同日、昼時。いつもどおりの筋トレをしてから昼食にしている。
「そいやさ、レイは何でエヴァに乗ってるの?」
「絆よ。」
「誰との?」
「碇指令と、影嶋君…。私には、他に何も無いもの―」
「他にもあるよ。今はなくても、これから探してきゃいいいじゃん。」
「そう…なの?」
「うん。」
「わからないわ…。あなたは?」
「へ?」
「あなたは、どうしてエヴァに乗っているの?」
「そうだなァ、何て言ったらいいんだろう。実はね、そんな大層な理由なんてないんだよ。最初は好奇心に憧れ。使徒が来てからは、本当に人を守りたい、って思った。能力があるのに、遠くで黙って指を咥えてるだけってのは性に合わないし。」
本当に、今まで生きてた中でこんな、夢のような体験ができるという喜びと好奇心が大きなウェイトを占めていた。そして、現実に起こっている使徒の襲来。それが来てからは、俺自身がより前線で戦いたいと強く願っていた。
「やっぱり…わからない。」
「これはわからなくてもいいさ。理由なんて人それぞれなんだからさ。」
レイって、複雑な感情表現がわからないんだろな。でも、そういうところも
「よう若夫婦!今いいか?」
「んな事言って、用があんのは俺だけだろ?今日はどこがわからねぇんだ?」
「いや、そうやなくてな。なんか皆が、『エイジに勉強教わりたい』言うてな。放課後暇な日に何か教えてくれ言っとるんや。その、スケジュールどうなんや?」
「あー…土日潰したくないよね?それなら平日の…水曜が午前だけだから、その時を使うか。後で全員に連絡するからって言っといて。」
「わかったわ。おおきにエイジ。仕事で忙しいちゅーのに。」
「勉強を教えるってのは、逆に自分がどれだけわかってるかが知れるからね。いい機会だよ。」
帰り。今日もレイのところに居させてもらうことにした。なんか感動の再会ってほど仰々しいものじゃないけど、俺がその場にいるのは二人の邪魔をしそうだし、葛城さんが俺へのイジりに逃げそうだってのがあった。
「悪いね、今日も入り浸っちゃってさ。」
「いいの。…嬉しい。」
「もう遅いし、寝るか。」
「うん。」
俺は結局、座椅子を引っ張り出してきて足を回転椅子に預けて寝ている。あんまいい寝方じゃないけど、昔から寝れりゃなんでもいいスタイルだったから特に苦しさは感じなかった。
ベッドで寝るよりかは実際寝入るのは遅かったが、しばらくしたら意識が無くなった…。
-綾波レイ-
今日も、影嶋君が横で寝ている。
彼の方を振り向くと、布団もかけずに足を椅子に乗せて寝ている。
あ…横から落ちそう。
眠い体を動かしながら、彼の体を支える。
同い年とはいえ、体格差で彼の体は重い。
近くで寝ていたから、ベッドには何とか引きずってこれた。
自分もベッドに入って寝ようとすると、私の背中に触れた彼の手が、肩から手を回して私を抱いてくる。。
顔が熱くなっていく。
何故、こんなに心臓が早く脈打つのだろうか。
振り向くと、影嶋君は寝顔のまま抱きついていた。
私も…して、いいのかな。
彼は肩だったけど、私は体の横に手を回す。
…暖かい。
なんだか、安心する…。
-影嶋エイジ-
ん…あれ、何で俺はベッドで寝てるんだ?眼鏡は…?なんかが横っ腹の上にある?ぼやける目を開くと、目の前にはめちゃくちゃ可愛いレイの寝顔がどアップで入ってきた。
「んん!?!?!?!?!?!?」
反射的に後ろにのけぞろうとすると、ベッドの縁にいるのがわかる。慌てて頭の上にある柵を掴んで落ちるのは防いだ。な…何が起こったんだ?いや、それより朝食か。起き上がり靴をはいて、着替えて台所に向かう。掛け布団はレイの体にかけ直してやった。眼鏡、床に落ちてやんの。踏み潰さないでよかった。
5:30…ちと遅い起床だ。
弁当を作り終え、レイが起きるまでの間に携帯で連絡を確認する。…ん?メール?一尉からか。
今日の訓練について
葛城ミサト 9月8日 00:50
今日のエヴァの戦闘訓練後、リツコが来て欲しいって。場所は訓練後直接教えるって言ってたわ。よろしくね?
あ、後これはどういうことよ~?また私らに黙ってるなんて、保護者として見逃せないわよ~?レイに変なことしちゃダメなんだからね!
添付ファイル:IMG20150908.png
はァ~、あンのバカ上司…。これ間違いなく後半部分がメインだよな、何が「保護者として見逃せない、変なことするな」だよ。折角気に掛けて家を空けてやったっつーのにさァ。添付ファイルを開いてみる。今度はどんな盗撮が…なっ!?!?!?
「さ、さっきの寝てるときの写真…俺まで腕回しちゃって…。」
あ、ち、ちょうど沸いたか。火を止めてから、朝食を作り始めるとレイが起き上がる。
「ん…ぁ…」
「おはようレイ。ちょうど朝食作り始めたとこだから、着替えて待ってて。」
「うん…。」
あぶねー、も少し早く起きてきたら顔を作りきれなかった。内心ヒヤヒヤしながらも、朝食を作っていく。…朝はこんだけでもいいかな。トーストにベーコンエッグを乗せたのに、サラダとスープ。
広い空間の方を向くと、レイは既にテーブルを広げていた。
「お待たせ。食お。」
「ええ。」
「「いただきます。」」
俺らは朝食を食い始める。パンを半分くらい食い終わったとき、レイの手が止まっていることに気付いた。
「どした?」
「ベーコン…これ、苦手。」
「あ、本当?ごめんね。それだったら俺の皿に移しといて。」
「うん。」
なかなか難しい。多分レイも初めて食ったろうし、仕方ないかな。それ以外は特に何もなく、食い終わった。
「「ごちそうさま。」」
いつもどおりレイと片付けをして、学校へ行く。今日は使徒を捌いて卸すのが見学できるらしいが、どうしたもんかな…。
「…どうしたの?」
「ん?ああ、使徒の解体現場を見れるらしいって連絡が来たからさ。どーしよっかなって。」
「…そう。」
「そんな残念そうな顔しないで。何ならさ、今度はうちに夕食食いに来る?」
「…うん。」
「おーおー、朝からお熱いことやなぁ、エイジに綾波。」
「何だトウジ、彼女いないからつって俺につっかかってきてんのか?」
「誰がお前なんぞに妬いとるって!?」
「よせよトウジ、また殴られるぞ?それよりさ、最近エイジが綾波の家に入り浸ってるってホントなの?」
「どこ情報だ?それ。」
「ええ。」
「「「え。」」」
俺は想像してなかったレイの言葉に、二人はその素直な回答に驚いていた。
「ほ、本当なんかエイジお前…。」
「なんか綾波の柄じゃないって感じはするけど、いつものを見てればわかるような気がするよ。」
「レイ?どうしたんだ?」
「………。」
なにも言わず、少し俯いて微笑む彼女の頬は、紅くなっていた。…やっぱこういうとこはわからねぇな、何年経っても。
教室のドアを開けて最初の挨拶をしてきたのは、掃除されてない黒板消しだった。ギリギリでレイの肩を押し下げながら避けると、洞木さんの怒鳴り声が聞こえてくる。
ちなみに飛んできたそれはトウジの顔面にクリーンヒットしたようだ。
「何だァ?随分物騒な挨拶じゃねぇかよ…。」
「影嶋君…不潔よ!!!!!」
「はァ!?洞木さん、開口初っぱなから何言いやがるんだ!?」
「こんな年の男女が同棲なんて…あり得ないわよ!!!」
「ちょっと待て!?それは流石に尾ひれがついたデマだろ!!」
「そうなの?影嶋君。」
「ジーザス…」
「だいたいあなた、そうやって何人の女の子をたぶらかしてきたのよ!」
「そんな事は一度たりともしたことがねぇ!勝手な妄想を振り撒かないでくれよ!?」
「そうだよ委員長、そもそもエイジ君てうちに住んでるんだし。数日いなかっただけだよ。」
「お、シンジ君おはよう。助かった。」
「おはようエイジ君。どうなってるの?これ。」
「何だって!?」
「何やと!?」
「え、何で今度はお前らが反応するんだ?」
「エイジお前、なんちゅ~奴や!あっちでこっちで美人に囲まれて過ごしやがって~!」
「シンジもエイジも羨ましい…。あんな美人な軍人と一緒に暮らせられるなんて…!」
「ミサトさんが…」「美人、ねェ…。」
俺らはあのバカ上司がどんだけズボラかを知ってるからこんなことを言えるんだろな。
知らないのは幸せなんか不幸せなんかよくわからねぇ。
結局、俺らは午後からは使徒の解体現場に行った。レイは別の用があるらしく、本部に向かった。多分零号機関連だろね。
「これが、僕が倒した使徒…」
「思ったより腐食って感じはしないな。あくまでも劣化って言うのがよくわ…シンジ君?」
「え、どうしたのエイジ君。」
「メットつけてるのに顎ヒモをちゃんと付けないのはよくないな。」
「え?でもミサトさんも外してたよ?」
「あのバカ上司…いいかシンジ君。メットってのはアクセサリーじゃないんだよ。ちゃんと顎ヒモをつけとかないと正常にメットとしての機能を果たしてくれない。だからつけるんだ。怪我はしたくないだろ?」
「わ、わかったよ…。」
渋々顎ヒモをつけ直す。それでいい。君も危険な状態で「ヨシ!(現場猫)」はしたくないだろう?
そうだ、あのバカ上司も叱ってやらねぇと。年長者でこういうとこにも行きそうな人が一番ガサツってのが許せねぇ。
「何これ?」
「解析不能を示すコードナンバー…。」
「つまり、ワケわかんないものってこと?」
「そう。でも、1つだけわかったわ。『使徒』の固有波形パターンが、構成素材の違いはあっても人間の遺伝子と酷似していることが。99.89%ね。」
「へぇ、それじゃ僅かな遺伝子の違いでこんな差があるんですか。不思議ですねぇ、この生命体。」
「エイちゃん!?」
「あら、エイジ君もこういうのに興味があるの?」
「そら興味はありますよ。にしてもミサトさん?メットの被り方すら知らないとは言わせませんよ?」
「え?何のこと?」
「顎ヒモくらいきちんと付けましょうよ全く!」
「ごめんなさい!!!!!!」
シンジ君は影から指令らを見ている。恐らく、彼は自分の親父を見ているのだろう。
「どうしたんだ?そんなに親父が気になる?」
「エイジ君。…父さん、僕が戻ってきても何も言ってこないから。僕と話す価値すらないのかな、って…。」
「ねえ、何度かシンジ君は親父さんと対面したことあるでしょ?何か言ってきた?」
「何も言ってこないよ。なんか、僕がここにいることが当然みたいな雰囲気なんだ。」
「へぇ…避けられてんだな、シンジ君。」
実の息子のことは気に掛けない癖に、レイとは交流してその上過保護なくらいの態度…。最低な父親だな。どういうつもりなんだ。
この後はシンクロテストと、俺だけまた別の実験があるらしい、もしかして…。
例によって、いつも通りプラグだけの訓練を挟んでから、今日はエヴァとのシンクロテストもした。そういえば、俺はまだ零号機には乗ったことなかったな。どんなもんなんだろうか。
レイの後、俺も交換されたプラグに入り、零号機とのテストを始める。初号機と違って、思ったよりエヴァからの抵抗がなかった。この差は何なんだろう。しかも初号機と違って、シンクロ率は30%くらいをキープしていた。どういうこっちゃ。
その後、赤木博士に呼ばれた。しかもプラグスーツのままでいいって、何があるのだろうか。指定の場所へ行くと、その部屋には半分埋まったプラグと、コードが大量に繋がれている機器。もしかして…。しかも、この場所ってさらに外側に水か何かが入るのか?ここの壁だけ異様に厚い。
「赤木博士、これってまさか…」
「こないだ言っていた、外部とのシンクロによってサポートするシステム、[アーク]。それの試作機よ。」
「まさか本当に造っちゃうとは思いもしませんでしたよ…。」
「私にも科学者としての好奇心があるのよ。
それでは、システム概要を説明します。エイジ君はこのプラグ内に入り、エヴァとクロッシングしてもらいます。クロッシングとシンクロとの違いは、完全にエヴァとの波長を合わせるのではなく、その名の通りエヴァの思考の中を横切って情報を引き抜き、擬似的なシンクロをすることにあります。直接シンクロと違ってフィードバックが少ない代わり、若干のラグが生じる可能性もあります。基本的なところはこのくらいね。」
まんまファフナーじゃねぇか。ただ、ダメージフィードバックが小さい代わりにラグがある。なんか、扱いがだいぶ難しいものになっていそうだ。あとは、本当に求めている機能があるかを訊く。
「ここから、エヴァに直接シンクロすることってできます?パイロット暴走の保険としてほしい機能なのですが。」
「理論上はすることができるわ。それをこれから確認するのよ。さ、入ってちょうだい。」
「わかりました。」
なるほど、ここで人柱になれと。まァ上等よ。
[これより、アークシステムと新型エントリープラグの運用テストを開始します。シンジ君、エイジ君、用意はよろしくて?]
[はい。]
「いつでもどうぞ。」
とりあえず、シンクロする時と同じように集中する。
[アークシステム起動]
[LCL電荷]
[初号機、起動確認]
[クロッシングスタート!]
[MAGI・メルキオールとシステム直結!リンクスタート]
[システム、オールグリーン!クロッシング成功!]
前ほどの初号機からの抵抗は無い。でも、何か雑音が聴こえるような、そんな感じがある。エヴァから直接送られるのではなく、MAGI経由でデータを見ているからだろうか。ゆっくり目を開けると、初号機の視点、武装情報が表示される。パレットライフルとは、ど安定な武装での試験。流石に新規武装の試験も同時にやることはないか。
[どう?シンジ君、エイジ君。違和感とか、そういうのはない?]
[特に、何も。]
「俺は少しノイズが走るような感覚があります。今のところは許容範囲かと。」
[結構。それでは、アークシステムによる操縦権の移行をテストします。シンジ君、これが成功すると、あなたは一時的に初号機を動かせなくなるわ。心配しないでね。]
[わかりました。]
[コントロールジャックシステム起動!]
[初号機、シンクロカット!]
まんま過ぎる名前だ。不吉な感じ…。
[アークシステムとのシンクロ開始]
[初号機、アークシステムと接続]
[MAGI・カスパーと接続]
[コントロールジャック!]
これは、初めてシンクロしたときと同じ不快感。恐らく、シンクロできた。目を開けると、画面には変わらず初号機の画面が見える。左手を持ち上げ、軽くグーパーする。俺の動作とほぼ同じタイミングだ。その後、操縦桿を握り、初号機は銃を構える。
[シンクロ率、26.4%!]
[MAGIのサポートのお陰でシンクロ率も高くなっているわね。どう?違和感はない?]
「いいえ、特に何もありません。初めてシンクロしたときと同じ不快感があったので、ほぼ完璧にトレースできていると思います。」
[そう。他に要望はある?]
「インダクションモードお願いします。」
[了解。モードチェンジ。]
画面が初号機の視覚情報からバーチャル空間へと変化する。トリガーを引くと、銃を構えた初号機は発砲。思った以上にタイムラグはない。
さらにプログナイフを装備し、バーチャル使徒に格闘戦を仕掛ける。対人訓練で覚えた極め技なんかを試してみても、そこまでラグを感じることはない。思った以上の性能だ。
「凄いですね、このシステム。MAGI経由だからかシンクロ、動作もほぼラグ無しじゃないですか?」
[これでもコンマ01秒くらいのラグがあるのよ。そこまでやっと短くした、とも言えるわね。]
「そりゃあ遠回りしてるから0にもっと近づけるのは大変でしょう。お疲れさまでした。」
[科学者冥利に尽きるわね。そうそうエイジ君。]
「はい?うわぁ!?!?!?」
バーチャル空間が解けると同時に、眼前に鉄球が飛んでくる。驚いたが、ATフィールドで弾くことができた。え?外部シンクロでATフィールド!?
「赤木博士、流石の技術力ですね…。」
[これで全てのテストは終了よ。二人とも、お疲れさま。]
[はい、お疲れさまでした。]
「お疲れさまでした。」
-綾波レイ-
今日も、私はこのLCLが満たされた管の中に入っている。
多くの私の中の私。
それでいいと思っていた。
碇指令だけが、私を見てくれているって、ずっと思っていた。
でも、影嶋君だけは違った。
「よろしく、綾波さん。」
「こっちでもよろしく。」
「そっか、よかった。」
「平気じゃないのに平気って言わないの。」
「もう大丈夫。」
「へへ、どーいたしまして。」
「よ、お疲れ。」
「食事にしよう。」
「上手くいく。」
「いかん!」
「レイ。」
「ユイ…。」
「待っていろ、ユイ…。」
…気付いてしまった。
いえ、気付いていないフリをしていた。
本当は碇指令は、私の事を見ていない。もっと遠くにいる人をいつも見ていることを―
「レイ、上がっていいぞ。」
「はい。」
「食事にしよう。」
食事―
「今日は…影嶋君のところで、夕食をします。」
「…そうか。」
私には、碇指令の眼鏡の奥にある、瞳がわからない。本当に、私は碇指令に必要とされているの…?