魔法剣士と異世界の姉妹 作:ニック
「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」
数日前の訓練終わりにメルド団長から言われ俺たちは今ホルアドにいるのだが
「……しょうがないよ。僕たちは戦争をするために呼ばれたんだから」
「でもよう」
俺は今その宿屋でむくれていた。それはその日俺が話していたことが原因である
オルクスの大迷宮行きが発表されたときメルドさんに聞いたのだ
「あの、メルドさん。一応聞いておきますけど、ハジメって迷宮にはどうなるんですか?ちゃんと王宮に愛ちゃんみたいに残るんですよね?」
俺が不安そうに聞くとメルド団長がきょとんとしている
「ハジメか?俺としたらハジメも連れていこうとしていたんだが……」
「えっ?」
「ありえないか?まぁ教会もそのつもりだったからな」
「でも、職人職ですよ?大迷宮って魔物も湧く危険な場所ですよね?なんで職人職であるハジメが迷宮に行かないといけないんですか?」
その一言にクラスメイトからの視線が突き刺さる。しかし今回の件はどうしても理解できない。
一応ハジメと一緒にこの世界について調べたことがある。大迷宮は
「なんで戦闘職ではないのに同じ訓練を受けさせていたんですか?普通なら王宮の錬成師の元で修行をつかせるところじゃないんですか?」
「何を焦っているんだ?大丈夫だ。ハジメのような生産職でも俺たちがいれば十分カバー」
「トラップに引っかかったり、奇襲を受けたらどうするんですか?」
俺は冷たくいうとメルド団長がギョッとする。こっちだって友達の命がかかっているんだ。
王都に留まらせたい。
万が一の場合ハジメは絶対に危険を冒す
誰か、いや。恐らく俺をクラスメイトを守るために危険な場所に赴くだろう
「大迷宮には分かっていないことも多い。もし万が一不観測なことが起こったらどうするんですか?戦闘職じゃないステータスもそんなに高くないそんな奴を大迷宮に出してどうするんですか?殺す気なんですか?」
「……お、おい」
「俺たちはまだ迷宮にでることも魔物と戦うのも初めてです。それなのに俺たちのカバーをしつつ本当にハジメをカバーすることなんてできるんですか?」
ざわざわと騒ぎ立てるクラスメイトの中にたった一人だけ抗い続ける。
相手のペースになったらいけない。
自分の意見を押し通すには行動しかないのだ
しかし、結局は勇者や他のクラスメイト、ハジメからの説得?もあり結局はハジメも参加することになった
「……お前は怖くないのかよ」
「えっ?」
「どうせ気づいているんだろ?お前俺のやっていることに」
そう俺がやっていることは既に意味がある。それは
「うん。教会との対立だよね?」
「あぁ。所謂、戦争に参加しないようにするクラスメイトもいるんだろう。…正直俺は戦争自体にやる気がない。というよりも戦争をしても帰れないような気がするんだ」
俺はそういうとハジメが少しだけ無言になる。お互いに薄々感じていたのであろう言葉に小さく息を吐く
「俺はしばらくしたら王国を出ようって思っている」
「へ?」
「だってそうだろ?勝手に呼び寄せておいていいなりになるって嫌じゃん。それなら……自分で帰れる方法を考えることに集中したいんだよ。個人的には神代魔法っていうのが怪しいって思っているんだよ……だからそれを探す旅をしたいって思っているんだ」
誰かを見捨て、そして生き残る。
それはクラスメイトに対する裏切りを意図していた
「やっぱりそうするつもりだったんだね。どうせボクも一緒に行かないかって聞こうとしているんでしょ?当然僕も行くよ。……タクミだけで行かせるなんて僕は絶対に嫌だしね」
「そっか。ならよかった。……できれば今日までで抜け出せたらいいと思ったんだけど……この世界の知識が全然足りねぇ」
そう知識。この世界で暮らす知識が全く足りないのだ。
「まぁその時までだね」
「あぁ。……気張ってけよ」
と軽く手を合わせる。どこか嫌な予感はするがそれでも前を向くしかないのだ
「ちょっと素振りしてくるわ。先に寝るなら火は消しておいてくれ」
と俺は手をひらひらと振ると剣を持ち外に出る
不安恐怖。
俺はそれを背負っている
しばらく歩いているとそこには少し開いたスペースで聞き覚えのある声が聞こえてくる
どうやら八重樫が素振りをしているらしい。そういえば、八重樫とは未だこの世界に入って訓練時間でしか話さなくなった一人だ。
遠目でその素振りを見ているがよくよく見たら八重樫にいつものキレはなく、どこか力み力ずくで切っている気がした。
「……はぁ。あんまり話しかけたくはないんだけどな」
俺は小さくため息を吐く。今から裏切るって決まった矢先に話しかけるって。さすがに俺も苦笑してしまう
でも、八重樫には生きて欲しいから
俺のことは忘れて幸せになって欲しいから
少しきっかけを与えるくらいならいいだろう
せっかくだし久しぶりにちょっと八重樫をからかってみるか
俺は少し笑いながらステータスプレートを開く
瀬川匠 17歳 レベル:21
天職:魔法剣士
筋力:340
体力:210
耐性:150
敏捷:180
魔力:330
魔耐:90
スキルポイント 95pt
技能:剣術 スキルポイント3倍 上限解放 限界突破[+最後の力] 魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率Ⅱ] 全属性魔法 高速魔力回復 スキルツリー 憤慨 言語理解
となっている。これから必要になるだろう気配感知と気配遮断を買ってもいいだろう。ついでに身体強化の変換効率Ⅱをレベルを2つあげて4にしておこう
これで一気にスキルポイントが減ったが基本的に5ptで取れるので十分だろう。
八重樫の一通りの訓練が終わった後、気配遮断を発動しながら魔法で氷の球体を作る。そして八重樫の背中に入れてみた
「ひゃ、な、何?」
俺はその反応にプルプルと体を震わせる。
やっばぁ。こいつ思った通りのいい反応を見せやがる
「あ、あなたねぇ?」
「ひゃってお前どこかの漫画のヒロインかよ。……こういったところお前本当に可愛らしい声でるよな」
青筋を立てる八重樫に俺は少しプルプルと笑ってしまう。悪い悪いと謝る気はないのは八重樫も気づいているだろう。それが冗談ってことを分からないような奴ではない。呆れたように俺を見る
「なんか久しぶりって感じだな」
「そうね。あなた、随分派手なことをしてまわっていたからあまり話しかけないようにしていたのだけど」
「そうだな。俺が動くって結構あったと思うのだけど…」
「あなた、戦争って聞いてあんまりいい顔しなかったから。私たちとの交流もなるべく避けるようにしていたから……少し怒っているんじゃないかって思ったのよ……あの時香織にも、結構冷たかったし」
「……」
俺は少しだけきょとんとしてしまう
まさか見抜かれているとは思いもしなかった
「気づいていたのか?結構隠しきれているものだと思っていたんだけど……」
「えぇ。あなたって結構わかりやすいもの」
「そうだな〜結構言われるな。……まぁ分かりにくくてさらにそのことをずっと黙っているお前に比べたら随分ましだと思うけど」
俺はジト目で見るとすると八重樫は一瞬眉が反応したがぐっとこらえている
「どういう」
「お前が普段訓練しているときは早くて綺麗な剣なんだよ。相手が誰にしろ僅かな怯えと戦いながら戦闘をしているって感じか?でも今日の剣はやけくそに振っているのか分からんけど剣の形が崩れていたんだよ。素人の俺でさえ分かるくらいにな」
「……」
八重樫は驚いたように自分の剣を見る
俺は軽くため息を吐く
「お前な。いい加減その悪癖どうにかしたら?」
「……えっ?」
「誰かを頼らず自分だけで物事を考えるくせ。お前って何かと物事を隠そうってしているのバレバレだぞ?」
俺が八重樫をじっと見つめていると少しだけはぁと息を吐く八重樫。
「あなた本当によく見ているのね?」
「……それはお前もだろ?」
「えぇ。だからこそみんなには話せないことがある。……そうじゃないかしら?」
それは同意だ。今回の件も大概はクラスメイトに知らせないといいことだらけだろう
「……あなたは今でも戦争反対なのかしら」
「反対というより俺個人は参加するつもりがないって言えばいいか?……非戦闘職のハジメを前線に出すような奴らに協力なんてする必要がないしな。それに教会についても正直いい印象は持ってないからな」
「……あなたって本当言い出しずらいことをきっぱり発言するわね。光輝に対してもそうだったでしょ?」
「…八重樫には悪いけど俺は天之河が本当に嫌いなんだよ。あぁいう流されやすくてなんでも自分の思い通りになると思っている性格は苦手。しかもカリスマ性があるからなおさらめんどいことになる」
うんざりとしてしまう俺に少しだけ八重樫は苦笑している
「それってあなたもそうでしょ?」
「俺?俺は違うだろ?あいつは他人に流されていて、俺は俺のやりたいようにやる。誰がとか関係ない。自分が選んだ道を自分で歩いている。自分の意志があるかないかの違いだろ?」
「…確かにそうね……」
「……最近気になっているんだがお前さ、最近天之河にちょっと辛辣じゃね?白崎もそうだけど。」
最近訓練時しかあまり話しかけないような気がするんだが……
「……ちょっと香織関連で色々あったのよ」
「あぁ。なるほどな」
まぁ、恐らく俺のことだろうな。
色々あっただろうけどこいつも結構大変だからなぁっと思いつつ空を見上げる
「……んじゃな。もうそろそろ戻るわ」
「えっ?」
「いや。明日迷宮だろ?さっさと寝ておいた方が良さそうだしな」
そういうと俺は小さく手を振り背を向ける
「んじゃまた明日な」
恐らく最後になるだろうな
少し名残惜しく思うが……それでも優先順位がある
そう思いながら一人寂しく部屋に戻るのであった