微笑んでる あなたがいる]
[Pray don’t break a peace forever.]
[その眩しさを見つめて…]
-影嶋エイジ-
[Pray don’t break a peace forever.]
[その熱い瞳に焼き付けて…]
アウトロも弾ききり、無事に弾き終わった。…正直、当時知らなかった曲を、ここまで弾けるのは変だと思っている。まあ、所謂「贈り物」ってやつなのかな。俺は無神論者だけどね。3人からの拍手が来る。
「すごいよ。弾き語り、はじめて聴いたけどきれいだった。」
「いい歌。」
「ふう、ありがとう。いいピアノですね、これ。鍵盤も丁度いい重さですし、音も割れない。にしても、本当にこんな買い物してよかったんですか?」
「いいのよ。みんな、命を賭けて戦ってくれているんだから。このくらいの我儘、許されるわよ。」
-SEELE-
[計画の初期段階、まずは予定どおりだな。]
[うむ。しかし、あの子供を野放しにしていいのか?]
[それには私も同意だ。『影嶋エイジ』…14歳だというのに精神が成熟しすぎている。]
[計画が破綻する前に、消した方がいいのではないか?]
[だが、事を急ぎすぎると返って危険だぞ。]
[そもそも、試作機のコアからサルベージをした魂を利用するというのが間違っていたのではないのかね?被験者とは全く違う人格の人間が出てきたというではないか。]
[我々の知り得ない情報、[裏]死海文書に記述のない未来を知っている青年…いや、少年か。]
[本来あるはずのない13番目の席…。あなたの処分もすぐ決まることだろう。]
[最近の君の行動は目に余る。アークシステムだって、君が強く推薦したから渋々予算を出したのだぞ?]
[…彼らを洗脳せず、穏便に補完へと導くには精神的に成長した”方舟”が必要なのです。普通の子供はすぐ感情的な行動をとり、予測が不可能ですのでね。その為に彼を諏訪の隔離ドックから、彼のここでの出自の記憶を消してまでNERVに送り込みました。マルドゥックの記録書だって作成したのですよ?それで彼らをまとめ上げ、一度に監視し続けられるのであれば大した労力ではないのでしょうか。]
[しかしだね。碇の息子だって、このままでは何をするかわからん。それに、その”子供”が我々の敵となったらどうするつもりだ。]
[静粛に。予定よりだいぶ早期だが、致し方あるまい。…タブリス、聞こえるか。]
「聞こえるよ。どうしたんだい?」
[出番だ。第一中学校へと潜入、彼らを監視せよ。]
「予定を逸脱しているけど……まあ、さっきの話を聞いてると仕方ないかな。」
[頼むぞ。全ては、ゼーレのシナリオ通りに…。]
モノリスの立体映像が消滅する。
「さて、今回はどんなことになっているのかな、碇シンジ君。」
-影嶋エイジ-
携帯のアラーム…ベッドの上をまさぐり、携帯を開いてアラームを止める。休日でも5時起きってのは相変わらずだ。にしても、左腕が重い。何かが乗ってるような…
「ん゛!?!?!?だっ、F***…!」
またレイが目の前にいた。反射的に仰け反った俺は、頭を後ろの壁に派手にぶつけた。くっそ鈍い音がしたし、痛ぇ…。
レイ、今度は俺の左腕で腕枕してる。てか前は気付かなかったけど、レイの格好、裸Yシャツってやつか…?俺は手を出すようなバカじゃないけど、保護者がアレだからどうにかしたい…いや、起こせる訳ねぇよなぁ。こんな可愛い寝顔してるのに…。
静かに腕を引き抜き、枕を代わりに差し込む。起こさないようにゆっくり起き上がると、着替えた。
コーヒーを淹れながら、俺は今日明日の予定を考える。騙し騙し使っていたけど、流石にこの眼鏡は買い換えたい。いや、それよりレイの私服が先か。んでも、俺だけが随伴だとなァ…伊吹さん暇かな?メール飛ばしとこ。
にしても…レイって、思った以上に幼いのかな。正直、思っていたところはあった。特に、プルタブを引けない所とか。幾ら外界に触れたことがないと言っても、14になるまで缶飲料一本も飲んだことがないってのは正直異常だ。モンペってより最早ネグレクトだよな。あんな何もない家で、最低限生きるための錠剤飲んで…そんな扱いをされる子供を間近で、初めて見てしまった。あんなのが許されるかよ。
『これ以上近付くな』かァ。指令、やっぱり毎回レイといるのを見ると嫌そ~な顔してたし、そこまでしてレイに近付けさせないようにするのは一体何なんだ?
間違いなく裏はある。いつか本人から訊かなきゃならんのかなぁ、そんな酷な話を…。
-碇シンジ-
「おはよう。…どうしたの、暗い顔して。」
「…ちっとね。そうそう、今日レイと外出するけどさ、何か買っとくのある?」
「んー、こないだ買いだめしたばっかだから特に何もないかなぁ。」
「そっか、ありがとう。」
リビングに来たときは暗かった顔は、二言目からはすぐ普段の顔に戻った。もしかして、無理…してるのかな。
こんな話をしていると、綾波が廊下から顔を出してくる。
「おはよ…。」
「綾波、おはよっ!?!?!?!?!?」
「おはよ、レイ。服くらいはまともなのを着てこようか。ほら行くよ。」
「うん…。」
エイジ君は平然とした顔をして、綾波を部屋へ押し戻していく。わわわYシャツだけの格好だった…。やややややっぱり綾波と夜に…
「あ~ら、朝からど~したの~?顔真っ赤にしちゃってさ。」
「ミ、ミサトさん!?ななな何でもないですよ!!」
「ふ~ん…。」
「何ですかその笑い!?」
-影嶋エイジ-
「何だ、また二人して変な妄想してんのか?ったく、しょうがねぇな。朝食作りますから待っててください。」
「ありがと。」
「う、うん…。」
普段どおりの朝食を作る。なんか、レイの朝食から肉を抜きそうになる。食えるってのを知ってても、習慣になってるから仕方ない。作り終わるころ、レイは制服を着て部屋に来た。
やっぱ、ずっと制服ってのもアレだよなァ。
「はいお待たせ。」
「「「「いただきます。」」」」
「それじゃ朝の一杯…」
「はいはい、開けちゃダメですよ~。夜だったらいくらでも飲んでいいですからね~。」
「あぁ~ん、そんな~。」
「ミサトさん、朝っぱらからビールなんて太っちゃいますよ?」
「お酒飲んだ後の葛城一尉、なんだか怖い…。」
「みんなひどぉ~い!そんなに言わなくてもいいじゃ~ん!あとレイ、家では一尉はつけないでちょうだい。仕事場なんじゃないんだから。」
「はい、葛城…さ、ん。」
「よろしい。」
「よろしいって何です、よろしいってさ。」
「ははは…。」
「「「「ごちそうさま。」」」」
今日もレイと皿を洗う。事務的なやりとりしかしないが、レイはいつも楽しそうだ。
「あ、そーだレイ。今日買い物に行くんだけど、一緒に行こ。レイの服も選ばないとね。」
「服?」
「そ。いつも制服だったり、寝巻きがないのはよくないからね。」
「そうなの?」
「そらね。俺は着替えるから、10時くらいに行くか。」
「ええ。」