ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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RE30:吐露

-碇シンジ-

 

加持さんの車で家に送ってもらっている。エイジ君も大概に凄いこと言われてたけど、本当に動じてる感じがなかった。これが大人との差ってことなのかな…。

 

「ねえ、エイジ君はどう…思ったの?自分の名前が違うとか、エヴァから産まれたとかさ。」

「そら驚いたさ。でも、シンジよりかは…いや、比較にならないほど軽いモンだよ。シンジの方こそ、数日で無理矢理飲み込もうとすんなよ、絶対後悔するから。」

「そ、そうなの?」

「そんなもんだ。…失礼、電話だ。え、ミサト?もしもし!」

 

後悔する…なんか、妙に説得力のあるような言い方だった。

 

(ああ?おいミサト、そういうのいい加減に……な!?あ゛~…お前、ワガママもいい加減にしろよ?……あーもー拗ねるな拗ねるな!わかったよ仕方ないな!)

 

な、何を電話してるんだろうエイジ君。なんか、妙にデジャヴを感じる会話内容だなぁ…。

 

「加持さん!!今からなら左右左で大きいスーパー行けるんでお願いします!」

「お、おい急にどうしたんだエイ」

「ミサトの奴がまたやりやがった!夕食の材料買うから二人も協力頼む!」

 

そんな事を言いながら、エイジ君は既にパソコンを開いて、物凄い勢いで何かを打ち込んでいる。

 

「はは…相変わらず葛城はお人好しだなぁ。」

「え、エイジ君、そんな焦りながらどうしたの…?」

 

「住む人間が一人増える影響ってのはバカにならないんだよ。主に生活費にね。」

 

「は、はあ。」

「エイジ君、本当に将来は主夫になれるんじゃないか?…着いたぞ。」

「これは一般常識の延長ですよ。よし、それじゃあ二人ともコキ使わせてもらいます。二人ともメール確認しといてください。じゃ、30分後集合場所で!」

 

早足で車を後にするエイジ君。二人でメールを確認すると、二人で分担して、それぞれ僕が食材に加持さんは食器関連とアルコール系を頼まれている。

 

「しかもこれ、アルコール系は別会計にって…。」

「これがアドリブ力…。」

 

なんだか、エイジ君以外に指揮ができるのかが少し疑問に思った。

 

 

 

 

 

-綾波レイ-

 

昨日からエイ君とアスカの会話を少しづつ聞いてたけど、もしかして私…とっっっっっっっっっっても大きな誤解をしてたの?

そういえばエイ君は大人の顔と子供の顔を使い分けると言ってたような…。

だとしたら、とても恥ずかしいことを言っちゃった!?あああああ~…。

自分の部屋のベッドの上で、真っ赤にした顔を両手で覆う。で、でも!「カスミちゃん」って子の追求はしなきゃ!私に昔の事を話してくれるって言ってたのに全然話してくれないのなら、こっちから切り出さなきゃ!

ちょうど意を決した直後にチャイムが鳴る。もしかして、帰ってきてくれたのかな。

 

(ただいま!)

 

やっぱり!ちゃんと言いに行かなきゃ!って…若干余裕がなさそう?

 

「ただいま…。」

「お邪魔するぜ葛城…って居ないじゃねぇか。」

 

「おかえりなさい。あれ、加持さん?どうしたんですか?」

 

「ちょっと、ね…」

 

加持さんはそう言いながらエイ君の方を指差す。彼は台所で忙しそうにしており、もう夕食の準備をしている。どうしたんだろ?それに碇君と加持さんはどういった…

 

「あ、加持さーん!!今日はどうしたんですかぁ?」

「よ、アスカ。ちっとエイジ君に巻き込まれてね。夕食もご馳走するって言うからさ。彼のお言葉に甘えて来ちゃった。」

「そうなんですか~。彼のもシンジのも美味しいですよ~。」

「お、そいつは楽しみだなぁ。」

 

アスカは加持さんに釘付けね。行くなら今かな…。私は覚悟を決めて台所へ向かった。

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

まっさかコアが活動を始めるとも思わなかったし、ミサトがその子を引き取るなん―いや、コアから言い寄ったんだったか。どっちみちコアの要望…多分俺が断れない事を知っておいてあーゆう言い方しやがったな、タチ悪。システムコアがクロッシングを悪用しないで欲しいという愚痴は兎も角、俺は材料をボウルに入れてこねていた。にしても量をいつもの五割増しにしたが、これが吉と出るか凶と出るか…。

 

「ねぇ…エイ君。」

「どうした?レイ。」

 

手は動かしたまま、顔をレイの方へ向ける。彼女は複雑な表情をしていた。

 

「手伝っても…いい?」

「いいよ。エプロンつけて手ェ洗ってからな。」

「それくらいわかってる。」

 

少しむくれた様子でエプロンを取り、手を洗う。

 

「じゃ、頼むよ。」

「頼むよって…どうすれば?」

「手でこねればいいよ。」

 

レイは恐る恐るハンバーグのタネに触れる。最初はビクッとしていたが、少しづつ触って慣れていき、次第に不器用ながらもしっかりこね始めることができた。

 

「不思議…前はあんなに血の匂いがダメだったはずなのに、今じゃ普通にお肉に触れてる…。」

「慣れたんだろ、それにさ。

…こないだはごめん、レイ。俺さ、レイの気持ちわかってたのに。わざわざ俺から離れたりして。また…傷つけちったな。」

 

「これだけ訊かせて。どうして…何も言ってくれなかったの?」

 

フライパンの準備をしながら俺は言う。

 

「レイが俺に依存するんじゃないかってさ、そう思ってたんだ。」

「依存…どうして?」

「そりゃあ…レイの普段の感じからさ。あ、もういいよ。そんじゃ成型すっか。

 

温まってるのを確認してから、俺らは二人でタネを成型していく。

 

「俺はさ…いつもレイが俺の側にいて、ずっと離れないのが不安だった。嫌いってワケじゃないよ?でもさ、俺もいつも側にいてやれるワケじゃないし、中学二年のこの時期ってのは将来のことも考え始めるだろ?いや、俺らはむしろ遅過ぎるくらいだ。直近なら高校の話だし、ある程度職業のことも考えておかないと。だからそれまでにさ、少しは俺が離れてても平気になって欲しいとは思った。正直、やり方が悪手だとは思ったけど。」

 

フライパンに成型したのを置きながら話す。この回答に対しての反応は、俺としては意外なものだった。

 

「ふふ、ばか。それだったら素直にそう言えばいいのに。」

「バカ言え、こんな話題どうやって自然な流れで話せばいいんだ。」

「それは知らない。それで、私にどうして欲しいの?」

「ほら、そういうとこ。俺はもう、これからは助言のみに徹するつもり。その先はレイ自身で考えて欲しいんだ。

んでさ、それに対する回答は、もっと他の友人といる時間を増やせ、ってとこかな。こういう狭いコミュの中でじゃ見られないものも多く見れるはずだよ。幸いレイはそういう人脈に困ってる様子はないからさ、前提の心配はないけど。」

 

「やっぱり優しい。ありがと。……あ!そうだ、『カスミちゃん』って誰!?私聞いたことないんだけど!」

「それに関しては夕食後、全員に話すよ。皆のことを勝手に知っておいて、俺だけ隠すのはアンフェアだし。」

「う…わかった。」

 

(た、ただいま…。)

(たっだいま~!)

 

「アイツ来やがったな。レイ、火見といてくれ。あと火が通ってるかも。流石にそれはわかるよな?」

「そりゃあ、教えてもらったし。」

 

「ありがと。おいミサ…いやコア!色々説明してもらおうか!」

 

 

 

 

 

-路世(ミチヨ)-

 

初めて吸った空気は、無機質で冷えていた。ここはアークシステムの直下、コアである私が管理されているところ。

さあ、まずは管理者…いや、「お母さん」に挨拶してこなきゃ。

 

 

お母さんのリツコと、保護者になってもらうつもりのミサトとのファーストコンタクトはうまく行った。ミサトって案外、聞いてたより肝が座ってるのかも。エイジの主観ばかり知っているからか、自分で相手をすると新たな発見がある。30分くらいすると、マヤが私のお洋服を持ってきてくれた。

 

「ごめんね、慌てて買ってきたのだから、サイズとか似合ってるかは…」

「ありがとう、マヤ。」

 

下着や服を着ると、冷房の寒さが和らいだ。新品でまだ冷たいけれど、それも心地いい。

持ってきてくれた服は薄目のTシャツ、半袖パーカー、デニムスカート。あとはサンダルだった。まあ靴は仕方ないよね。

 

「どう?ミサト、似合ってる?」

「年相応な可愛さね。ところでさ、本当に家で暮らしたいの?」

「私ね、エイジと繋がって、色々なことを教えてもらったわ。でも、エイジとだけじゃあ足りない。シンジとも、レイとも、アスカとも繋がりたいの。それに、彼らもエイジのやっていることを知らないでしょう?それも教えてあげたい。

それに…普通の日常生活というものも、知りたい。私は造られた命だから、長くは生きられないの。なにもしなければせいぜい半年が限界。投薬とかで延命措置をすれば、その分少しだけ長く生きられる。でも、それの効果も使う度に効力が薄くなるの。だから、ね?いいでしょミサト。」

「ミチヨちゃん…。」

 

自分の役割を考えれば恐らく、いや間違いなくとんでもないワガママだ。でも、私はどうしてもそれを知りたかった。エイジの記憶と、レイの”もういない子達”のことを知っていたから。

だからこそ、ミサトとエイジに話をつけて、無理矢理にでも住むつもり。それに…エイジはこのことを薄々勘づいている。それなら、彼は断れないだろうと踏んでいた。

 

「わかった、家に来て。一緒に住みましょ?」

「やった。それじゃミサト、家に送って…」

 

「いえ、これから身体検査と戸籍の作成とかやることが多いわ。すぐに帰れるとは思わないことね。」

「え~!?リツコ、それはないでしょ!?ミサトも何か言ってよ!」

「文句を言わないの、ミチヨちゃん。さ、行きましょ。」

「はぁ~い…。」

 

人間の身体って、こういうところは不便だな。 

 

 

 

数時間かけて、全ての検査と手続きを終えた。正直、機械に押し込まれたり投薬を受けたり、受付ロビーでず~っと待ってるだけで、なにも面白くなかった。知ってたけど。

 

「ねーミサト、エイジにこのこと、伝えた?」

「あ…まだ、ね。」

「もー、また怒られるよ?今から電話しよ。」

「はぁい…。

あ、もしもしエイジ君?また急な話になってごめん。システムのコアの子、知ってるわよね。あの子も家で引き取ることにしたわ。」

 

ミサトは渋々電話を始める。案の定エイジに怒られているようね。でも今回ばかりは私のワガママだから、電話を代わって私がエイジと話す。

 

「ミサト、私が話すよ。」

「そう?じゃあお願い。」

「ありがとう。…エイジ?私よ。」

 

『な!?あ゛~…お前、ワガママもいい加減にしろよ?』

 

「そんな事言ったって仕方ないじゃん。あーあ、私もエイジの料理、食べたかったのにな。みんなと一緒に暮らしたいのに。」

 

『あーもー拗ねるな拗ねるな!わかったよ仕方ないな!』

 

「ありがと、エイジ。」

 

彼は失礼とも言わないまま電話を切ってしまった。多分、私のために色々準備を始めてくれているのだろう。こういうことに手を抜けない彼だから。

 

 

 

 

 

-葛城ミサト-

 

「た、ただいま…。」

「たっだいま~!」

 

「お帰りなさい、ミサトさん。あれ、その子はどうしたんですか?」

「ああ、これはね…」

 

ほ、本当に元気ねこの子。境遇以外は本当に年相応って感じ。それよりも…

 

「おいミサ…いやコア!色々説明してもらおうか!」

「え、エイジ君どうしたのさ。」

 

こればかりは助かったとしか言いようがない。いつもエイジ君には「前もって連絡しろとあれほど」って言われちゃってるし。というかエイジ君、さっきまでお料理してたのかしら、エプロンに結んだ髪って。

 

「エイジ、帰って来たのに『おかえり』も言ってくれないの?それに今の私は路世って名前があるの。」

「う。そ、そいつは失礼。お帰り、路世、ミサト。…んで、路世がミサトに頼み込んだのは想像できるけどさ、うちのキャパを考えようとは思わなかったのか?」

「全く。私、ミサトと一緒に寝るし。」

「え!?」

 

驚く私をよそに、エイジ君は眉間に指を当てて唸っている。シンジ君は頭の上に疑問符をいっぱい浮かびあげているようだ。

 

「……ミサト悪いな。今日から禁酒してもらうよ。」

「え゛え!?そんな殺生な…」

「たり前だ!ちっとは保護者の訓練をしてもらうからな!」

「何よ、リツコみたいなこと言っちゃって~!」

「関わったことがある全員がそう思ってるだろうよ…。もう夕食できてるんで皆で食いましょ、久々に全員揃ったんですから。」

「そうね。もう疲れてお腹が…な!?加持君!?どーしていんのよここに!」

 

「エイジ君に誘われてね。ま、たまにはいいじゃないか。外食ばっかってのもアレだし。」

 

疲労に続いてこんな…。どうなっちゃうんだろう、私…。

 

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

「……はい、お待たせしました。これで全部です。」

「ねーエイジ~、まだ~?」

「ちったぁ待てミッちゃん。それじゃ食おう。」

 

今日はハンバーグプレートで優勝するわよ(某蛇)。路世ちゃん…いや、もう言いづらいからミッちゃんでいいや。彼女は何となくこういうの好きそうだなって思ったからね。

 

 

「ところでさ。ミサトとその子、どーゆう関係なのよ?」

「ミサトの隠し子。」

 

「「え゛。」」

「ぶっ!?エイジ君!」

「エイジ君も言うようになったなぁ。」

「あはは~。」

「冗談キツ…。」

 

いつもの仕返し。相変わらずシンジやレイはこういうノリはわからないようだけどね。若干強めに睨むミサトを放って俺は回答する。

 

「冗談に決まってんだろ。ミッちゃんはアークシステムのコアだよ。俺がクロッシングするのを補助してくれてた子。」

 

これに関しては取り繕りようがなさすぎたから真実を言った。IDには役職も書いてあるから直にバレることだったし。レイは何となく予想がついてる様子だが、アスカも多分、俺と同じ仮説にたどり着いたんだろう。驚いた顔をしている。

 

「え、ええ?まっさか…」

「アスカ、それ以上は今は言わないことだ。…そういえばさ、ミッちゃんの名字は?」

 

「私は綾波姓よ。レイの妹。」

「え?私の…妹?」

「そう。よろしくね、お姉ちゃん。」

「あ…うん、よろしくね。」

 

レイは…というか、ミサト以外の全員が驚いていた。俺は適当な名字を捏造するもんだと思っていたから尚更ね。まぁ…俺の名字を使いたいって言われても困ったろうし、それにこの顔…仕方ないよな。

 

「はぁ…ここ数日色々ありすぎるよ全く…。」

「それが君に課せられた試練…なんちゃって。にしてもこのハンバーグ美味いな。君の手作りかい?」

「割りと適当ですよ?ミッちゃんが帰ってすぐ食いたいなんて言うから。」

「私悪くないもん。それにこのハンバーグ美味しいし。優勝!って感じ。」

「あのなぁ…」

「まま、いいじゃないかエイジ君。」

 

舌を出しておどけるミッちゃんを見て、仕返しに俺は両頬をつまんで引っ張ってやった。多分しかめッ面してたと思う。

 

「何だか、エイジ君とミチヨちゃんってさ、親子みたい…だよね。」

 

「「え?」」

 

「あ、いや別に深く考えて思ったわけじゃ…」

 

「何~?もしかして動揺してんのエイちゃん。」

「まっさか、んな訳ないじゃないで」

「どっちかって言うと、それならファーストと影嶋の子供じゃな~い?」

「ええっ!?わわ私があの子の…」

 

思わぬ飛び火をして赤面するレイ。それに便乗してこっちを向いてくるミッちゃん。

 

「ねね、お父さんって呼んでいい?エイジ。」

「そういう冗談は勘弁してくれ。」

「ちぇー、ケチんぼ。」

 

この空間が笑いに包まれていく。なんだか、ここに来て初めて感じる温かい空間だって思った。

 

 

 

 

 

-綾波路世-

 

「ねぇ、いつもレイがお皿洗うの手伝ってるんでしょ?私にもやらせて。いいでしょお姉ちゃん!」

「ええ、今日は二人でやっていいわ。」

「いいの?ありがとう!それじゃエイジお兄ちゃん、行こ!」

「俺は結局その呼び方かよ、わかった。」

 

 

「それじゃあさ、手荒れとかわからないからせめて手袋してくれ。」

「はーい。…やっぱりぶかぶか。大丈夫かな?」

「割らなければ何でもいいよ。はい、それじゃやってこ。」

 

手袋越しに伝わる流水の冷たさ。洗剤の泡、汚れが落ちていく様。どれも目で見ていると楽しい。

加持さんは仕事があると帰ってしまったし、話すなら今がチャンスよ、エイジ。

 

「ねぇ、エイジのこと話すの?」

「勿論話すよ。もう…こんな時間、二度とないかもしれないからさ。」

「そんなことない。どんなことだって、望めば叶うわ。」

「今の俺にその言葉は呪いだよ…。」

 

苦笑いしながらエイジは言う。霞ちゃんに対してどう思っているか、私は知ってる。彼の矛盾した感情も。でも、私は彼じゃないから真意は知らない。心を覗くことは、理解することじゃないから。

 

「…でも、前に進もうとしてるのは知ってる。頑張って、エイジ。」

「ありがとう…ミッちゃん。」

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

俺らパイロット四人と大人一人はテーブルに座っている。ミッちゃんはリーベやペンペンとソファの方でじゃれているようだ。

 

「さて…皆に集まってもらったのはさ、俺が少し色々話しておきたいことがあるからだ。いつものノリで話せないようなこと…全員いるからこそ話そうと思う。」

 

「で?エイちゃんの何を話すの?」

 

ミサトは面白い話を期待しているようだ。…申し訳ないな、ミサト。

 

「俺の過去。皆のことを知っておいて、俺だけ隠すのはアンフェアだからな。」

 

自分の胸ポケットから写真を取り出す。とうとう、これを話すときが来てしまったのか。

自分の罪と、向き合う時が。

 

「アスカは見たよな、この写真。左に写ってる大人は俺だ。俺が大学2年の頃だったかな、それくらいの年。んで隣に写ってる子は『羽佐間霞』って子。同時は中学2年。」

 

「やっぱり、影嶋のは伸びてるけど、同じ髪型よね。どういうことなの?」

 

「落ち着けアスカ。俺が異常者だって言うような目で見るな。きちんと経緯から話すよ。」

 

 

 

……俺が大学2年に上がった頃、俺は塾のアルバイトをしてたんだ。塾つっても大きいとこじゃなくて、個人経営で個別指導のとこ。そこで俺は数学を受け持ってた。彼女と初めて出会ったのはそこでの授業。

初めて利用するとこの、実質新入り教員だってのに親は顔合わせもせず、彼女だけが来た。

彼女は特別勉強ができない感じはなかったけど、どうやら母親の要望だったみたいでさ。

そんでもってさ、ある日ふとした会話から飯をまともに食えてないんじゃないかって疑惑が出てきた。最初は彼女がそこに触れてほしくないって言っていたから黙ってたけど、1ヶ月以上もそれが続いたら流石に黙ってられなくなってね。思いきって言ったんだ。「相談くらいなら乗ってやる」ってさ。

 

 

「アンタ、損するタイプじゃない?」

「俺もそう思う。でも、中学でも…高校でも、傍観者を決め込んで辛い思いをしたことがあるんだ。だから、3回も同じ思いはしたくないって、そう思ったんだよ。」

 

 

話を戻すか。誰にもこの事を漏らさないという約束で、俺は彼女の話を聞いた。

前の母親は病弱だったけど、両親で必死に働いてどうにか食いつないでいた。生活費、交通費、貯蓄、保険料に加えての通院代だ。それでも何とか生活していたらしいよ。

でもその後、実母が死んでから父親は荒んで…歪んでいったらしい。酒と、金目当てなだけの女…その先はネグレクトにDVのダブル役満。予想はしてたけど、マジでそんなクソ親がいるとは思わなかったよ。

 

 

 

「ネグレクトに…DV?どういう言葉なの?」

「あ、それで通じないか。育児放棄と家庭内暴力だよ。意味は言葉通りだからわかると思う。」

 

恐らく、パイロット全員にとって地雷もいいとこな発言だ。でも、真実を言わないワケにはいかなかった。

 

 

そっから先は…言うにも辛いような現実を知ったさ。機能しない児相に酷い様の一時保護、冷めた目の母親って、地獄のようなものを見せつけられた。その時は家まで送ったんだけど、次の日は「もう帰りたくない」なんて言ってきちゃってさ。…俺はこんな性格だからさ、あっさり了承した。

そんでもって、俺は霞ちゃんを自分のマンションの部屋で一時的に、勝手に引き取ることになった。まぁ霞ちゃんの親もまったく文句言ってこなかったし、警察に何か言われた感じも最後まで無かったからそういうことなんだろな。

世間体がどうのこうのって話に関しては、親戚の両親がこっちに来たはいいものの仕事が忙しすぎて俺に預けるしかなかったって体で行った。ちっとばかし無理があったけど、何とかそれで通ってたよ。

 

 

「へェ~。それじゃ、関係はどこまで進んでたワケ?」

「またそれかよアスカ。俺はそういう犯罪はしない主義なんだよ。つーか主義関係ねぇし。」

 

「その時って、どんな感じだったの?その…色々?」

「シンジ、あんたもっと具体的に言いなさいよ。」

 

「色々…そうだな、俺だけが使える時間は格段に減ったな。

自分と彼女の勉強時間に生活費管理。飯の時間もなるべく固定化させたし、バイトもどうにか頼んで別の子に当ててもらった。

休日なんかも彼女が行きたいってとこに連れてってやったり。今思えば、殆ど親父みたいなことやってたよ。そのことを考える余裕すら無いままね。でも楽しかった。」

 

 

さて、話を戻そう。学校に関しては特別困ってる様子はなく、普通にやっていたようだよ。今となっちゃ確認はできないけどさ。まぁ、学校で友人に会うことだけが本当に救いだったのかも。

そんなこんなで3ヶ月くらいしてた時、今の母親からメールで「離婚の話をするから来い」ってさ。見も蓋もない言い方でそりゃ無いだろとは思ったけど!まぁこんだけ放置されてりゃそいつの塩対応も納得かなって感じ。

正直何されるかわかったもんじゃないから、「俺も行く」つったんだけどさ、「自分の事は自分でケリつけるから」って事言って、指定された日に彼女は行ったよ。俺は彼女が自分で決めたことを信じた。

 

 

 

「それで…上手くいったの?その、羽佐間さんは。」

 

「……そうだったらどれだけよかったことか。

 

「え?」

「何…どうしたの…?」

 

シンジとレイのこの反応、段々わざとらしく見えてきてしまうのがとても辛い。知らないってことは時に残酷なんだな。アスカは察した顔で頬杖をついているが、ミサトは「嘘だろ」って顔をしてる。

 

「…死んだよ。無理心中に巻き込まれて。」

 

 

 

 

 

 

-惣流・アスカ・ラングレー-

 

 

影嶋の話、最初はふざけてるのかと思っていたけれど段々そうじゃないってことに気付いてきた。アイツ、段々と表情を取り繕わなくなっていってる。普段のアイツは、もっとヘラヘラしてるから。

最後の死んだって話も、表情から何となく察せれた。ママのトラウマ…あたしの、昔のことを思い出しそうになって、必死に頭から振り払う。こんなこと、もう思い出したくない。

 

「さ、これが最後だ。

俺は話し合いが始まってから2時間経っても連絡が来ないのが少し不安だった。その10分後くらいかな、来たんだよ。『たすけて』ってさ。本当にそれだけの連絡だった。俺は慌てて家を出たよ。幸い近いとこだったから、滅茶苦茶飛ばして10分くらいで着いた。着いたときから、妙に家の中からの光が無いことが違和感に感じた。それと、何かが焼けて出た、煙い感じ…最悪のことを思って、窓を割って無理矢理中に押し入ったよ。」

 

「犯罪じゃん、それ。」

「『緊急避難』ってのを知ってるよな?」

「そういう日本語、よくわからないわ。」

「誰かによって自分または第三者が被害を受けるとき、それの防衛に対しての行動はある程度刑罰を受けなくて済むってやつ。受けたであろう被害の方が、実際にあった被害より大きい時のみだけど。そういうのは海外でもあるだろ?」

「ああ、なるほどね。それなら理解したわ。」

 

「な、何を言ってるんだ?」

「さっぱり…。」

 

「後で機会があったら教えるよ。

一階の大きい窓を無理矢理ぶち抜いたら、いわゆる練炭自殺の現場。そのときはもう何も考えられず、もう霞ちゃんだけを探したさ。探しながら救急と警察に連絡して、見つけたらとりあえず全員を外に運び出した。

周囲に助けを叫びながら、がむしゃらに霞ちゃんの蘇生をやった。でも、周囲の助けを貰っても、助かったのは父親だけだったよ。

その時俺は、激しい憎悪に駆られた。何で霞ちゃんが死んで、屑の親父が生き残っているのか。そんな理不尽に、理性で感情を制御できなかった。殴りかかろうとした、いや…大きいガラス片を素手で掴んで、そいつの喉に突き立てようとしたんだよ。

当然俺は周囲の人に止められた。大事にしないようにしてくれた彼らには感謝してる。いや、止めてくれることを期待してやったのかも。いつも…こういう感情は霞ちゃんの前では隠してたから。いつか暴発するんじゃないかって怯えていたんだ。」

 

一拍おいてから、彼はまた喋り出す。

 

「俺はこのとき、激しい無力感に襲われたよ。だってさ…目の前で倒れた霞ちゃんを助けられなかったって事実があるんだ。俺はもっと、何かできたんじゃないかって…。ずっと…ずっと、後悔だけが先に行く。その上…俺は彼女の実父を殺そうとしたんだぜ?そんな…そんな許されないことを、俺が…。

 

どんどん、声が小さく、弱くなっていく。こんな声を出す影嶋なんて、今までで初めて…。

 

「俺がここに来たとき、俺の髪が何で伸びているのか、理解できなかった。でも、今ならわかる。これは贖罪の象徴だよ。俺が、彼女にしてやれなかったことへと、殺人未遂に対する、贖罪…。髪型(これ)なら、彼女の事を忘れることは無いからな。

俺は…俺は、誰にも、せめて霞ちゃんと同じ学年、いや、中学生の子にこんな思いをしてほしくない。勿論、お前ら3人ともにも。だから…俺は痛みを背負おうと思った。」

 

「だから…自分が傷つくようなことをしてたというの!?レイの痛みを背負ったのも、いつもプラグ深度が精神汚染区域に入ってるのも!」

 

「え!?」

「嘘…。」

「コイツが…そんなことを…。」

 

影嶋は右手を握り締め、奥歯を噛み締める。

 

「俺が犠牲にならなかったら…俺がここにる理由は何なんだ!!!

俺が痛みを背負わなかったら、俺はただ後ろで見て、指示するだけのヤツになるじゃねぇか!俺はもう何もできないのは嫌なんだよ!そもそも、パイロットなんて俺だけでよかったんだ!こんな運命、俺だけが背負えればよかったんだよ!」

 

ミサトは影嶋の胸ぐらを掴み、怒鳴る。

 

「自惚れるのもいい加減にー」

「違う!これが俺の本心なんだ!もう誰も戦って…傷ついて欲しくないんだよ!もう、これ以上!!でも…こんなこと、俺の立場で言えるわけないだろ!出撃しろって、言わざるを得ない立場なんだから!ミサトもそれは理解できるだろ!」

「それは―」

 

影嶋はミサトの腕を引き剥がすように外し、また座り直す。

 

「そんなの…あんたのエゴよ、影嶋。」

 

「わかってる…。俺だってそれは理解してるよ。でも、これが…ここでの俺の生き方なんだ。たとえ歪んでいたとしても。

これでこの話は終わりだ。どう受け取ってくれてもかまわないから。でも、これだけは言わせてくれ。俺は皆の事を、一度も嫌いだとは思ったことはないし、見捨てることも絶対にないよ。お前らの重荷を受け止めるのが俺の役割だから。

でもごめん…今はしばらく一人にさせてくれ。」

「あ、待ってよ!」

 

影嶋とファーストは外へと出たようだ。残った全員…いや、一人を除けば全員複雑な顔をしている。あたしは今、一番話を聞きたい相手に向かう。リーベを抱いてうっとりしているミチヨを前に、私は訊き始める。

 

「ねえ…アンタは影嶋のあのこと、知ってたの?」

「勿論よ。私はいつも彼とクロッシングしてたから。『エイジがそういう感情を持っていたという知識』は私にはあるわ。」

「何それ。」

「心を覗いただけじゃあ相手の事を知ったとはならない、ということよ。だから彼と深くクロッシングしても、彼の事を知ったことにはならないわ。だって、対話をしていないもの。」

「…そこまで読んでいたのね。」

「アスカが考えそうなことはエイジも知っているから。」

「そう…。」

 

「ねーミサト!お風呂入ろ~?」

「わかったわ。さ、行きましょ?」

「うん!」

 

ミチヨはミサトと一緒にリビングを出ていく。あたしが思っていたことを、また否定されちゃった。

もう…私を見てくれるのは、加持さんか影嶋くらいしか居ないのに。




エイジ君の性格を考えればアスカにどう言うかは想像に難くないと思います。
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