ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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RE29:覚醒

「アーク、さっきの停電の被害状況と復旧率を表示できるか?」

 

-はい、これがデータ。…エイジ、レイとアスカから逃げてきたの?-

 

「……どこまで聞いてたんだ?」

 

-全部。ずっと薄く繋がってたから。-

 

「俺にはあれに対する回答はできないよ、二重の意味でさ。」

 

-どうして、エイジの本音を言ってあげないの?レイもアスカも、それを聞きたがってそうよ?-

 

「言えるのなら…とっくに言ってるさ。でも、そんな我儘は許されないんだよ。俺らはもう、ただの子供には戻れねぇんだからな…。正直、自信を無くしそうだ。個人(レイ)への感情より、全体(NERV)の利益を毎回優先させてる。当然なんだけど、その仕事のせいでレイが俺に構ってくれって言うのもわかる。そもそも俺なんて―」

 

-このことを、誰かに言ってみた?それとも、また一人で背負うの?-

 

「……………。」

 

-覚えていて。あなたは、いつだって一人じゃない。たとえその人から正解を得られなくても、話せば何か得られるものはあるわ。あなただって、私との対話の時に絶対的な正解は提示しないでしょう?-

 

「絶対的なものなんてないよ。自分で考えて、導き出して、納得できたものが自分自身の答えだ。」

 

-たとえ、それが自分を偽って出したものだとしても?-

 

「………接続終了。」

 

間違いなく、コアは俺の事を全て知っておいてこのことを訊いてきてる。全てを暴露されたときが、俺の最後かな…。

プラグから出ると、部屋にはミサトがコンソールに腰掛けて待っている。予想できなかった来客に、俺は困惑した。

 

「ミサト?どうしたんだよ。」

「初めてかしら、本部(ここ)で名前で呼んでくれたのは。」

「用件は何です?」

「今後の訓練のこと。エイジ君、12月は訓練無しよ。」

「無しって…まさか全休なんてふざけたことは言いませんよね?まだやらにゃならんことが多く―」

「命令よ。あなた、少しは休んだ方がいいわ。余裕が無くなってきてるの、自分でもわかってるんじゃないの?」

「命令つったってこの程度で休んでられませんよ。だいたい、そんなしょうもないことで」

 

恐らく「しょうもない」に反応したミサトからの平手が飛んでくるが、例によってそれは避ける。正直、保護者ぶった事をしているミサトは好きじゃない。

 

「いい加減にしなさい!もうあなただけの身体じゃあ無いのよ!」

「んな事ァ承知の上だ!だいたいパイロット達とまともに向き合おうともしねぇ保護者気取った奴にんな事言われる覚えはねぇ!」

「なっ…!?」

「失礼!」

 

部屋を出ながら、相手を攻撃するためだけに飛び出た本音を思い返して自嘲する。完全にブーメランだもんな、あれ。いや…それっぽく見せてる俺の方がタチが悪いか。

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

夕食ができたけど…今日もまだ誰もいない。家にいるのは猫とペンギンと僕だけ。ミサトさんとエイジ君と綾波はともかく、アスカが妙に遅いのが気になる。出撃前のあんな喧嘩があったからかな…。

 

「ただいま。」

「あ、お帰り……綾波?エイジ君は?」

「知らない。」

「知らないって…何かあったの?」

 

綾波は僕の質問を無視して自分の部屋に行ってしまった。まさか、あの二人が喧嘩…?そんな感じなんてなかったのに。少し経つと、今度はアスカが帰ってくる。

 

「ただいま。…リーベ、あなたはいつも一番乗りね。ありがと。」

(ニャ~、ゴロゴロ…)

 

「お帰り、アスカ。その、体さ…大丈夫?」

「今は平気。」

「そっか、よかった。ところでエイジ君ってどうしてるの?」

「アイツならまだやることがあるって戻っていったわ。残業じゃない?」

「そうか、夕ごはんどうしよう……。」

 

 

なんだか、この三人が一緒になって夕食って初めてな気がする。いつも綾波の側にはエイジ君がいるはずなのに、そこが空席だと変な感じがする。全員が食べ終わるくらいに、思いきって訊いてみた。

 

「ねぇ綾波、エイジ君と何かあったの?」

「碇君には関係ない。」

「うっ、そうでしたか…。」

「ごちそうさま。先にお風呂入るわ。」

 

有無を言わせない口調で綾波はリビングから去っていく。あんなの見たことない…。

 

「シンジ。ファーストはね、私に影嶋を取られそうって思ってるのよ。影嶋のヤツ、前みたいにあの子の事を考えずに何か喋ったんでしょうね。それも多分、自分はあたしのことが好き、みたいなこと。」

「そう…なの?だとしたら……」

「シンジ、あんたって鈍感なの?そんな事アイツが言う訳無いでしょ。あんなにファーストの事を想ってるヤツが…。」

 

「ど、鈍感なのかって言われたって…そういう経験あまりないし。」

 

こういうキツいことをストレートに言うのは相変わらずだ。でも、なんだか寂しそうな目をしてる。

 

「それならこれで覚えなさい。わかったでしょ?あたしもあの子の後に入って、もう寝る。じゃ、おやすみ。」

「おやすみ、アスカ…。」

 

所々いつもの感じが見れたけど、やっぱり元気がない。それにエイジ君もいつ帰ってくるんだろう。

一昨日までは僕らは強く繋がってた筈なのに、今日はこんなにバラバラになってる。

僕に、出来ることはないのかな……。

毎回、僕だけが取り残されてる。こんな疎外感、今まで……

 

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

休憩ルームで、一人で座っている。深夜のため、当然人気はほとんどない。いつからか、霞ちゃんの写真を持ち歩いていた。

…まだ、俺の清算は終わっていない。だから、俺の願望はまだ叶えられない。

でも、彼女に伝えたいことがある。だが、それは俺の清算方法と相反することだ。やはり…多分、誰と生きていても、どこにいても、一生逃れられないのだろう。

 

「わざと気配を残したんですか?加持さんらしくない。」

 

左頬に触れそうになった缶を右手で受け止める。

 

「おっと、気付いていたのか。…その写真に写ってる子、誰なんだ?随分楽しそうな様子だけど。」

「…昔、俺が助けた子ですよ、それだけです。ところで用は何ですか?」

 

「明日、シンジ君と一緒に付き合ってほしいことがあってね。まあ、デートといったところかな?」

 

「俺のこと…知ってるんですね?俺の知らない、俺の事を。」

 

「……ふっ、君には敵わないなぁ。君には上に立つ人間として、知らなければならないことがある。俺はそれを君たちに伝えるんだ。それじゃあ、本部集合でいいかな?明日の放課後にロビーで。おやすみ、エイジ君。」

「おやすみなさい。」

 

聞かなければならない。彼らの先に立たなければならない人間として。

 

彼らの全てを背負わなければならない人間として。

 

 

たとえそれが、俺のエゴだったとしても。

 

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

結局、エイジ君は家に帰らないどころか昼まで学校に来ていない。訓練って話も聞いてないし、本当にどうしたんだろう。そういえば、一昨日のクロッシングが切れた後から、エイジ君とはほとんど話ができてない。

 

「なあシンジ、エイジのこと知らんのか?綾波が一人だけで学校来るなんて異常事態やで?」

「僕だってよくわかってないんだよ。何も教えてくれないし。」

「ほんと、あんなにいっつも仲が良かったのにさ。何が起こるかわかったもんじゃないよね。あとさ、アスカも元気なかったよね。それの原因もわからないワケ?」

「そんな、一番わからないことを聞かないでよ。」

 

「友情や恋心というものは儚いものだ。ちょっとしたことですぐ壊れてしまう。しかし亀裂が入ったとしても、たとえ壊れてしまったとしても、その苦難を乗り越えた先には真に強固なものが生まれる…ってね。」

「カヲル…君…?」

 

ったく、朝から何回目だと思ってるのさ。教室でお弁当を食べながらそんなことを話してると、エイジ君が教室に入ってくる。

 

「噂をすれば、ってヤツかいな、」

「あ、エイジ君!今日はどうしたのさ、連絡も無しに休むなんて…」

「ちっと、急用がね。シンジ、今日の放課後、本部のロビーで加持さんが待ってるってさ。シンジに伝えたいことがあるとか。」

「加持さんが?急になんだろう。」

「それは俺もわからないな。伝えるのはこれだけだ。それじゃ、また。」

「あ、ま、待ってよ!エイジ君、綾波に誤解されてるのなら、その…きちんと、言った方がいいんじゃないの?」

 

綾波の方を向くと、僕らの視線に気付いたのかそっぽを向いてしまう。彼も綾波の方を少し見ると、目を伏せてしまった。

 

いいんだ。用はこれだけだし、もう俺は行くよ。じゃ。」

「あ、エイジ君…?」

 

「影嶋、待ちなさい!」

「アスカ?」

「ちょっと来なさい!」

「あ、ちょ、俺まだ仕事が…!」

 

物凄い勢いでアスカがエイジ君を連れていってしまった。

 

「おっと~?」

「これは~?」

「「三角関係??」」

 

「僕に聞かないでよ僕に…。」

 

 

 

 

 

-惣流・アスカ・ラングレー-

 

とりあえず屋上に連れてきた。ここなら直接ファーストに聞かれることも無いでしょうしね。

 

「何だってんだアスカ。もうそろそろ戻らないと次の実証試験が…」

何とも思わないの?

「……そんなわけ」

「じゃあ何でファーストに何も言わないのよ!あの子が今一番聞きたいのはあの子の誤解に対するアンタの否定じゃない!アンタだってそれはわかってるでしょ!?」

「それだけなら…俺はもう行かないとだから。」

「『それだけ』って…!!」

 

影嶋に殴りかかっていた。許せなかった。普段の態度もそうだけど、あたしらの気持ちを知っていながら、ワザと突き放すような言動をしてる。それが一番、許せなかった。

 

「ほんと、すぐそうやって手を出してくるのやめてくれよ!反撃して流れ弾喰らうの俺なんだからな!?」

「うっさい!どうせ反撃なんてしないくせに、あんたがさっさとレイと関係を直せばこんなことにはなってないのよ!」

「っ!?それは…!」

 

4発目のキックを避けられたとき、影嶋の胸ポケットから紙みたいなものが落ちてきた。でも、それをこいつは気付いていない。

互いに間合いがある状態、これなら安全に拾えるかしら。あたしは警戒しながらも、地面に落ちたそれを拾う。

 

「何これ…写真?」

 

その写真には、影嶋のような顔をした短髪の大人の人が、あたしと同じ年齢くらいの子と一緒に写っていた。日付は2017-05-22。未来の日付ってことは、アイツって本当に…。

影嶋は自分の胸ポケットを覗き、やっと自分が写真を落としたことに気付いた。

 

「返せ!!」

 

「何、珍しくわっかりやすい動揺してるじゃない。アンタ、大人なのにあたしらくらいの子に手を―」

「違う!彼女と俺はそういう関係じゃない!」

「ふーん…じゃあ昔の女にどうしてそこま…うっ!?」

 

影嶋はあたしの右手首が折れそうなくらい強く握りしめ、写真を取り返していった。それを丁寧にポケットに戻すと、今度は首を掴んで手摺にあたしの身体を押し付ける。こいつ、本気であたしを…

 

「いい加減にしろ!霞ちゃんのことも知らないで、勝手なことを言うな!」

「ちょっと!?エイジ君やめなよ!本当にアスカが…」

 

シンジの声で影嶋はハッとした顔になり、あたしから手を放して離れた。咳き込んで座り込むあたしを暫く睨んだあと、何も言わずに屋上からいなくなった。

 

「アスカ、何したの?エイジ君があんなに怒ってるの初めて見たけど。」

「ちょっとからかったら地雷だったわ。」

「だからって何もあそこまで…」

「カスミって子と何かあったのよ。それは間違いないわ。」

「え?どうしてわかるのさ。」

「シンジ、もう少し話の聞き方ってのと洞察力ってのを付けた方がいいわよ。アイツ、自分がイジられてるのにカスミって子の方を優先させてた。それに…一緒だったのよ。」

「一緒って、何が?」

「髪型よ。ねえシンジ、あんたって影嶋と次に長く住んでるのよね?」

「そりゃあ、引っ越す前からだし。」

「アイツ、いつからあの髪型だった?」

「それは…僕が知ってる時から。エイジ君はそういうの気にしてないのかわからないけど、髪を切ったのも見たことない。ずっと、伸ばしっぱなし。」

「そう…。」

 

わざわざ、昔仲良かった女の子と同じ髪型にして…明らかに異常よ、アイツ。余程の事があったか、或いは…。

 

「アスカ?」

「思った以上に…嫌な予感がする。」

 

 

 

 

 

 

-赤木リツコ-

 

「それじゃあ、今度は新型のスナイパーライフルの実証試験を始めるわ。用意はよろしくて?」

 

[俺はいつでも大丈夫ですよ。]

 

「結構。それじゃあ、最初はインダクションモードで、バーチャル空間での試験から始めます。」

 

モニターに写し出された零号機が、仮想空間内で試製ライフルを扱っている。この後はサンダースピアのテストもある。彼は17時くらいからリョウ君との用事があるから16時くらいには終わらせてあげないとね。

それにしても…

 

「彼、今日は妙に数値が不安定ね。」

「ええ。でも…これを見てください、先輩。」

「相変わらず、基礎数値は高い…。」

 

正直、シンクロ率が不安定というのはよくあること。何かあって色々考え込んで、集中できなくなってしまうのは人間として何らおかしくはない。でも、問題はその基礎数値…数値が今日は7割もある。こんな数字を平時で出すなんて、あり得ないと思っていた。

 

「先輩、この間の仮説、聞きました。自己否定で本当に数値が上がるのでしょうか。」

「正直、詳しいロジックはまだわからないわ。でもね、相手に対してパーソナルを自発的に変化させているというのは事実なのよ。恐らく、あの子が行っているのは機体との同期(シンクロ)じゃなくて、エヴァそのものに自分がなる感覚なんでしょうね。」

「でもそれだったら、常に暴走の危険が…。いつ、初実験の時のレイみたいなことになるかわからないじゃないですか!」

「それをも制御してるというのが事実。彼のデータは貴重よ。仮にこのメカニズムが実証されれば、子供だけでなく大人でもエヴァを動かすことが出来るわ。」

 

「でもそうなった時は、エヴァが完全に兵器になるということよね。」

 

「葛城一尉!」

「いえ、今は葛城二佐よね?ミサト。」

 

「そうよ、別に特別嬉しくはないけどさ。それで…彼の調子はどう?」

「順調ね。積極的に実証試験に参加してくれるし、シンクロ率も高水準を保っているわ。彼のお陰で新装備の開発が進むし、予算も降りてきている。私たち、彼に感謝しないとね。」

「そう…。」

「あら、また彼に殴られでもした?」

「そんなんじゃないわ。でも…彼らの保護者、やってく自信がなくなっちゃって。彼に面と向かって『保護者ぶった事をするな』って言われちゃってさ。」

「親の心子知らずといったところかしらね。…仕方ない気もするけど。」

「ちょっとリツコ!?」

「…残業、家でやったらどう?」

「家で?」

「そう。紙のはともかく、データ分くらいは家でもできるでしょ?彼らだって年齢的な大人が居なければ寂しさだって感じるわ。」

「そうね…やってみるわ。ところで、エイジ君の出自なんだけど、ちょっち不可解なのが出てきたのよ。」

「不可解?」

「これを見て。」

 

ミサトは数枚の写真を渡してくる。

 

「これは…アルバム?誰の?」

「エイジ君のよ。問題は写真の日付。数ページだけ、2017年の写真があるわ。」

「本当に彼は…。」

 

「そうよ。でも、そういう強行手段はダメ。エイジがもっと心を閉ざしてしまうわ。」

 

唐突に話しかけてきた聞き覚えのない声に対し、全員が振り返る。

 

「誰!?ここはIDがなきゃ入れないはずでしょ!?」

「こないだぶり、ミサト。面と向かって話すのはこれが始めてね。」

 

「この声…!まさかあなた!?」

 

目の前には、LCLに濡れた10歳くらいの、少し長めの銀髪で赤目をしているレイによく似た子がバスタオルを身体に巻いて立っている。この子…予想より早く活動を始めたのね。

 

「そう。私はアークのコア。初めまして、お母さん。」

「お母さん!?どういうことリツコ!」

「私がその子を『産み出した』のよ。人工的に。」

「な!?そんなこと…!」

「いいのよ、ミサト。私は今ここにいる。これだけで幸せだわ。」

「あなた…名前はあるの?」

 

「いいえ、彼女には」

「ミチヨ。世界の路で路世よ。私にぴったりじゃない?彼らの行く末を見守る者として。」

 

「いい名前ねって言ってあげたいけど、複雑な感じだわ…。」

「エイジ君の影響かしらね。とりあえず、服を着なさい。」

「え~?そもそも近くに服が無かったから仕方なくここまで来たのに。」

「仕方ないわね。マヤ、適当な服を持ってきて。何なら経費で落としてもいいわ。ここは私が見ておいてあげる。」

「わ、わかりました先輩!」

 

マヤは急ぎ足で部屋を出ていった。それにしても、この子…どこに住むつもりなのかしら。嫌な予感が…

 

「ねえミサト、私もミサトの家に住んでいい?」

「……えっ?」

「頑張ってねミサト。いい訓練の機会じゃない?」

「リツコ!?あなたこの子の母親でしょ!?」

「ねーいいでしょミサトー。」

「う゛…仕方ないわね。いいわよ。」

「やった~!」

 

ミサト、大変ねぇ。3つ子が4つ子になっちゃって。エイジ君が居なかったらどうするつもりだったのかしら。

 

[データ取得終了。動作確認終わりました。]

 

「お疲れさま。上がっていいわよ。」

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

俺らは加持さんの車に乗せられて、近くの水族館に来ている。…正直、あまりこういう場所には二度と来たくなかった。また…思い出してしまうから。楽しかった思い出を。

 

「あれ、エイジ君はこういう場所、好きじゃなかったかな?」

「んな事はないですよ。それより、話を聞かせてください。」

「まあ、そう焦りなさんな。まずはシンジ君からだ。」

 

「僕から…ですか?」

「シンジ君…エイジ君もそうだが、ネルフについてどこまで知ってる?

『使徒』って呼ばれてる正体不明の敵を倒す…単にそれだけの特務機関だと思っているだろう?」

 

「はい…。後は、サードインパクトを未然に防ぐって…アスカの受け売りですけど。」

「単にそれだけだったらどれだけよかったか。地下巨人、クローン技術…裏じゃかなりヤバいことやってるぜ、この機関。」

「え…!?知ってたの、エイジ君!だったらどうして…!」

「知るのはいいけど、それには責任が伴うもんだ。それに、『いちパイロット』が知っていい範囲を越えてる。『好奇心は猫を殺す』んだよ。」

「だからって…!」

 

「エイジ君が言っていることは尤もだ。でも、真実を知らなくていい言い訳にはならないな。」

 

言い訳ねぇ。彼が逃げてるワケじゃないのにな。

 

「単刀直入に言おう。彼が言った地下巨人…それを狙って使徒はここに来ている。そしてそれを見越していたかのような迎撃システムとエヴァンゲリオン…全ては仕組まれていたことなのさ。」

 

「え…?」

 

「君の父さんはこれから起こる全ての事を知っているはずだ。そしてセカンドインパクト。恐らくあの事件があの日起こることも予測していた。」

 

「でも、なぜ…?」

「そんな高精度に予測なんて出来るんですか?余りにもピンポイント過ぎる。」

 

「できるんだ。…”ゼーレ”という組織があるからな。」

 

加持さんはその後、ゼーレの詳細を語った。大昔から世界を裏から動かしていたという秘密結社。その権力は計り知れず、NERVどころか政府も裏から操れるほど。

そして彼らの教典とも言える古文書の「死海文書」。それによって人類の歴史、使徒のことが詳細に記されている。

恐らく碇指令とゼーレは互いに利用し合い、とある計画を進めている。使徒との戦いはそれの前座でしかない、と。

 

「あれが前座…随分と壮大な計画ですね。」

「みんな待ってよ!何で僕にそんなことを言うの!?エイジ君の言うとおり、僕が知って何になるんだよ!」

 

「碇シンジ君、君にはこのことを…真実を知る権利、義務がある。

碇ゲンドウと『エヴァを造り出した碇ユイ』の子供として生まれたからにはね。」

 

「母さん…?」

「シンジのお袋が、エヴァの開発に関わっていた…!?」

 

「さすがにそこまではエイジ君も知らなかったか。」

 

「人のプライベートには、相手から言われない限りは深く関わらないように努力しているので。でもこれは予想の斜め上だ…。」

 

「そんな…僕の母さんが、エヴァを…?嘘だ。僕の母さんはそんな人じゃない。普通のお母さんだった。父さんの実験の被験者にされて、死んだって…!」

 

「そう人から聞いたのか?いや、君はその目で見ているはずだ。『お母さんが消えるその瞬間を』。君はつらいことを無意識に記憶から閉め出しているだけだ。」

 

「そんな…母さん…母さん…?」

 

ここまで激しく動揺しているシンジなんて初めてだ。にしても、お袋が死ぬのを目撃してしまったのか。まるで、俺みたいな―

 

「すまない。無理に思い出さなくていいんだ。でもシンジ君、目を背けてはいけない。真実からは。」

 

「こんなことが…現実にあってたまるかよ…。何でこう、シンジ達はこんな思いをしなきゃならないんだ…。」

 

「それとエイジ君。君の事も教えよう。やっと尻尾を掴んできた情報だ。」

「…何であれ覚悟はできています。」

「そうか。君の本当の名前がわかった。『司城(つかさぎ)光也(みつや)』、それが君の本当の名前だ。」

「ツカサギ・ミツヤ…。」

 

加持さんはメモに俺の名前を書き、それを手渡す。全く意識していなかった―いや、これも記憶に無かったから当然なのだが、名前も漢字を使っている。どこか、懐かしい感覚だ。ここに住んでからというもの、名字は漢字で名前は片仮名というのしか見てこなかったから。

 

「君の大部分の情報はこのメモリに残っている。時間があったら見てくれ。…そして、ここからが君の出自に関してだ。…君は『エヴァから産み出されたんだ』。」

「な…!?エヴァから…ですって?」

「そう。君は『本来の影嶋エイジ』のサルベージ計画で産み出された子供。だが、魂とも呼ぶべきもの…中身と言った方がわかりやすいかな。それは司城光也のものになっていた。」

 

「その後は記憶を消されて都合のいい道具ですか。」

 

「いや、君は助けられたんだよ、君のお父さんにな。」

 

「親父に…?」

 

「そうだ。君のお父さんは…いや、これ以上は今は言えない。だが、彼はこう言ってたよ。『恐れず、自分に従え』ってな。それと、余り自分で背負い込みすぎるなよ、ともね。」

 

「はは…やっぱ敵わねぇな、親父には。」

 

「エイジ君…皆とうまく行ってないんだって?葛城から相談が来たよ。

せめて、一緒に住んでる人たちくらい信頼してもいいんじゃないのか?折角自分を慕ってる子が二人…いや、三人もいるのにさ。同じ『大人』としてだって、葛城とも付き合ってやりなよ。アイツだって初めての事なんだ、そう簡単にうまく行くとは限らないさ。」

 

「俺は…俺は攻撃したくて、貶したくて言ってるワケじゃあ…!」

 

「だったら、それを伝えてやらないと。君はあの家に住んでる全員に影響があるんだ。君が思っている以上にな。」

 

「……”距離を置いてこそ自分の大きさを知る”、か。自分で言うことじゃないな。未熟な心はそれすらわからないまま独り善がりをしてたんですね、俺って。」

 

「対話を望んで、それをしてきた君だ。大丈夫、必ずみんなには伝わるさ。」

 

「ありがとうございます。やっと…やっと先に進めれる気がします。」

 

「頑張れよ。それじゃ、家まで送っていくよ。

二人とも、この事実にどう向き合うかは君たち次第だ。でも、でもシンジ君、君らにはエイジ君という、君らより人生経験をしている人がいるんだ。遠慮せずに相談を持ちかけろ。彼もそれを受け入れるはずだからな。そうだろ?」

 

「勿論ですよ。俺はもう、これ以上失いたくないですからね。」

「…はい。」

 

やっぱり加持さんは…俺が会ってきた大人のなかで、一番大人をしてくれている人だ。改めてそう感じた。

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