ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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小説内時間にだいぶ余裕があるのでゲームのイベントなんかもできるだけぶちこんで行きたいと思います


RE22:文化祭(その1)

「……というわけで、今回は文化祭でうちのクラスがやることと、ステージ企画の出場者を決めたいのですが…。

それでは、まずステージ企画から決めちゃいましょうか。女装男装コンテストですが…」

 

めんど。受け身でただの来客になりたい…。楽しみたいけど、別に仕事をしたいわけじゃないからなぁ。そんなこんなで晩メシを考えつつテキトーに聞き流してる。

 

「はーい、あたしは影嶋君がいいと思いまーす!」

 

「え?な、アスカ!?何を言って―」

 

「え~?碇くんの方が可愛い顔してない?」

「あ、でも影嶋くんも頑張れば全然いけそうよね~。」

「髪も長いからウィッグの必要なさそうだし。」

「彼、色々髪型いけそうよ!」

 

「じゃあ影嶋くんということでいいですか?」

 

「「「「「さんせーい!」」」」」

 

「な、女子お前ら、んな勝手に決めんな!?ちょっとお前ら、何か言ってくれ!俺への援護無しってどういうことだよ!?」

 

「すまんなエイジ、ワシら別にやりたいコトがあるんでな、巻き込まれとうないんや。」

「というわけでご愁傷さま、エイジ。」

「僕まで巻き込まれかけてるのに…。」

 

「う、裏切り者共め…アスカも覚えてやがれ!」

「べーだ!」

 

ジーザス…最悪だ…。

 

 

 

時間は遡って、朝の葛城宅。

今日のHRでは来月の文化祭に向けて何をするのかってのを会議するってアナウンスがあったのだが、そこまで深刻に考えずに過ごしていた。ぶっちゃけ訓練に使徒にと不確定要素が多すぎたし、その日にピン刺しで使徒が侵攻してくるなんて有り得る話。それだから俺は巻き込まれないだろ、パイロット特権とかいうズルだけど。でもステージ企画には音楽関連で参加したかったなんて思ったり…。

 

「どうしたの?朝からそんな憂鬱そうな顔して。」

「いやー、文化祭のことで。どーせ仕事が乱入しそうだなァって。」

「確かにね。でも、こういう時くらいは楽しんでもいいんじゃない?」

「…ま、それもそうか。」

 

「ねーちょっと!シャンプー買ってきといてって言ったじゃない!」

「え?僕が昨日買ったでしょ?」

「あんたバカぁ?あーんな安物、あたしが使うわけないでしょ!?」

 

「アスカー、贅沢言ってんじゃねーぞー?」

「そーよ。だいたいシャンプーなんて安物でも高級品でも変わらないわよ。」

 

「バカップル共は黙ってなさい!だいたいバカ波、あんたは意識が低いとかそうじゃなくれ、無頓着過ぎるのよ!バ影嶋が甘やかすのがいけないのよ!」

 

「「…何言って[ンだアスカ/るの惣流さん]。全然そんなんじゃないよ。」」

 

「こいつら…呆れた。」

 

アスカはまた風呂に戻っていった。おっかねーなほんと。やっぱ、そーゆう女心ってのはマジでよくわからないわね、何年経っても。

 

「あ、エイジ君、やーっとお揃いの時計つけてくれた!嬉しい。」

「あ、やべ今日学校なのに…。」

「むー、『あ、やべ』は無いでしょ?そんな恥ずかしがることじゃないのに。」

「俺が危惧してるのはそうじゃないんだよ…。」

 

(フワーォ…)

 

ああ、俺も(リーベ)になりてぇ…。あんな大あくびして何も考えずにダラダラと過ごしてぇよ。

 

 

 

始業前の学校。

 

「おはよ。」

「おはよう。」

 

「おはよ~綾波さん、影嶋くん!」

「見てー、エイ君ったらやっとお揃いの時計つけてくれたのよ。嬉しい。」

「えっ!?ちょっとレイ!?」

 

レイは強引に俺の左手を掴み上げ、自分の左手に並べる。あーあ、やっぱ遠慮ってモンが無い。てかさ、「エイ君」って何よ。いつの間にそんな言い方に…。

 

「やだ、綾波さんたらいつもそれなんだから~。」

「影嶋くんも照れんな、こいつ!」

「こんなべったりで、羨ましいわ~!ちょっと妬いちゃう。」

 

「勘弁してくれよ…。あだだだ、何だよトウジ!」

「エイジ、一発殴らせろ。殴っとかな気が済まん。」

「俺からも。許されないぞエイジ。」

「何でこうなるんだ…。」

 

 

という訳で、何とか逃げれはしたんだが冒頭の通り見事に裏切られた。女の嫉妬も大概だったけど、男の嫉妬も見苦しいわね…。女装つっても、どーせ適当に髪型いじられた上に女子の制服着せられんだろ?ダルい。

今日は久々にやった俺主導の補講だけやったら本部へと行くんだが、教室を出る前に渚君に呼び止められる。

 

「ねえ影嶋君。君、大変だね。家事をしながら学校なんて。それに普段からも色々気を遣ってるし。」

「よく見てるなァ。んでさ、話は何?」

「女装コンテストなんだけど、是非とも手伝わせて欲しいんだ。シンジ君もそれがいいって言ってくれたしね。」

「え?それはどういう…。」

「それじゃ、次の土曜に、学校で。」

「ああ、わかったよ…?」

 

俺は教室を後にする。それにしても今日の召集、まーた「アレ」の反応か?だとすりゃあこれで3回目だよな。敵は何がしたいんだ…?

 

 

 

[パターンオレンジ、未確認。不規則に点滅を繰り返しています。]

 

[もっと正確な座標を取れる?]

[これ以上は無理ですね。なにしろ反応が小さすぎて…。]

[相変わらず地下に引きこもり、か。]

[そのようです。]

 

[パターン、青に変わりました!]

[使徒?]

[目標ロスト、全てのセンサからの反応が消えました。]

[観測ヘリからの報告も同じ。目標は完全に消失。]

 

「あーあ、この応答もこれで3回目ですよ?幾ら受け身でしか対応できないとは言え、ダルいですねぇ。」

 

[それの精度を読み取っているのかもよ?私たちの能力のね。]

[使徒が戦術を知ろうとしてるっていうワケ?]

[あり得ない話じゃないわ。使徒の学習能力をもってすれば、ね。]

 

「はァ~、せめて作業にエヴァを使えればなァ。そいや参号機の件、アメリカ側は何て返してきました?」

 

[『お前らの所にはアークがあるんだから必要ないだろ?』ってさ。ヤな感じ。]

[合理的判断ね。それにあの子が使ったら何をされるかわかったものじゃないもの。]

 

「ひっでぇ言い方しやがりますねほんと。意味もなく頭脳を殺すバカな真似はしませんよ。」

 

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

昨日、何かトラブルがあったようでエイジ君と綾波は本部での待機任務中。朝から二人がいないからか、アスカの機嫌も少しはよかった。

 

「ねえシンジ、今日は転校生が来るらしいわね。」

「え、こんな時期に?でも何でまたこんなとこに…。」

「そこまでは知らないわよ。でもシンジの言うとおり、ほんと物好きよねぇ、こんなところに来るなんてさ。」

 

 

 

「山岸マユミです。短い間だと思いますけど、よろしくお願いします。」

「席は…そうですね、洞木さんの隣が空いているかな。」

「はい。」

 

「よろしく。」

「こちらこそ。」

 

転校生、か…。前は僕らもそうだったんだな。転校される側ってのはこっちに来てから二回目だ。一回目は悪夢だったけど…。

 

 

体育の時間。

普段から日陰で突っ伏してるエイジ君がいない。あ、カヲル君またシュート決めた。ほんと運動神経いいなぁ、彼。 

 

「なあ、来月の文化祭さ、本当にアレやるの?」

「そらそうや。父兄の参加もあるんやろ?ちゅーことはミサトさんに晴れ姿を見てもらわなあかんからな。」

「そうだね、頑張ろ。」

 

それにしても、女子はいいなぁ。何で僕らばっかり陸上で…あ、山岸さんが座ってる。あの感じ、何だか前の綾波のようだ。

 

「何見てんだ、シンジ。」

「え?いや、何でもないよ。」

「あっそ、つまんないの。それよりさ、エイジと綾波どうしたの?今日も仕事?」

「そうらしいよ。何かトラブルがあったみたいで。」

「ほーん、ワイらから逃げたっちゅーワケやないんやな。」

「彼はそんなことはしないよ…。」

 

 

 

昼休み。

 

お弁当を食べたら少し調べものがあって、図書室に行った。あんまり足を運ぶ所じゃないから、どこにどんな本があるのかはよくわからない。本棚を身ながら歩いていると、誰かにぶつかってしまう。

 

「きゃっ!ご、ごめんなさい!」

「あ、大丈夫?」

「はい、あの、あなたは…」

「僕は平気。」

「よかった。本当にごめんなさい。私、ぼーっとしてて…」

「あれ、君は転校してきた人だよね。」

「え?ああ、たしか同じクラスの…」

「碇シンジ。本拾うの手伝うよ。」

「ごめんなさい…。」

「そんな謝らないでいいよ。…ほら。」

 

それにしてもこの人、妙に謝るなぁ。昔の僕みたいだ。エイジ君が居なかったら、僕もこんな風になってたのかも。誰かを傷つけるのが怖くて、それでさ。

本当に申し訳なさそうな顔をしながら彼女は立ち去っていった。僕もさっさと本を見つけ…電話?エイジ君だ。今日は帰れるのかな?

 

「もしもし。エイジ君、どうしたの?」

 

『シンジだな。ちとばかし面倒な事が起きそうだから覚悟しといてくれ。もうすぐ正式に非常招集がかかる。』

 

「もしかしなくても、使徒?」

 

『そうだ。零号機が先行するから、その後に出撃。後は追って連絡する、アスカにも言っといてくれ。俺らもなかなか暇じゃなくてね。』

 

「わかった。」

 

『よろしく。俺からの連絡は終わり。』

 

使徒…久しぶりだ。図書室を飛び出して、教室へと向かった。

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

[受信データ照合、パターン青、使徒と確認!]

 

[散々地下に潜んでいたのに、今になって出てきた理由は何?]

[こちらの手の内が読めたのかしら。]

[それともより具体的な情報が欲しいのか…。

作戦を説明します。敵使徒を強羅絶対防衛線まで引きつけ、そこから先はエヴァ全機による電撃戦によって使徒を殲滅。各機体の武装、配置は協議済み。エイジ君から聞いてちょうだい。後は頼んだわ。]

 

「了解、零号機出撃。ぶっつけの武装だけど我慢してくれよ。」

[平気、慣れてるから。]

「直近のビルに入ってるから受領してからはポイントD-11にて待機。その後は状況に合わせて指示を飛ばす。」

[わかった。零号機、出撃します。]

 

技術部、とんでもない武装を出してきたな。全領域兵器[マステマ]。ガトリングとブレードとN²ミサイルとかいう危ないモノを全部装備したトンデモ武装。こないだ見たデュアルソーも大概だったけど、こっちはもっとヤバいだろ。幾ら何でも遠慮と取り回しを考えなさすぎだ。

 

「葛城一尉、セカンドとサードはどうですか?」

[もうそろそろ発進できるわ。敵の能力がわからない以上、慎重にね。]

「了解。初号機、弐号機聞こえるな?」

 

[問題ないよ。]

[こっちも準備オッケー!]

 

「よし。弐号機はプログダガー、初号機はマステマを射出後に受領。ぶっつけの装備だから仕様データを送る。言っとくけどN²ミサイルだけは絶対に使っちゃダメだぞ?一発使っただけで街一個吹き飛ぶからな!」

 

[それじゃあ外しときなさいよ、おっかないわね!]

 

「ごもっともだが、俺の管轄外だ…。

全員、配置についたな。最初はアスカが先行して攻撃とフィールド中和、その間に残りの二機が回り込み、ガトリング斉射で敵へ攻撃。こいつで行こう。場所は逐次送る。弐号機とのクロッシングスタート。」

 

[ん…?ねえ、何か変な気分するわ。前までこんなことなかったのにさ。]

 

「え?…まあ、後でだ。行くぞ!」

 

[(パン、パン!) こんな程度で惑わされちゃダメよ、アスカ。行くわよ、この毛虫!!]

 

頬を叩いて、気を奮わせる。掛け声と共に、ダガーを構えて敵に突き進む。敵は節を飛ばして攻撃してくるが、全てを回避し、ダガーをフィールドに叩きつけ中和する。

中和作業の間、零号機と初号機には3機で敵を囲むように移動してもらい、フィールドが完全に無効化されたのを見計らって攻撃指示。

 

「今だ、射撃開始!」

 

マステマの十字砲火(クロスファイア)とダガーの斬撃により、どんどんと節が削られ、消失していく。コアはどこだ…?様々な解析をしながら探し出す。

 

「コアを見つけた!アスカ!」

 

[言われなくたって!]

 

「レイ、シンジ!」

 

[了解!]

[待って、民間人が!あれは、転校してきた…!]

 

「何!?どこだ!」

 

初号機の視界へと変化する。その目線には、自転車に乗ってこちらを見ている女子がいた。こいつらマジで俺らの仕事を毎回増やしやがって…!

 

「面識があるんだよな、山岸をさっさとシェルターに誘導しろ!」

[わかった!綾波、ここはお願い!]

[了解、惣流さん!]

[アンタもいい加減アスカって呼びなさいバカ波!]

 

レイは射線を山岸から外れる方向へ向き、アスカは俺の想像通り-敵にダガーを突き立て、無理矢理抱え込んで零号機の真ん前に向ける。それと同時に、零号機は攻撃開始。

 

その間にシンジは初号機の手を使って山岸をシェルターへの出入り口へと直接運び、事なきを得た。また民間人騒ぎは勘弁してほしいわマジで。

 

その間にも行われていたガトリング斉射の末、使徒は体を痙攣させ始める。それと同時に弐号機はダガーを引き抜き、後ろへと跳躍すると敵は爆発した。

 

「状況終了…お疲れさまでした。」

 

周囲には溶解した地面が露出している。この規模の爆発は最初に相手した奴以来だろうか。

それより、さっきのは一体…俺の考えを、言葉に出していないただのイメージそのままに動いていた。アスカの言っていた『変な気分』って、どういう…?

 

[みんなお疲れ様。なかなかの連携だったじゃない。]

[そうねぇ。ちょっとばかり変な気分がしたけど、まあ結果オーライね!]

[なんか、普段以上に上手くいきましたね、不思議なくらい。]

[エイ君もお疲れ様!…エイ君?どうしたの?]

 

「え?ああ、何でも。先に失礼するよ。」

 

間違いない、あの時だけ全員と薄くではあるけれど繋がっていた。俺の面識のない人の名前、俺のイメージ通りの動き…

 

「アーク、どういうことなんだ。」

 

少しだけ間が空いてから返答が来る。

 

-少し、広げただけ。心を覗ける範囲を。-

 

「だからって他人の中にズカズカ入るのは無しだろ、気分悪い…。」

 

-心といっても、表層だけ。私も知りたいもの、もっと多くの『感情』を。特に、綾波レイの心を知りたい。-

 

「レイのか?何でまた名指しなんだ。」

 

-いつか、ここに来させて。-

 

「覚えてたらそうするよ。接続終了。」

 

…アークとの繋がりが切れた。あの日以来、アーク自身に意思があるのはよくわかったけど、これのコアは何なんだ?まさか、レイの素体が…いや、それはおかしい。

『ただの器』には心が宿ることはないはずだ。魂が入ったレイですら人形と揶揄されていたのに、そう都合よく心が発生するとは思えない。そもそも、魂の定義が曖昧過ぎる。

気分が晴れないまま、俺はこの部屋を後にし、ロッカールームへと向かった。

 

 

 

「あ、お疲れ。そういえばさ、さっき今日来た転校生の名前呼んでたよね。知ってたの?」

「…ああ、連絡自体は来てたからな。」

 

嘘は言ってない。転校生が来るって事は本当に知っていた。でも、どんな見た目なのか、名前は何なのかはシンジの頭ん中を覗いた時に掠め取ったものだ。全く、気分が悪すぎる。

 

「そうだったんだ。やっぱミサトさんから色々聞いてるの?」

「そーだね。ところでさ、来月の文化祭だけど…一緒にやりたいことあるんだ。聞いてくれない?」

「え?何をやるの?」

「デュエット。チェロの音聴いてから、ずっとやりたいと思ってたんだよね。楽譜もあるし、どう?」

「いいけど…エイジ君忙しそうなのに、大丈夫?」

「それなら大丈夫だ。待機任務つっても流石にずっと縛られてるわけじゃないしね。今日は遅いし、明日の放課後にでも。」

「わかった。」

 

 

ロッカーを出ると、葛城一尉が入り口で待っていた。

 

「葛城一尉。どうしたんですか?」

「指令からの命令で、あなたたち二人の警戒待機がまだ解除されないのよ。それを言いに来たの。」

「え、解除されない?…不穏ですね。」

「でしょ?それにあの使徒のこともね。余りにもあっけなさ過ぎると思わない?」

「そいつは返答しかねます。元々電撃戦を考慮した動きだったし、これに関しては俺らの連携勝利でいいんじゃないですか?」

「そうね、考えすぎだといいけど…。それじゃ、みんなにも伝えないとだから。今日はお疲れ様。」

「お疲れ様でした、葛城一尉。」

「ここでも『ミサト』って呼んでくれていいのよ?」

「公私混同はしない主義なので。それでは。」

 

 

 

-綾波レイ-

 

着替え終わると、夕食を食べにラウンジに向かった。せっかく倒したのに、どうして警戒待機が解除されないのか不思議。今までこんなことなかったのに。

指令に文句を言いに行っても何も教えてくれなかった。何か言ってくれてもいいのに…。

シチューを頼もうとカウンターへ向かう。エイ君、どこ行っちゃったんだろ。ロッカーにも、アークにも、家にもいないって。思うと、最近は一人でいる事も、もう少ない気がする。学校でもクラスは一緒だし、家でも、ネルフでも……離れる時っていうのは私がエヴァに、彼がアークに乗ってる時だけ。

でも、普段通りでも今日は違った。彼と、いつも以上に近くに感じた。どうしてかはわからない。でも、彼の考えが、言葉を使わずに直接伝わってきた。さっきは、ちょっとイラついていた…のかな。装備の事前通知のない譲渡連絡。それだけじゃなく、山岸マユミって女の子に、前に鈴原君と相田君に対して思ってたそのものの考え、「民間人がのこのこと戦場に出てくるな」って思ってた。

後は、敵を倒すイメージ。それが一番強く伝わってきた。何でいつも同じ役割分担をしているのか、わかった気がする。

半分くらい食べ終えると、ピアノの音が聞こえてきた。あれ、いつここにピアノ置かれたんだろう?私が来たばっかりの頃には置いてなかったのに。でも、この音は聞いたことがある。

手早く食べ終え、食器を返すと音楽の方向へと向かった。

 

ピアノの一番近くに座り、彼の音楽を聞く。私にはまだ音楽はよくわからないから、きれいな音だということしかわからない。でも、聞いてて心地の良い音。所々力強くて、でも柔らかくて。言葉で表現しづらい音だった。演奏が終わると、あちこちから小さく拍手が飛ぶ。もちろん私もした。

 

「ふー。ん?レイじゃん。飯はどうしたの?」

「もう食べた。エイ君は?」

「俺ももう食ったよ。にしても人の少ない時間を狙ったはずなのに、割といたなァ。」

「そんな恥ずかしがることじゃないわ。この曲、何て名前なの?」

 

「『アラベスク第一番』。クラシックは余り得意じゃないんだけど、シンジとデュエットやろうつったからさ。俺も少しクラシックの感覚を掴んどきたかったからさ。」

「デュエット?それは何?」

「二重奏つって、楽器二つ使って一緒に演奏するんだよ。俺は一度もやったことが無かったからさ、憧れがあるんだよね。」

「へぇ~、エイ君もそういうこと考えるのね。」

 

「それはちとばかし酷い言い方じゃないか?…ま、そういう訳なんだよ。今度の文化祭のステージ企画、俺はそれで参加してみようかなってさ。」

「そうなの。私もやってみたいけど、音楽は苦手だから…。」

「一か月もあれば上手くなるよ。やってみるだけやってみない?」

 

エイ君と、ピアノを弾ける…いつか、洞木さんと彼がやってたことができる…。

 

「いいわ、やりましょ?」

「そいつはよかった。それじゃ、明日から少しづつやろっか。それじゃ、俺は部屋に戻るから。」

「私も行く。部屋、隣だし。」

「そうだな。」

 

昨日は別々だったけど、今日はまた一緒に寝てもいいよね、エイ君。


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