ヱヴァンゲリヲン RE:LIVE   作:フィアネン

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RE8:人付き合い

家に帰ると、案の定シンジ君は居なかった。机の上には置き手紙があり、内容は

 

「もう僕はあんな怖い思いをしてまでエヴァに乗りたくない。」

 

ぶっちゃけこんな程度だった。甘く考えれば自分の存在意義を探している。厳しく考えればこの状況から逃げているだけだ。でも、彼にはこの問題は悩み抜いて、自分で結論をだしてもらわなければならない。そのためには、誰からも邪魔されない時間ってのも必要だ。

悪ぃミサトさん、今日から数日はコンビニ弁に逆戻りだ。今日なんて色々疲れきった。

 

 

 

家出から二日後。

 

「な、なあエイジ。転校生知らんか?」

 

近くを通ると、窓を開いて座っているトウジから訊かれる。勝手に外に出た件について、トウジとケンスケを一発ぶん殴ってからというもの、なんか妙に引け腰だ。

 

「え、シンジ君?…知らねぇなァ。」

 

「そんなバッサリ切らなくてもいいじゃん。」

「それとも、まだ俺に怒っとるんか?」

 

俺は近くの机に座り、答える。

 

「いンや?知らないから知らないつっただけよ?」

「そ、そうか。悪かったな。」

「俺も動向はわからないからね。心配だよ。」

 

レイからの視線がずっと来ていた。

 

 

 

昼。いつも通り筋トレをしていると、レイが話しかけてくる。

 

「朝、何で嘘を言ったの?」

 

「ああ…シンジ君には時間が必要なんだよ。一人で、静かに考える時間が。だからシラを切ったんさ。」

 

「よく…わからない。」

 

「ま、レイもそのうちわかるんじゃないかな。」

 

レイはキョトンとしていた。

 

「ふぃー、終わった終わった。弁当食うか。」

 

「ええ。」

 

 

 

いつもの対人訓練とエヴァの戦闘訓練を終え、今日も二人でレイの家に帰る。しばらく一人で考えて欲しかったからってのはずっと言ってるんだけど、その間の住居のアテがここしかなかった。

 

「悪いね、今日も迷惑かけるよ。夕食は作るから許してね。」

 

「ありがとう。…今日は碇君を迎えに行くの?」

 

「そのつもり。とりあえず、夕食食って、片付けてから向かうから。短かったけどありがとね、レイ。」

 

「いいの。一緒にいられて、嬉しかった。

 

「え?」

 

レイはなにも言わずに俺に微笑む。可愛い定期。

食器やらを洗い終えると、ちょうど家を出るくらいの時間になった。

 

「そんじゃ、行ってくるよ。2日間ありがとう、レイ。」

「うん。」

「そんな顔しないの。明日も会えるからさ、ね?」

「…わかった。」

 

頭を撫でてやると、残念そうな顔をしていたレイは少しは落ち着いてくれたようだ。

それじゃ、シンジ君を迎えに行こう。

 

 

 

 

「どうも、影嶋です。サードはどうですか?」

 

『こちら剣崎。サードは現在、郊外の草原を進んでいます。場所を転送するので、確認してください。』

 

「ありがとうございます。それでは、これからよろしくお願いします。」

 

諜報部との連絡終わり。地図を確認して、経路を調べる。うっわ、これは行って帰るのに終電ギリギリでなんとかレベルか。遅くなるのは確定だから、次はミサトさんに電話。

 

『あらエイちゃん、最近家に帰ってきてないけどどうしたの?』

 

「葛城一尉、あの後どうですか?考えはまとまりましたか?」

 

『ええ…。あの後、私なりに色々考えたんだけどね、やっぱ、面と向かってシンジ君に謝りたいの。私の…態度のせいで、シンジ君を追い詰めてしまったから。』

 

「そうですか。わかりました、もし会ったら、彼にそう伝えます。それでは、失礼します。」

 

メールを確認すると、シンジ君はまだそこから動いていないようだ。至急向かわねぇと。

駅に向かおうとすると、黒い車が近くで停車し、扉が開く。

 

「剣崎です。今からならこちらの方が早いですよ。」

 

「わざわざありがとうございます。」

 

剣崎さんの車に乗り込み、目的地まで向かう。

 

 

 

 

「俺、すっげー羨ましいよ。なんてたって、あんな格好いいロボットを操縦できるんだもんな。俺も一度でいいからさ、思いのままにエヴァンゲリオンを操ってみたいよ。」

 

「僕も、そんなふうに思えたらいいんだけどな。」

 

「思えないの?」

 

「まあ、ね…。」

 

 

ケンスケ、あんな思いをしてもまだあんなこと言えるとはなァ。まるで二次大戦で戦車戦を経験したヤツに対して、「一度でいいから戦車に乗ってみたい!」って言ってるようだ。もちろん経験者役は俺ら。そういうことを言われる側の気持ちがよく分かる。

 

「いいですか?大人しい内は絶対に手を出さないでください。万一ヒス起こして逃走を図った場合にのみ取り押さえてくださいね。」

 

「わかりました、チームで情報を共有します。」

 

「ありがとうございます、剣崎さん。」

 

さて、意を決して…3、2、1、行こう。

 

 

「よ、ケンスケにシンジ君。近くに立ち木が一本だけってとこにキャンプは雷が危ねェよ?」

 

「え、エイジ!?」

「エイジ君、どうしてここが…。」

 

「んまァ、裏技使ってね。」

 

そう言って、シンジ君の横にある石の上に座る。

ケンスケが不機嫌そうに言ってくる。

 

「飯ならもう無いぞ。」

 

「もう食ってきた。」

 

「正直、綾波が羨ましいよ…。」

 

案の定シンジ君は俺が来た瞬間また(くっら)い顔した。まァ残当だろな。

 

「どう?シンジ君。あの後考えはまとまった?」

 

「まだ、わからない。」

 

「そっか。…ねえ、聞かせてよ、シンジ君の本心。」

 

「え?」

 

「聞きたいんだよ。言ったろ?他人(ひと)の考えはわからないって。でもさ、どうにかして、自分の言葉で、自分の考えを言ってくれれば、俺に伝わる。ミサトさんに伝わる。もっと多くの人に伝わる。そうすれば、自分をすこしだけ理解ってくれる人が増えるのよ。ね?」

 

シンジ君は目を少し開き、俺を見つめる。またすぐ俯いて、少し建つとぽつりぽつりと喋り始める。

 

「…僕ってさ、どこ行ったって中途半端でなにも出来ないんだよ。だから、こんな僕を必要としてる人なんて誰も居ない。父さんも、ミサトさんも、必要なのはパイロットとしての僕で、僕自身じゃないんだ。」

 

「へぇ。だから自分は必要ない、と。んー、そいつは少し違うんじゃいかなァ。」

 

「え?それはどういう…」

 

「まずさ、中途半端って…逃げてること?」

 

「え?そ、そうだけど。」

 

「だったら君は逃げてはいないよ。」

 

「何で?僕はこの状況から逃げ出してる。その最中なのに…」

 

「2回も使徒と戦って、両方とも逃げずに立ち向かった。戦いを放棄しようとしなかった。それは逃げてるとは言わないよ。

それにさ、今は戦うべき相手に遭遇してない。そんな時くらい、息が詰まるところから離れてもいいんだよ。ずっと息を詰めてると、そのうち酸欠になって息切れしちゃうからさ。」

 

シンジ君は考え込んでしまった。まだ納得がいかないようだ。

 

「んー、それじゃもう一個。どして『パイロットの自分』と『自分自身』を切り分けてンの?」

 

「え、どういうこと?」

 

「これは俺の勝手な考えなんだけど、肩書きってのは全部自分自身からの派生だと思うんだよね。

 

わかりやすいかはわからないけど、人ってのは球みたいなもんなんだよ。

正確には、ほぼ球に近い正多面体。

例えば俺なら、一面一面が、

『エヴァパイロットの予備としての俺』

『ミサトさん、シンジ君と同棲してる俺』

『現場指揮官』

『料理ができる』

『ミサトさんの部下』

『ケンスケやシンジ君とか、学校の友人』

とか、まあ列挙すればキリがないかな。これらが組み合って構成されてる多面体そのものが俺自身。

 

これらを、人や状況によって見せる面と組み合わせを選択するってのが人付き合いだと思うんだよ。でも、見せてもらう面ってのがたった1つだけってのは、その人を理解したとは到底言えないよな。だから、多くの面を見なければならない。そのためにはどうするか?コミュニケーションだ。会話で、多くの面を見る。

 

これは逆も一緒で、自分を理解してほしいのなら、他人に自分の面を見てもらわなければならない。そのためのコミュニケーションつーのも重要。

 

その距離感がわからないのは、正直言って不健全なコミュばっかやってきた証拠だろね。でも、コミュに遅い早いはないからさ、これからゆっくりやってきゃいいよ。

そういうやつのが積み重ねが大事なんじゃないかな。」

 

「難しいね。僕にはわからないや。」

 

「もっと悩み抜けば、その先で理解できるようになるよ。それでさ、重要なことを訊きたい。

これから先、使徒と戦うか、それとも戦いをやめるのか。」

 

「逃げるとは、言わないんだね。」

 

「そりゃあね。自分の確固たる意思で決めたのなら、誰も文句は言えないからさ。」

 

「…正直、まだちゃんとは決めてない。」

 

「そっか。時間もだいぶ遅いしさ、シンジ君行こうか。」

 

「え、どこに…」

「いいからいいから。じゃーなケンスケ。」

 

「お、おーう。」

 

俺は剣崎さんの元へ戻る。黒服を見て、シンジ君は顔を強張らせる。

 

「大丈夫、無理矢理連れ帰ることはしないよ。剣崎さん、うちと本部に近いなんて都合のいいホテルって知ってます?」

 

「知っています。そこに連れていきましょう。」

 

「ありがとうございます。」

 

 

車が動き始める。その間は、だいぶ静かなものだった。

 

「…ありがとう、エイジ君。」

 

「言ったろ?俺のお節介だって。礼には及ばないよ。それに、俺にはちゃん自分の考えを言ってくれたからね。嬉しかった。」

 

「…ねえ、エイジ君はどうして僕にそこまでしてくれるの?今までこんなに…何て言うか、しっかり向き合ってくれる人を知らないから。」

 

「何だろね、シンジ君を見てると、なんか世話のかかる弟みたいに感じるんだよね。それが本心かな。」

 

「ええ、何それ。」

 

その後はまあもう本っ当に静かだった。俺は言いたいこと言い切ったし、シンジ君はあの後ずっと自分について考えてるっぽいし、剣崎さんは必要以上の会話をしないからね。

 

 

ホテルに着き、適当な部屋を取る。鍵を渡し、俺はシンジ君にもう一度言う。

 

「んじゃ、明日…いや、もうすぐ今日か。今日まるまる使って考えてみて。ま、覚悟が決まったらいつでも連絡よこしてちょうだい。そうそう、ミサトさんが、会えたら話がしたいってさ。」

 

「ミサトさんが?」

 

「そ。まー会えたら話してみてよ。んじゃ、俺はこれで。念は押しておくけど、今度は都市の外へ逃げれないからね?」

 

「もう逃げないよ。ありがとう、エイジ君。」

 

「おう、おやすみ。」

 

シンジ君はエレベータに乗る。さて、俺も帰りますか。

 

「剣崎さん、今日はありがとうございました。」

 

「いえ、仕事なので。よろしかったら、家までお送りしましょうか?ここからだとマンションまでやや距離があります。」

 

「それじゃ、お言葉に甘えて。」

 

 

例によって、会話はほとんど無いまま家についた。現在時刻、24:30。中学生の体にはなかなか堪える時間だ。

 

「ふぁあ~、今日はこき使ってしまってごめんなさい。ありがとうございました。」

 

「礼には及びません。これも仕事です。」

 

 

 

扉を開くと、まだ電気が付いている。もしやミサトさん、まだ起きて…いや、酔い潰れてるだけだこりゃ。この缶の量、シンジ君が居なくなってヤケ酒でもしたんか?ほんと酒癖だけは治らねぇなァマジで。せめて掛け布団くらいはと思って近づくと、寝言が聞こえる。

 

「…ジ君…ごめ…たし、ずっと…」

 

やっぱ監視とかそれ以前に保護者として心配だよなぁ。明日はちゃんと教えてあげよう。

…チャイム?今さら何だ?

 

「…はい?」

 

『諜報部です。葛城一尉への定期連絡です。』

 

「俺が出ます。」

 

玄関に行くと、諜報部の人が立っていた。

 

「んで、どんなご用件でしょうか。俺から葛城一尉に伝言しますよ。」

 

「いや、これを渡しに来ただけです。それでは。」

 

「ん?何だこれ?」

 

振ると、カタカタ音がする。書類じゃないな。んで、この硬さ…あーあ、そういうことか。

 

「お疲れさまです、ほんと…。」

 

 

 

 

-葛城ミサト-

 

目が覚めると、テーブルに突っ伏して寝てしまっていたようだ。たった二日、シンジ君の所在がわからなかっただけで心配で心配で、でもアルコールにしか逃げれない自分が嫌になる。…いい匂い。エイジ君、帰ってきてくれたのかな…。

 

「あ…おはようエイちゃん…。」

 

「おはようございます。次の日が平日なのに酔い潰れてテーブルで寝るとはなかなかですね?」

 

「やめてよ…意地悪。」

 

「それはそうと、シンジ君に会いたくないですか?」

 

「え…?シンジ君に!?どこにいるの!?」

 

「まずは朝食から。いつも通りトーストとハムエッグですが。」

 

「ありがとう。あなた昨日も遅かったわよね。それなのに…ほんとごめんね。」

 

「やだなぁミサトさんらしくない。そんでもって場所ですけど、NERV本部近くのホテルに泊まってます。諜報部の方に聞けば一発ですよ。」

 

「ありがとう。それじゃ、朝イチで行くわね。」

 

「あと、俺経由で彼がどうするかは連絡します。それまではお待ちください。彼にも、それなりに考える時間ってのが必要ですからね。ミサトさんみたいに。」

 

こんな子供に気を遣ってもらって…情けないな、私。

朝食を摂り、ペンペンを連れてホテルへ向かった。

 

 

 

シンジ君が泊まっているホテルに着くと、剣崎君が姿を現す。

流石にホテルにペンペンを連れてくことはできないから、路駐して待つ。

 

「おはようございます、葛城一尉。サードは104号室にいます。お呼びしましょうか?」

「ありがとう剣崎君、お願い。」

「わかりました。」

 

しばらくすると、シンジ君が車の前に現れた。

 

「おはようございます、ミサトさん。」

「おはよう、シンジ君。朝食、もう済ませた?」

「いえ、まだです。」

「そう。じゃ、近くのカフェ行きましょ。」

「はい。」

 

 

シンジ君にモーニングを注文する。食べ終わるまで、互いに静かだった。シンジ君が食べ終わった頃に、話を切り出す。

 

「シンジ君、その…こないだはごめんなさい。私、自分のことばかり考えてて…。」

 

「ミサトさん…僕も、ごめんなさい。エイジ君に言われて、ずっと、エヴァに乗る理由を考えてました。いまでもちゃんとした理由はわかりませんけど…。今は、目の前の、学校のみんなを守るために戦おうと思います。まだ、エイジ君みたいに割りきることはできないと思いますけどね。」

 

「そう…。ありがとう、シンジ君。…帰りましょ?私たちの家に。」

「…はい。」

 

シンジ君を車に乗せ、発車させる。ペンペンは久々に見たシンジ君を見て喜んでいた。

 

「そういえばペンペンってどうして飼ってるんですか?」

 

「その子はね、私が前働いてたトコで実験に使われててね、用済みになって処分される寸前だったのを私がもらったの。

私がこんな役にも立たない大喰らいの鳥、なんで私が引き取ったかっていうとね…」

 

一息置いてからまた喋り始める。

 

「かわいそうだったからってのもあるけど、ずっと一人で暮らしてて、出迎えてくれる誰か…『家族』がいてくれればいいなって、思ったのよ。

私は同情や仕事の上だけで他人と一緒に住めるような、ものごと割り切れる人間じゃないわ。それでも、私は…シンジ君にエイジ君と、家族になりたいって思ってる。」

 

「ミサトさん…。」

 

「ごめんね、こんな話しちゃって。…着いたわ。」

 

これから、少しづつ変わっていければいい、そう思った。

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