ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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RE47:人間

「どうして…どうしてカヲル君がフィフスなのさ?」

「どうして、と言われてもねぇ…。」

「もう、僕の学校の人が巻き添えになって欲しくないのに…。」

「仕方ないよ。仮に僕じゃなくても、君の学校の誰かだったのかもしれないのだから。」

「みんなそう言うけど、どうしても僕は納得できないよ。」

「…仕方ないね。ま、これからもよろしく、シンジ君。」

「うん、よろしく…。」

 

「にしても、選ばれたのがアンタとはねぇ、渚。まあケンスケじゃなかっただけ百万倍マシだったと思うけど。」

「それは僕も思う。」

「俺も同意だ。アイツにチョロチョロされたらたまったもんじゃない。」

 

「はは。それじゃ、プラグルーム行こうか。」

 

 

親父はカヲルが最後の使徒だと言っていた。それが白か黒かはシンクロテストで一撃だろう。部屋には欠番になった00が排され、01、02、03、04が並べて配置されている。俺はアークシステムに接続して、他のメンバーのシンクロ率を確認する。

 

[このデータに間違いはないな?]

[はい、全システムは正常に作動しています。]

[MAGIによるデータ誤差も認められません。まさか、これって…]

[エイジ君の再来、ね。]

[でも…彼はここでは数字が下がる筈なのに、カヲル君は高い数値を保っています。どういうことなの…?前例から見ても、あり得ないです。]

[でもこれは事実なのよ。まず事実を受け止めてから、原因を探ってみて。]

 

やはり、カヲルは使徒と見て間違いないな。この9割近いシンクロ率…人間が出すにもシンジやアスカのように長期間乗り続けないと出せない数値だ。

 

-でも、やっぱりみんなには言い出せないの?-

 

「そらそうだ。すぐに受け入れられないだろうし、何より俺は―」

 

-使徒が憎い?-

 

「…ああ。」

 

 

 

 

 

-惣流・アスカ・ラングレー-

 

定期シンクロテストの帰り道、あたしはレイに尋ねる。

 

「あの後、どうだった?エイジから何か話は聞けた?」

「エイジ君、もう自分だけを見るのはやめろって…。それなのに、エイジ君はね、二人目の写真の裏に「どんな姿になっても愛してる」って書いてあったわ。私、彼の考えていることがわからない。どうして私をそこまで避けるの?」

「…わかったわ。」

「アスカ、どこに行くの?」

「決まってるわ、エイジの所よ!先に帰ってて!」

 

急いで本部に戻った。アイツを一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。

 

 

エイジの部屋を聞いて、インターホンを連打する。反応無し。今度はドアを何度もぶっ叩く。…これも反応無し。仕方ないわね、強硬手段よ。

 

「ミチヨ、聞こえる?エイジの部屋のロックを解除して。」

 

-え~…みんなどうしてクロッシングを悪用ばっかするのー?-

 

「いいから早く!!」

 

-怖いよアスカぁ…。-

 

ドアのロックが解除され、あたしは部屋に押し入る。アイツは呑気にヘッドホンつけてピアノなんて弾いてる。

 

「何だ何だ!?今度はアスカが俺の部屋に押し入ってきやがって。どういうつもりだよ?」

 

「こ…このバカエイジ!!レイがどれだけ悲しんでると思ってるの!?」

「またその話かよ…。」

「またって…あんたねぇ!!!」

 

あたしは抑えきれずにエイジに殴りかかる。でもそれはATフィールドによって防がれる。

 

「ATフィールド!?本当にアンタ…!」

「もう、首を突っ込んでこないでくれ。放っといてくれよ…。」

「アンタが!そーやって!閉じ籠ってる限りあたしは首を突っ込み続けるわ!!」

「何をそこまでアツくなってんだよ、勘弁してくれ。」

 

エイジの関わりたくなさそうな目が余計に苛つかせる。

 

「こ、この…!じゃあ率直に訊くわ!どうしてレイに本当の事を、本心を言わないのよ!!」

「っ!!何度言えばわかるんだ!!アイツはレイじゃねぇ、形だけそっくりの偽物だって!!」

「じゃああの子の変化も受け入れないつもり!?」

「あんなもの、やってるのはオウムと一緒だ!!過去の真似事をしてるだけだ!!あんな大人の都合で造られた人形…!」

 

オウム…真似事…人形……ですって?

 

「今…レイの事を人形って言ったわね!?それはエイジが一番言っちゃいけない事よ!!アンタがレイは人形じゃないって言ったんじゃない!!」

 

「何度言わせればわかるんだ!!レイと三人目は別人だ!!」

 

「アンタが勝手にそう思ってるだけでしょ!!」

 

「俺は目の前の事実を受け入れてるだけだ!!お前のように何でもかんでも受け入れられるような、そんな余裕は俺には無いんだよ!!

お前らの都合を押し付けないでくれ!!レイは俺の目の前で自爆して、零号機のプラグの中で死んだんだ!!その事実を受け入れるだけで精一杯だってのに、これ以上俺を攻撃しないでくれ!!お前らの方こそレイの死を受け入れてくれよ、頼むから!!」

 

頭を抱えて叫ぶエイジにハッとさせられる。レイは…私たちが知ってるレイは…もういない。でも、そんなの…

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

「そんな事、あたしらは一言も、何も知らされてなかったのよ…。アンタもレイも病院にいて、何とか治療を受けてるって、そう聞かされてたのよ…?それなのに、どうやって知ればいいのよ!!バカ!!!」

 

アスカは捨て台詞を吐いて、俺の部屋から出て行ってしまった。

…もう、こんな口論も疲れてきた。レイ…お前が居てくれたら、こんな言葉にしきれない感情も全て聞き入れてくれるのかな。もう俺は…

 

そうだ。タブリスが攻撃を始めたとき、参号機を動かすように仕向けてそのままドグマのリリスもろとも自爆すれば…全ての根元は消える。

もう、全部終わりにしよう。だからせめて、目の前の約束だけは―

 

俺はもう一度ヘッドホンを身に付け、ピアノに向き合った。

 

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

昨日僕らより遅く帰ってきたアスカは、結局何を話していたのか一切教えてくれなかった。でも…彼女の部屋から聞こえる泣き声が、何となく内容を察するものだった。

 

「僕らの知ってる綾波は、もう…。」

 

多分、みんなあの時に全員が気付いていた筈だったんだ。でも、僕らはそれを否定した。だからエイジ君は余計に辛かったんだ。僕らは、それをわからないでいたから…

 

「シンジ君、どうしたんだい?」

「あ…ごめん、ちょっと考え事を。」

「どんなこと?」

「知らず知らずの内に、友達を傷つけちゃってたみたいなんだ。それで、どう謝ろうかって。」

「それは仕方ないさ。人というのは完全に解り合うことはほぼできないからね。シンジ君みたいに自覚できて、謝ろうと思えるのが凄いくらいさ。

なら、きちんと会話しないとね。人は会話で相互理解を深めるんだから。」

「…そうだね。ありがとうカヲル君。」

「このくらいならお安いご用さ。さ、訓練をしようか。」

 

 

午前の訓練を終え、僕は着替えて食堂に向かうと、途中で他の職員の話し声が聞こえてくる。

 

「なあ、聞いたか?青葉のヤツ、参号機パイロットとセッションやるんだってさ。」

「ああ、それも最近の曲だろ?あれ俺も好きなんだよねぇ~。」

 

「エイジ君が、青葉さんと…?」

 

急いで向かうと、丁度演奏が始まった時だった。二人の演奏は迫力があって、でも互いに音を消し合わない、とても心地いいバランスの音量に軽快なリズム…。何より、エイジ君の顔がとても楽しそうだった。時おり青葉さんと目を合わせてリズムを整える時も、二人とも心から楽しそうにしている。久々にそんな顔を見れて、僕はほっとした。

 

演奏が終わると、集まった大勢の人から拍手が飛ぶ。エイジ君と青葉さんはハイタッチをしていた。

 

「よっしゃ、完璧な情熱大陸!ありがとうエイジ君!」

「最高でした、ありがとうございます、青葉さん。」

 

「ねぇエイジ君、アンコール頼んでもいい?」

「伊吹さん!?」

「お、いいねぇ!」

「アンコール!アンコール!」

 

「それじゃあ…俺の好きな曲を。」

 

エイジ君は座り直し、曲を弾き始める。今度は物悲しい曲調で、まるで何かの歌の伴奏みたいだった。聞いてる方まで切なくなってくる曲だが、途中の少しの間だけ歌っていた。

 

[それでも世界は美しくて…It made me sad. I want to see you, remember again… ]

 

彼が弾き終わると、また拍手が飛ぶ。

 

「何だか切ない曲だったわね~、涙出てきちゃった。」

「凄いなぁエイジ君。色んな曲調をすぐ出せるなんて。」

 

「ありがとうございました。それじゃあ、俺はこれで失礼します。」

 

「訓練頑張ってね!」

 

彼はその言葉にお辞儀で返すと、反対側の出入り口へと向かっていった。…あ、そうだお昼食べなきゃ。

 

 

 

 

 

-渚カヲル-

 

彼の演奏、僕の心に響くものがあった。…?何かが頬を伝う。これが、涙…。

これを最後に聞けただけで、僕は満足だよ。

食堂を後にして、参号機ケージへ向かう。

 

「時間だ。じゃあ行こうか、アダムの分身。そしてリリンの下僕(しもべ)。」

 

参号機を動かし、僕はメインシャフトを降下していく。

参号機ならば、仮に僕が途中で殺されてもインパクト自体は起こせる可能性は極めて高い。

待っているよ、シンジ君。

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

[エヴァ参号機起動!!]

[どういうこと!?エイジ君は!?]

[参号機ケージにいます!]

 

始まった。これを想定して、予めプラグを刺しておいて正解だった。

 

「ミッちゃん、ここからは俺だけでやる。他のパイロットに邪魔をさせないでくれよ。」

 

-…わかったわ。-

 

プラグスーツに着替えた俺もATフィールドを使ってゆっくり降下し、参号機の元に向かう。

 

「あれ、君が先とは…何が起こるかわからないものだね、エイジ君。」

 

「参号機、プラグ排出。」

 

俺の声と共にプラグが背中から露出し、ハッチが開く。その中に入り、参号機との一体化を終える。

 

「な!?アダムの分身を、僕が操ることができない…!?」

「操作権奪取。…ずっと俺らの近くにいて何のつもりだったんだ、タブリス。」

「僕はゼーレの命で、君らの監視をしていたのさ。元々僕には自由なんてものはないからね。」

「そうか。それならお前を躊躇いなく殺す理由ができたな。」

 

俺は使徒にライフルを向ける。弾は勿論アンチAT弾。前回の戦闘で、その効力は実証済み。人間サイズなら当てれば一撃で終わる。だけど、今はできない。そもそも撃ち殺す為にこれを持ち出した訳じゃないから。

 

「君が綾波レイを失って、生きる意味を失っているのは理解しているよ。でも、『それでも』と抗うのが君じゃなかったのかい?それに、今の君は僕とほぼ同質の存在だ。わざわざエヴァンゲリオンを使う事はないんじゃないか?」

「それは理解じゃなくて個人の憶測ってヤツだ、タブリス。それにな、エヴァンゲリオンは俺とレイの間に残った最後の絆なんだ。お前のような人間モドキには到底理解できないだろうけどな。」

 

[エイジ君待って!]

「シンジ?」

 

上空からワイヤーに足をかけて降下してくる初号機。アイツ、俺だけでやるつったのに…。

 

 

 

 

 

-碇シンジ-

 

「どうして!?ロックが解除されない!?」

 

-シンジ、聞こえる?-

 

「その声はミチヨちゃん!?どうしてロックを解除してくれないの!?」

 

-それがエイジの望み。でも、私は彼の人形じゃない。あなたの意思によって、私はロックを外すかどうかを決めるわ。

渚カヲルは最後の使徒よ。エイジはそれを一人で倒そうとしているの。-

 

「そんな…カヲル君が、使徒!?」

 

-でも、彼も彼自身の心を持っているわ。魂が私やレイと同質なだけで、基本的には人間のそれよ。…シンジはどうする?使徒としてタブリスを倒す?それとも渚カヲルとして、説得をする?-

 

「僕は…もう二度と、誰も何も失いたくない。ミチヨちゃん、カヲル君と話をさせて。」

 

-わかったわ。行ってらっしゃい。-

 

「初号機出ます!!」

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

「…待っていたよ、シンジ君。」

 

[カヲル君…君は本当に使徒なの?]

「残念ながらね。僕はセカンドインパクトの日に生まれた、最後の使徒なんだ。それをゼーレに拾われて今に至る、って感じかな。さっきまでの話は聞いてたでしょ?」

 

[聞いてたよ…でも、僕にはどうしても、君を討つなんてことは…]

「シンジ、揺らぐな。コイツは使徒だ。現にコイツは参号機を操ってドグマに降りるつもりの動きをしているんだからな。NERVにとっても敵性存在だ。」

 

[エイジ君、どうしてカヲル君を名前で呼ばないの?]

「んなモンわざわざ聞くことじゃないな。化け物に名前なんて必要ない。いや…もっと相応しい名前がある。タブリスっていうね。」

[嘘だ。前までは呼び捨てにするほど仲がよかったのに。どうしてそんな隠すのさ!]

 

「使徒は敵だ。それ以外の理由が必要か?」

 

[やっぱりおかしいよ。前の戦闘からずっと、エイジ君どこかおかしいよ!いつもそうだ!僕にだけは何も話してくれなくて、辛いことは全部エイジ君だけが背負って!そんなに僕が信用できないの!?]

 

「知らなくていいことだってあるんだ。知らない方が幸せなことだって…。」

[僕だって真実から目を背けるのはもうイヤだ!綾波の事だって…!]

「黙れ…レイの事をお前が喋るな!!!」

 

ドグマ最下層に降り立つ俺ら。カヲルは俺らの口論に気圧されて何も喋れていない。

 

「エイジ君、綾波がクローンだって前から知ってたんだよね?知っててアレだけ好きになってたんだ…僕だって同じだよ!カヲル君が使徒であっても、それ以上に僕はカヲル君と親友なんだ!黙って親友が殺される所を見るなんてできない!」

 

「シンジ君…。」

「黙れ…黙れ!人の心に土足で入って、人を殺すような奴の同族なんて死んで当然だ!レイを殺した奴の同胞なんか、生きてる価値なんてねぇ!!そいつらのせいで、また誰かが悲しむ羽目になるんだぞ!!」

 

俺は使徒に銃口を向けて引き金を引くが、咄嗟に使徒を庇った初号機に防がれる。

 

[くっ…!カヲル君逃げて!]

「シンジ君!?何を言ってるんだ!僕は彼の言っている通り使徒なんだよ!?君らに滅ぼしてもらった方が、僕だって―」

[本当にそう思ってるの?]

「え…?そりゃあ、僕だって自由に生きていいのなら―」

「シンジ、どけ!」

 

[絶対にどかない!僕はもう、誰も失いたくない!エイジ君も、カヲル君も、アスカも、綾波も!みんな失いたくないんだ!]

「人間モドキになびかれやがって…!」

「シンジ…君…。」

 

[エイジ君。それでもカヲル君を殺すつもりなら、僕は容赦しないよ。]

「…最後の警告だ。どけ!」

 

「エイジ君の……わからず屋!!!」

「お前が言えたことか、初号機!!!」

 

二発射撃。初号機は左腕で敵を庇う。もう射撃戦は意味をなさないと判断し、俺はライフルを捨て、ナイフを持って敵に迫る。初号機も素手のままで俺の方に突っ込んでくる。

真正面からの組み合い。俺は初号機の膝を正面から蹴り崩し、裏拳で進路から追い払い、敵へと向かう。だが、初号機に背後から組み付かれ妨害される。

 

「行かせない…!」

「…………。」

 

肘鉄で引き剥がし、腹部を蹴っ飛ばして俺から離れさせる。また振り向いて敵の方へ歩こうとすると、今度は足首を掴まれる。

 

「絶対に、カヲル君は……っ!」

「しつこいな…!」

 

初号機の首を掴み、ナイフの柄で何度も頭部を殴り付ける。その途中で数発俺も顔を殴られたが、お構いなしに殴り続けた。初号機の左目が点滅し始めたくらいに初号機を投げ捨て、改めて…

振り向いた瞬間、俺は初号機に肩を掴まれ、思いっきり反転させられながら左頬を殴られる。多分シンジから受ける、初めて本気で殴られた一発だ。

 

「だから…行かせないって…!」

「……もう黙れ。」

 

ATフィールドを操作し、初号機の首を締め上げると初号機は宙に浮いていく。地面に叩きつけた後は、初号機の上に乗り、その首もとにナイフを―

 

-もうやめて!!-

 

な…クロッシング!?誰がここで!?

 

「あ、綾波…?」

「どうして……。」

 

全員が声の発信源を見上げる。そこにはフィールドで浮遊しながら、ずっと俺らの事を見ていた三人目がいた。

 

 

 

 

 

-綾波レイ-

 

最後の使徒が動き出した。私はそれを察知してロッカーから出ようとするけれど、前の自分のロッカーの中を見て固まってしまっていた。

中には綺麗に畳まれた私服の上に、時計とミサンガが置いてある。少し潮のにおいがするそれを、私は今まで忌避していた。でも、今は―

 

「レイ、スーツも着ないでどこに行くの!?」

「見に行くの。」

 

私はそれの二つともを身に着け、メインシャフトを降りて行った。

 

 

-こ、こんなんどうすりゃいいんだ…。ねえ、綾波さんってエイジ君のカノジョなんでしょ?これ、どうにかできないの?-

 

-そんな事、言われても…。-

 

エイジ君、碇くんに攻撃を初めてからずっとクロッシングで呼び掛けているのに、一度も反応してくれない。いや、多分エイジ君は気付けていない。

彼はずっと怒りと憎しみの感情しか渚くんに向けていない。しかも、それを八つ当たりだって解って尚やってる。

どうしてそんな辛い思いをしているの?私の心まで、苦しくなってくる。

どうして自分が一番苦しい思いをしようとしているの?

段々と、その殺意は碇くんに向いていく。

…やめて。

碇くんを殴ったり蹴ったりする度、エイジ君の心がどんどん苦しくなっていく。

もうやめて。

彼の涙が、LCLの中に溶け込んでいく。

 

「もうやめて!!」

 

何故か、私も涙を流していた。胸が痛んだ。

 

「あ、綾波…?」

「どうして……。」

 

私がここにいることに、二人は激しい動揺を見せる。システムを介さずにクロッシングしていることも。

でも、エイジ君には…この気持ちは伝わってくれなかった。今度は私に敵意を向けている。

 

「邪魔をするな三人目!!」

「エイジ君!?それだけはダメだ!!」

 

碇くんが飛び上がり、壁を蹴って私の方へ飛んでくる。

 

「もう…エイ君に辛い思いはして欲しくないのに…。」

 

左手に付けた時計を、ミサンガを、右手で手首ごと握りしめ、祈る。

刹那、碇くんが私を庇い背中に傷を受けるのと同時に、エイジ君からの敵意が止まった。

 

 

 

 

 

-影嶋エイジ-

 

「邪魔をするな三人目!!」

 

俺の邪魔をする奴は、誰であれ…!引き金を引きかけたその瞬間、声が聞こえた。

 

-もう…エイ君に辛い思いはして欲しくないのに…。-

 

スコープに映った三人目の手首に、俺がレイに渡したミサンガがつけられている事に気付いてしまった。まさか―

懐かしい感覚がした。もう彼女が死んでから二度と受け取る事が出来なかったはずの、クロッシングを通して伝わるレイの感覚が。

 

 

 

 

 

だが、引き金を引いてしまった。指が動くのを止めることができなかった。

 

 

 

 

 

間一髪シンジが庇ってレイに当たることはなかった。

でも、俺はその事実と向き合うしかなかった。レイを撃った事を。

俺は…俺はレイを殺そうとしたのか……。

ライフルを構えていた腕はそれを持ったまま下に落ち、俺はただ呆然とした顔で上を見上げるしかなかった。

 

「俺は…何を…。」

 

ライフルを落とし、膝をついて両手を見る。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

違う。俺は…俺はこんなことをしたいんじゃあない…したいんじゃないのに……。

 

[モニター復旧!え…エイジ君のプラグスーツに異常発生!結晶体が…全身に…!]

[エイジ君、もうそれから降りなさい!あなたの命が!!]

 

両腕から、胴体から、足から結晶が生えてくる。俺はまた……約束を守れなかった。

 

もう、終わりにさせてくれ。

 

 

 

 

< Dモード、起動。パイロットは速やかに待避してください。>

 

[エイジ君!?ダメだ!!]

 

もう、俺の存在に意味は無い。

 

-エイジ、何をやっているの!?早く自爆を解除して!!-

 

もう、誰とも関わり合いたくない。

 

< Dモード、解除コードアクセス不能。>

 

いなくなりたい。

 

 

 

-それでも、生きて。-

 

 

 

レイ…それはもう、呪いだよ…。

 

 

 

 

 

-綾波レイ-

 

呪いなんかじゃないわ。だって、私もエイ君もまだ…生きてるんだから。

参号機、エイ君をどうか…守って!

 

<Dモード、解除コード認証。>

 

「止まった…?どうして…。」

 

-やるねぇ、綾波さん。-

 

「私は大したことはしてないわ…。」

 

ただ、『彼女』を私を通して出しただけ。私自身は何もしていない。結局、私は…。

 

 

渚くんの助力もあり、参号機はドグマから引き揚げられた。その中には、全身から結晶体が生えて意識を失ったエイジ君が居た。プラグは排出されず、彼女の願い通りに参号機は彼を守っている。

最早手出しができなくなったそれを置いて、葛城二佐は渚くんと対面する。その後ろには碇くんとアスカが不安そうに見ている。

 

「では、あなたはもうゼーレには…。」

「ええ。シンジ君に、僕の意思で動いていいって教えてもらいましたから。僕もゼーレがしようとしている補完計画の事は知っています。僕にできる範囲で協力させてもらいますね、葛城二佐。」

「ミサトでいいわよ。私はあなたを歓迎するわ、カヲル君。」

 

二人は笑って和解する。その後、葛城二佐は眠った参号機を見上げ、不安そうな表情を見せる。

 

「エイジ君…もうあそこから出るつもりは無いのかしら…。」

 

葛城二佐の疑問に対し、ミチヨがそれに答える。

 

「彼は今、眠っているの。彼は傷つき過ぎたわ、みんなを守るために。

本当はね、エイジは大人として、昔の後悔も当然あったけれど、それでもみんなを守りたかったの。でも、彼の肉体がそれを許さなかった。それでも…自分のできることをやろうって、今まで生きてきたの。

彼はその事を、レイ以外には誰にも言わなかったわ。傷つくのは自分だけでいいって、そう思っていたから。」

 

「バカよ、アイツ…。あたしたちを何だと思ってるのよ…。」

「エイジ君、また回復するよね?また、前みたいにみんなで…」

 

「いいえ。前にも言った通り、もう彼の命は長くないわ。後は…彼の望むままに命が燃え尽きるのを待つだけ。」

 

「そんな…。」

 

「…みんなには悪いけれど、彼の現状以上に、今を取り巻く状況は危ない。僕がゼーレを裏切ったのはすぐにも伝わるはずだ。ロンギヌスの槍も失った今、彼ら老人達はここを直接攻撃して、エヴァを奪取するだろう。彼らの補完計画を成し遂げるために。」

 

「よりによって、最期の敵が人間とはね…。」

 

葛城二佐の言葉に、私たちも渋い顔になってしまう。当然だ、今まで使徒とは戦ってきても、人間同士では戦ったことは殆どない。でも、その中でも渚くんは決意を固めた顔をしていた。

 

「それでも、僕らは戦わなきゃならない。ヒトとしての未来を守らなきゃならないんだから。そうだろう?ミサトさん。」

 

「そうね。情報収集の後に、ここにいる全員には追って作戦を伝えます。ただ、一つだけ言わせて。」

 

「何?ミサト。」

 

「私は、私たちは…あなた達に人を撃てとは命じることは無いわ。それはエイジ君、あなたも同じよ。」

 

参号機を見上げて言葉を続ける葛城二佐の毅然とした顔に、私たちは気圧される。

 

「今はみんな、休んでちょうだい。その時が来るまで、ここはまだ安全よ。」

 

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