-碇シンジ-
あの後、綾波とエイジ君は回収されて二人とも病院に居るらしい。でも、二人とも面会謝絶で状況がわからない。
「せめてエイジ君だけでも…ダメですか?」
「どうしてもダメだって上の人から言われてて。本当にごめんね。」
「わかりました…。」
零号機の自爆。エイジ君が見つけたプラグ。参号機の叫び。それら全てが僕らを最悪な予想へと駆り立てる。
そんな筈はない。だって、現に綾波は病院にいるって話なんだ。それなら、生きてるに決まってる。いや…そう思いたかった。
とぼとぼと病院から家へ向かっていると、途中でカヲル君に呼び止められた。
「やあ、シンジ君。…どうしたの?顔が暗いよ?」
「カヲル君。ちょっと、ここ数日色々ありすぎてさ…。」
「そっか、大変だったね。ところでさ、学校でこんな話題があるんだけど…『激しい爆発音の少し後に、何かが吠える声がした』って。シンジ君は何か知らない?」
「…ごめん、僕は何も。」
「そうか、シンジ君が知らないんじゃあ、仕方ないね。それじゃ、また学校来たら会おう。」
「うん、じゃあねカヲル君。」
やっぱり、参号機のあの叫びはみんな聞いてるんだ。僕はあの時、両足を斬られて何もできなかった。そんな僕が、彼に会って何を話せばいいんだ…。
家に帰っても、中は暗いままだった。アスカは帰ってきているだろうけれど、エイジ君も綾波も病院らしいし、ミサトさんは事後処理でしばらく家に帰れない。ミチヨちゃんもミサトさんに連れられているから、ここはアスカと僕しかいない。
「ただいま。」
返事をしてくれる人はいない。いつも誰かが玄関にいてくれて「お帰り」と言ってくれるのに、今日は誰もいない。暗い気持ちのまま自分の部屋に行くと、鞄を放り投げて椅子に座る。今日の夕御飯、どうしよう…。
「シンジ…帰ってきたの?」
「うん。ただいま…アスっ!?」
ドアの向こうからアスカの呼び声がしたからドアを開けると、突然アスカが僕の胸元に飛び込んできて、僕はベッドに押し倒されてしまう。
「ど、どうしたのアスカ。」
「あたし…約束守れなかった…!レイと、みんなで無事に帰るって、そう言ったのに…!」
「そんな…それなら僕だって、結局何もできなかったよ…。アスカだけの問題じゃあないよ。」
「それでも!もっとあたしに…力があれば…!レイに大怪我を負わせることも…うう…」
アスカは身体を震わせて、ずっと泣いていた。僕はそんな彼女の頭を優しく撫でてやることしかできなかった。
-影嶋エイジ-
暗い。
冷たい。
寂しい…。
周囲には分厚い氷の周囲を、海の動物たちの死骸、エヴァの破損パーツ、損壊した武装、中学校の制服、時計、ミサンガが漂っている。そのパーツは、どれも装甲板は灰色をしてて、腕パーツにはEVA-00 PROTOのプリントがある。
海底が見えない。安息は許されない。当然だ。二人も女の子を殺しておいて、そんなものが許される筈がー
『また、そうやって自己否定を繰り返すの?』
「俺が二人を死なせてしまったのは事実だ。」
『いいえ、あなたは事実を自分で歪曲させて、それが事実だって認識してるのよ!いい加減気付いて!!』
『サヤさん、無駄ですよ。彼はそれを理解してますから。』
『え…?それじゃあ、どうしてそんな、自分が辛くなることをしてるのよ…。』
『まだ…受け入れきれてないんです。だから今は、余計な波を立てないように、そっとしておいてあげましょう…。』
『……うん。』
もう…俺の居場所は、どこにも――
ゆっくり海底へと沈んでいく俺を、誰かが腕を掴んで引き上げようとする。俺はそれを振りほどくが、今度は左の手首をしっかり掴んでくる。近くに漂っていた太刀を持って俺は手首を切り落とし、拘束から逃れる。ならばと相手は両腕を掴んでくるが、今度は両腕をネクローシスさせて、引き上げる手から逃れる。腕は数秒も経たず再生し、その負傷の痕を欠片も残さない。
「お前は何なんだ!もう俺のことは放っといてくれよ!!」
-真希波・マリ-
「とりゃ!…あちゃ~、完全に操作をロックされちゃったか~。こりゃあ、大佐と話をさせに行くのはもうしばらく後になりそうだにゃあ。……この頑固者!!!」
システムのプラグを蹴り付けるけど、こんな程度では起きてはこないだろうね。
「おっと、もうそろそろダミー映像に気付かれちゃうかにゃ。それじゃ私はこれにてドロン!」
-綾波レイ-
[…イタル正常。全て問題ありません。]
[起こせ。]
[了解。]
私は、何故まだ生きているの?
3回目以降の生を望んではいなかったのに…。
あの時私は、零号機を自爆させて、私としての命は終わったのに…
LCLが排水され、私は管の中から出る。
「レイ、新しい肉体はどうだ。」
「問題ありません。」
「そうか。」
「影嶋くんはどうしていますか?」
「……。」
碇指令の目が、一瞬苛つきの表情になる。どうして…?
今の私の質問は、赤木博士が回答した。
「エイジ君なら、今はシステムルームにいる筈よ。彼、ずっとそこに引きこもってるし…。」
「会いに行っても、いいですか?」
「…やめた方がいいわよ。」
「どうしてですか?」
「それは…。まあ、とにかくシャワー浴びて着替えてきて。明日は検査があるから、今日は病院の個室で寝なさい。部屋は後で連絡するわ。」
「了解。」
何故、赤木博士は私を見て悲しそうな目をするの?まるで、私が私でないみたい。
それに、この胸の中に感じる、ドロドロした感情は何?
自分の記憶の筈なのに、どうして他人の記憶を見ているような不快感を感じるの?
-影嶋エイジ-
丸一日…というかあの戦闘以降ずっとここに籠って泣き続けて、少しだけ楽になった。もう18時か。流石に、一度くらい顔を見せとかないとみんなに余計な不安をさせるかな…。
シャワーを浴びて、着替えてロッカーから出ても、いつも待ってくれる人はいない。その事実に胸を締め付けられるが、それでも家へと向かった。途中、本部内で少しだけ後をつけられたが、何故か途中でやめていた。誰だったのだろうか。
途中に寄った写真屋で写真立てを買って、適当なプリンタを使って刷り、次の店へ。
「すみません、注文をした司城という者ですが。注文のもの…もう完成してますよね。すみません、こんなに遅くなってしまって。」
「いえいえ、こちらこそ今日の昼間からやっと業務を再開できた所なんですよ。みんな、何かある度に避難避難ですからね。それでもこの都市を守ってくれている人がいるんだから、私ら下っぱの店は助かってますよ。頭が上がりませんね。」
「そうですね、私もその一人だからわかります。」
「日々、感謝しないとですね。…さて、お待たせしました。ご注文のものでお間違いありませんね?」
「はい。ありがとうございます。」
「ご利用ありがとうございました。」
もう一枚の写真を取りに、家に帰ってきた。一週間ぶりくらいか。指紋認証に指をかけようと手を伸ばすが、直前で思い止まってしまう。
『どうして綾波を助けなかったのさ!』
『アンタこそあそこまでしてレイを助けられないなんてな情けないわねぇ!』
『あなたの力なんてそんなものなのよ。』
いや、これは言われて当然の言葉か。そんな諦めと共に家に入るが、声を出せない。どうにか絞り出して言ったものの、だいぶ掠れた声だった。
「た、だ…いま……。」
「お帰りなさい。」
そう言ってくれたのはミサトだった。
「久々のお家で少しは安心したでしょ?さ、みんなでお夕飯食べましょ。みんなエイジ君の事、心配して待って―」
「帰ってきたわけじゃないんで…。」
それだけ言うと、俺は自分の部屋に行って一枚の写真をアルバムから抜き取る。俺が一度ボロボロにしてしまった、この家に住んでいる全員が写った写真。アルバムをと写真を鞄に突っ込み、俺はまた外出しようとする。
「待って。どこに行くの?」
「……向き合いに行くんです。」
「レイの事なら、まだ回復の見込みがあるって―」
「そんな大嘘、誰も信じませんよ。少なくとも俺は。」
その言葉にミサトは俺を振り返らせ、両肩を掴んで怒鳴る。
「いい加減にしなさい!!あなた、レイが大切なんでしょ?そんなあなたが真っ先に諦めてどうするのよ!!」
「諦めるも何も…もうそのラインを越えてるのに…。」
俺はミサトの左腕を掴み、無理矢理クロッシングをして俺が見た、感じた、体験した全てを流し込んだ。ミサトは俺の実体験には驚いていたが、右手甲から生えていた結晶には驚いていないようだった。
「そんな…。」
「もう嘘偽りの、表面だけの気休めの言葉は言わないでください。不快ですから。」
そんな言葉を吐き捨てて俺は家を出た。
久々に来たマンションは、相変わらずの無人ぶりだった。402号室…レイの昔の家。目の前に立つと、明らかな変化があった。ドアが…きちんと施錠されている。しかも、鍵がカードキー形式。自分の記憶に無いそれに困惑しながらもNERVのカードキーを機械に通すと、扉は解錠された。
中に入ると、そこは俺の知っているレイの部屋では無かった。打ちっぱなしコンクリだった壁紙はチェック調の壁紙に差し替えられており、台所も新しいものに変わっている。衣装箪笥に化粧台…前からある引き出しも。床に置かれたテーブルに、座布団が二つ、向き合うように置かれている。
「レイ…。」
彼女がしたかった事はおおよそ見当がつく。…その時を迎えられたら、どれだけよかったことか。俺は写真を取り出し、二枚を写真立てに入れて引き出しの上に置く。一枚は同居してるみんなの集合写真。もう一枚は…この間の旅行で撮ってもらった、ストリートピアノを二人で演奏している写真。その前に、小さい箱を二個、並べて置いた。
二枚の写真をじっと見つめる。もう、こんな写真は二度と撮れないんだな…そう思うと、泣ききった筈なのにまた涙が出てくる。
「ごめんな…もう、俺は……レイの綺麗な目の色を見れないんだ…。」
クロッシングを受け入れてくれて、俺の目で色彩をもう一度見せてくれる人もいない。
「レイ、俺は寂しいよ…。俺の五感が消えていくのが、辛いよ…。俺は、本当に―」
-また、自分を責めてる。言ったでしょ?自分を責めないでって。-
その声に後ろを振り向くと、レイが立っていた。
「レイ!?どうして…」
-指輪、ありがとう。本当に覚えてくれてたんだ。-
そういって、彼女は左手を見せてくる。薬指には、俺が買った指輪がはめられている。
「これを、生きてるときに渡してあげたかった…!」
-ううん、今見れただけで嬉しい。-
レイは俺の左手を取り、指輪を俺の薬指に通す。驚いて写真の方を見ると、二箱とも開いていた。
-目を閉じて、今は眠って。エイ君の居場所はあるから。私が許してあげる。-
「ありがとう、レイ。」
-さようなら。-
「ああ…じゃあな、レイ。」
そのまま、俺はテーブルに突っ伏して意識を失った。
体の痛みで目覚めると、相変わらずモノクロの世界が目の前に広がる。左手を見ると、変わらず薬指には指輪がついていた。引き出しの方を向くと、一箱だけ開いている。左手を握りしめ、立ち上がって開いた箱を取り、玄関へ向かった。
「レイ…ありがとう。」
俺はレイの家を後にする。
-綾波レイ-
「レイ、昨日の夜はどこに行ってたの?」
「わかりません。」
「わからないって…」
「覚えてないんです。」
昨日の夜にどこかへ行ってたらしいのは少しだけ話は聞いた。
しかし、私はそのことを覚えていない。病室に行ったら、そのまま寝てしまっていたはずなのに。
それに、薬指が何故か寂しく感じる。左手をじっと見ていると、赤木博士から呼びかけられた。
「どうしたの?左手、大丈夫?」
「いえ、何でもないです。」
「そう。検査を始めるから、こちらへ来てちょうだい。」
「はい。」
よくわからない感情を押し込んで、私は検査室へと入っていった。
-惣流・アスカ・ラングレー-
あの戦闘から一週間過ぎても、エイジもレイも学校に来れていない。レイはどうしようもないとして、エイジはあの後一度家に帰ったっきり本部にずっと籠ってる。
無理もないわね、目の前で零号機が自爆した上、その直後にレイの元に向かったんだから…。
そもそもあんな爆発の後に、機能した学校に行けるというだけでおかしいのよ。エヴァの自爆に耐えきった参号機のATフィールドも凄まじいけれど、幾らフィールドが強力だからと言って、街どころか周辺の家すら守り切るなんて…。
「なー、いい加減教えてくれよ。あの日の何かの叫び声、お前らなら知ってんだろ?」
「…何も知らないわよ。」
ケンスケはあたしらの都合なんてお構いなしにいつも通りの行動だ。おめでたいヤツ…。
「それじゃあ、零号機が自爆したって話はどうだよ?」
その話題は…!あたしとシンジは勿論、あたしらが何者かを少しだけ知っている面々が一斉に反応した。自爆という意味を理解していたから。
「まさか、本当に綾波は…」
「レイは生きてるわよ!!絶対に!!!」
「惣流…。悪かった、もうこの話はしないよ。」
「絶対に、生きてるんだから…。エイジがどんな反応をしてようと、絶対に…!」
そう言い聞かせないと、あたしが潰れてしまいそうで、怖かった。こんな空気を壊すかのように、シンジの携帯が鳴る。
「もしもし…ミサトさん?…え!?………わかりました、すぐ行きます!」
「何!?どうしたのシンジ!!」
「綾波が…生きてるって…!」
「ほ…本当!?急いで行くわよ!!」
「もちろん!」
あたしらはネルフの病院へ走った。今ほどもっと速く走りたいと思った日は無い。シンジの案内で、途中で合流したミサトと一緒にあたしらは病室へと向かった。
レイは右腕と右目に包帯を巻いていたが、もう立って歩ける程に回復したのに驚いた。
「綾波…よかった、本当に。生きててくれて…。」
「ごめん、あの時上手く指揮できなくて。でも、もう絶対に自爆なんてするんじゃないわよ!!バカレイ!!」
「二人とも…ありがとう。ごめんなさい、惣流さん。」
「…綾波?どうしてアスカを名前で―」
私の名前の呼び方だけじゃない。どうして、レイは表情を殆ど変えていないワケ…?
「そりゃあ、『3人目』だからだろ。そうだよな?アヤナミレイ。」
後ろを振り向くと、恐らく試験の途中に来たであろうプラグスーツのままのエイジが立っている。でも、彼は喜ぶどころか目が冷め切ってる。
「どうしたのよ、エイジ。何でそんなに嬉しくなさそうなのよ…?」
-影嶋エイジ-
やっぱり、こうなってたのか。…俺の目は誤魔化せないぞ、赤木リツコ。
銃を取り出し、3人目に向ける。一瞬、レイの最後の言葉が頭を過るが、それを振り払って言う。
「その包帯を全て外せ。」
「ちょっとエイジ君、何をやっているの!?」
「早くしろ。」
3人目は包帯を解いていく。すると、どこも怪我をしていない体が出てくる。
「綾波…?」
「どうなってるのよ、これ…。」
「エイジ君、どうしてこの事を知って―」
「全ての答えを知ってます。赤木リツコ!居るんだろ?」
そういうと、陰から赤木リツコが出てくる。
「流石にアンタの方が話は詳しいからな。一緒に来てもらうぞ。」
「わかったわよ…。」
赤木リツコは両手を上げ、俺の後についてくる。…みんなに、隠し通す事ができなかった。
「人工進化研究所?何よ、ここ…。」
「ネルフの前身の組織よ。私たちの通称では『ゲヒルン』と呼んでいたわ。」
「こんな場所が、ネルフの地下にあったなんて…。」
シンジとアスカはだいぶ参った声をしているが、ミサトは黙ったままついてくる。
俺はある一室の前に立つ。カードキーを通すと、そこには前に一度見た部屋が姿を見せる。
「ここは?」
「なーんか殺風景な部屋ねぇ。」
「ここはレイが生まれた部屋だ。」
「レイが…?エイジ君、あなた何を知っているの…?」
「レイの出自ですよ。次の場所が最も重要な場所ですけどね。」
次は最早使われていないと思われていたダミーの製造場所。地面が少し濡れている所を見るに、3人目はここで製造されたのだろう。
「何よ、これ…」
「ダミープラグの製造プラントです。ここでダミーのコア…レイの素体が製造されていたんですよ。」
「製造って…まさか!!」
アスカはミッちゃんが来た頃から想像はしていたのだろう。ここで疑念が確信に変わった訳だ。
「そうだ。レイはクローン体の中で、たった一人魂が入った器。ミッちゃん…いや、路世もそうでしょう?赤木リツコ。」
「そうよ。ミチヨちゃんはレイの極初期型。アークシステムのコアとして、クロッシングシステムの補助をさせていたの。まさか自我を持つとは思わなかったけれどね。」
「リツコ!!」
ミサトも銃を出し、赤木リツコに銃を向ける。恐らく自我を持ってしまったという言い方に激昂したのだろう。だけど、それは…
「リツコ、あんたまさか、まだレイの肉体を持ってるの…!?」
「いいえ、既にもうそれは破壊されたわ。エイジ君と…二人目のレイによってね。」
「「え…!?」」
ミサトとアスカはこちらを向く。
「それは本当だ。レイの意思だ、『代わりはいらない』ってな。アンタは命を勝手に造り出しておいて、それを弄んで…どういうつもりなんだ?赤木リツコ。」
「指令の計画に必要なのよ。レイが…いや、リリスの魂を持ったヨリシロがね。」
「そんな事をして…レイ達が可哀想よ!!」
「私はそうは思ってないわ。」
部屋の出入り口からミッちゃんが姿を現す。
「ミチヨちゃん!?どうしてここが…」
「あなたたちの行動はMAGIを通して全て把握しているわ。エイジとレイが遠出したときも私は全てを把握していたし、それをしてあげるために諜報部を混乱させたりダミー映像を流したりもしたわ。」
「どうしてそんな事を…」
「私は、もうすぐ命が燃え尽きるエイジとレイに、少しでも後悔をしないようにして欲しかっただけ。私はエイジによってそれを学んだわ。
ミサト、人ひとりの感情で人の幸福を語ってはいけないわ。もっと論理的な点で攻めるべきよ。」
「そんな事を言われたって…あなたは人工的に造られて、しかもシステムに組み込まれて道具同然として生きているのよ!それをどうしてあなたは…」
「私はそれを『自分の命の使い方』だと認識したわ。私はエイジと、みんなと長い間接触して、感情や考え方というのを多く学習した。私が私として生きるために、この手段を取っただけ。
それに、私を道具として扱っているという話はミサトも人の事は言えないわ。私をアークシステムのコアだと知っているから、私にエイジとの接続を切れと言ったんでしょう?」
「そ、それは…」
「エイジが大人というものを嫌うのがよくわかるわ。自分がいいように勝手に認識をねじ曲げる。それでもミサトは本当に―」
「ちょっと待ってよ!!みんなどうしてそんな平気な顔でこんな話を続けられるのさ!!ねえエイジ君、どうして綾波がクローンだって今まで隠してたの!?僕らにだって言ってくれても―」
「レイの願いなんだ!!自分がクローンでなく、人間として扱って欲しいって!!だからレイが自身のクローンを破壊したのを受け入れた!短命なのも、そもそも人として機能が不完全なのも受け入れた!!もうその時点でレイは人間で、その命を終えた時が彼女の終わりだったんだよ!!それなのにここのイカれた連中は…!!」
段々と苛立ってきて赤木リツコに銃を向ける。
「それなら…目の前にいるレイの事はどうだっていいワケ?エイジ。」
シンジの次はアスカからキツい質問を投げ掛けられる。
「本当はな…今すぐここでぶっ壊してやりたいくらいだよ!!!こいつはアヤナミレイであって『俺が過ごしてきたレイ』じゃねぇ!!死んだやつが奇跡の蘇生をして復活したのならいいさ!でもコイツは死人と全く同じ顔をした別人だ!!仮に記憶があっても、心の構成は違う別人なんだよ!!」
「違う…私は『綾波レイ』じゃない…。」
-綾波レイ-
ずっと、黙って話を聞いていた。彼は…影嶋君はわざと私に冷たい目をしている。
その真意がわからない。何故彼は、自分が辛いと思うことを平気で…
「でもコイツは死人と全く同じ顔をした別人だ!!仮に記憶があっても、心の構成は違う別人なんだよ!!」
その言葉に、私は揺れた。
「違う…私は『綾波レイ』じゃない…。それじゃあ…私は何者なの…?」
ミチヨがそれに答える。
「それはあなたが決めることよ、綾波レイ。自分が何者かを認識したその時、私たちはあなたに『存在』という祝福を与えるわ。それまで…自身の事をよく知ることね。必要ならいつでも会いに来て。最後に、私たちはあなたの居場所を奪うことはないわ。」
「私の居場所…それは…どこなの?」
「それはあなたの魂が記憶している所よ。他の人がどう考えているかはわからないけれど、私はあなたを歓迎するわ、綾波レイ。」
そんな事を言われても、『私』がそこにいていいのかが未だに疑問だ。
何故、『私』まで許されるのかがわからなかった。そして、それに答えてくれる筈の人は、ずっと赤木博士に銃を向けたままだった。