-葛城ミサト-
「本当に…この家から出ていくの?私たちはあの事も、あなたの事も―」
「いいえ、俺のケジメをつけるだけです。俺は…この家にいる資格なんてありませんから。」
「それでも、たまには顔を見せて。ずっと本部に籠ってばっかじゃ、体調崩しちゃうだろうしね。」
「…ありがとうございます。1年以上、お世話になりました。」
彼は家を出ていってしまった。扉が閉まったのを確認して、彼の部屋だった場所へ向かう。
彼の部屋は元々置いてあるものも少なかったから、あまり部屋が閑散としてしまった、という印象はあまり無い。でも、もう誰もこの部屋を使うことはないと思うと…少し寂しい。
「あの子は責任を感じているのね。レイと深く接したから…。」
自分の部屋に戻って、加持から受け取ったデータを、もう一度目を通す。
リリス、ヨリシロ、綾波レイ…そして、セカンドインパクトとアダム。そして、それら全てに関係している秘密結社ゼーレ。
裏で何が起きているのか、段々はっきりとしてきた。人類補完計画……これが真実なら、私たちは今まで、これの為だけに都合のいい道具として使われてきたのね。
この事実は、いずれ関係者全員に話さなければならない。でも、今は―使徒を倒すことが先。まだ、最後の一体が残っているのだから…。
-渚カヲル-
「ねえ、あの二人どうしたの?ここ最近、ずっとあんな感じじゃないか。」
「それは…ごめん、言わないでくれって、エイジ君が。」
「何だか、二人とも別人みたいだ…。」
エイジ君も綾波さんも、二人とも別人のようになってしまった。エイジ君は頬杖をついてずっと外を見ているし、綾波さんはずっと本を読んでいて、二人が話すことも、一緒にいることもない。何があったかはやはり詳しくは聞き出せていないけれど、やはりエイジ君の精神状態はだいぶ磨耗してきている。…もうそろそろ、僕が本来の役割を始める頃合いか。
「カヲル君?どうしたの?」
「ん、いや。何でもないよ、シンジ君。」
どのような分岐を辿るのか、最早僕にはわからない。
-影嶋エイジ-
「あらエイジ君、学校はどうしたの?」
「いつもの早退ですよ。どっちみち午後にはフィールド偏向のホバー実験をやる予定だったんでしょう?今からやりましょう。」
「エイジ君、学校はきちんと行くべきよ。」
「もう、俺にはここしかないですから…。」
レイの願いを叶えてやる事ができるのは、もうここでだけ…。他の場所では、最早不可能になってしまった。
「…わかったわ。1300から始めましょう。」
「了解。」
[参号機F型、起動!]
[エイジ君、これからジオフロントに射出するからそこでホバー機動を試してみて。]
「了解。」
俺は紅い装甲を纏った参号機F型と一体化する。…やはり初号機、弐号機と同規格なだけあって、参号機でも様になっている。
この射出されるときのGがかかる感覚が心地いい。…段々と俺からも失われていく感覚を、唯一単独で取り戻せる時だ。もう、レイとの絆を感じれるのも…
ジオフロントに出ると、F型装備の足の機能を使い、緑豊かな所をホバーを開始する。…が、自分で制御できない分、ぎこちなくなるしおっかない。
[乗り心地はどう?]
「正直おっかなびっくりです。…ちっとばかし自分でやってみます。」
[自分で?]
俺はホバー機能を止め、今のホバー機動を自分で再現してみる。自分で動かす分には次にどのような動作が入るのかを理解しているため、安定した機動になっている。
[すごい、私たちが頑張って作ったホバーのシステムより滑らかな動き…。]
[今のデータ、後で反映させるわよ。どんなデータも取りこぼさないようにね。]
[了解。]
とりあえず、今回も満足いただけたようで何よ…何だ、今の振動?
「今の振動、聞こえましたか?」
[ええ。第3ケージ…まさか!!]
その言葉と共に、一体のエヴァンゲリオンがジオフロントに射出される。こいつは…俺とほぼ同じ機体。装甲色が銀色というだけだ。
「アークシステム接続。コア、あいつの機体コードを教えてくれ。」
-あれは四号機よ。-
「四号機なら消滅したんじゃないのか?アメリカの第二支部と一緒にさ。」
-剣崎キョウヤがどさくさに紛れてここに運んでいたらしいわ。今はダミーを使って、意図的に暴走をさせているみたい。-
「流石に人の悪意までは読み取れなかった、と…。」
-あなたたちと無関係な人が起こすのは流石に面倒を見きれないわ。-
「わかってる。人間同士、限界あるもんな。……さっさと攻撃指示をくれ、赤木博士!」
[それはリツコじゃなくて私の仕事よ、エイジ君。]
「葛城二佐ですか。だいたいは聞きました、詳しい状況説明を。」
[了解。現在、四号機はダミープラグで動いているわ。よってパイロットはいない、無人よ。そんでさ、ここからがちょーっちワガママを命令されたんだけど…なるべく壊すな、だって。あんにゃろ、こちとら予定外の仕事に気が立ってるってのに…。]
「了解、傷つけずに無力化すればいいんですね。…四号機コントロールジャック。」
四号機とシンクロし、プラグ排出コードを出す。…無反応。それにしてもダミーから本部を破壊しろって機械音声で永遠に聞かされているような気分だ。
「さっきから耳障りなんだよ…ダミーごときがさ。」
開始数分で命令を破るが致し方ない。最も穏便にやるやり方が不可能だったのだから。無理矢理背面のハッチをこじ開け、プラグを無理矢理引き抜く。
「うっ!!さ、流石に体験したことない痛みだな…。」
多分、人間が脊髄かその中の神経を無理矢理引っこ抜かれる痛みってこういうことなのだろう。二度と体験したくない。真っ赤なダミープラグを右手に持ち、握りつぶして破壊した。
[四号機、プラグ排出確認。]
[四号機の操作権、エイジ君のまま変化無し。スーツの異常も認められません。]
「後はこっちでどうにかしますから、適当なエレベータ用意しといてください。」
[了解、お疲れさま。]
[エイジ君覚えときなさい。]
「ありがとうございます。ありゃ不可抗力ですよ…。」
-惣流・アスカ・ラングレー-
「ただ…いま。」
「お帰りなさい、レイ。」
「やっぱり、慣れないわ…。」
「これから少しずつ慣れればいいのよ。」
レイ、本当に別人のような振る舞いね。エイジがあれだけ冷たく接するのも…わかる気がする。でも、あたしもシンジも、またこの家でみんなで過ごしたいって、そう思ってる。それならやることは一つよね。
「レイ、ちょっとあたしの部屋に来て。シンジ!あんたもよ!」
「?わかったわ。」
(少しだけ待って!)
「…それで、レイはエイジのこと、どう思ってるわけ?」
「どう、って何?」
「そりゃあ、今でも好きかどうかよ。エイジだって、本当はレイと前のように接したいのに、無理して突き放すようなことしてるだけかもしれないし。」
「多分、それは正しいわ、彼の目、辛そうにしていたから…。」
「エイジ君…。」
「それなら、後はレイが自分の気持ちに素直になって、エイジにアタックすればいいのよ。」
「私の、気持ち…。私の、素直な…」
レイは考え込んでしまう。あたしももう少し早くこちらに来ていたら、こんなレイを見ていたのかもしれないわ…。
「綾波、そんな考え込むことじゃないよ。」
シンジの言葉にも耳を傾けない。よほど考え込んでいるのね。そんなことを考えていると、レイは立ち上がって、部屋を出ようとする。
「レイ、どこへ行くの?」
「私自身を、知りに行くわ。」
-綾波レイ-
「アークシステム接続。」
-こんにちは、綾波レイ。こういう形で来るのは始めてかしら。-
「そうね。」
-メディテーションをしに来たんでしょう?いいわ、やってあげる。-
「メディテーション開始。」
その言葉と共に、私は海に沈んでいく。
周囲に何もない海を、私はただ漂っている。海上の太陽に照らされて海中の光が踊るが、それ以外に何もない。
段々、私自身が溶けていくような、そんな感覚がする。…誰か、いる。そこまで泳いでいくと、『私』に出会う。
「あなた、誰?」
『私はあなた。あなたの前に生きていたあなたよ。そして、私はあなた自身。失ってしまったあなた自身よ。』
「いいえ。私はあなたではないわ。私があなたなら、影嶋くんはあんな態度は取らないもの。」
『それは、あなたが感情を理解していないだけ。感情を知らないから、知識だけで物事を見ようとする。それだから、相手の感情を機械的に理解しようとして失敗するの。』
「それじゃあ、どうすればいいの?」
『お話をすればいいのよ。エイ君は必ず応じてくれるわ。後は、あなたが私を受け入れてくれれば、私は自然に同化できるの。それまで、私とあなたはどちらかしか出てこれない。そして私は、クロッシングでしか彼に語りかけれないわ。あなたが少しでも理解してくれるその時まで、私は眠るわ。おやすみなさい…。』
「待って!まだ聞きたい事…」
意識がプラグ内に引き戻される。
「エイジ君、どこにいるの?」
-ネルフの404号室。彼はそこで眠っているわ。-
「ありがとう。」
プラグから出て、着替えて彼の元に向かう。
-影嶋エイジ-
とんでもねぇハプニングはあったけれど、ひとまず午後の実験はホバーだけだったためこれで俺の用事は終わりだ。休憩室で味のしない飲み物を飲んでいると、日向さんと青葉さんが入ってくる。
「あ、エイジ君。さっきはお疲れさま。」
「相変わらず鮮やかな戦闘だったよ。」
「ありがとうございます。」
「でもさ…あんまり無理するなよ。最近は学校もそっちのけでここで実験の毎日らしいじゃないか。食堂にも殆ど顔を見せないって。ちゃんとご飯食べてるのかい?」
「…わざわざ気にしてくれてるんですね、俺の事。」
「そりゃあね。パイロットの前に、一人の子供だしさ。」
「そうだ、今度食堂でデュオしないか?たまには息抜きも必要だよ。」
「そうですね…青葉さん、その話乗りました。」
「よっしゃ!それじゃ、後で俺の部屋来てよ。楽譜渡すからさ。」
…何だか、久しぶりにこんな会話をした気がする。
「二人ともありがとうございます。俺だって限界は把握してますから、大丈夫です。それじゃ、俺はこれで。少し眠ってきます。」
自然な笑いが、久々にできていた。
…口の中に、何かが入ってくる。その感触に飛び起きると、レイの顔が目の前にあった。
「んん!?……何のつもりだ、三人目。」
「わからないけど…寝顔を見たら、そうしたくなったの。」
「はァ…。」
ため息を吐きながら俺は電気をつける。まだ体はだるいままだ。2時間くらい寝ればいいと思ってたけど、こりゃ思った以上に体に負担かかってるな。
「部屋のロックは…ミッちゃんが外したんだな?用件は何だ。」
「話を…しに来たの。」
「何のだ?」
「エイジ君は、私をどう思っているのか。」
まさか、段々と昔の記憶に影響され始めているのか?いや…まさか。
「俺がお前を、ねぇ。正直、今でも存在を許せないよ。お前の存在を、レイがどう思っているのかは知ってる。レイ自身もあまり前向きには考えちゃなかった。でもな…お前も知ってると思うけど、お前の存在はレイの望みでもあるんだ。」
「え?」
「レイが死ぬとき、俺に二つの我儘を言った。一つは『私の帰る場所を守って欲しい』。二つ目は……『三人目の存在を認めてやれ』って話だ。」
「確かにそれは記憶にあるわ。でも、それならどうして、私を避けるの?」
「人としての感情を制御しきれないからだ。遠慮のない言い方をさせてもらうけれど、死人と全く同じ顔の、中身が別物の人間がそこらを歩いてる。その上その死んだヤツの代わりをしようなんざ…誰でも不快感は出るさ。俺の目の前でお前が起きてきていたのなら、レイが受け入れてくれるってはっきりと言ってくれたのなら…話は変わってたと思う。」
「…………。」
-綾波レイ-
エイジ君の言っていることは真っ当な話だ。私が望まずにこの肉体を手に入れようと、エイジ君があの場に居なかった、それだけで全ての説明がついてしまう。
彼は私を認めたくないのね。この、心が欠け落ちた私を。
彼も、昔見た碇指令の目と同じ。目線はこちらを向いているのに、見ているものは私自身じゃない。
「後悔したろ、この話聞いてさ。…それでいいんだ。」
「どういうこと?」
「もう、俺だけを追っかけるのはやめてくれ。お前はもっと広い世界…俺以外の人間、同居してる人以外の人間、ネルフ関係者以外の人間、学校以外の人間…そんな人と触れあうんだ。その先に、お前の幸福がある。」
「私の知らない人との繋がり…。」
「そうだ。道は示した、後はお前がどう理解して、認識するかだ。…最後に、俺からの考え方を教えるからさ、手を出して。」
私は恐る恐る手を差し出すと、彼は優しく手を握る。彼の目が青く光り、手が結晶で覆われる。彼との短いクロッシングの後、私は彼の考え方を教えてもらった。
その時の彼の目だけは、私を優しく見つめていた。
-影嶋エイジ-
「じゃあな。」
「…ええ。」
長いため息を吐く。猫を被るのは得意な筈だったのに、こんなに疲れてる。
レイには申し訳ないけれど、これが俺の限界だ。本当は、俺は今すぐにでもあの三人目をぶっ壊したい。存在を否定したい。もう、こんな負の連鎖を断ち切りたい。
俺も、レイの後を追いたいくらいだ。
でも、それはできない。俺にはエヴァンゲリオンという力がある。まだ最後の使徒が残っている以上、まだ…俺の望みは果たせない。
-綾波レイ-
私は昔住んでいたマンションの402号室に来ている。最期を二人きりで過ごしたくて、秘密にしながら中を改装していた部屋。
中に入ると、昔と部屋の間取りは同じだけれど多くの家具が揃えられている。一番変わったのは、壁紙がコンクリートから青のチェックになった所だろう。
周囲を見回すと、私が置いた記憶のないものがある。引き出しの上に、写真が二枚と小さい箱が一つ。写真は同居してる6人が全員で撮っている写真と、二人目がエイジ君とピアノを弾いている写真。二人目とのツーショットを見ていると、段々と黒い感情が私の中に沸き出てくる。彼は私を見ていない。ずっと、二人目の私しか見ていない。何故?
私自身を、今の私を見てはくれないんだ。
そう思った瞬間、私は写真を床に叩きつけていた。ガラスが砕け、枠も壊れてあたりに散乱する。裏の蓋は外れて、写真の裏に書かれている何かを暴く。写真を取り上げると、短い文が書いてあった。
“俺は、どんな姿になってもレイを愛してる。”
写真の上に透明な液体が落ちる。頬を触ると、それは目から流れたものだった。
「涙…何故、私は泣いているの…?」
こんなに複雑に絡み合った感情を、私は整理することができなかった。
-葛城ミサト-
やーっと事後処理が半分終わった…。ったくよー、なーにがダミーよ、四号機よ。実験素材とか言って第3ケージを封鎖したと思ったらあんなモノを暴れさせて…。しかも各国は秘密裏に13号機までの量産エヴァの建造を開始って…明らかに裏があるわね。それに風の噂だけど、LCLがプラグ3本分盗まれたとかいう訳のわからない話も聞いた。どうなってるのよほんと…。
「ミサト、今いいかしら。」
「何、リツコ。まさか四号機を壊した責任を私に擦り付ける気じゃあないでしょうね?アンタも共犯だって聞いたわよ?」
「そうじゃないわ。近いうちに、フィフスが来る事になったわ。」
「…零号機が使えなくなって、エイジ君もエヴァでの戦闘に最初から参加できなくて、四号機って空席もあって、タイミングが良過ぎじゃないの?」
「委員会が直に送り込んできた子よ。データ見る?」
「勿論。…にしても、レイと四号機の組み合わせじゃあダメなわけ?」
「あの子は今、だいぶシンクロ率が落ちているわ。それだったら、シンクロ率が高い代打の方が役に立つわよ。」
「そんの言い方。わーったわよ、いつ来るの?」
「明日にでも。彼はシンジ君たちの同級生ですもの。」
「え…?」
私は慌ててデータを見る。彼は何度か家にも来て、顔を見知った子だった。
「フィフスが…渚くん…。」
-影嶋エイジ-
20時を過ぎて、また俺は目覚めた。とりあえず青葉さんとこ行って楽譜を貰った後は、少し外の空気を吸いたくなって地上に出た。ふらふらと散歩していると、あまり聞きたくない声が聞こえる。
「やっほー、こんな夜に一人で散歩かにゃ?」
「お前は…ちょくちょく俺に絡んでくる古い歌歌う逆ナン女か。」
「ひどくない?私にだってちゃんと名前が…」
「最初に名乗らないお前が悪い。」
「あはは…ばっさり行くね…。ごほん!今日は話があ」
「知らねぇよ。」
俺はこの女の横を通りすぎようとする。ったく、またダル絡みかよ…。
「あ、ちょっと!君のお父さんが話をしたいってーのに!」
「何!?」
「うわ、引くくらいすごい勢い…。」
「うるせぇ!親父が、どこにいるって!?」
「私についてくればわかるわよん。」
俺は「真希波マリ」と名乗った女の後についていく。箱根強羅公園のクラフトハウスの奥へ、彼女は青いIDを提示して先に進む。地下にはエヴァのパーツらしきもの、武装らしきもの、支援用の人型兵器らしきものが並んでいる。
「この兵器は…?」
「来るべき戦争に備えて、なんつって。さ、もうすぐだよ。」
戦争…パッと思い付く相手はゼーレだ。あいつらは補完計画とかいう不明なものを進めている筈。戦争って言い方が引っ掛かるけど。
俺は案内された部屋に入るように促される。入ると、そこには35くらいの、癖っ毛の男が机に向かって座っている。背面のモニターには、青い文字でWILLEというロゴが表示されていた。
「ヴィレ…。」
「やっほー大佐。影嶋中佐を連れてきたよ~。」
「ありがとう、真希波君。…さて、初めまして、影嶋エイジ君。私は
「昔の俺の、親父…。」
「お前には、本当に辛い思いをさせてしまっている。今更になってしまったが、本当に申し訳ない。こんな謝罪の言葉を言ったところで、何にもならないだろうが。」
「ああ、そうだよ…!何で俺なんだ!!いや、何で俺だけに重責を背負わせなかった!!親父にならそれができた筈だろ!!」
「それでは本質の解決にならないんだ。確かに、お前にはそれだけの事をできる資質はある。だけどな光也、それでは結局お前がただ破滅してしまうだけだ。そんな事、私にはさせられない。」
「それは親父の勝手な都合だろ…!」
「ああ。それに関しては否定をしない。だが、お前が知っていると不都合な事もあった。」
「不都合?」
「お前は本来、これから…いや、今まで起きてきた全てを知っている筈だった。その記憶を消したのは私だ。」
「な…!?俺がこの事を知ってたって…!どういうことだ親父!!」
「光也、心して聞け。お前はこの世界に来てから、これから起こる全てを、しかも数パターン知っていた。ネルフとゼーレ、キール・ローレンツのやりたい補完計画、碇ゲンドウのやりたい補完計画。それらを関係者から見れば異常な程深く理解していた。
それを知った上でお前をNERVに送り出すと、お前の選択は狭くなる。未来を知っているから、不都合なものを必ず回避しようとする。元々多くの選択がある筈なのに、知識に固執してしまい選択を狭めてしまう。だから、私はあえて記憶を消した。選択を残すために。」
「ふ……ふざけんな!!!!」
フィールドを首に引っ掻けて展開し、親父を引き寄せて襟元を掴む。机が派手な音を立てて転がり、上に置いてあった書類が散乱する。
「大佐!!」
「真希波君、大丈夫だ。」
「んな勝手な都合でよくも俺の記憶を消しやがったな!!!その知識があればレイを死なせる事は無かった!!それを親父は…どうしてだ!!」
「光也…私はな、お前に可能性を見ている。どの分岐を取っても行き先がほぼ決まってしまっている、この世界の滅びを防ぐ為の。
それが私たちWILLEのエゴだということも理解している。本当に…申し訳ない。」
俺は歯軋りをして、親父を睨み付けることしかできなかった。何かを言おうとするのに、頭の中で感情がぐちゃぐちゃになり、言葉が出てこない。
「……お前がそこまで言うのなら、一つだけ情報をやろう。最後のシ者は渚カヲルだ。」
な…あいつが…
「カヲルが……使徒…だって…?」
「そうだ。ここで最後の分岐が始まる。最後のシ者はタブリスという名で、アダム由来のエヴァンゲリオン…つまり弐号機か参号機、若しくは四号機が乗っ取られ、メインシャフトを降下して直接リリスに攻め込むつもりだ。
…お前が示した選択肢は2つある。
碇シンジにタブリスを殲滅させるか、それともタブリスを説得して、強力な戦力をNERVに加えるかだ。
私から教えられる事はここまでだ。後はお前自身が選べ、光也。」
俺はただ呆然として、親父から離れていくことしかできなかった。
「聞いて後悔したか、光也。」
「…いや、俺は事実は事実として受け入れるさ。もう、覚悟は決まった。ありがとう、親父。」
「また…ゆっくり話でもしよう。こちらに来てからの事も、お前が大学に行って一人暮らしを始めた時の事も、な。」
「そうだな。そこまで生きてりゃの話だけど。」
「……本当に、すまない。」
「全て終わったら…親父の謝罪を聞くよ。じゃあな、親父。」
「ああ、光也。」