シンエヴァの公開日が決まったそうなので来年までに完結させたいです(果てなき欲望)
それは、12月中頃だった。年末に行われる儀式への攻撃の準備がやっと最終段階になった頃、空が赤く染まった。最初は皆もあまり気に留めてはいなかったようだけれど、段々と毒々しく光る赤い空に、皆が不安を募らせていった。
「今日も真っ赤…。何なんだろう、あれ…。」
「アンチATフィールドが薄く、でも確実に地球を覆い始めている証拠ね。」
「赤木博士。」
「もう、時間は無いわね。ミサトが呼んでいたわよ、作戦課の会議室に全員集合させて欲しいって。」
「わかりました。」
葛城二佐からの、作戦の最終要項が伝えられる。細部が変化しているものの、大まかな動きは変化していなかった。出発は24日への日付変更の時。それまでは最終調整と休息を命じられた。
久々の私服に袖を通し、ジオフロントの天井を見ながら座っているとアスカから声をかけられる。
「レイ、一人でどうしたの?」
「ちょっと、考え事。こんなことになるなんて想像できなかったから。」
「あたしもよ。使徒を全部倒した後の事なんで、誰も考えてなかったんじゃないかしら。」
「それ、あるかも。」
互いに顔を見合って笑う。
「あれ、そういえば碇くんは?」
「シンジはやっぱり、色々キテるみたい。シンジのパパもさらわれてるし…。」
「そっか…。」
「ま、これから壮行会をするらしいし、あたしらがしけてちゃしょうがないわよ。レイも来るわよね?」
「もちろん。みんなとの繋がり、大切にしたいし。」
-碇シンジ-
出発の日が近づくにつれ、段々と不安が大きくなっていく。結局、あの後父さんとはほぼ話せないまま連れ去られてしまった。人類を滅ぼすきっかけを作ろうとしていたとか、ゼーレと裏で繋がっていたなんて関係ない。ただ、もう一度話をしたいだけなのに。
「どうしてこんなことに…。」
また、昔のように卑屈になってしまう自分が居る。
「本当にこんな僕がアスカや綾波を、カヲル君を守れるのかな…。」
[守れるさ。]
「どうしてそんな事を言いきれるのさ。」
[自分じゃ気付けないことだってある。シンジ、お前は堅い心を、芯の強さを持ってるよ。カヲルとの戦いの時を思い出せ。]
「あれはただ、友達を失いたくなかっただけで…」
[それであれだけ食らいついたんだ。それだけで十分だよ。シンジには強さがある。迷うことはない。]
「…ありがとう。」
[アス…いや、みんなによろしく言っといてくれ。]
「…?わかったよ。」
[じゃあな、頑張れよ。]
「………ジ…ンジ、シンジ!!!!!」
「わっ!?あ、アスカ?どうしたのさ。」
「どーしたもこーしたもないわよ!さっきからずーっと虚ろな目してうわ言を言ってると思ったら前に崩れ落ちそうになってたのよ!?どうしたのよ一体?」
「んん…よくわからないけど、何だか…エイジ君に励まされた感じがして。よくわからないや。」
「あ…ふふ、案外近くで見てるのかもね。」
「そうかも。『皆によろしく』って言ってたような気がした。」
「そっか…。さ、行きましょ、壮行会やるって。」
「わかった。」
-惣流・アスカ・ラングレー-
「それじゃあ、作戦の成功を祈って…乾杯!」
「「「「「「乾杯!!!!!」」」」」」
壮行会は、ケイタが見つけた飲食店で行った。殆ど客が居ないため、数人の大人も同伴してだいぶ騒ぎあった。いや、多分みんなこう思ってたんだと思う。
「もう、二度とこんなことはできないかもしれない。」
でも、みんなその恐怖と必死に戦って、今ここにいる。
「そういえばさ、この作戦って名前があるの?」
「ムサシ、唐突にどうしたのよ?」
「いや?こういうのには名前がないと引き締まらないっつーかさ。シンジもそう思うだろ?同じ男としてさ!」
「え、ええ?僕はそういうのわからないんだけど…。」
「うっそだろ、それ本当かよ?」
「ねーミサト、何か無いの?ヤシマ作戦って名前もミサトがつけたんでしょ?」
「ごめんね、そんな事を考える余裕がなくて。今はちっとアイデア不足って感じ。」
「だってさ、みんな。」
「それならさ、僕らで名前つけよう?」
「あ、それいいかも!…って言っても、私は何も思い付かないや。」
「何だよマナ、一番乗り気っぽかったのに~。」
「それじゃあさ、『オペレーション・ファイナルウォー』とか…」
「それは直球過ぎじゃない?ムサシ君…。」
「勘弁してくれシンジ…。」
「はーい、それじゃああたしが言うわ!ズバリ、『レコンキスタ』よ!」
「れこんきすたって…何?リツコ。」
「再征服って意味よ。スペインでの昔の戦争のワードね。」
「ちょーっち攻撃的過ぎじゃない?」
「じゃー何がいいってのよ!」
こんな話でバカ騒ぎをしていると、この話ではだんまりだったレイが口を開く。
「それなら、『蒼穹作戦』っていうのはどう?」
「そうきゅう?何それ?」
あたしの問いに対して、カヲルが回答をする。
「蒼穹っていうのは青く澄み渡った空の事だね。」
「もう、あの日からずっと空は赤いまま。だから、取り戻すの。私たちの手で、青い空を。」
「おお、何だか格好いいし、いいんじゃないか?」
「レイ、センスあるわね。よし、それで行くわよ!」
-司城紀代美-
衛さんは今日も遅くまで作業をしている。明日からは部隊に同行するって言っていたのに…。
「衛さん、もうそろそろ切り上げたら?明日からは現場でも動くんでしょ?」
「もう少しやらせてくれ。こんな咎を背負っているんだ、少しでも彼らの役に立たなければ…。」
「私が引き継ぐわ。あなたは休んで。」
「…すまないな、いつも。」
「いいのよ。こういうときこそ協力し合わなきゃ。」
衛さんからラップトップを受け取り、片手でキーを打ちながら確認作業を再開する。
そういえば私が付き合い始めた頃も、こんな風に一度やり通すって決めたことにはテコでも動かなかったかしら。
レイちゃんから話を訊いたときも、光也は無茶ばかりしていたと言ってたわね。衛さんに似て、そういうところは頑固なのも本当に…。
私は光也に何をしてあげれただろうか。こちらに来る前、光也が一人暮らしを始めてから仕事が忙しくなり、電話もロクにかけてやれなかった。そのせいで彼の異変に気付けなかった。こちらに来てからも情報漏洩を防ぐために私たちは光也と接触ができなかったのに…。光也はレイちゃんにこれを遺して、消滅してしまった。…手が震えてくる。雫がキーボードの上に落ちる。
もう、この機体で誰も悲しい思いをして欲しくない。だから…
「だからレイちゃんを守って、参号機。お願い…。」
エヴァンゲリオンは人造人間というだけあり、心というモノがあるのは知っている。だからこんな言葉が自然に出てきたのだろう。だが、改装された黒い機体はその言葉に答えることはなかった。
「あ、紀代美さん。こんな遅くまでお疲れ様です。」
横からレイちゃんの声がする。目元を拭って、彼女に笑顔で応える。
「あら、レイちゃん。こんな遅くにどうしたの?それに今日は壮行会やってるんじゃない?」
「途中で抜けて来ちゃったんです。…すみません、やっぱり出直して」
「ううん、何でもないのよ。もしかして、自分の機体を見に来たの?」
「えっと…はい。」
「それならもうすぐ最終チェックが終わるわよ。それが終わったらお家に送っていってあげる。」
「ありがとうございます…。」
彼女は少し不安そうな顔をしたものの、すぐその視線は参号機へと向かった。この機体も、最早元のエヴァとはだいぶ形が変わってしまった。
胸部は流線型の装甲を新造し、腕部や脚部への追加装甲、背面には大型の展開式スタビライザを装備した。元となったF型とは違い、可動域を損なわない装甲強化と機動力強化によって、単純に装甲を増やした以上の堅牢さと素早さを獲得した。更に各部にジョイントを増設したことによって、従来以上の武装運搬も行える。
「参号機もだいぶ形が変わっちゃいましたね。エイ君がこれを見たら、どう思うんだろう?」
「光也はこういうのは好きだったのよ。多分興奮して喜んだんじゃないかしら。」
「多分そうだと思いますよ。こういう趣味は殆どだしてくれませんでしたけど。」
「そっか…。」
彼女の顔を見ると、必死に泣くのを我慢しているような、そんな顔をしている。
「レイちゃん、どうしたの?」
「その…紀代美さんの笑顔が、無理してる時のエイ君そっくりで…。どうしても、抑えてた心が…」
言い切る前に、彼女の目から涙が流れる。
「無理して笑いながら『何でもない』っていうのが、どうしてもエイ君を思い出して…。ダメだな、私。みんな辛いのに、私ばっかり我儘言って……」
「そんな事はないわ。」
彼女を真正面から強く抱く。
「ずっと気を張る事はないのよ。泣きたいときは、泣いていいの。大人と子供だとか、パイロットだなんて関係ないわ。何でもかんでも飲み込むだなんて、誰にもできないもの。」
「あ……」
彼女の目が揺れ、一気に涙が溢れ出てくる。
レイちゃんは私の胸に顔を埋め、今まで抑えていたであろう感情を吐き出していく。
「私っ…ずっと、寂しかったんです…!私の傍にはいつもエイ君がいて、私を助けてくれて、お話してくれて、存在を認めてくれて…!もう居ないって、わかってるのに……どうしても…私…!」
「レイちゃん…辛かったわね…。」
「いつも何かを奪われるのは私たちなのに、何も奪われてないアスカと碇くんがどうしても……羨ましくて……………憎くて……。こんな気持ち、私自身にぶつけることしか知らなくて………。」
「でも、私には言ってくれたわ。溜め込まずに、全部吐き出していいのよ。私たち大人は、その為にいるんだから。」
ずっと嗚咽を漏らす彼女が落ち着くまで、ずっと強く抱き締めてあげていた。結局私は、子供を死地に立たせることしかできていない。その贖罪は、全て終わってから必ずする。その時に、失ってしまった命を嘆いて泣く。その時まで、泣くのをずっと…ずっと我慢する。そう決めていた筈なのに、また涙が目から流れていった。
-綾波レイ-
私は紀代美さんに、家に帰る前に以前住んでいたマンションに送ってもらった。
部屋に入り、電気をつけると以前と変わらない部屋模様が目の前に広がる。私は引き出しの前に行き、二枚の写真を持ち上げて見つめる。
たった数ヵ月だったけれど、一番平和で、楽しかった頃の思い出。もう、二度と忘れない。
「エイ君。エイ君がここにいるなら、多分私が『もう十分戦った』だとか、『もう戦わないでいい』なんて言っても、それでも戦うつもりなんだよね。どんなにボロボロになっても。」
「私がこのミサンガに何を願ったか、エイ君は知ってるよね。でもエイ君がいなくなっても、これはまだ切れてないの。
私ね、最初はエイ君の後を追うためだけに力を求めてた。もう、自分の居場所も、生きる意味も無いって勝手に思って。それでも、生きててよかったって思える時が来るんじゃないかって、今はそう思うの。」
色々な人と出会った。何度も衝突したけれど、みんなを知ろうと努力した。それでも、一人以外とは完璧に相手の事を知ることはできなくて、その度にまた相手を知ろうと接触をした。
一度は捨ててしまって諦めかけた命だけれど、また命を貰えたのは何か理由があるのだと今は思えている。
「エイ君。私、決着つけてくる。だから、それまで待ってて。」
私とエイ君が写った写真を抜き取る。彼がどんな気持ちで一緒に住んでいたみんなが写った写真を持ち歩いていたか、私は知っている。でも、今の私は彼よりももっと独善的な気持ちでこの写真を持ち歩こうとしている。
ただ、エイ君が最期に見たあの空を取り戻したい。
「行ってくる。見守ってて。」
「あら、短かったわね。いいの?」
「はい。言いたいこと、全部言えましたから。」
「よかった。」
紀代美さんは車を発進させながら、言葉を続ける。
「その写真は…光也とレイちゃんが写ってるのね。二人とも、本当に楽しそう…。」
「ここを離れたときに撮った写真なんです。とても…平和でした。」
「平和……もうそんな言葉、忘れかけていたわ。」
紀代美さんは寂しそうな表情をする。
「私…決めました。養子の件、受けさせてください。」
「……わかったわ。ありがとうね、レイちゃん。但し、条件があるわよ。」
「何ですか?」
「帰ってきたら、敬語を私たちに使わないこと。これだけよ。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「機体の整備は完璧よ。だから絶対に勝って。」
「はい。今日はありがとうございました。おやすみなさい。」
「おやすみ、レイちゃん。」
-葛城ミサト-
「みんな、集まってくれたわね。それじゃあこれからの事を伝えるわ。これより葛城ミサト、伊吹マヤ、日向マコト、司城衛、真希波・マリ他指定メンバーは敵本拠地攻撃隊として、パイロットと共に戦線に参加します。それ以外のメンバーは本部にて待機。エヴァンゲリオンが無い以上、仮に局地的な攻撃が来た際に防衛しきれない可能性が高いわ。その時は本部を自爆してでもリリスとの接触をさせないで。」
「その権限については私が持っている。最終手段を使うときも、全員の生還を信じて指示を出すわ。」
狩谷指令の言葉が終わるのを待って、更に言葉を続ける。
「次は本作戦の目的よ。
今回の遠隔地攻撃戦、『蒼穹作戦』はゼーレが所有している12体の『執行者』全ての殲滅と碇元指令の奪還が目的です。ゼーレの人間、捕虜となっている碇元指令も含め誰も殺してはならないわ。国連は場合によっては発砲を許可しているけれど、彼らも人間よ。復讐に囚われないで、落ち着いて対応して。ヴィレも国連と協力して対人部隊を編成したわ。対人部隊の仕事と、エヴァパイロットの仕事を履き違えないでね。」
やはり、この事態を招いた首謀者が目の前にいたら怒りに飲まれてしまう可能性がある。だから、ここで改めて釘を差しておいた。
「それでは、最後に本作戦の概要・配置の確認をするわ。
最初に国連軍の飽和攻撃で敵の撹乱、この中を空挺降下したあなた達はロンギヌスの槍を用いて敵フィールドを破壊、これを突破。地上に降りた後は初号機から四号機はクロスドッグを展開、00-1から00-3はその真後ろでトリプルドッグを展開し『執行者』を攻撃、これらを殲滅するのよ。」
一呼吸置いて点呼を始める。
「クロスドッグ部隊の点呼をするわ。
初号機、碇シンジ!」
「はい!」
「弐号機、惣流・アスカ・ラングレー!」
「はい!」
「参号機、綾波レイ!」
「はい!」
「四号機、渚カヲル!」
「はい。」
「あなた達は攻撃戦力の要よ。エースとして、責任を果たして。
次はトリプルドッグ部隊。00-1、ムサシ・リー・ストラスバーグ!」
「はい!」
「00-2、霧島マナ!」
「はい!」
「00-3、浅利ケイタ!」
「はい!」
「一度は敵対したあなた達だけれど、今回の協力には本当に感謝しているわ。ありがとう。
出発は明日の午前0時よ。詳細なスケジュールは事前に伝えた通り。それまで本部で待機よ。それでは、最後の会議はこれで解散。出撃に備えて、休んでおいて。」
-葛城ミサト-
「ここに欠けること無く全員が来てくれたこと、本当に感謝します。出発。」
クリスマス・イヴの日、私たちは死海へと向かった。戦力はエヴァンゲリオン7体と予備戦力として未だに動かない8号機にトライデント3体。トライデントは予備戦力といってもエヴァの武装のスペアの運搬が本来の役割だが、果たしてどこまで通じるのかがわからない。何せこのように組織同士での戦闘はみんなが初めてで、基本的に1体のみが出現した使徒戦でも経験したことがない。
作戦の成功率は極めて低い上、使徒との相手以上に生きて帰れるかわからない。でも、それでも全員が逃げずにここに来てくれた。
胸の十字のペンダントを握り締める。この三ヶ月で、大人として出来る限りの準備をしてきた。最後は命令を下すだけになってしまうのが歯痒いが、それでもあの子らに託すしかない。
「パイロット達のバイタルはどう?」
「全員安定しています。攻撃直前だというのに、みんな凄いですね。」
「そうね…。」
「間もなく降下ポイントに到達します。」
「了解。エヴァ及びトライデント全機、起動!」
「エヴァ初号機から四号機、00-1から00-3起動確認!トライデントも稼働状態良好!」
『ごめ~ん、8号機出せそうにないや。まだ起動できない~。』
「了解。起動次第トリプルドッグに合流して。国連軍の攻撃は?」
「たった今開始されました。しかし、全てがフィールドに阻まれているようです。」
「問題ないわ。…これより、蒼穹作戦を開始します!エヴァ全機、降下開始!」
人類の存続をかけた強襲作戦が始まった。
補足
改F型の外見:ファフナー・ノートゥングモデルの胸部や四肢に近い形状へと変更、スタビライザは全機共通でマークエルフ型のものを装備。初号機、四号機はマークフィアー(支援)タイプ、弐号機と参号機はマークエルフ(近接)タイプの役割分担。