「ここがエイジ君の通う学校よ。場所はだいたいわかった?」
「はい。案外近かったんですね。にしても暑い…。」
「あら、暑さには弱いの?意外ね。」
「夏夏夏夏はつらいですよ…。」
今は葛城さんの車で通学路や学校周辺の地形を確認している。
こないだ流し見したとき、セカンドインパクトで地軸が傾き、日本から四季が消滅、常夏となったって見たときは死ぬと思った。夏は苦手なんだもん、俺。すぐ熱中症でぶっ倒れるぜ?
昼は本部の食堂で済ませ、赤木博士のところでエヴァに関する講習が始まった。
こういう話は無限に聞いてられる。ワクワクするよね。んでも、こういうのを聞いてると、逆にこの「エヴァ」が「戦うための兵器」ってのも実感する。
ATフィールド、パレットライフル、ナイフが主武装となるようだ。使徒は「ATフィールド」という通常兵器じゃ絶対に破れないバリアを持っており、エヴァを使えばそれを中和しつつ戦えるらしい。何で中和って表現なんだろ?って訊いたら、
「互いのATフィールドを干渉させれば互いに消滅するから」
って感じの回答が来た。つまり、これができる距離にいる場合、互いにそれの恩恵は得れないっつーことだな。にしても、外部電源が無けりゃ最大5分しか使えないとか、幾ら短期決戦を目的にしたものでも短すぎる。も少し長くなってほしいなこりゃ。それに―
「も少し長物の近接武装って無いんですか?例えば剣だとかの。」
「まだ無いわね。訓練の成果次第では製造を考えるわよ?」
「まあ、やってみないとわからないって感じですかね…。」
「まずはシンクロできなければ始まらないわ。それじゃ、次はこっちに着いてきなさい。」
次は更衣室に導かれ、ぶかぶかのスーツを渡される。とりあえず言われた通り全部脱いで、このスーツを着た。うっ、この生えかけというか、まだ短い感じが年齢が下がってるということを痛感させられる。てかこういう毛って邪魔なだけだから一生生えてくれなくていい。手首のスイッチを押すと、ぴったり体にフィットした。
着たスーツを鏡で見てみる。白の装甲のようなものが上半身を覆い、胸の部分には赤い円のようなものが入っている。腕や体の側面は黒だが、メインはグレーカラーになっている。胸には英語で[TEST]と。ほんとにバックアップらしいが、同時に初号機のテスターもさせられてるってのがよくわかる。
お次は部屋を移動し、エントリープラグって円筒形のものに搭乗する。座席は座るというより、跨がるような感じ。思った以上にプラグの角度が急になる。レバーはトリガーと、指を伸ばすようにして押すタイプのスイッチ。少しガチャガチャ動かすと、案外自由度は高いってのがわかった。この施設は、エヴァとのシンクロ率を計測する施設で、実験つーのはそれを定期的に調べることらしい。
[エントリープラグ、注水。]
うっ、呼吸できることを知っていても、やっぱ密閉空間に水が迫ってくるとか恐怖もんだ…。3拍かけて息を吐き、ゆっくりL.C.L.を吸い込む。…わりと普通に呼吸できるんだなこれ、もっと痛い思いをするかと思っていた。液体呼吸ってのはSFネタというものでしか知らないからよくわからない。たしか深海関連の洋画でそれをネタにしたのがあったような気がするけど、タイトルをしっかり思い出せない。えーと、アビスだっけ?
[落ち着いて、意識を集中させてみて。]
頷いて、思考をやめる。少し心拍が高くなってるが、それも意識から追いやる。
どれくらい経ったのだろうか。赤木博士から通信が来る。
[お疲れさま、上がっていいわよ。]
「あの、どれくらいでしたか?シンクロ率ってのは。」
[28.90%よ。初めてにしては破格な数値ね。]
「へえ…実感がわきませんね…。」
[そのうちエヴァでのシンクロ実験もするから、その時までのおあずけね。]
何だその表現。
「そうですか。じゃ、上がります。」
プラグが上がり、ハッチが開く。
ふ~、LCLってなかなか沈みたいものじゃないな。なんか臭ぇし、肺の中身を吐き出すのが面倒だ。スーツを脱ぎ、シャワーを浴びて、服を着る。は~、さっぱりした。
この後は、赤木博士のとこで極めて入念に精密検査を受けた。そこでの話は、エヴァに本当に乗れるのは数週間後くらいだとか、体に違和感は無かったかとか、まあ色々。まるで健康診断、というかまんまか。本当になにもなかったから、俺は真面目に適当に答えた。
部屋を出ると、白いプラグスーツを着た、水色の髪の子がいた。どこか儚げで、美しい子だ。
「ね、君もパイロット?」
「ええ。…あなたは?」
「俺は影嶋エイジ。君の名前は?」
「綾波レイ。」
「わかった。よろしく、綾波さん。」
そう言って俺は微笑んで手を差し出す。しかし、綾波さんは無表情のままそれを見るだけで、握り返すことはなかった。
「ええ。」
それだけ言うと、立ち去ってしまう。どしたんだろ?知らないなんて事ァ無いと思うけどさ。少し疑問だったけど、まァファーストコンタクトは上々じゃないかな。んでもあの機械みたいな目…不気味だ。
帰りに買い物をした。買ったものは食材に食材に食材。社会人生活のお陰で早起きだけはできるようになったから、弁当に朝食を作る時間は確保できるだろう。ついでに、近くにいた恐らく監視員の人に頼み込んで、輸送を手伝ってもらった。今日は何作ろう…。
葛城宅。
「ただいまー。」
「おかえりなさい。夕食できてますよ。」
「お、これは肉炒めね?美味しそう。」
「いつでも食えるんで。」
「わかったわ。…はい、お待たせ。それじゃ、食べましょ。」
「「いただきます。」」
ミサトが一口食うのを待つ。久々に自分以外の人間に振る舞う料理だ。どんな反応をしてくれるのだろうか…。
「んん!美味しい!エイちゃん、料理上手なのねぇ~。」
「はァー、よかったよかった。俺好みの味付けだったから合うか心配でしたよほんと。」
「全然心配することないわよ~。これなら幾らでも食べれちゃう。ビールも美味いわ!」
「酒はほどほどにしてくださいよ?」
「だぁいじょーぶよこんな程度。それよりさ、今日の実験、どうだった?」
「実験ですか。LCL吐き出すのがダルいってくらいですかね。それ以上は特に何もって感じです。」
「そう。特になにかあったわけじゃないのね。」
「まあ大したことやりませんでしたからね。俺だって明日から久々の学校ですし。」
「あら、エイちゃんは学校好きなの?」
「特別好きってわけじゃないですよ。ま、どうにかやってきますよ。」
この、妙に中途半端な干渉の仕方が嫌いだ。
「本日からこのクラスに編入する、影嶋エイジです。よろしくお願いします。」
「それじゃあ影嶋くんは…綾波さんの後ろの席に座ってください。」
俺は席に着き、綾波さんに話しかける。
「奇遇だなァ綾波さん。ここでもよろしく。」
「ええ。」
相変わらずだなァ。なーんか冷めたというか、外に対して無関心な目をしてんだよなァ。
授業中もずっと頬杖ついて外を見てるし、つまりそういうことなんだろな。
俺は退屈で隙自語が入る授業で寝ないようにしながら、ラップトップで学校の構造や時間割り、訓練のスケジュール、この都市の地図を確認していた。授業なんてクソ真面目にやってたら苦しくなる。あ、でも社会科だけは真面目に勉強しよう。これ蔑ろにすると試験で痛い思いしそうだし。あと、行事が基本的に自分の知ってるのに準じてたのはありがたかった。
…そういえば、近くにピアノ弾けるとこあったっけか?調べてみるとだいぶ都市の中心部にあるようで、とても毎日は通えそうじゃない。仕方ない、音楽室使うか。それに、給料が入ったらキーボード買おう。
昼休み。弁当食ってると、周囲に人だかりができる。やっぱ物珍しいから質問責めにされんだろなァ思ってたら案の定だった。どうして今更ここに転校してきたのか、趣味とか…。あまりにもダルかったから全部自分に反してなきゃ適当に返した。
「あの、私はクラス委員の洞木です。影嶋さん、わからないことあったら何でも聞いてくださいね?」
「ありがとう、洞木さん。」
どうせこんな会話したところで交流はねぇぜ。俺にはわかる。
弁当を食い終わって、音楽室に行った。誰もいない。これなら安心して練習できそうだ。鍵盤の蓋を開き、椅子を調整する。ペダルに足をかけ、指慣らしから。あれ、今こんな弾けるっけか?…まあいっか!にしても、何弾こうか。曲つったって色々あるからなァ。
まあ考えるのも面倒だし、好きな曲にすっか。
最初は静かに始まる。1フレーズ終わると、ここから本当の始まりだ。90-2000年代の曲じゃあ割とよくある手法だよね。
(青い、風が今、胸のドアを叩いても)
(私だけを、ただ見つめて、微笑んでるあなた)
ノッてきた。ハミングが混じってくる。
[そっと、触れるもの、求めることに夢中で]
[運命さえ、まだ知らない、いたいけな瞳]
ここから更にサビへの加速が始まる。
[だけどいつか気づくでしょうその背中には…]
「遥か未来目指す為の羽根があること」
ここのダン!ダン!ダン!が本当に好きだ。
「残酷な天使の…ん?どした綾波さん。」
一番の盛り上がりの場所で、俺は綾波さんに肩を叩かれる。てか、久々すぎて周囲が全く認識できないほどのめり込んでいた。やっぱ楽しい。
「召集の時間よ。間に合わなくなるわ。」
「あいよ。ありがとう。」
「……。」
あの日以来、綾波さんのことがずっと気になる。まさか…一目惚れ?いや、まさかね。教室に戻り、鞄を回収して本部へと向かった。
訓練を終え、例によって食品を買い漁ってから家へと帰る。夕食の時、また葛城さんは俺に会話を振ってきた。
「ネェ、どうだった学校は。」
「別に大したことはありませんでしたね。ただ、担任の教員はあんま得意じゃないかなァとは思いましたけど。」
「へぇ~。もう友達とかはできた?」
「まだ少し話しただけなんで何ともって感じですね。あ、そうだ。葛城さんて『綾波レイ』さんのこと、何か知りません?」
「どしたの急に。もしかして好きになったとか?」
「はァ?んな事じゃないですよ。ただ、あの外に対しての興味がなさそうな目が気になりましてね。」
「ああ…彼女、誰にでもそうなのよ。レイの笑顔、誰も見たことがないわ。」
「へぇ…。」
数日経った頃、始業前の学校。
俺はいつも通り登校し、席につくと2人の女子が近づいてくる。
「ねえ、最近昼に音楽室でピアノ弾いてるって噂だけど、ホント?」
「え?まァ、そうだけど。」
「へぇ~すごーい!男子なのにピアノ弾けるのね~!」
「そいつぁどーも。」
またこんな程度で色々言われるのか、うわダル。こういうのっていつの時代も変わらねぇんだなァ。
「そうだ!みんな呼んで、放課後聴かせてよ、影嶋君のピアノ!」
「へぇ?あー、俺今日も午後から用事あるからさ、明日以降スケジュール合わせれたらやるよ。」
「えー。」
「それならさ、また昼に弾いて!」
「ええ…?わかった…よ。」
そんな興味を引かれるもんなのかなァ?よくわからねぇや。
時間は昼に飛び、今度はクラスのメンバーほとんどが集まっている。ええー…なにこの人数。昔、学校で何かで伴奏やった時のオーディション以来じゃねぇか?やっぱ緊張するわこれ。
手首と指をよく動かしてから弾き始める。昨日弾ききれなかったけど、今日は時間の余裕もつくったし、弾ききれるだろう。
…う、少し音が割れた。学校のピアノってのはすぐ音が割れるから嫌いだ。それでも最後まで弾ききると、拍手が飛んでくる。なんか気恥ずかしいなこれ。
「すごーい!こんだけの曲をこんなさらさら弾けるなんて!憧れちゃ~う!」
「そ、そうかなァ…。」
「なあ、この曲なんて言うんだ?」
「え?『残酷な天使のテーゼ』だけど…」
「知らないなぁ、何かのアニメの曲?」
「確かそうだったはずだけど…なんかど忘れしてんのよね。」
「ちぇ~、残念。でもスゴかったな、トウジ!」
「あ、ああ…。女やないのにピアノ上手ちゅーのは恐れ入った。」
「男性ピアニストだって普通にいるだろ…?」
「ねえヒカリ、今年は影嶋さんに伴奏してもらわない?きっと上手よ!」
「え、でも、影嶋君は仕事が忙しそうだし…」
「その話興味があるから後でメール寄越しといて、俺はもう仕事行くからさ。」
「あ、うん、わかったわ。」
何でそんな乗り気じゃないのかは気になるけど、それよりこれ以上居座ったら遅刻しちまう。
訓練を終え、家に帰るとメールが届いていた。どうやら昼にしてた話は合唱コンクールでの伴奏の件らしい。曲は…え、「翼をください」?何でこんなチョイスなんだ?よくわからないけど話を振られたからにはある程度は弾けるようになっときたい。楽譜を調べると色々あったが、とりあえず一番無難なものを選んだ。明日からこれを練習し始めよう。
夕食の時、例によって葛城さんから話題を振られる。
「ねぇ、今日クラスのみんなにピアノ演奏したんだって~?」
「何で知ってるんです?まァ、んな大したことはしなかったですよ。それになんか仕事振られそうですしね。」
「まあ、ちっとね。にしても仕事ってなによ~、興味あるワ。」
「7月の合唱コンクールの伴奏ですね。翼をくださいって、ちとばなしよくわからないですけど。まァ上手くやりますよ。」
「へぇ~、そこでエイジ君の伴奏聞けるんだ。楽しみ~。」
「まだ俺がやるって決まったわけじゃないですよ?正直俺だってどこまでできんのかわからないくらいですしね。ま、これのために訓練の時間調整してんですから真面目にやりますけど。」
「そんな事言ってるけど、随分張り切ってるじゃない。応援してるわよ。」
「どうも。…そいや、葛城さんって料理できませんよね?」
「え、な、何でそんな直に言いきるの?私だって料理くらい―」
「冷蔵庫の中身を見りゃ一目瞭然ですよ。俺が暇な時教えましょうか?楽しいですし、モテるかもしれませんよ?」
「ほ、本当?それじゃあ、今度の休日でも、教えてもらおうかしら。」
「あいわかりました。」
とりあえずスケジュールは月水金に早い時間の訓練を入れてもらったため、残りの平日と休日の空き時間を使って練習することにした。今日はその放課後も使える日である。
最初は左手の和音部からの練習。そっから右手のメロディ部を、少しづつ確実にやっていく。
練習風景なんて垂れ流すわけにもいかないから、この一ヶ月間でわかったことが色々あったから列挙しとく。
まず、体育の授業が男女別になってる。これはマジで驚いた。俺が生きてきた中でそんな区別が発生したことが基本的になかったからね。てか女子ばっかり水泳ができるのズルいぞ、陸上では大して動けない俺でも水中なら基本的な泳法4つは全部できるっつーのに…。
次に、教科書の類いが基本的に無い。本当に全部ラップトップで済ませてしまうようだ。これはちっと嫌な感じ。本が無いと読む気になれねぇのよね。これに関しては中高の参考書を一式買った。
後は購買があることに驚いた。中学でそれは多分初めて見たような気がする。給食ないし、まあ妥当ではあるけど。
あと、やっぱ俺は綾波の事が気になるようだ。昼なんて大して食ってないのを見てると心配になる。生きていけんの?
だいぶ自分の時空とは違うものばっかで新鮮だ。屋上にも自由に出入りできるのもポイント高い。
さて、話を戻すとだんだん通しが上手くなってきた。ミスりやすいとこのチェックをしていると、楽室の扉が開く。入ってきたのは洞木さんのようだ。
「ども。どしたん?」
「影嶋君、その…やっぱり、無理してやらなくても―」
「自分が好きで引き受けたんだからいいじゃん?そんな気を遣ってもらわなくてもいいのよ?」
「それはそうだけど…。」
「てか、何でわざわざ俺に振ってきたんだ?他にもピアノ弾けるヤツなんざいくらでも、少なくても2、3人はいるでしょ。」
「他のできそうな人、断られちゃって…。」
「へぇ、勿体ねぇなァ。そんで俺に白羽の矢が刺さったと。」
「ごめんね、本当は私がやるつもりでいたのに…。」
「できんの?あ、ここの音が飛ぶとこ要練習だな。」
「いえ、小学校でピアニカやったくらいで…。」
「あー、鍵ハだけなのね。そらちと厳しいな…。ならさ、基礎的なところくらいは教えてやろうか?それっぽく弾けるくらいにはなると思うよ?」
「え、いいの?」
「別に俺は暇だからいいけど?あ、できるときに限ってだけどね。」
「そ、それじゃあお言葉に甘えて…。」
「んじゃ座って。椅子の調整は腕が90度くらいに曲がればいいよ。」
「まあ最初は指が動かないと思うから、Cメジャーの1オクターブがきれいに弾けるとこからやるか。こんな感じで弾けるようになれば完璧だよ。」
「え、こ、こんなに早く?」
「んな事ァないよ。しっかり指が動かせるための練習だからさ、最初はゆっくりやろ。」
「う、うん。」
2週間くらい後の体育の時間。この6-7週間くらいでトウジやケンスケとか、クラスメートとも仲良くなれてしまった。正直、前の俺じゃ考えられない。人付き合いの仕方を知ってるってマジでアドなんだなァ。
「なあエイジ。」
「どーしたトウジ?」
「お前、委員長ともうデキてるって本当かいな?」
「俺が?洞木さんと?…くっ、あはははははははははは!!!」
「何やエイジ、そないおかしな事か?」
「いや、だって…くくく!またお前が勝手なリークしたのか、ケンスケ?」
「そりゃあ、放課後二人きりでピアノの練習だぜ?勘違いされない方がおかしいだろ。」
「んな事言って、いっつも盗撮してんの知ってるんだからな?んなしょうもないことやめろよ。にしたって……俺にその気が無いのに……あー面白ェ!ははははは!!」
「そんな笑うことなのかなぁ。」
「そんな事言われたって知ったら、洞木さん悲しむぜ?あいつ、いっつも誰かさんを見てんのになァー。」
「な!?」
「誰や!教えろエイジ!」
「しーらない!誰でしょーね!」
お前の事だぞ
「そ、そないならどうしたら教えてくれるんや?」
「購買のパン1個毎日奢って、宿題を自力で一ヶ月やったら教えてやるぞ?どうだ?」
「うっわー、残酷ゥ…。」
「や…やってやろうやないか!」
「お、乗ったな?男に二言はないぞ?」
「当たり前や!」
やっぱこいつ扱いやすい単細胞だ。面白。
昼休み。俺はスケジュール確認をしつつ飯を食ってた。今日は少し軽めにサンドイッチにしてる。運動した後って、何かものが食いづらいんだよね。今日は放課後すぐ本部に行って、初号機とのシンクロテストか。一個食い終わったところで、トウジから声をかけられた。
「エイジ!ちと教えてくれないか!ワシにゃこの問題が難しくて…」
「あいよ!……綾波。」
「影嶋君?どうしたの?」
「弁当の残りやる。いつも食ってねぇだろ?残りは手ェつけてないから、じゃ。」
そう言って綾波に残りを押し付けると、トウジのところへいく。
「何やエイジ、そういう気があるんなら最初から…」
「同僚として心配なんだよ。試験で赤点取っても知らねぇからな?」
「すみませんでした!」
「ついでに手ェつけてないこれ寄越せ。…お、美味いじゃん。んで?まーた数学か。いいか、分配法則なんてモンは大したことやってねぇんだからな。この項とこの項を比較して…」
-綾波レイ-
影嶋エイジ…私は、彼の事がよくわからない。
何故、私にここまで干渉してくるのだろう。
学校での挨拶、シンクロテストの後、そして今日。
…初めてかもしれない。
碇指令以外が、私の事を見てくれるのも。
右手に握った小瓶と、差し出されたお弁当を見る。
無機質な錠剤と対称的な、鮮やかな色があるサンドイッチ。
何だか、胸の奥に変な感覚がある。
-影嶋エイジ-
俺は全く気がつかなかったが、綾波はしばらくポカンとして、俺を見てから押し付けられたサンドイッチを見ていた。その後、恐る恐る一つ手に取り、一口。
「…おいしい。」
そんな声が聴こえた気がした。