天才漫画家の給仕係   作:斎草

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2人を繋ぐ1本の線

 

———

 

お父さんとお母さんから聞いた話だ。

赤ん坊の頃、寝返り癖がついた頃の話。

ベビーベッドではなく寝室にある大きなベッドでお父さんと昼寝をしていた時、私はころころと寝返りを繰り返してベッドの上を転がったらしい。

私の身はベッドの端まで転がり、今にも落ちそうな時、お母さんが寝室に偶然入ってきて「危ない!」と駆け寄ったそう。

でも私の身は何かに押し戻されるかのように布団の上に戻った。

お母さんは当然、さっきの声で飛び起きたお父さんも驚いた。

 

それが私のスタンド、"ガーディアン"の初仕事だった。

 

———

 

吉良邸に美晴が来てから3日が経った。

朝6時。美晴はつい癖でいつもこの時間に目が覚めるが、吉良はまだ眠っている時間だ。吉良は美晴の身をがっしりと後ろから抱き、彼女の手を握っている。最悪の寝覚めだ。

ゴソゴソと身動ぎしてみるが、熟睡しているらしくちっとも抱き締める力は緩まらない。

(嫌いだわ……私の手を握る手も、抱き締める力加減も、耳元で聞こえる寝息も……全部嫌いだわ、吉良吉影)

仗助や露伴にもされた事がないのに。

これから1時間後、朝7時に吉良は目覚めるだろう。まず朝一番に美晴の手に頬擦りして「おはよう」と言う。手作りの朝食を食べさせてもらい(美味しいのが腹立つ)、美晴の手に「行ってきます」のキスをする。全てが鳥肌が立つくらい嫌いだ。

吉良吉影の生活ルーティンが固定されているおかげで、彼の行動で今が何時なのかを大体把握出来る。それだけが今彼の存在がある事で助かっている唯一の事柄だった。

(眠いわ……ここに来てからあまりよく眠れてない。何度も目が覚めるわ)

美晴は改めて自分がストレスにめっぽう弱い事を悟る。吉良がいない時がよく眠れる時間帯なのだが、吉良がいない時にしか行動出来ないため睡眠で潰すのは勿体無い。だから夜に寝ようとは思うのだが、吉良が近くにいるせいで寝付きがあまり良くない。吉良にとっては平穏な暮らしでも、美晴にとってはストレスの塊だった。

 

「では行ってきます、美晴さん」

ちゅ、とリップ音が静かな部屋に響き、吉良は今日も出勤していった。美晴はキスされた手を雑に掛け布団で拭い、今日も行動を開始する。

「トイレの場所は教えてもらったのよね……部屋も大体周れたけど、把握出来てないところもあるわ……」

障子を開け、赤ん坊のように四つん這いで歩く。縁側の廊下を突き当たりまで進むと、ドアノブに手を伸ばしてその扉を開けた。吉良がトイレだけは教えたのは、単純に生理現象だからである。

美晴は中に入ると洋式便器の蓋を開け、カバーが敷いてある便座に乗って先日見つけた窓を開ける。しかし思ったより窓枠は狭く、ここから外へは出られそうになかった。

「だめね……というか出たところでどうしようもないんだけど」

仕方なく窓を閉め、気を付けながら便座から降りてそこに座る。

外に出たところで、美晴は別荘地帯の地理を知らない。逃げる算段など立てられないし、吉良の家にいた方が安全なのは確かだ。——とても皮肉な事ではあったが。

「電話があれば露伴先生に助けてもらえるんだけどな……確か固定電話の番号をカーナビに入れると住所が分かるって話、聞いた事あるわ」

トイレを済ませ、そこから出ると独りごちながらまた歩き回るが、今のところ固定電話を見つけられた事はない。もしかしたら棚の上に置かれているのかもしれないが、目が見えない状態で立ち上がるのはガーディアンの守護があるとはいえ危ないし、あまり物色すると吉良に何を言われるか分からない。

「……露伴先生達、大丈夫かな」

ぽつりと零れた言葉。

露伴達ならすぐに見つけてくれると思ったが、正直なところ重清と一緒に吉良と対面するまでの捜索は難航していた。正体を知っている重清が殺され己もこうして軟禁されているので、捜索状況はあまり変わっていないというのが現実だろう。それでも彼らを待ち続けるが、現時点で既に3日が経過している。

もしかしたらもう、諦められているのかも——。

「そんなはず……ないわ……」

そう思いたいが、度重なるストレスが美晴の心を蝕んでいく。

美晴は畳の部屋に寝転がるとあたたかい陽射しを浴びながら、うとうとと微睡んでいった。

 

 

———

 

 

私は中学の頃まで静岡に住んでいた。

私の地元にはスタンド使いはいなかったけど、それなりに友達はいたし普通の中学生だった。——怪我をしない事以外は。

「来宮さん大丈夫?」

「うん、全然平気」

その日も私は体育の時間、リレーをしている時に派手に転んだんだけども、かすり傷ひとつしなかった。走り始める前にガーディアンの守護をかけていたから当然だった。

「さすが美晴!今日もツイてるわー」

「ホント怪我とか全然しないよねー」

友達はそう言って笑っていた。だから、私は学校でも上手くやれていると思っていた。

 

でも、友達と放課後の教室でお喋りしてて、私がたまたまトイレに行ったんだけども、その帰りに教室の前を歩いていた時に聞いてしまった。

「美晴ってさー、正直あそこまで怪我しないとかキモくない?」

「わかるー、ありえないよね。なんかあの子ヤバいよ」

「ちょっと怖いよねー……」

——分かっていた事だけど、この能力が万人に受け入れられるものかと言えばそういうものじゃあない。1、2回ならまだしも、私はいつもこの能力を使っていたから怪我が付き物な事柄でも絶対に体を傷付けなかった。

かと言って、怪しまれないように能力を解いて怪我を負うなんて事は、幼い頃から痛みを知らなかった私に出来るはずがなかった。

(でも今はすごく……痛いわ。胸の辺りが、ズキズキ痛いわ……)

受け入れられるはずがない。心の片隅で分かっていた事。

私が"普通"ではない事。皆が知る"痛み"を私は知らない。

だけど私はこの時、初めて"痛み"を感じた。

 

家に帰ってから私はお父さんとお母さんに縋るように泣いた。赤ん坊の時以来の号泣に両親はとても驚いていたけど、2人は何よりもあたたかい体で私を包んでくれた。

「美晴にはいつも素敵な守り神様がいてくれるのよ。大丈夫。あなたは"選ばれた子"なんだから、普通じゃあなくて当たり前なのよ」

「そうだよ。父さん達はそんな"選ばれた美晴"を誇りに思っている」

両親はいつもそうだ。2人はスタンド使いじゃあなかったけど、いつもそうやって私を、ガーディアンの存在を肯定してくれていた。そりゃあ、2人だって甘々な教育をしている風じゃあなかったけど、それでもその事だけはいつも肯定してくれた。

私の1番の味方だった。ガーディアンだって、きっと嬉しかったに違いない。

 

でも私は、そんな両親ではなく自分自身のためだけに能力を使ってしまった。

中学の卒業旅行に行く車の中、私達家族は大規模な交通事故に巻き込まれてしまったのだ。新聞やテレビでも大々的に取り上げられるようなその事故で、周りの生存者達も怪我を負う中、やはり私だけが無傷で助かった。

両親は即死だった。

 

葬式の時、親戚間で誰が来宮美晴を引き取るかで結構揉めたらしい。詳しい事は聞かせてもらえなかったけど、両親の遺品を整理している間、誰もあの家に訪れる事がなかった。

 

私は独りになってしまった。

なんとか渋々了承したらしい親戚がいるM県S市にある"杜王町"に引っ越す運びになったが、その先で私は——、

 

私は——、

 

 

———

 

 

ハッと息を呑みながら意識が目覚めた。

美晴はガバッと勢いよく身を起こすと周囲の気配を探り始める。

「……誰もいないわ」

昼間に寝転んだままの姿勢だったので、吉良もまだ帰ってきていない。吉良は帰ってくるなり美晴を探して、「ただいま」のキスを手に施すのだ。そうしてから美晴を元の布団に寝かせる。

いつもならそうなのだが、縁側まで出てくると夜に鳴くような虫の声が微かに聞こえてきて首を傾げた。

「……おかしいわね。いつもならもう帰ってきてるはずだわ」

吉良は遅くとも夜8時には帰宅してくる。彼の生活ルーティンは規則的で、それを破るのは彼自身が1番嫌う事でもある。

勿論、美晴は吉良を心配する気なんて更々ないが、あの彼が帰宅してこないのはなんとなく不気味に感じた。

仕方なく布団のある部屋に戻ってくるが、ふとピタリと動きを止めると襖の方に顔を向ける。

「電話……私が電話すれば、ここの住所が分かる……」

今なら吉良もいないしチャンスだ。しかしもし途中で吉良が帰ってきたら?

「…………」

露伴に電話をした事がバレたらどうなるか。殺されるなんてヘマはしないつもりだが、相手は私の事なんてどうでもいい男なのだ。ゾッと鳥肌が立つ心地になるが、今行動を起こさずにいつやるというのか。

それに、ここから電話を掛けるという行為は、吉良を確実に追い詰める事になる。

「電話を……電話を探すのよ。引っ掻き回してでも……探すのよ!」

美晴は覚悟を決めて襖を開けた。ガーディアンを傍に出しながら、畳のヘリやささくれで覚えた家具の配置を頭に思い浮かべる。

「この部屋は吉良の書斎……あるとしたらここよ。あいつはほとんど携帯か子機で会社と連絡を取っていたけど、あいつが頻繁に使う部屋はここのはずだわ……」

美晴は動き回りながら電話をしていた吉良の声を思い出す。彼は親機はあまり使わないタイプだろう。

吉良の家は恐らく縁側の廊下でほとんどの部屋が繋がっている。固定電話は親機を廊下に置く家庭も多いが、この家の親機は廊下にはないだろう。

だとしたらよく使う部屋に置いている可能性が高い。実際露伴も仕事場にFAX付きの親機を置き、子機の方をリビングに置いている。理由は簡単、露伴は原稿を送る際にFAXを使う時もあるし、美晴は家事のほとんどをリビングを始め1階でこなすからだ。しかし実は給仕係の仕事で家の中を右往左往する美晴よりも、仕事場にいる時間が長い露伴の方が自宅の電話に出るのが早い。——これは蛇足的な話だが。

「ここにはなさそうね……ん?」

机の上をあまり物を動かさないように物色していたが、本や電灯の他に変わった形の物がある事に気付いてそれを撫でる。

「……インスタントカメラ……?」

真ん中にあるレンズのような感触にピンと来る物があったが、なぜ机の上にインスタントカメラがあるのだろうか。写真が趣味なのかと思ったが、それならもっと良いカメラを使っても良い気がするものだが。

「今気にする事じゃあないわ。それより電話よ」

しばらく手に取っていたがそれを戻すと探索を再開する。机とは対面にあるタンスまで這ってくるとそれをペタペタ触り、支えにするようにゆっくり立ち上がるとすぐに体を支えられる感覚があって思わず安堵した。

「ガーディアン……あなたきっと、単純に"守る"だけじゃあないわ。あなたは……"危険な事から対象を守る"スタンド……"痛み"だけじゃあない……」

己のスタンドは承太郎が言ったように成長しているのだろうか。今は勘でしか感じる事が出来ないが、吉良邸に来てからのガーディアンの行動は全て"美晴を危険な事から守る"ものだった。進行方向に壁があればぶつかる前に押さえて止めさせるような、そんな"危険を予測した動き"が多くなっているのだ。

「何か変な置物がたくさんあるわね……」

美晴は己のスタンドの助けを借りながら立ち上がるとタンスの上を探り、置物をさわさわと触る。——後にそれは吉良が学生時代に獲得したトロフィーや盾である事が判明するが、今視界を遮られている美晴にはどれもピンと来ない物だった。

「!!」

しかしタンスの隅に指を這わせた時、ツンと"それ"が触れた。"それ"はトロフィーや盾とは違う形状をしていて平べったく、ボタンが数個付いている。そしてその隣には取り外しが出来る縦長の物が付属しているのだ。

「"電話"だわ……やっと見つけた!」

パッと表情が明るくなる。ここ最近では形を潜めていた感情が奥底から湧いてくるのを感じる。

やっと助けを呼べる。やっと露伴の声を聞ける。やっとここから出られる。

色々な感情が渦巻く中、美晴は受話器を取るとボタンの感触を頼りに岸辺家の番号をゆっくりと確認するようにプッシュしていく。程なくして呼び出し音が聞こえ、その音にドキドキと心臓が高鳴って緊張で体が熱くなっていく。

 

早く露伴の声を聞きたい。

早くあの声で「美晴」と、名を呼んでほしい。

 

『はい、岸辺です』

「露伴先生!!」

電話口で聞こえた眠そうな声を押し除けるようにその名を呼んだ。今は一体何時だったのだろうか。けど今はそんな事どうでもいい。

「露伴先生!私…!!」

途端に嗚咽で声が詰まる。ずっと聞きたかった声が、たった一言言葉を紡いだだけなのにキュウっと己の胸を締め付ける。

『……!美晴…?美晴、君なのかッ!?今どこだッ!!』

電話の向こうでガタッと椅子から立ち上がるような音が聞こえる。それだけ露伴も待ち望んでいたのかと自惚れる程に、美晴はその一挙一動を頭に浮かべて涙が出ないながらも嗚咽を漏らしていた。

「露伴先生ッ…!今、」

しかしそこで不意にグワッと体を勢いよく引かれる感覚があり、受話器は美晴の手から離れてコードの先でユラユラと揺れていた。

 

———

 

その数分前。

露伴はリビングのテーブルに腕を枕代わりに突っ伏した状態で目を覚ました。

美晴の捜索を始めて既に3日目。殺人鬼が彼女を連れ去ったのは確かだが、確定的な証拠や手掛かりは何もなく、捜索は難航していた。せめて名前さえ分かれば、自宅を突き止めて突撃する事も可能なのだが。

「あの服に付いていたボタン……アレの解析はまだ終わらないのか?」

仗助が見つけ、今は承太郎が預かっているボタン。SPW財団で調査すると言っていたが、こうも遅いものなのか。

露伴は突っ伏した状態のまま頭を台所の方へ向ける。美晴が料理する姿をこうして眺めるのは己の特権だった。だが、それをもう見る事も出来ないのだろうか。

「露伴先生」と、彼女が己の名を呼ぶ事は、もうないのだろうか。

そんな事ばかりが頭を過ってしまうから、こうして何もしない時間が苦手になってしまった。

「……もう日付も変わる時間なのか。どうりで」

窓の外は暗く、静かだ。露伴は身を起こすと軽く伸びをして寝室へ向かおうと立ち上がろうとした。しかし不意にテーブルに置いた電話の子機がけたたましく呼び出し音を鳴らし、そちらに顔を向ける。

「……?誰だ、こんな時間に」

椅子に座り直し、小型のディスプレイを確認すると知らない番号からだったが、なんとなく通話ボタンを押すと受話器に耳を当てる。

「はい、岸辺です」

『露伴先生!!』

電話口の声は女の物で、己の声を押し除けるかのように鼓膜に響いた声に思わず眉を顰める。

なんだこの女。こんな非常識な時間に電話を掛けてきて。

しかしその声は妙に聞き覚えがあって、そしてそれはついこないだまで毎日聞いていたような気がして、寝ぼけた頭でも「もう一度何か言ってくれ」と願わずにはいられなかった。

『露伴先生!私…!!』

詰まるように嗚咽を漏らす声。露伴はハッと息を呑んで目を見張り、思わずガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。

「……!美晴…?美晴、君なのかッ!?今どこだッ!!」

間違いない。毎日聞いていたんだから分かって当然だ。逆に1発でピンと来なかった自分が情けなさ過ぎる。

来宮美晴だ。この電話の向こうにいるのは来宮美晴だ。

 

僕の大切な来宮美晴だ!!

 

『露伴先生ッ…!今、』

しかしその声は不意に途切れ、ガタガタッと受話器が落ちるような音がしたかと思えば声が聞こえなくなった。

「美晴ッ!?おい、美晴ッ!!」

露伴は思わず声を荒げるも受話器からもう声が聞こえる事はなく、電話が切れた事を意味するあの"ツー"という音が聞こえるばかりだった。

「……くそッ!!美晴……!!」

子機をテーブルに叩きつけるように置き、項垂れながら目元を押さえる。

彼女は危険を押して己に電話を掛けてきてくれた。そして殺人鬼に見つかって阻止されてしまったのか、電話は故意に切られてしまった。3日前、美晴が携帯から己に掛けてきた時と同じような状況にまた陥って小刻みに震えながら込み上げるものを抑える。

しかし露伴とて諦めるわけにはいかない。美晴は他でもない己に助けを求めてきたのだ。それも2度も。美晴がそこにいるなら、今度こそ助けなければ。

露伴は急いで仕事場に入ると親機の着信履歴を表示させる。そこに書かれた電話番号をメモするとまたすぐに階段を駆け下り、外に出て車のエンジンを掛けながらカーナビに先程メモした電話番号を入力する。

「別荘地帯か……また遠いところに家を構えたモンだな」

シートベルトを締め、ハンドルを握る。今の時間なら車の通りも少ない。すぐに辿り着ける。

「待ってろ美晴……すぐに助けてやるからな!!」

勢いのまま車を発車させて道をひた走る。全ては己の大切な人のために。今度こそ彼女を見つけるために。

 

———

 

露伴が家を出発したのとほぼ同時刻。

美晴はガーディアンに導かれるまま押入れの中で息を潜めていた。外では何かの気配が蠢いている。

(ガーディアンが引っ張ってくれなかったら……"何か"に攻撃を仕掛けられていたわ)

声も足音も聞こえないので、外にいるのが吉良ではない事は確かだが、一体何がいるというのだろう。遠距離型のスタンド、と考えるのが妥当だろうが、吉良が誰かと手を組んでいるとは思えない。キラークイーンの射程距離もここまで一人歩き出来るものではないはずだ。

(ここに何かいるって事……吉良は知っていたのかしら。でもなぜ私は今攻撃を仕掛けられているの?)

先程も考えた通り、何であろうと吉良が誰かと手を組んでいるとは思えない。この状況は一体何を意味するのだろうか?

(吉良も知らない何かが……吉良を守ろうとしているの?)

少なくとも美晴がここで吉良と過ごしている間はこんな気配が現れる事はなかった。1人でいる時も、2人でいる時も、眠っている時も。今助けを呼ぼうと電話を使って初めて現れたのだ。

そこまで考えた時、敷地内に車が入ってくる音が聞こえて思わず身構えた。まさかこの外にいる"何か"が、吉良を呼び戻したのだろうか。車から人が降り立ち、急ぎ足でこちらに来るような足音は靴を脱いで縁側から中へ侵入してきた。そして一部屋ずつ襖を開けて、だんだんと美晴が隠れている部屋に近付いていく。

(お願い、ガーディアン…ッ!!)

美晴は手を合わせながら祈った。"どうか吉良がこの押入れを開けませんように"、"私の事を守って"、と。

しかしその祈りも虚しく、美晴が隠れている押入れが開く音がすぐそばで聞こえた。

 

「美晴!!」

だが、聞こえた声は吉良のものではなかった。

「美晴…ッ!!」

次いでこの身が引っ張り出されたかと思うと、ふわりとあたたかい体温に包まれ、懐かしい匂いが鼻腔に触れる。

「あ……あ……!あぁ…!露伴先生…ッ!!」

気付けば己もその名を呼び、ぎゅっと背中に手を回していた。

岸辺露伴だ。今私の体を包み込んでいるのは、この声は、この匂いも、全て。

 

私の大切な岸辺露伴だ!!

 

「露伴先生ッ…!この家何かいるわ!」

美晴が顔を上げると露伴は彼女の目に巻かれている包帯に手を掛けた。

「分かってる。まずはこの包帯を解いてやるよ」

しかし美晴はその手を咄嗟に掴んで首を横に振った。

「だめ!私今、目が見えないの。爆発でだめになったの。解いたらきっと……びっくりしちゃうわ」

そんなところ、露伴に見られたくない。

露伴はハッと息を呑むと包帯に触れた手を下ろし、ぎゅっと今一度美晴を強く抱き締めてから彼女を抱き上げて周囲を見回す。

「……頼るのはシャクだが……仗助のところに寄るか。今はこの家から脱出する方が先だな」

露伴は足早に縁側まで出ると車まで走り、美晴を後部座席に乗せてシートベルトを締めてやってから今度は東方家への道を辿り始めた。

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