ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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最終話です。


55:未 BEYOND 来

―俺の名前はかげし……綾波エイジ。この機体に搭乗する君の名前も顔も俺は知らない。

でも、こいつに乗るという事は使徒に代わる新たな災厄が世界に来ているのだろう。

そんな茨の道を進む事を、本当は俺たちは望まない。でも、君に伝えないといけない事がある―

 

 

「エイジ先輩、出前行ってきます!」

「行ってらっしゃい、アキラ君。カズキ君、カレーどう?」

「ランチまでにはちゃんと間に合いますよ。にしても先輩、本当にここのマスターになってきちゃいましたね。」

「仕方ないよ、キョウスケさんは色々ぶらぶらしちゃう人だから。レイ、もうそろそろ開店にしてもいいよ。」

「わかったわ、エイジ。」

 

レイは扉に掛かっているCLOSEの看板をひっくり返し、OPENにする。それと同時に4人の親子が店の前に来る。

 

「「おばちゃん、こんにちは!!」」

「あら、みんな元気ね。二人もいつも通り、開店時間ぴったり。」

「当たり前じゃない、あの店を独占できるのよ?お昼くらい身内だけで話もしたいし。」

「僕も、ずっと地下にいると体がなまっちゃうからね。地上は少し寒いけど。」

「上がって。いつもの置いてあるから。」

 

4人はレイに続いて店に入る。彼らはいつも通りのカウンター席に座り、料理を待つ。

 

「こんにちは、碇さん。今日も早いですね。」

「こんにちは、カズキさん。」

 

カズキの挨拶に対し、シンジがそれに答えるがアスカは一人足りないと疑問を持った。

 

「あれ、アキラ君は?」

「あいつなら出前ですよ。暫くは戻ってこないと思います。」

「そっか。にしてもカズキ君、まーた料理に名前使われたんだって?人気者め~。」

「キョウスケさんが勝手につけるんですよ。何度もやめてくれって言ったのに。」

 

「おとうさん、おともだちのぶん、ぼくがもってくよ!」

「お、それは頼もしいな。よろしく。」

「わかった!」

 

呆れ顔で言うカズキに苦笑する一同。それを気にしない親子がやりとりをしている中、アスカがカズキに言葉をかける。

 

「にしても、アンタ達も大変ねぇ。今日はクリスマスイヴよ?カズキ君もアキラ君もさ、この時くらい休んでもいいんじゃない?」

「俺たちは平気ですよ。それに働きっぱなしなのはあなたたちもですよね。ずっと地下にいるって聞いてますよ?先輩がけっこう心配してるようでしたから。ですよ―」

 

カズキは言葉を続けようとするが、エイジの姿を見て言葉を止めた。彼は壁に掛けられている一枚の写真を見つめる。

 

「先輩、その写真―」

「やっぱり、みんなここに集まってるんだね。」

 

カズキが言いかけた時、店の扉を開いてくる白髪の青年。彼は4人を懐かしむように見ていた。彼はコートを脱ぎながら近くのテーブルへと向かう。

 

「カヲル君!いつ日本に戻って来てたの?」

「ちょうど今朝かな。海外の仕事が片付いたから戻ってきたんだ。それに……明日、やるんでしょ?連絡はきちんと見たよ。」

 

カヲルの最後の言葉に、カズキ以外の全員が反応する。エイジは8人が写っている写真を見つめながら、右手を握り締める。彼は振り向くと、店の奥でじゃれあっている3人の子を見つめていた。

 

『――さて、かの蒼穹作戦から早10年以上ですが、その後の関係者の行方はどうなっているのでしょうか?』

『それは政府側からも完全に秘匿されており、サードインパクトの首謀者も、私達を救ってくれた英雄に関しても、何も情報が開示されていません。噂では英雄たちは当時15~16歳であったという事や、彼らは8人存在していたなどといったものが言われていますが―』

『—では、ここでCMです。』

 

~やがて来たる日々 未来を両手に掴め まだ見ぬ世界へ Ready to go…~

 

 

 

―君がどんな気持ちでこの機体に乗るかは俺らは知る由はない。でも、これだけは言える。

君を大切に思ってくれる人が居ないなんて事はあり得ない。たとえそれがどのような形であっても、君を必ず見守ってくれている。―

 

 

 

「地下に来るのはいつぶりだろう…高校卒業してからは大学に仕事にで忙しかったからなぁ。」

第三新東京市(ここ)に来ることはあっても、地下に来ることはなかったわよね。」

「お父さん、お母さん。ここは?」

「ジオフロントだよ。父さん達がずっと前に働いてた場所。」

 

レイとエイジは懐かしみながら旧ネルフのゲートをくぐり、目的地へと向かう。彼らのIDは、エイジとレイは特別職員、シンジとアスカは一般職員のものを渡されていた。それは「いざ」という時の為の保険でもあり、彼らが「英雄」と言われている事も助長していた。彼らがこの年で生活していた数年前より館内インフラは整い、露出した長大なエスカレータ等の危険な移動手段も、ある程度は安全性が高まっていた。そんな多少はマシになった通路を進んでいく。目的地に着くと、既にシンジとアスカが子供を連れて、そしてカヲルもそこにいた。

 

「時間ピッタリね。…エイジ、覚悟はできてる?」

「……大丈夫だよ。その為に俺はここに来たんだから。じゃあ、行ってくる。」

 

エイジだけがその場から立ち去る。残った人は展望室から、並んで格納されているエヴァを見下ろす。誰も喋らない静かな空気を崩したのはシンジだった。

 

「エイジ、大丈夫から…。」

「アイツなら平気よ。もしまたいなくなったら、レイが黙ってないしね。」

「勿論よ。……私だって、またエイジにいなくなって欲しくない。あの時やっと再会できて、私達二人ともここまで生きることができたんだから。」

 

大人がこんな話をしていると、子供たちは目を輝かせてエヴァを見下ろす。

 

「わぁ~、あのむらさきいろのロボット、かっこいい~!」

「パパ、ママ。これからおじちゃんはなにをしにいくの?」

「おじちゃんはね…これからあそこにいるロボットを使えなくしに行くんだよ。」

 

彼らが話をしている間も、カヲルはただ黙って自身の器―四号機を見つめていた。

 

 

 

「アークシステム起動確認。疑似的とはいえ、赤木博士もコア無しによくここまで再現を…。これより全エヴァンゲリオンの封印作業を開始する。」

 

エイジは10数年ぶりにプラグスーツを着て、再現されたアークシステムを起動する。起動させる機体はアレスのみ。全能の名を冠した器を彼は動かし、一体一体の前に立っていく。その間にも、彼は以前シンジやアスカと話した事を思い出していた。

 

『本当に初号機と弐号機、両方とも機体を凍結させていいんだな?確かに俺はこの年齢になってもアレスを動かせる。だけど、他の機体はお前ら二人の―』

『もういいんだよ、エイジ。』

『あたし達だって、いつまでも親の近くに居られる訳じゃないしね。いい親離れの機会よ。』

『……そこまで言うのならわかった。二人の機体も凍結対象に入れるよ。でも、止めて欲しくなったら何時でも言って欲しい。そういう所の融通を利かせられるのがアレスだから。』

『エイジも。』

『え?』

『エイジも、絶対に無理しないで。今度は機体に取り込まれないで。』

『わかってるよ、レイ。俺は絶対に健康体で帰ってくる。』

 

 

エイジは機体をシステム越しに動かし、先ずは初号機の前に立つ。アレスが両手を初号機の頬に添えると、柔らかい黄金色の光と共に初号機は足先から石化していく。完全に石化するのに時間はそうかからなかったが、それでも相当な時間がかかったように誰もが錯覚していた。

静かに、けれども確かに一体一体を石化させ、封印をしていく。その作業をしていた怜央の表情は、どの機体の時も曇ったものだった。

 

二人の母親の魂が残ったままの機体を封印する事。自身の手足になってくれていた機体を封印する事。皆との絆の一つを、自身の手で封印する事。

 

彼はその事を直前になっても抵抗に感じていた。だが、この機体たち―エヴァンゲリオンは本来、この世界にあってはならない兵器だ。これを使うだけで世界を壊すことだってできる。エヴァとはそれほどの力を持ったものだ。普通ならば、蒼穹作戦が終わってから今まで機体が封印されなかった期間、どの国からも文句を言われなかったことの方が驚くべきことだろう。

それはこの日本から英雄が生まれた事が大きな影響を与えているとは思われるが、そういう事は管轄でないエイジにとって、どうでもいい事だった。

 

「あの時、リリスからこの命を譲り受けたんだ。今俺がやるべきことは、こいつらの凍結、封印だ。俺はその為に今ここにいる…!」

 

 

 

―人は誰か他の人との繋がりを完全に断ち切ることなんてできない。でも、どうしてもつらい時は、それから逃げ出してもいい、という事だけは教えるよ。そういう時間があってこそ、きちんと他人と向き合う事ができるんだからな。―

 

 

 

「あー!あのロボットがー…」

「いしになっちゃう…。」

「どうしてあんなことしてるの?」

「それはね、私達にとって要らないものなのよ。」

「そうなの?」

「そうだよ。だから、使えなくするんだ。」

 

シンジとアスカはこのように子供たちに言っていると、展望室の扉が開き、3人組が姿を現す。

 

「あちゃ~、もう始まってたか。ムサシ、マナ、ほら早く。」

「もー、仕方ないじゃんケイタ。仕事がどうしても立て込んでたんだから。」

「いや、俺らの機体はこれからっぽいぞ、二人とも。ギリギリセーフだ。」

 

3人はそれぞれが自身の乗っていた機体を見下ろす。彼らにとって、エヴァンゲリオンとは只の兵器だ。4人のような特別な感情を持っているわけではないが、それでもあの激戦を共にした相棒であり、彼らの命を守った器でもあった。ふとマナがカヲルへと近付き、話しかける。

 

「何だい、霧島さん。」

「カヲル君、あの時はごめんなさい。」

「待ってくれ、何の話だい?」

「エイジ君に銃を向けちゃったこと。私達、カヲル君に止められてなければ、エイジ君を撃ってたかもしれないし。あの後俺お礼もごめんなさいも言えないままだったから。」

「僕は君たちの誤解を解いただけだよ。何ならその後僕が撃たれてもおかしくはなかった。それでも僕をヒトとして扱ってくれた君らには、僕の方が感謝しているくらいさ。」

「ありがとう、カヲル君。…あ、私達が乗ってた機体も石になっちゃった。」

「ああ。後は、全能の器だけだ。」

「アレスも封印するの?」

「勿論だ。あの器は途轍もない力を持っている。その力を理解した彼でなければ全ての力を正しく使えない。何せあの器だけで…世界を容易く壊すことができるからね。」

 

 

「う、ぐ…ッ。お前も槍も、そんなに凍結が怖いか。人類を滅ぼそうとした上、レイを傷つけたお前らが…!」

 

エイジは機体からのクロッシングによる抵抗を受け、身体に激しい痛みを受けていた。それに、両腕から青い結晶体が生えてきていた。あの時は感覚も殆ど残っておらず、ヒトとしての形を失いかけていた為に痛みは殆ど感じなかった。しかし、今は身体の内側から来る激しい痛みに、改めて自身が完全に人としての機能を復活させられていたことを嫌でも思い出させられる。

 

「さっきから流れてくるこの感情、何なんだ…?」

 

痛みに耐えながらも、彼は機体の真意を探ろうとする。少しだけ彼から機体に踏み込むと、それは単純で、そして誰もが抱くものであった。

 

「…怖いのか、お前も。自分が消えそうで、存在が無くなりそうで。」

 

彼は機体へと語りかける。

 

「俺もそうだった。自分から5感が消えていく恐怖。自分が自分で無くなっていく事への恐れ。それもお前と同じだ。俺という存在が消えそうで、あの時はたまらなく怖かった。でもな、お前のは違う。お前はただ眠るだけだ。お前だけじゃない、他のエヴァも全て。」

 

「俺がお前をまだ使えるのも、将来に何かがあるからなんだろ?たとえそれが俺らの杞憂だったとしても、備えというのは必ず必要だ。それが明日なのか、来年なのか、それとも100年後なのかは俺ら人間には想像をつけることができない。だから、それまでお前が悪意を持った人間に使用されないように、眠らせるだけだ。わかってくれるか?」

 

「…そうか、ありがとうな、アレス。」

 

彼が機体に感謝を伝えると共に、彼が受けていた痛みの全てが引いていく。同時に機体も石化を始め、数分後には完全に石になっていた。それまでの間、彼は未来へのメッセージを残す。

 

「俺の名前はかげし……綾波エイジ。この機体に搭乗する君の名前も顔も俺は知らない。

でも―」

 

エイジがメッセージを録音し終える丁度その時に、システムと機体のリンクが途絶える。それは全能の器が眠りについた事を意味していた。

 

「凍結作業、全て完了。アークシステム、接続解除。」

 

 

 

―君は一人じゃない。この機体も、君を必ず守ってくれる。最後に、君に伝えないといけない事がある。この機体は、簡単に世界を滅ぼす力を持っている。その力の責任を持たせてしまう事を謝罪しなければならない。…君にこんな重圧を背負わせてしまって、申し訳ないと思っている。逃げたい時は逃げろ。困ったら大人を頼れ。

最後にそれを選択するのは君自身だ。生きる事に、絶望しない事を願っている。―

 

 

 

「やっぱり泣いてたわ、あの二人。」

「そりゃあ、ね…。姿を変えても二人の母親だ。何も思うなって言う方が無理があるよ。」

「そっか…。」

「…あれ、疲れて眠っちゃったか。」

「ええ。何だかんだ、けっこう時間かかっちゃってたし。」

 

エイジはレイの背中におんぶされている子を見つめながら、話題を変える。

 

「彼女、やっぱり見つからなかったか?」

「うん。MAGIも使って洗ったのに、何の痕跡も残さないまま消えちゃったみたい。8号機ごとね。」

「真希波マリ…彼女の事を覚えている人なんて俺ら以外全くいなかったな。」

「ほんと、まるで彼女だけがみんなから抜け落ちたみたい。不思議ね。」

 

二人は話しながらも、展望台へと足を運んだ。二人はベンチに座り、夜空を見上げる。すると、エイジが唐突に話し始めた。

 

「命って、廻ってるんだな。」

「え?」

「俺はレイに人の命の、レイはリリスに人の心の祝福をして、リリスは俺に人の姿の祝福をした。全部そうだ。命は廻って、互いに祝福しあう。」

「これからは、私達が世界を祝福する番なの?」

「多分ね。俺だけが未だにエヴァを動かすことができるのも、多分それが俺が与える世界への祝福なんだと思う。でも今は…」

 

「この子の、子供たちの平和を守ることが、一番の役割なんじゃないかな。」

 

エイジは、レイの腕に抱かれている子を優しく見つめていた。

 

 

 

何故俺が未だにアレスを動かせるのか、それは誰にもわからない。そう遠くない将来に新たな驚異が迫ってくるのか、それとも新たな人間同士の戦乱か。

その時、俺がまたアレスを動かすのか、それとも………俺らの子供か、それとも別の子供がパイロットになるのか。俺には想像はつかない。

だけど、これだけは言える。

俺たち大人は子供を戦わせない為に、日々平和に向けての活動をしている。たとえそれが小さすぎる一歩だとしても、未来を信じて向かっている。

そして、俺はミツヤを戦わせない為に―

 

今、ここにいる。

 

今、彼女と生きている。

 

新たな未来を目指して。

 

 

 

 

ヱヴァンゲリヲンRE:LIVE 終劇

 

 




完結させるまでえらく時間をかけてしまいました。終盤はかなりズルもしましたが、自分なりに納得のいくラストにできたと思います。
途中で別の小説に逃げたりもしましたが、何とか完結までこぎつけることができました。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
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