ダンジョンにハジケを求めるのは間違ってるだろうか 作:お通しラー油
皆様ハンカチのご用意を。
オラリオの街でそれなりに繁盛してる酒場、豊穣の女主人。
大柄で豪快な女主人を中心に店の中にはそれこそ様々な美女から美少女までもがウェイトレス服に身を包みその日の激務を終えた兵(つわもの)達をもてなしてくれる、正にこの世の楽園ともいえる場所であった。
そんな楽園の中のとあるカウンターのところで、ベルは両隣に陣取った首領パッチと天の助に激しくメンチを切られていた。
「・・・あの、すんませんでした」
「てめぇ、俺らをほっぽって女とディナーたぁ大きく出たじゃねぇか?
あぁん!?」
「新入りの癖に出しゃばりやがって。いっぺんマジでしばき倒さなきゃ分からねぇみてぇだな? おぉう!?」
両方から来る威圧感にすっかり縮こまってしまう我らがベル君。
「てめぇのせいでなぁ!俺らは大変な目にあったんだからなぁ!!」
首領パッチは語った。
ボーボボの策略に掛かり、一面ごはんですよに囲まれてしまい、手持ちの白飯一杯では到底足りず、結局大量のごはんですよを直食いする羽目になった事を。
「あの時・・・俺にもっと白飯があればーーーー!!」
「何の事だよ!?」
さっぱり意味が分からなかった。
「俺なんて、俺なんてなぁぁ!!」
今度は天の助が号泣しながら語ってきた。
こちらでもやっぱりボーボボの罠にはまり辺り一面豆腐に囲まれてしまい、手持ちのこんにゃくとゼリーだけでは到底太刀打ち出来ず、全身を豆腐まみれにされてしまった事を。
「あの時・・・ところてんが主食になっていればーーー!!」
「だから何の事だよ!?」
やっぱりと言うか何言ってんのかさっぱり分からなかった。
返答に困っていると二人は手持ちのグラスとパックを一気に煽り、中身を体内に流し込んだ。
ヤケ酒のつもりのようだ。
「ぷはっ! おばちゃん、コーラおかわり! 大ジョッキで!」
「ってコーラかよ!」
「おばちゃん! ところてんおかわり! Lパックで!」
「そんでお前はところてんかよ!? ってか、なんでコーラとところてんでそんなに酔っ払ってんだよお前ら!?」
ベルの横ではコーラをがぶ飲みした首領パッチとところてんをやけ食いした天の助らが何故かベロベロに酔っ払ってるとこだった。
ちなみに酒成分はゼロである。
「はいよ、大ジョッキコーラとところてんLパック」
そうしてると酒場の主人と思わしき恰幅の良い女性がコーラとところてんを持ってきてくれた。
「あの、なんかすみません。家の非常食達が迷惑かけてるみたいで」
「なぁに! 酔っ払いの騒ぎなんざここじゃいつものことさ。気にすんじゃないよ」
店主のおばちゃんはそう言って豪快に笑っていた。それを見てホッとするベル。
どうやら迷惑かけた為に店を追い出される事はないようだ。
「それより、あんただろ?今朝シルから飯を恵んでもらったって言う冒険者は?」
「へ? あ、ま、まぁ・・・一応」
飯と呼んで良いのか甚だ微妙な代物ではあったがーーー
「シルから聞いてるよ。大層大食らいなんだってね」
「は?」
「たんまり食って家の売り上げに貢献してくれよ! サービスするからね」
「え? ちょっ、はぁぁぁ!?」
全く身に覚えのない情報のそれに思わずベルは声をあげてしまった。
勿論ベル自身はそこまで大喰らいとかでは断じてない。
そりゃ確かに冒険者になってから食べる量は増えたのかも知れないが、だとしても決して大食漢とかではない。
寧ろ普通なくらいだ。
ふと、店内に視線を巡らせると、丁度仕事中のシルを発見し、シルもまたベルを視認してきた。
「あ、来てくれたんですね!」
「ちょっとシルさん! どう言うことですか?!」
「何がですか?」
「どうして僕が大喰らいになってるんですか?」
「何故って、冒険者の皆さん結構食べますしベルさんもそうなんしゃないんですか?」
「いやいやいや! 僕そんなに食べませんよ! 寧ろ普通なくらいですよ」
まずい、このままだとこの店の奴らに何もかも毟り取られる気がしてきた。
ここは断固として拒否せねばと、決意を新たにしていたベル。だったのだが・・・
「そうなんですか? でも、お連れの方達はたくさん頼んでますけど?」
「へ?」
シルの言葉にベルは真っ青になり振り返る。
「ぷはぁ! 生エールおかわり! 後唐揚げと焼きそばと軟骨盛り合わせ!」
「追加でコーラ! 2Lサイズで!」
「ところてん春の盛り合わせを一つ貰おうか」
ベルの視線の先では、ベルの事などお構いなしとばかりに次々に料理を平らげていく三人の姿があった。
なので、神様以外をとりあえずぶっ飛ばす事にした。
「何勝手に食ってんだお前らはぁ!!」
「「ぶっ!!」」
殴り飛ばされ壁に激突する首領パッチと天の助。その際に壁際にいた別の冒険者達といちゃもんを起こしそうになったがそこは天の助が機転を利かせて彼らの好みそうな代物(ところてんギフトセット)を献上する事で示談にして貰っていた。
「てめぇ! いきなり何しやがんだ!」
「そりゃこっちのセリフだ! 僕が奢るのは神様だけなんだよ! お前ら食った分払えよなぁ!」
「んだよぉ! 俺らも奢ってくれよぉ!」
「同じ仲間だろぉ!」
「絶対やだ!」
無駄な出費を抑えつつ本命たるヘスティアへのアプローチを決して忘れないベル。
しかし、そう簡単に引き下がる二人ではなく。
「やだやだやだーーーー! コーラ飲みたいソーダ飲みたいレッ○ブル飲みたいーーー!!」
「俺もところてん食いたい高級松坂牛ステーキ食いたい高級マグロ寿司食いたいーーー!」
と、終いには床に寝転んで駄々をこねだす始末だった。
「良い加減にしろ! 大体お前らだって金持ってるだろ? なら自分で払って食べろよ!」
「はぁ? 何言ってんだよおめぇ。こう言うのは他人の金で食うから美味ぇんじゃねぇか」
「ふざけんな!」
どうやら二人はベルの奢りでしこたま飲み食いしようと企んでいたみたいだったようだ。
タチが悪いにも程があるとはこの事を言うんだろうなと後のベルは語ったそうな。
「やれやれ、バカの相手は疲れるよ。僕も何か食べようっと」
気を取り直してメニューに手を伸ばすベルだだったが、それを首領パッチの手が止めた。
「お前の分ならもう頼んだぞ」
「へ? そうなの!?」
あの首領パッチが頼んだってのに不安を感じるが、ここは一つ頼まれた品が来るのを待ってみることにした。
「お待たせしましたぁ!」
少しして、シルさんがベルの前に品物を持ってきてくれた。
何が来たのだろうと期待と不安の入り混じった感じで皿を見る。
「あ・・・あ・・・」
そこにいたのは、形容し難い生き物が皿の上でベルのことを見上げて怯えていた。
恐怖に震える哀れな小動物のように目元を震わせて体を小刻みに振るわせている。
しかし、その外観はおよそ何の生き物なのか判別がつけられない代物だった。
そして、そんな生物はベルを見上げながらボソボソと何かを呟いていた。
「か、かけないで・・・醤油・・・かけないで・・・」
「・・・・・・」
謎の生物の懇願をおよそ原作でも見せないような冷めた目線で見下ろすベル。
その手がテーブルの調味料入れへと伸びていき、その中にあった一つの小瓶を取った。
其処には、オラリオの文字で「醤油」と書かれていた。
その中の液体を、迷う事なく皿の上の生き物へとかけてやった。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーー!!」
断末魔の悲鳴を挙げて、皿の上の何かは消滅してしまった。後に残ったのはそれの残骸らしき代物だけだった。
「おいしかったですか? 家の看板メニューなんですよ」
「あはは、ここには人間の食べれる料理は置いてないんですか?」
先のザウルスライダーと良い今回のこれと良い、もしかしてこの店を選んだのは失敗だったのでは?
そう不安になるベルの横にシルが腰掛けてきた。
「楽しんでもらえて何よりです。今朝誘った甲斐がありました」
「あ、あれを誘ったと此処では言うんですか? 悪質なキャッチの間違いなのでは?」
「この店の雰囲気、とても良いですよね。私、この店が好きなんです」
「あれ? 僕の言葉無視? 今僕やんわりとクレーム入れたんだけど」
ベルの事など無視して、シルは静かに語り出した。
無論、その間ベルの言った言葉は全て無視であるのは当然のことだった。
「この豊穣の女主人の女将のミア母さんは実は元凄腕の冒険者だったそうなんですよ。何でも片手で豆腐を握りつぶしたとか」
「ねぇ、それって凄いの? 豆腐を片手で握りつぶすなんて誰でも出来ることなんじゃないの?」
「従業員は皆女性ばかり。少し後ろめたい人でもミア母さんは暖かく迎え入れてくれます。だから、私はこの店が好きなんです」
「ねぇ、好きなのは分かるんだけどさ。せめて客に食べれる物を提供してよ。これじゃこの店の近い内に潰れるよマジで」
「この店では沢山の人が集まるから、その分たくさんの発見があるんです。それが楽しくてついつい外でも知らない人に声を掛けちゃう事ってあるんですよね。今ではそれが私の趣味になってます」
「ねぇ、人の話聞いてる? 重要な話してるとこ悪いんだけどさぁ。お願いだから僕の話をーーー」
「だから、今日は思いっきり楽しんでいって下さいね! 勿論、料金はちゃんと貰いますけどね」
「だから人の話を聞けぇぇぇーーー!!」
仕舞いには大声を張り上げる羽目になってしまうベル君。
こりゃ駄目だ。神様には悪いけど店を変えるしかないかな。
そう思っていた矢先に、入口の方が妙にざわつき出したのに気づいた。
新しい客でも入ったのだろうか?
しかし、それだとしてもこのざわつきは異様に思えた。
ゾワリッ!
背筋に何か冷たいものが滑り落ちる感覚に嫌な予感を感じたベルは、恐る恐る入り口近辺に視線を向けた。
装飾の少ない質素ではあるがしかし決して貧相に見えない。寧ろ着飾らないが故に煌びやかに映る純白のドレス。
それを着こなすは2メートルを超えるであろう長身で特大アフロヘアーを持ったグラサン男だった。
そして、その隣を歩くはこれまた装飾の少ない同色のタキシードスーツに身を固めた剣姫ことアイズ・ヴァレンシュタインの姿があった。
そんな二人の姿を見たベルはーーー
「着る服が逆ぅぅぅぅーーー!」
と、思わず叫んでしまい、慌てて身をかがめ出した。
「あぁ、ロキファミリアの方達でしたか。家の店の常連なんですよ」
「な、なんですとぉ?!」
「なんでもロキ様がこの店を気に入ったみたいで。今回の遠征の成功を祝って飲みに来たんでしょうね」
さも嬉しそうにシルは語るが、今のベルはそれどころじゃなかった。
この店がロキファミリアの溜まり場になってる?
って事はこの店に居続けたらあのヴァレン何某に見つかる危険性があるって事?
それどけは不味い。なんとしても彼女に見つからずにこの店を出なければ。
しかしどうすれば良い?
最悪自分一人でならなんとか抜け出せるかもしれない。
だが、今この店には神様ことヘスティアと共に来ている。
彼女を連れて脱出するのは非常に難しい。
何より、今のヘスティアは店の雰囲気を気に入って気分アゲアゲのノリノリ状態だ。
こんの状態のヘスティアを無理やり店に連れ出したかった最悪嫌われたりしたらそれこそ本末転倒になってしまう。
それだけはなんとしても避けたかった。
「こ、此処はなんとかやり過ごそう。ロキファミリアの人達が帰った頃を見計らって帰れば何とか行ける筈。最悪首領パッチと天の助を囮に使えば或いは」
ベルの脳内では最早首領パッチと天の助の事は都合の良い弾除けとしか思っていないみたいだ。
まぁ、基本的に二人は無敵なので問題はなさそうだが。
そうと決まればここは息を潜めてやり過ごすのが鉄則。
早速身を潜めつつロキファミリアの、アイズの動向を確認してみた。
彼女は祝杯ムードでいい感じにお酒が入ってるのか頬が少し赤い。
そんでもって仲間達と楽しく談笑しまくってる辺り、こちらに気づく可能性は限りなく低いと判断できた。
(よし、これなら大丈夫そうだな。後はロキファミリアの面々が帰るのを待ってその後で僕たちも帰れば万事解決だな)
そう思い、もう一度ロキファミリアの方を見てみた。
「見つけた」
目の前には
しかも超至近距離でーーー
「ぎゃっ!!」
あまりにも唐突な出来事に思わず楳○か○おチックの叫び声をあげてしまった。
急いで逃げようとしたのだが、その時には既にベル君の襟首をアイズがガッチリと掴んで離さないでいた。
「あの時のダンジョン以来だね」
「そ、そうですね・・・」
「ベルもここで飲むんだ?」
「えと、きょ、今日はたまたまで・・・」
「ふうん、そうなんだ」
かたや再会を喜ぶ中で、かたや再会を呪ってると言う何とも不可思議な光景が其処にはあった。
「今日は遠征の成功を祝しての宴会なんだ。一緒に飲もうよ」
「い、いやぁ・・・てて、天下のロキファミリアの皆様とご一緒だなんて畏れ多いですよ」
「謙虚なんだねベルは。大丈夫だよ、支払いは全部ロキにさせるから」
「いや、別に支払いを気にしてるわけじゃないからね! そう言う意味で謙遜してるわけじゃないからね!」
「ふふっ、今日はいい日だな。とことん楽しもうねベル」
「あ、あのぉ・・・僕そろそろ帰らないとーーー」
「駄目」
「ですよねー」
最早何もかも諦めた表情になったベルがアイズに襟首を掴まれてズルズルとロキファミリアの集まるテーブルへと引き摺られていく。
その間も、ヘスティアはしこまた飲み食いしており首領パッチと天の助の二人はホールの上で何故かフラメンコを踊りまくってる始末。
そんでその踊りまくってる生物を見てワイワイ騒ぎまくる冒険者の客達。
この店にはまともな人間は誰一人いないのだろうか。
(あぁ、故郷のおじいちゃん。僕、今女の人にお持ち帰りされてるよ。多分もう二度と会う事はないだろうけど、元気でいてね)
これから起こるであろう惨劇を予想して、ベルは一人涙を流しながら夜空を見上げるのであった。
豊穣の女主人 看板メニュー
「醤油かけないでの一点盛り」
常に「醤油かけないで」と懇願する謎の生物を皿に持った一品。
この店の人気メニューであり多くのリピーターが存在している。
因みに醤油をかけると溶けてしまうので生のままいただくのが通の食し方となっている。
税込 2000ヴァリス テイクアウトも可。