ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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RE34:クリスマス-2

「エイ君おはよ!」

「おはよう。何だレイ、随分早いじゃんか。てか俺より早いし。」

「そりゃ、今日は二人でデートしに行くって話でしょ?ほら、準備して行こ?」

「そいつはいいけどさ、何処に―」

「それは行ってからのお楽しみ!」

 

レイに急かされるままに俺は外出の用意をする。ほんとどうしたんだ?いつもだったら事前に何か言ってくるであろうレイが、こんな隠し事してるなんて。「デートだって話だ」って、いえ、今初めて聞きました。昨日何も言ってませんでしたよね。とりあえずいつ渡す雰囲気になるかわからないから、プレゼントも不本意ながら持ち歩こう。ラッピングが崩れませんように…。

朝食に関してはシンジに一任するということで、書き置きを残して俺らは外出した。

 

「行ってきます。」

「行ってきます!」

 

 

 

バスターミナルで弁当を買ってからほぼ始発の時間のバスに乗り、俺らは目的地へ向かう。といっても俺はまだ知らないんだけど。

朝食を食ってると、レイからパンフレットを渡される。

 

「はい、今日行くとこのパンフレット。読んどいて。」

「え、遊園地?何でまたこ

「はいストップ、それ以上言っちゃダメ。私の事はいいから、どんなところ回るか考えといて。」

「あ、ああ。わかったよ…?」

「もー、歯切れ悪いなぁ。」

「んな事言われても。」

 

パンフレットを開いて、全体図をみる。よく見たらこれシーパラじゃん。遊園地かぁ、もうあの日以来ずっと行ってない気がするな。にしてもまた何でこんな搦め手を使ってきたんかな。自分が行きたいなら素直に…いや、そうだったらそう言ってるか。だとしたらどうして直前までひた隠しにしてるんだ?府に落ちはしないけれど、俺はとりあえず経路を何となく決めていった。

 

2-3時間くらい経って、俺らは遊園地に着いた、既に行列ができてはいるが、だいぶ前の方だったからセーフということで。俺が中学生の頃って、親に連れて行かれた記憶が無いんだよなぁ。いや、親じゃなくてもこういうところはあんまりって感じだったし。

 

「どうしたの?」

「いや、こういうところ来るのはいつぶりだろうかな、ってさ。」

「あ…もしかして、嫌だった?」

「んな事はないよ。俺もさ、皆を纏める人間がいつまでも下向いてる訳にゃいかないし。」

 

自然と、少し前から変えていた髪に手を触れる。今までは戦闘の時にしかしていなかった髪型を普段のものにしてみて、少しだけ…何故か、楽になった気がした。

 

「変わったね。」

「え?」

「さ、前に進も。抜かされちゃうよ?」

「あ、そいつは困る…」

 

レイに急かされて俺は慌てて列を詰める。…ま、俺は俺なりの楽しみかたをするか。

 

 

 

 

 

-綾波レイ-

 

「わぁ~、すごい!!」

「ほんと。綺麗だよなぁ…。」

 

私たちは最初に水族館を回っている。いろんな色や形の魚が縦横無尽に動いていて、本当に綺麗。何だか私まではしゃいじゃう。

展示されているものを見ながら奥へと進むと、高いガラス張りのところに出る。そこでは今までの比にならないくらい大きな空間に、大量の海の生き物が群れをなして生きていた。

 

「す、すっごい…!ねえ、あの魚の塊って何かな!?」

「アレはイワシの群れみたいだよ。群れで固まって、一つの大きな生き物に見せて食われるのを防いでるんだったかな。」

「へぇ~…ほんと、綺麗って言葉しか出てこないなぁ…。」

 

そのあと、私たちは何度か往復して隅々まで見ていった。ウミガメやホッキョクグマ、セイウチやペンギン、深海魚…いろんなものを見た。

 

「あ、ねえペンギンがいっぱい!」

「お、本当だ。どっかの飲んだくれペンギンと違って生き生きしてるなぁ…。」

「ペンペンはさ、あれはあれで生き生きしてるんじゃない?」

「そーかなァ、飼い主に似たの間違いじゃね?」

「それもそうかも。」

 

 

「すごい、まるで海の中に入ったみたい…。」

「ほんと、これって凄いアイデアだよな。」

「あ!エイが頭の上通ってった!」

「裏側わりとかわいいなこいつ。」

 

 

「あれ、ここはクラゲばっかだ。」

「そらクラゲ専門のとこだからね。」

「ふわふわしてる…」

 

でも、このほとんど外見が変わらないものがたくさん水中を漂う光景…私の『代わり』がいたときを思い出してしまう。イヤ、思い出したくないのに……。

それと同時に、胸の辺りが突然痛み出す。薬を飲んでも、発作を完璧には止められないのは聞いていた。それでも立っていられず、私はその場で座り込んでしまう。

 

「うっ…!?」

「レイ!?どうした?」

「何でも…ないの。少し息切れが…。」

「ほら無理に喋らない。少し座ってようぜ。」

「ありがと…。」

 

座って深呼吸をしていると、少しは痛みが引いてきたけれどまだ痛み自体は残っている。

 

「ごめん、ここから移動しよ…。」

「…うん。わかった。」

 

 

私たちは一回外に出て、海が見える道のベンチに座っている。今日は平日とはいい25日だからか、多くの人が道を通っているようだ。私たちのようなカップルに、家族連れ…色々な人の流れが、様々な色と音を含んだ一つの情景になっているよう。

 

「だいぶ顔色もよくなってきたな。大丈夫?」

「うん、さっきより楽になった。」

「よかった。唐突にうずくまるもんだからヒヤヒヤしたよ全く。」

「ごめん。…もしかして、わかってるから訊かないの?」

「少なくともこういうところで訊くような話じゃないよ。メシ行こうぜ。立てる?」

「うん。ありがとう。」

 

 

 

昼食を食べた後は、私たちは島を一周するように散歩をしていた。今は少し休憩ということで、手すりに寄りかかりながら海を見ている。海からはところどころビルの残骸が突き出ている。私は昔の、海中に沈んだ街が無い、綺麗な海を知らない。

 

「ねえ、アトラクションとか、そういうの乗らないでいいの?」

「いいかな。俺は別にあーゆうの好きじゃないし。それなら風景を見てる方がいいよ。」

「意外。もっとはしゃいでくれるかと思ってたのに。」

「むしろレイの方がはしゃいでるよね。」

「もー、意地悪。」

「はは。……なあレイ、『綾波』って言葉の意味、知ってるか?」

「え?たしか…第二次大戦くらいの軍艦の名前じゃなかっけ。」

「それはそうなんだけどさ。…今の海のように、重なりあって寄ってくる波のことらしいよ。」

「そうなんだ。初めて知ったなぁ。」

「いい名前だよな。レイの名字、俺のより好きだ。」

「もー、やめてよそういうの。」

本気で言ってんだけどな。

「え?何か言った?」

「何でも。」

 

なんだか今日のエイ君、いつもより肩の力が抜けてる。よかった、連れてきて。

 

 

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

なんか珍しいな、エイジ君と綾波が事前に何も言わないで外出なんて。エイジ君なんてそういうところ、いつもうるさいのにさ。にしてももうすぐ9時だけど、アスカはいつになったら起きるんだろ。普段は遅くても8時くらいには起きてきてるはずなのに。

 

「アスカ?もう9時くらいだけどさ、起きてる?」

 

…ノックをして声をかけても反応しない。まだ寝てるのかな?無視されてたら困るし一応確認の為にドアを開けて声をかけてみる。

 

「…あれ、まだ寝て」

「なぁああああっ!?ななななななな何よ!?!?!?」

「あう!?」

 

唐突に飛び起きたアスカから枕を投げつけられた。痛い。

 

 

 

 

 

-惣流・アスカ・ラングレー-

 

ふふ、今日のことずっと考えてたら結局全然寝れなかったな。いつも誰かが居ておおっぴらにできなかった分、今日は思いっきりアプローチかけちゃお。今起きた時も、顔のニヤつきを隠すためにドアに背中を向けていた。

アイツらバカップルにはしばし遅れをとったけど、今や巻き返しの時よ!映画行って、コンサート行って、シメは近くの遊園地の観覧車で二人っきり……楽しみ…。

 

「…あれ、まだ寝て」

「なぁああああっ!?」

 

しししししシンジ!?どうして何も言わずに部屋のドア開けてんのよ!?!?!?

 

「ななななななな何よ!?!?!?」

「あう!?」

 

反射的にすぐ近くにあった枕を手に取って、シンジに投げつけていた。ほ、ほんと…デリカシーってモンが無いのかしら…。

 

「痛たた…起きてるのなら返事くらいしてよ。」

「べ、別に?さっき起きたばっかだし!」

「…なんか顔赤くない?熱あるの?」

「へっ!?ないない!今日は少し寝過ごしただけで健康的に寝て健康的に起きてるわよ!?」

「ほんと?」

 

シンジはすたすたとこっちに寄ってきて、右手をあたしの額に当てる。それにあたしの顔は更に赤くなるようだ。

 

「…ちょっと熱持ってるかな?大丈夫?」

「だっだだ大丈夫よ!少しくらい熱あったって誤差よ誤差!」

「ほんとかなぁ…。無理しちゃダメだよ。」

「わかってる!ほら退散した!」

 

無理矢理シンジを部屋から追い払い、あたしはまだ眠気でだるい体を起き上がらせて、着替えを取りに行った。

窓では今の騒ぎを気にもしていないリーベが丸くなって、寝息を立てて寝ていた。

 

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

「ねーシンジ、午後って暇よね?」

「え?まあ確かになにもないけど。」

「それならさ、これから映画観に行かない?」

「映画?いいけど、家事がまだ終わってないし…」

「それならあたしが手伝うからさ!やれること教えて!」

「え、ええ?そうだなぁ…それなら洗濯物取り込んでくれない?あと自分のは自分で畳んでしまってね?」

「わかってるわよ。それじゃやってくるわ~。」

 

今日のアスカ、どうしたんだ?妙に協力的だし、映画に誘ってくるし。たしかに今日は25日だけどさ、そんなに張り切るものなのかな?…なんだか、アスカのことがよくわからなくなってきた。

掃除機かけも早々に、アスカの手伝いに行こう。なんだかアスカ一人だと不安だ。

 

 

「え、えーと…こう?」

「あ、違うよ!ここをこう畳まないと…」

「ええ~?難しい~。」

「これくらいできてないと…ほら、次やろ。」

「はぁーい…。」

 

やけに従順なのも不気味すぎる。しかもアスカ楽しそうだし。

 

「ん?何よその顔。」

「い、いや!?別に変な顔してないでしょ!?」

「ふーん…ま、いっか。終わったし、それじゃ行きましょ?」

「待って、戸締まりとガスとか確認しなきゃ…」

「戸締まりくらいあたしが見とくからさっさと準備する!ほら行った行った!」

「わ、わかったよ。」

 

強引にリビングから追い払われた僕は、とりあえず外出の準備をし始める。服は…このままでいっか。お金も持ったし、今日中に渡すプレゼントも入れた。喜んでくれるといいな。

とりあえずこんなもんかとリビングに出るけど、アスカの姿がない。

 

「アスカ、僕は用意終わったよー?」

「(もう少し待って~!)」

「わかったよ…。」

 

少し経つと、アスカが…何かこううまく言葉には表せないけれど、綺麗な格好で出てきた。格好は初めて会った頃みたいなワンピースに、耳にはこないだ渡したピアスも着けてる。なんだか気恥ずかしい…。

 

「どお?あたしの格好。似合ってる?」

「う、うん。きれいだよ…。」

「ありがと、ほら、見とれてないで行こ?」

 

可愛さの暴力で何も言えなくなった僕をアスカが引っ張っていく。いつもアスカとは一緒にいるはずなのに、どうしてここまでドキドキしちゃうんだろ…。

 

 

 

「これこれ。なーんかみんながみんな感動するって言っててさ、聞いてたら観たくなっちゃって。」

「『最強のふたり』かぁ。なんか最近CMでけっこうやってるアレだよね。」

「そうよ。それじゃシンジ、ポップコーン買っておいて。キャラメルね?」

「わかった。」

 

誰かと映画館に行くなんて初めてだ。というか、今までほとんどこんな事はやってきたことがない。親戚の家にいた時なんて、半分のけ者扱いだったし。要求通りのキャラメルポップコーンと適当なジュースを買って来ると、反対側のカウンターにいたアスカから手招きされる。わざわざ呼ぶって事は何かあったのかな。

 

「どうしたの?」

「学割効かせたいからさ、学生証出して。」

「え?わかった…アスカ、自分のは持って。はい。」

「お、ちゃんとキャラメル味のだし、ジュースまで!気が利くわね~。」

「はは…。えっと……これでいいですか。」

 

「はい、お二人とも確認できました。お二人で2000円になります。」

「シンジ!」

「予想通り…。」

 

渋々カードを通すと、チケットを渡される。

 

「3番ホールになります。お楽しみください。」

「ありがとうございます。アスカ、行こ。」

「わかったわ~。」

 

ホールに入ると、アスカに連れられて席へと向かう。

 

「ここ、スクリーンの真正面じゃん。」

「そうよ、運良く空いてたから。感謝なさいよね……シンジ?」

「え?あ、ああごめん。あんまりこういうとこ慣れなくて。」

「そうなの?まあいいわ。ほら、始まるわよ。」

 

周囲が暗くなり、宣伝が冒頭に入ってから本編が始まった―

 

 

 

 

 

-綾波レイ-

 

 

「ほら、ここ!」

「はいはい、急かさないでくれよ?」

「そういえばさ、エイ君って小さい頃はこういうとこ、来たことあるの?」

「あんまりかな。小学生の頃に数回くらい、細かくは覚えてないや。」

「そうなんだ。…ねえ、エイジ君の親って、どんな人だったの?」

 

「俺の親?いい親だったな。親父は自由にさせてくれたし、お袋はずっと俺の事を気に掛けてくれてた。余りこう…色々とは喋れないけどさ、少なくとも模範的な親だって思ったよ。」

 

「そう、なんだ…。」

「あ…悪い、気に掛けずにベラベラ喋りすぎたな。」

「いいの。エイ君は悪くない。」

「レイ…。」

「さ、始まるよ。観よ。」

 

そうは言ったものの、私は沈鬱な気分だった。エイ君にも、碇くんにも、アスカにも親がいる。でも、造られた存在の私には……保護者はいても、親は存在しない。保護者の碇指令も、親はしてくれなかった。

どうして、私は造られたのだろう。いや、そんなことは最初から解りきっている。指令の道具として、エヴァを動かして、電池切れになったら代わりの私がまた道具の役割をして…。最期はリリスとしての役割を果たして、消滅するのだろう。”母”に還って。

結局、私は彼に出会うまでどこにもいなかった。どこにもいない方が、幸せだったのかな…。こんな、苦しい思いをするくらいなら……

 

「ねーママ、パパ見て!イルカさんがとんでるー!」

 

どこからか聴こえた小さい子供のその言葉に、私は凍りついてしまった。段々と黒い感情が私を支配していく。

 

どうして私には家族がいないの?

どうして私は家族を作ることすら叶わないの?

どうして私は幸せになれないの?

 

両腕を抱え、小さくなって奥歯を噛み締める。そうしないと、今にもこの感情が爆発してしまいそうだったから。

 

「レイ、どうした?また痛むのか?」

違う…違うの…。

「どうしたんだ…?」

「ごめん…少し、離れた所に行きたい…。」

「そっか。無理するなよ。」

 

それ、いつも私が言ってる台詞なのに…。今日は、私に気を遣わせちゃいけないって、そう決めてたのに…。

 

「ごめんね…。」

「いいんだよ、無理して倒れてもらっちゃ困る。」

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

レイがまた発作を起こしたらしく、とりあえず人気の無い所まで移動した。絶対に聞かざるを得ない話ではあるが、こんな残酷な運命…。

 

「落ち着いた?」

「少し。今日はごめん、私、少し前までこんなことなかったのに…。」

「謝るなよ。仕方ないよ、こういう日もあるさ。」

「ありがと。…ねえ、最後に見せたいものがあるの。来て。」

 

レイに連れられて地下への階段を降りる。けっこう深くまで行くと、そこには天井と壁がガラス張りになっている空間がある。

 

「レイ、ここは?」

「もうそろそろ。」

 

少し経つと海中がライトアップされ、海中に水没した旧市街が照らされる。

普段は内陸に過ごしているから気にはしなかったが、どこの海岸も砂浜の先、海の中にはこのようなセカンドインパクトの爪痕が残っているのだろう。

海中には目立つビルだけでなく、下の方には民家の屋根らしきものも見える。最早人間が住めなくなったその空間は、今は海生生物たちの楽園となっている。

 

「俺たちは常に、誰かが勝ち取った平和を譲ってもらっている。」

 

RIGHT OF LEFTで描かれたそれを、たった今俺は実感していた。歴史の授業では聞いて知識を持っていたが、改めてそれを体感した。今は俺らが平和を勝ち取る役割だが。

 

「どうしたの?」

「いや…今、俺がここにいることに感謝しようって、そう思ってただけ。」

「もう二度とこんなこと起こさせない。そのために私たち、戦ってるんだから。」

「ああ。俺も改めてそう思うよ。」

 

正直、とても複雑な気分だ。セカンドインパクト、エヴァンゲリオンが無ければ俺はここには存在していない。それでも、現状の比較的安定した世界情勢を作り出してくれた大人には感謝しかない。俺らがこんな遊びに出る余裕を作り出してくれているのだから。

 

「もうそろそろ帰るか。さ、バス停行こ。」

「うん。…ねぇ、今日は楽しかった?」

 

やっぱり…。俺は心からの笑顔でこう言った。

 

「もちろん。」

「嬉しい。誘ってよかった。」

 

レイの無理をしているような声は、その取り繕っているかのような表情をさらに強調させた。今のレイはまるで…以前の俺のようだ。

 

 

 

 

 

-惣流・アスカ・ラングレー-

 

「う~ん、聞いてた通り感動ものだったわね~。」

「あの映画、なんだか難しかったなぁ…。僕は一回観ただけじゃわからないや。」

「それじゃ、また来る?今度はあたしの解説を聞いた後で。」

「え、アスカは一回でわかったの!?」

「まあね。実際アレはアンタのようなお子様には少し難しいかも。」

「悪かったねお子様で…。」

「もー、拗ねないの。それじゃ、次はこっち。」

 

シンジの手を取って、映画館を出て今度は小さな遊園地へと向かう。ここは規模は小さくても大きい観覧車と多目的ステージが売りの所。それに、今日はイベントがあるということで人も多い。あたしらは入園して、ステージへと直行する。

 

「それじゃ、ステージの場所取りお願いね~。あたしは適当な食べ物買ってくるわ。」

「あ、うん。」

 

とりあえずアイスでも買ってこようかしらね。売店はすぐ見つかったけれど、案の定人がけっこう並んでいた。これ、開演までに間に合うかしら…。えーと、アイスは何に…。そうだ、グレープ、ストロベリー、ソーダの3段をカップで。これでいいかしらね。どうせあたし一人じゃ食べきれないだろうし。会計を済ませたらスプーンを二本抜き取って席へ急ぐ。

 

「お待たせ~!」

「遅かったじゃない。やっぱ人いっぱいいたから?」

「そらもう、けっこう長い行列だったわね…。はい、これ。」

「ありが…あれ、ひとつだけ?」

「違うわよ。…ほら、二人で食べましょ。」

 

スプーンを一本渡すと、シンジは少し考えてから、顔を赤くしていく。

 

「えっ!?い、いやその、申し訳ないよ。やっぱ僕、自分の分…」

「いいじゃない。ね?」

「………はい。」

 

あっさり折れてくれた。やっぱシンジってこういうのには弱いわねぇ。

この後は二人でアイスを食べながら、地元のオーケストラが演奏するクラシックを最後まで聴いていた。どうして音楽って、こうも心を動かしてくれるのかしら…。

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