-碇シンジ-
エイジ君、呼ばれてから昼休みまでずっと授業に戻ってこなかった。やっぱり揉めたのかな、パイロットの件。それにしても、何で委員長とアスカの相談に僕まで巻き込まれてるんだろう。こういう話は女子だけの方がしやすいんじゃあ…。
「ヒカリ、このままじゃあ何も進展しないわよ。もっと強くアタックしていかなきゃ。」
「何のこと?私にはさっぱり…」
「もー、とぼけるのもいい加減にしなさいよね。鈴原の事よ。アンタ、好きなんでしょ?」
「別に、私は今のままで…」
「そんなのダメよ!今のご時世、何が起きるかわかったもんじゃないわ!使徒だって今のところは動いてないけど、いつまたここに来るか知れたものじゃないもの!」
「…うん、僕もそう思う。」
「でも、何してあげたらいいのか…。」
「お弁当…なんてどう?」
「え、お弁当?」
「そう。トウジっていつも購買のパンしか食べてないし、最近はサクラちゃんの所に通い詰めで余裕がないみたいなんだ。だから、お弁当あげたらトウジも少しは楽になるし、喜んでくれるんじゃないかな。」
「シンジ、アンタなかなかいいアイデア出すじゃない。それで行きましょ、ヒカリ!」
「う、うん…。」
委員長は顔を赤らめながらも、笑顔になっている。…にしても、委員長がトウジに気があるなんて始めて知ったな。そんなことを思ってると、エイジ君が屋上に顔を出してくる。
「何だ、珍しい組み合わせだな。何話してるんだ?」
「あれ、影嶋くん。そういえばレイちゃんはどうしたの?」
「今日は定期検診で休み。」
「そっか。」
「さっきまで鈴原のこと話してたのよ。ヒカリ、ずーっと及び腰のままだからさ、喝を入れてあげたのよ。」
「なるほどね。確かに、何か変わる前に話をつけておくってのも悪くないかもな。」
「え…?鈴原、何かあったの?」
「エイジ、まさか話すつもり?」
「遅かれ早かれ知ることだ。それに、トウジも覚悟を決めたようだしな。」
「ちょっと待ってよ、みんな何の話をしてるの?」
エイジ君は委員長の目を真っ直ぐ見て言う。案の定委員長は何の話をするのか全く想像がついていない。
「トウジは俺らと同じ、エヴァのパイロットになることを選んだ。明後日には松代に向かう予定だ。」
「え…鈴原が、パイロットに…?どういうことなの影嶋くん!!」
彼は洞木さんに詰め寄られるが、感情的にならず、冷静に伝える。
「さっきの呼び出しは、パイロットへのスカウトだ。俺はパイロットになるリスクとメリットを伝え、赤木博士からも話を受けて、彼は自分で考えて決めた。トウジはサクラちゃんをもっといい病院に移してやりたいって、そう思ったらしい。」
「そんな…危険なんでしょ!?どうして止めてくれなかったの!!」
「言ったろ?トウジはそれを飲んで受けたんだ。誰かがとやかく言える話じゃないんだよ。」
「でも、でも…何で鈴原なのよ…。」
「たまたま当たったのがトウジだったってだけだ。もしかしたら俺らのクラスの他の子だったかもしれないし、はたまた他の学校の子だったのかもしれないんだ。
俺だって納得してない点はある。でも、それだけの声を大きくして、トウジ自身の答えを潰すのだけはやめてやってくれ。アイツなりに悩んで決めた話なんだから。
起動実験には俺も参加する。絶対にアイツを危険な目に遭わせるつもりはない。」
「…くそくして。」
「何だ?」
「約束して。絶対に鈴原を守るって。」
「…ああ、絶対に約束する。洞木さんが屋上にいて都合がよかった。それじゃ、俺はこれで。」
エイジ君が僕らの元を離れるとき、彼がこう呟くのを聞いてしまった。
「絶対に皆を、トウジを守る。例え俺の命と引き換えになったとしても…。」
-綾波レイ-
今日からエイ君は松代に行くから、今日から数日はアスカ主導の指揮に移る。アスカの指揮は電撃戦が多く、如何に迅速に敵を倒すかをポイントに考えているらしい。
「そういえばさ、レイは加賀ヒトミって人と認識があるのよね。ドジしまくるって噂って本当なの?」
「うん。手をかけた機械がLCL排水のもので、頭からLCL被ってるのを何回か見たことある。」
「あら、それは…ドジしてるわね。」
「でしょ?」
こんな話をしながらモニタールームへ行くと、久々に加賀さんと出会った。
「あら、綾波さん。大きくなりましたね。」
「お久しぶりです、加賀さん!」
「随分元気な性格になりましたねぇ。こっちでも噂になってたのよ、あんな無口で無表情だったあなたが見違えるほど元気な性格になったって。何でも彼氏ができたとか…」
「や、やだ!やめてくださいよ加賀さん!」
「この人が加賀ヒトミなのねぇ。なんか思ってたより可愛い人ね。」
「始めまして、加賀さん。」
「あら、始めまして。惣流さんに、碇さん。」
「アスカ、でいいわ。」
「僕も名前で。」
「私もレイって呼んで。」
「はいはい、3人ともわかりました。私の方もヒトミでいいわ。暫くの間、赤木博士の変わりに私が監督をします。よろしくね。」
「よろしく、ヒトミ。それじゃ二人とも、今回は二人フォーメーションのローテで行くわよ。指揮無しのパターンも練習するから、覚悟しておきなさい。」
「わかった。」
「了解。」
-影嶋エイジ-
時間は少し巻き戻って、出張当日の朝。
「よ、エイジ。待たせたな。」
「それほど待っちゃないさ。それより、俺よりトウジを待ってたヤツがいてな。話を聞いてやってくれ。」
「え?誰やそいつ。」
俺が身を引くと、影から洞木さんが出てきて、トウジと対面する。
「お、おはよ、鈴原。」
「委員長か。どないしたんや?」
「聞いたわ、パイロットになるって…。」
「そうか。」
「どうしても、気持ちの整理がつかなくてさ。でも…今の気持ちだけでも受け取って!」
そういって洞木さんは弁当をトウジに渡す。トウジは少し驚いた顔をしていたが、すぐ後には笑って受け取っていた。
「おおきに、委員長。今日はワイら学校休むけど、戻ってきたらも少し仲良くしような。」
「あ……うん。」
洞木さんは顔を真っ赤にして頷く。…こういう平和が永遠に続いて欲しいんだけどな。手放しに喜べないのが何とも歯がゆい。
「さ、行こうかエイジ。」
「おう。じゃ、また今度な。」
「二人とも、頑張ってね!」
「おう。」
「ああ。」
新幹線で移動している途中、トウジから話を持ちかけられる。
「エイジなんか、委員長をあそこに呼んだのは。」
「いいや?俺は洞木さんの要望で、俺らがどこに待ち合わせてるかを教えただけ。俺が焚き付けたワケじゃないさ。……いい彼女持ったな、トウジ。」
「そういうのよしてくれや、恥ずかしい。」
「俺は第二実験場では一緒にいない。第二支部の方でサポートをする役割だ。…エヴァにシンクロできるかはトウジ次第だ。頑張れよ。」
「なあ、シンクロってどんな感じなんや?それがどうしてもワイにはわからんのや。」
「それは俺よりシンジに聞いた方がいいな。…はい、今繋がるかはわからないけど。」
「ありがと。」
携帯を渡すと、トウジはシンジと話をし始める。聞いてる感じ、改めて自分の意思を伝えているようだ。話を聞きながら仮眠をしていると、微かに何かからクロッシングを受ける感覚がある。…この感じ、何か嫌な予感がするな。松代に近づき、外を見ると十字に拘束された参号機が下ろされている。あの扱い…まあ、支部一つ消し飛ばす可能性のあるモノだし当然と言えば当然か。
第二実験場に固定された参号機をトウジと二人で見上げる。カラーリングは黒。若干悪人面ってのがまたいいな。
「ワイがこいつに乗るんか…。」
「ああ。…何があっても、絶対に俺が守る。安心してくれ。」
「頼むな、エイジ。」
「それじゃ、また明日。俺は第二支部から見守っている。頑張ろうな。」
「おう、また明日。」
「貴様が本部のアークパイロットか、活躍は聞いているぞ。今回もお前の働きに期待している。」
「よろしくお願いします、狩谷指令。」
「システムルームへの道はそこのオペレータから聞け。話は終わりだ。」
「了解。」
ここの狩谷って指令、女性ではあるがかなり高圧的で能力主義の人間らしい。正直、総司令より好感が持てるし、何を考えてるのか理解できないってことがないから安心する。
俺はオペさんの案内でシステムルームに入る。中は本部のモノと全く同じで、俺は特に不自由はしなかった。
「アーク2号機に接続完了。よろしく。」
-………。-
なんだ、こっちは無口なコアだな。ま、戦闘経験が無くて俺の情報も無ければそんなもんか。そもそも向こうのがベラベラ喋りすぎってことかも。
[参号機、エントリープラグ挿入確認。]
「了解、クロッシングスタート。…トウジ、俺がわかるか?」
[あ、ああ。何か変な感じやな。]
「普段はさ、俺らってこんな感じに考えを共有して素早い指揮をしてるんだよ。トウジが俺を受け入れてくれるから楽にいった、ありがとう。」
[そら親友を嫌うヤツなんざおらへんよ。ワイも頑張るからさ、サポート頼むな。]
「オーライ。参号機パイロットとのクロッシング完了。」
[了解、これより起動試験を開始します。]
後はトウジ次第だな…。
[第一次接続開始]
[パルス正常]
[グラフ正常位置]
[リスト1350までクリア]
[初期コンタクト問題なし]
[了解、作業をPhase2へ移行!]
[オールナーブリンク問題なし]
[リスト2550までクリア]
[ハーモニクス、全て正常位置]
[絶対境界線、突破します]
起動には問題無さそうだ。クロッシングでも、トウジはたいぶ安定しているのがわかる。
な、アラート!?何故唐突に!?
[どうしたの!?]
[中枢神経に異常発生!]
[実験中止、回路切断!]
こんな突然に何が起きてるんだ!?
-……いや。こないで。-
「コア、どうした!?」
-私の中に入ってこないでぇええええええええええええええ!!!!!!!!!-
「うっ、あああああああああ!?!?!?!?」
何だ、この激しい敵意は!?まさか、アークが…!?
-…コアの侵食、完了。お前はそこにいるな?人間。-
「何!?何なんだお前は!?」
-私はお前らが『使徒』と呼ぶ生命体だ。そして、私はお前によって知識を手に入れた。使わせて貰うぞ、その体。-
「ふざけるな!!そう易々と俺の体を使わせて…何だ!?」
言いきる前にプラグ内壁が変化し、触手…とは言えないけれど、粘度が高い物体が俺の胴体、手足に纏わりつき、俺の肉体を侵食していく。ヤバいと思った時にはもう遅く、脱出機構も強制切断も叶わない状態にあった。まさか、同化タイプの使徒…!
同時に使徒からのクロッシング割り込みが発生し、更に直接敵意が流れ込む。む、無茶苦茶だ、こんなん…。使徒は参号機からエネルギー波を発生させ、第2実験場を吹き飛ばす。これ、一番タチが悪いのが俺が参号機とシンクロ状態になってしまっていることだ。アークのコアが乗っ取られた以上、死なない限り無理矢理切ることすら叶わない。最悪だ。
「ぐ…、せめてトウジは、助けねぇと…!」
-無駄だ。お前も、この機体の人間も既に私によって同化されつつある。-
「そいつはどうかな…?」
俺は意識をわざと解放させ、相手へのクロッシングでトウジの分までこちらに流れるように仕向ける。更なる痛みが俺を襲うが、今はパイロット保護が最優先だ…!敵の同化部位を操作し、プラグとその周辺から使徒を無理矢理どかし、排出機能のみを確保する。今の俺にゃこれが限界だ。このまま機体から使徒を追い返せるほどの力がない。
-何!?何をしている!-
「エントリープラグ、イジェクト!」
内壁に辛うじて残ったUIから、参号機のプラグが排出されたことを確認。これでトウジはひとまず助かったか。だけど、こうなってしまったら俺は―
-まあいい。お前はこの機体の人間より戦闘経験が豊富のようだ。使わせてもらうぞ。-
「やめろ…俺の記憶を引っ掻き回すな!」
-お前は私だ。私はお前だ。-
「やめろ!!!」
畜生、俺はまだ………
-惣流・アスカ・ラングレー-
昨日、ヒカリが学校にきた時にはだいぶすっきりした顔をしていたから、鈴原とは上手く行ったようね。にしても、今日は参号機の暴走を懸念しての待機状態で、つまるところヒマ。暴走の保険なんて要らないと思ったけど、レイは一度起動実験中に暴走事故を起こしたのを思い出して閉口した。ミサトもエイジもいない…なんだか、本当に静かな気がするわ。
いや、正確にはレイはピアノ弾いてるし、シンジは昼時といったことで昼食作ってるから音はするんだけどね。
あたしはというと右腕にペンペン、左腕にリーベを抱えたままソファで寝っ転がっている。
「はい、みんなお待たせ。お昼にしよ。」
「ありがと、碇くん。」
「あ、もうそんな時間。ぼーっとしてると早いわね…。」
「ねえ、そういえばアスカはお料理しないの?」
「へ?どうしたのレイ。」
「だってさ、いつも碇くんが作ってるしさ、たまにはアスカの作ったのも食べてみたいな~、なんて?」
「でもアスカ大丈夫?あんまりアスカが台所立つの想像できないから…。」
「な、シンジあんた失礼ねぇ!あたしだって料理くらいできるわよ!」
「バレンタインの時だって、何だかんだ言って自分で頑張ってたしね。あそこまで張り切ってるの初めて見たけど。」
「ち、ちょっとレイ、それは秘密だって…」
唐突なレイのナチュラル暴露にあたしは顔が真っ赤になる。
「え、アレってアスカの手作りだったの?市販のって聞いてたからびっくりしたよ。」
「そうなのよ。アスカったら、『こういう時に市販の高いの買ったってしょうがないでしょ!』なんて言ってさ。」
「くぉらレイ!いい加減にしなさいよ!」
「でも、それ聞いて今さらだけどもっと嬉しくなった。ありがと、アスカ。」
「~~~。わ、わかればいいのよ…。」
そんな話をしていると、家の電話が鳴る。
「出るわ。はい、惣流ですが…」
『アスカ?急いで全員で本部に来て!大変な事が起こったの!』
「え?どうしたのよマヤ。そんな焦って。」
『松代で爆発事故が起きて、実験場と連絡がつかない状態よ!』
「松代で事故って…嘘でしょ!?ミサトやエイジ…鈴原!鈴原はどうなったの!?」
『まだ混乱していて、正確な情報は掴めてないわ。それに事故現場に未確認移動物体を発見したの、恐らく使徒よ!』
「っ!!了解!シンジ、レイ、行くわよ!」
「うん!」
「ええ!」
急いで家を飛び出てマンションの一階に降りると、ネルフの車が既に待っていた。
「こちらに乗ってください。」
「剣崎さん!」
「わかったわ!レイ、先に乗って!」
「うん!」
あたしらを乗せた車は信号無視をしながらネルフ本部へと急行した。
-碇シンジ-
[エヴァ初号機、ケージアウト!!続いて零号機ケージアウト!!]
上に押し付けられる感覚。発進の声がエイジ君じゃないこと、クロッシングでエイジ君が近くに感じないことが、とても違和感に感じる。
「ねえ、僕らエイジ君がいなくて大丈夫かな…?」
[アークシステム接続、クロッシング開始。シンジ、今さらそんな事言ってられないわ。今までの訓練を思い出せば大丈夫よ。]
[アスカ、本当に大丈夫なの?アスカも戦線に…]
[あのね、今私が指揮をしなかったら誰がやるってのよ!?大丈夫、二人ともちゃんとサポートするわ!]
とは言っても、アスカは今回の戦闘が初めての指揮役だ。どうしてもクロッシングで緊張が伝わってくる。
[エヴァ零号機、初号機配置完了よ。クロッシングも問題なし。]
[了解、各機は現ポイントで待機。]
僕も頑張らなきゃ…。いつまでも誰かに頼ってばかりにもいかないし…!
しばらくすると、敵の足音が聞こえてくる。来る!
[目標接近!!全機、地上戦用意!]
な、目標って…!
「目標…目標ってこれなのか!?だってこれは…エヴァじゃないか!!」
[シンジ、これはもうエヴァじゃない。『使徒』だ。]
[使徒に乗っ取られたのね…プラグ挿入口付近に侵食部位があるわ。アーク二号機とは連絡つかないの!?]
[現在、確認を…え!?アークが使徒によって侵食されているとの連絡あり!]
[な!?同時に二ヶ所への攻撃!?]
「パイロットは、二人は大丈夫なの!?」
[エントリープラグは既に排出済みです!現在、参号機は無人で動いています!恐らく参号機はアーク二号機からのバックアップで動いています!]
[了解!シンジ、前に出て足止めしなさい!練習通りに!]
[わかった!]
[サポートは私が!]
クロッシングでアスカからのサポートを貰いながら、僕は前に出て参号機と対面する。今の手持ちはパレットライフルと腰に装備した
参号機…いや、『敵』は僕がライフルを構えるのに合わせて、肩からプログナイフを取り出す。…あれ、この取り出した後、手首を軽く振る動作、まさか―
[シンジ、気付いた?]
「やっぱり?あの動作、エイジ君のだ。」
[レイにはなるべく悟られないようにね。あの子、エイジを傷つけるのは拒むだろうから。]
「わかったけど……」
[さ、話は終わり。…二人とも、来るわ!]
その声と同時に、敵は姿勢を低くし、ナイフを構えて突っ込んでくる。
[シンジ!]
「わかってる!」
僕がライフルを向けて射撃すると、敵はそれを回避して腕を伸ばして銃口を上に逸らす。アスカからの援護も相まってすぐさまライフルを手放し、腰の脇差しを逆手に抜き、敵のナイフを受ける。空いた右手でナイフを装備して突き刺そうとすると、敵もさっき奪ったライフルを盾にして攻撃を防ぐ。
「綾波!」
[了解!]
綾波は僕の合図でライフルを撃ち、正確な斜線通しで敵の片目を狙撃する。しかし、若干装甲側に逸れたのか有効打にはなっていない。参号機はゆっくりと頭部を動かし、綾波の方を向く。
[マズい、シンジ!レイ、今のうちに通せる場所へ移動して!]
「わかった!」
「了解!」
アスカも察したのか、焦りの感情が僕にまで伝わってくる。僕は敵を押し返そうとするけれど、相手の軸もしっかりとしているのかびくともしない。なら…!敵の片足を蹴り飛ばして体勢を崩そうとするけれど、それすら意にも介さない。
[バカ、それは悪手よ!]
「な!?うわぁ!!」
片足立ちになってしまった僕は、そのまま敵に軽く小突かれて後ろに倒れ込んでしまう。脇差しを蹴りで遠くへ飛ばされてしまい、その後に右胸をナイフで貫かれて、その後は腹部への膝蹴りと顔面へのパンチのコンボ。今までにない「敵からの明らかな殺意」と人間のような攻撃方法……やっぱり、やっぱりエイジ君が…!
「がっ!?あ、綾波!そっちに参号機………」
[きゃあ!?こ、これは確かにクるわね…。零号機にクロッシング変更!]
[わかったわ!]
敵のコンボで、僕は意識を失ってしまった。
-綾波レイ-
「碇くん!?」
[エヴァ初号機、沈黙!!パイロットは気絶状態です!]
[目標移動!!零号機に接近!!]
やらなきゃ…こっちがやられる!
「まだ、私は死ねないの!エイ君と…まだ!!」
[クロッシング開始!レイ、落ち着いて!]
戦闘開始直前からずっと不安だった。いつもはエイ君を通して状況や敵の能力を伝えてもらっていたから安心して戦えていたけれど、アスカの指揮にはそれがない。アスカは人一人とクロッシングするのが限界だから、どうしても前に出ているパイロットへのクロッシングが優先される。つまり、私には無線以外の通信が入ってこない。そしてそれは、指揮官とパイロットで明らかな情報量の差が発生する。
私は参号機の足や顔面を撃ってはいるけれど、妙に手が震えて上手く照準できていない。…さっきの動作、間違いなくエイ君の癖が出ている。もしかして、いや、そんなことないよね?
[レイ、余計なこと考えてるとやられるわよ!]
「わかってるけど!」
[ほらさっさとナイフ出す!]
「く…!」
参号機はもう片方のナイフを取り出し、構える。私も肩からナイフを取り出して構える。…ううん、あれは彼じゃない、動かしてるのは使徒なのよ!頭を振って、さっきの嫌な予感を頭から追い払う。
「来なさい…!」
敵はまず突きを放つけれど、それは回避。その後に私は首筋や肩部、胸元のコアを狙い、確実に仕留めようと立ち回る。私よりナイフ術が上手いアスカのクロッシングを受けているから、いつもより動きにキレがあるのが私でも体感できる。でも、その攻撃は全て最小限の動きで回避され、敵からも反撃が飛んでくる。アスカの動きも絡めてパターン化は防いでるのに、それすら回避されてる。まるで…私たちの動きを知っているかのよう。
もう何度攻防を繰り返したかわからなくなってきた頃、私はミスをしてしまった。いつもエイ君から受けてしまうフェイント…それに引っ掛かってしまった。
[レイ!]
「なんで!?」
しまったと思った時は遅く、脇腹を刺され、さらに首を締め付けられ始める。苦しみながらも何とか腕を動かして敵の手を引き剥がすと、今度は肩部からもう一対の腕を生やされ、自分の両腕を押さえつけられその上で再度首を絞められる。
[零号機、参号機接触部に使徒侵入!神経節が侵されていきます!!]
[う、キツ…!レイ、反撃しなさい!]
「ぐ、ぐ…………でき、ない……。」
[が……っ!バカ、あんた死ぬわよ!?]
「私はエイ君を殺せない!」
嘘。エイ君が乗っ取られるなんて。嘘よね、嘘だって言ってよ。
[レイ、何をしている!何もしなければ死ぬぞ!]
碇指令からも言われるけれど、私には…絶対にできない。そんなことを……。
「エイ君…エイ君、答えてよ…。私、どうしたら……」
それに対する参号機からの回答は、更に強く首を絞めることだった。段々、抵抗する力すら弱まっていく。
「あ、ぐ……。」
[レイ、戦いなさい!敵はエイジじゃない、使徒よ!]
-レ、イ…俺は……。-
あ…エイ君の声…やっぱり、エイ君が……
[零号機、シンクロ率減少!]
[レイ!!こ、このままじゃあ私まで…!アーク、弐号機ケージアウト用意!急いで!!]
私は参号機に振り回されているようだが、もう視界が暗くなっていてよくわからない。
でも、エイ君に殺されるのなら、まだ……最期に、直に声を聞きたかったな…。
-生きろ…!-
…え?
-俺のことはいい!レイ、お前は生きるんだ!自分でそう願ったんだろ!?だったら最期までその命を使え!-
エイ君の声を聞いてハッとする。参号機に対し殺意を向け、腕を無理矢理動かし左手にナイフを持ち、右手に持ち替えて敵の首筋に突き立てる。
それによって更に強く首を絞められるが、更に押し込むと流石に敵の力も緩んできた。
それに合わせて腹部を足で蹴っ飛ばし、参号機を間合いから退けた。
そのあとは陽電子による狙撃、初号機のタックル。多分アスカと碇くんだろう。
肩で息をしながら立ち上がろうとすると、自分のやったことを思い返してしまう。
私は、参号機を…エイ君を確実に殺そうと…?
嫌…イヤ…いや……
「いやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」