天才漫画家の給仕係   作:斎草

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04.守るべきもの
サマーシーズン到来!


 

ノストラダムスの大予言をご存知だろうか。

1999年7月、人類が滅亡する——という"アレ"である。

しかし、ほとんどの人にとってこの夏は、いつもと変わりないものとして過ぎ去っていくのだろう。

 

杜王町では7月1日に海開きと川開きが行われ、首都圏やS市内からの観光客で人の出入りはいつもの2倍以上にも膨れ上がる。

これからの2ヶ月、サマーシーズンの杜王町はお楽しみがいっぱいである。

 

来宮美晴と岸辺露伴が出会って実に5ヶ月。

はじめての夏がやってきた。

 

 

————

 

 

「それにしても、美晴ちゃんが無事にアイツのところから帰ってきてくれて……本当に良かったわ」

オーソンの隅で鈴美は美晴を見て微笑みながらも薄らと目に涙を滲ませていた。

来宮美晴と岸辺露伴の2人は今日、美晴の新しい制服を受け取りにわざわざ商店街まで出向いたのだが、連絡の行き違いで明日店に届く事になっていたらしく無駄足を踏んでしまっていた。そこで、ついでと言っては何だが鈴美に美晴の無事を伝えに行く事にしたのである。

「まっ、美晴は殺しても死ななそうなヤツだからな」

「ちょっと露伴先生!それどういう事ですか!」

褒められてるのか貶されてるのか分からない、露伴のその絶妙な言い回しに美晴はプンスコとむくれる。その様子を見た鈴美は微笑ましそうにクスクスと笑みを零していた。

まだ油断は出来ないが、美晴が戻ってきた事で杜王町のスタンド使い達に希望が戻ってきている。それを実感して鈴美の心の内もひとまず安堵していた。

「ウフフ!でも露伴ちゃん、あなたがいない間毎日あたしのところに来ては"美晴がどこにいるか幽霊の力とかで分からないのか!"なんて言ってたのよ?」

「あっ、コラ!それは言わない約束だろうッ!」

「さぁ〜て、どうだったかしら!」

露伴をからかう鈴美は楽しそうに笑っている。それもそのはず、鈴美は彼と15年ぶりの再会を果たしたのだ。彼が自分の事を覚えていなくても、その嬉しさは変わらない。

あの時自分が助けた岸辺露伴が生きている事、彼に美晴のような心を通わせる事が出来る人間がいる事、そして彼の周りにたくさんの頼もしい仲間がいる事。鈴美にとってはどれを取っても喜ばしい事だった。

「美晴ちゃん。露伴ちゃんの事、これからもよろしくね」

自分はこの周辺からは動けない。けれども、美晴や仲間達がいてくれるから、安心して露伴を任せられる。自分が知っていた頃よりも随分ひねくれてしまったが、美晴なら彼を優しく包み込んでくれる。

「はい、勿論です」

そうやって彼女が穏やかに笑うから、信じられる。

「おい!そこは僕が美晴をよろしくしてやるところだろ!」

「はいはい!分かってるわよ、露伴ちゃん?」

「分かってないだろ〜〜ッ…!もう帰るッ!」

今度は露伴の方がプンスコしながら車の後部座席の扉を開けて美晴を誘導し始める。

「またね、鈴美ちゃん!」

「ええ。また遊びに来てね!」

お互い露伴の機嫌の悪い顔は慣れっこだ。そんな事を2人して思いながら手を振り、車はオーソンを離れていった。

 

 

その日の午後。

美晴が一階の掃除をしていると呼び鈴が鳴り響いた。覗き窓を確認してから玄関を開けると、そこに見た姿にパッと表情を明るくさせる。

「仗助くん!」

「美晴ちゃん!よっス、元気?」

訪問した仗助の方も表情を明るめながらピースサインをぴょこぴょこ動かしてはニッと彼女に笑いかけた。

「元気よ。でも今日、制服お店に届いてなくって。明日なんですって」

「マジかよ。じゃあ学校で会えんのはもうちっと先かァ〜……」

しかし一転、ハァと2人して残念そうに溜息を吐く。美晴だって早く学校に行きたい。億泰や康一、由花子とまた学校で会いたいのだ。

そこで仗助が「あっ」と声を上げながら何かを思い出したらしい、鞄をゴソゴソ漁ると数冊のノートを彼女に差し出す。

「そだ。これ、ここ最近の授業のノート。康一と手分けして写したんだぜ」

そうやってまたニッと笑いかけてくれた。

なんでも美晴が吉良に拉致された日から、美晴が帰ってくると信じてノートを取ってくれていたらしい。

「えっ……あ、ありがとう…!」

「ん。あとー……これ。開いてみて」

大切そうにノートを胸に抱く美晴に、仗助は折り畳んだ紙を渡した。美晴がそれを受け取って開くとピンク色の可愛らしい便箋に個性的な文字達が並んでいて、それはしっかりと視界に入れると同時にぼやけていく。

 

"美晴ー!元気か?また一緒にガッコー行こーぜ! 虹村億泰"

"美晴さんへ ノート役に立つかな?字が汚くてごめんだけど、また学校で会おうね! 広瀬康一"

"美晴さんが無事に帰ってきてくれて安心だわ。今度はみんなでお弁当食べましょうね。 山岸由花子"

 

「みんな待ってるからよー、早く復帰出来るといいな」

便箋に書かれた友人達からのメッセージを読んで瞳に涙を溢れさせては指でそれを拭う美晴の頭を、仗助はその優しくて大きな手で優しく撫でる。

皆すぐにでも美晴の見舞いに行きたかったが、精神状態がまだ不安定である事を考えるといつ、何人で行くのがいいのか考えあぐねてしまっていた。あまり大人数で押し掛けるのも美晴は勿論、露伴にとっても迷惑になるだろう。そこで彼女の恋人である仗助が適任だと彼らは考えたのだ。

 

「いつまで軒先で話してるんだよ、……って美晴!?なに泣いてるんだ!?」

そこに書斎から顔を出した露伴が玄関に顔を向けたかと思えば、涙を流している美晴をギョッとしながら視界に入れ、次いでその彼女の目の前にいる仗助に視線を転じる。

「仗助ェ……きさま、ついに美晴を泣かせやがったのか…!!」

その目は睨むように細められ、眉間にシワまで寄せながらツカツカと軒先まで歩んで美晴を守るように彼らの間に立ち塞ぐ。

「うぇッ!?ち、違うっスよ、誤解だ誤解ッ!」

「そ、そうですよ露伴先生ッ!私、今嬉しくて…!」

露伴がグス、と鼻を鳴らしながら己の服の裾を引っ張る美晴に釣られて彼女の手にある便箋に視線を落とすと個性的な文字達が見えて、内容までは読まなかったものの事情を察っして一瞬バツが悪そうに空に視線を向けてから咳払いをした。

「ンンッ……そういう事か。まったく、誤解を招くような事しやがって」

「露伴先生が勝手に勘違いしたんじゃあないですか……」

涙も引っ込む露伴の雑な誤魔化し方に美晴はむくれながら彼の陰から仗助を覗く。

「ありがとうね、仗助くん」

その柔らかい微笑みと覗き込んでくる仕草に、仗助は思わずキュッと胸が射抜かれる感覚に陥った。少し久しぶりに見る彼女の微笑みは、自然と己の頬に熱が籠る。

「ん……別に、大した事じゃあねーよ。俺、届けただけだし……」

なぜかドキドキと胸が高鳴って、視線が下を向く。それを露伴は面白くなさそうに視界に入れていた。

「用事終わったならさっさと帰れよ。ガクセーは宿題でもやってろ」

フン!と鼻を鳴らし美晴を連れて家の中へ戻ろうとするが、それを視界の隅に入れた仗助は慌てて顔を上げて彼らを引き止めるように腕を伸ばした。

「あぁッ!ちょっと待って!実は俺、露伴先生にも用事がッ…!」

その言葉を受け、露伴の足がピタリと止まる。次いで背後からバタバタと音が聞こえ思わず振り返ると、なんと仗助が土下座をしていて目を見張った。

「お願いですッ!この仗助と"チンチロリン"してやってくださいッ!」

その足元にはサイコロが3つ転がっていてわざわざ準備までしてきたのかと、しかし彼の意図が掴めず露伴の眉間にシワが寄る。

「じ、仗助くん……なんでチンチロリン?」

その彼の代わりに美晴が仗助と同じ目線になるようにしゃがんでその顔を覗き込むと、仗助は顔を上げて財布を取り出す。

「実を言うと……俺、今深刻な小遣い不足でよォ〜……いや、3万はあるんだ。けどよォ……3万じゃあこのサマーシーズンは満喫出来ねェ。美晴ちゃんともデートに行けねーかも……」

財布の中身にある3枚の万札。それを見せながら彼は項垂れるが、それとチンチロリンがどう結びつくのか美晴には分からなかった。

「ふーん……つまり、その3万とサイコロで僕と賭けをしたいって事かい?」

すると上から露伴の声が降り掛かり、視線を上げると依然眉間にシワを寄せたまま腕を組む彼の姿があった。

「美晴はチンチロリン、知ってる?聞いた事はあるかい?」

「ええと……聞いた事はあるんですけど、詳しくは……」

美晴が首を横に振るのを見て、露伴は暫し唸りながら考え込む素振りを見せる。その間、仗助の中には緊張が絶え間なく流れていた。

「フムゥ……まっ、いいだろう。ゲームは嫌いじゃあないし面白そうだ。美晴もチンチロリンを知るいい機会になるだろう。天気もいいし庭でやろうか」

ようやく露伴が顔を上げたかと思えば、彼は1人で勝手に決めて庭のテーブルがある方に足を向け始めた。

「美晴、麦茶でも出してやりなよ。昨日作ってたろ」

「へっ、あ、はい…!」

まさかあの露伴が仗助とゲームで遊ぶなんて。

「ありがとうございます、露伴先生ッ!」

仗助はそんな露伴の後ろ姿に深々とお辞儀をしていた。

「仗助くんもなんで急に……」

しかし美晴がコソコソと彼に近付いて問い掛けてみるとほんの少しだけ彼の肩が揺れて「あ、あー……」と声を詰まらせていて疑問符が浮かぶ。

「し、親睦を!親睦を深めよーかなって思ってさ〜……そうしたら、一緒に遊ぶのが1番いいかなァー!なんて思って……」

確かに仗助は"自分は美晴の恋人なので、保護者の露伴とも仲良くしたい"と以前に言っていた気がする。

「そうだったのね。露伴先生、まだ休載中だから仕事の邪魔ってわけでもないし、いいと思うわ」

美晴もそれで納得したように頷き、麦茶の用意をと台所の方へ歩んでいった。

(これで2人が仲良くなってくれるなら、私もすごく嬉しいし……チンチロリンも見るのは初めてだからなんだか楽しみだわ)

昨日作った麦茶の入ったピッチャーを冷蔵庫から出して、氷の入った2つのグラスに注いでいく。

岸辺露伴と東方仗助の不仲は美晴も頭を悩ませているところだった。とは言っても露伴が一方的に噛み付いているようなものだが、対する仗助もたまに煽りが過剰な事もあり、2人が顔を合わせるたびに内心ハラハラしていたのだ。

それが仗助の方から歩み寄ってくれるなんて。美晴は先程の2人を思い出しながら自然と笑みを零す。

「お待たせしてすみません。麦茶持ってきましたよ」

にこやかな笑顔を見せながら庭のテーブルまでグラスを持っていくと露伴と仗助は既にサイコロやチップを用意して並べていて、露伴がルールを紙に書いているところだった。

「ああ、ありがとう。ちょうど取り決めも書き終えたところだ」

それぞれにグラスを渡すと仗助も「ありがと」と美晴に微笑み掛ける。

「さて。仗助は知ってるだろうが、美晴にも分かるように"チンチロリン"のルールを説明しよう。……と言っても、そんな難しいモンじゃあないからすぐ覚えられるよ」

美晴が2人の間に立つのを合図に、露伴はルールを書いた紙をテーブルの中央のお椀のそばに置いた。

 

「"チンチロリン"はこのお椀の中にサイコロを3つ転がした出目で勝負する、所謂ギャンブルだ。もし振った時にお椀の外にサイコロが飛び出した場合は即失格、賭けた分を相手に払う事になる」

テーブル中央に置いてあるお椀。そう言われるとなぜか自分の方が緊張してきてしまいゴクリと唾を飲み込む。

「出目がバラバラの"役無し"も賭け金を相手に払う。2つの目が揃った時は残り1つの出目で勝負だ。大きい方が勝ち。これはなんとなく分かるだろ?」

紙の下の方に図解されたサイコロをトントンとペンで指すのを見て頷くと、ペンは上の図へと移動する。

「もし123と連番が出たらこれは"役"だ。だがこれは"ヒフミ"といって物凄く弱くて役無しよりもザコ。賭け金の2倍を相手に払う事になる。しかし456の連番、"シゴロ"と呼ばれる役は強い。賭け金2倍を相手からもらう事が出来る」

ペンのインクがそれぞれの図を丸く囲う。

「"ゾロ目"は"シゴロ"よりも強くて賭け金3倍をもらえる。中でも滅多に出ない111の"ピンゾロ"と666の"オーメン"は最強だ。賭け金5倍をもらう事が出来る」

最後にペンが1番下のピンゾロとオーメンの図を指して、その説明にも頷くと露伴はその紙を美晴に渡した。

「これが今日の取り決め。君が持っててくれる?その方が分かりやすいだろうし……」

露伴が彼女に向けた微笑みが、仗助の方に顔を向けると同時に形を潜めて訝しげなものに変わる。

 

「……知ってるかい?"サイコロ"というのは人類の歴史と共にある道具だ。最初は動物や人間の骨で作ったそうだ」

お椀のそばにあるサイコロをおもむろに指先で弄び、しかし視線は仗助の方に向いていて彼は気まずそうに視線を逸らす。

「サイコロを3個使うゲームの起源はフランスの"ハザード"で、それが東洋に渡ってマカオ・ホンコンで"大小"というゲームになり、第二次大戦後、日本で"チンチロリン"になったという……」

「へ、へぇ〜っ、そうなんスね……あ、チップは30枚キチッとありますよーっと……」

露伴が何を言いたいのか分からず、それでも彼がこんなうんちくを語る時は大体何かを探る時だと仗助も美晴もよく知っている。仗助は気を紛らわそうとしたのかチップの枚数を数えていたが、露伴はサイコロを2つ、指で摘むと己の目元にそれを持っていった。

「関西のヤクザの間ではもし、この"チンチロリン"で"イカサマ"をした者を見つけたら……そいつの"目玉の中"にサイコロ2つを埋め込んで川に流したという」

ゴク、と2人の喉が鳴る。

「残りの1個はどうしたか?そう!そいつを死体にする前に全身に"21"の風穴をあけたのさ……サイコロは1から6まで足すと合計21だからね。残りの1個ってわけさ」

つまり露伴は仗助に、——この岸辺露伴を相手に"イカサマ"をするつもりなら覚悟をしろ——そう言いたいのだ。

(露伴先生……仗助くんのこの誘いには何か裏があるんじゃあないかって、そう考えているんだわ……でも、あの仗助くんがそんな嘘を吐くなんて……考えたくないわね)

露伴なら考えそうな事だ。なにせ露伴は仗助の事が嫌いだから。

しかし美晴にとってはどちらも大切な存在だ。露伴の考えた通り仗助がイカサマをして彼から金を巻き上げるつもりならそれは許せない事だし、もし仗助が先程言った通りただ彼と親睦を深めたいがためにゲームに誘っただけならば彼は疑い過ぎである。

(でもチンチロリンって、ルールを聞いた限りでは完全に運ゲーみたいね。ポーカーでイカサマをする話は聞いた事あるけど……これ、イカサマをする隙なんてあるのかしら?サイコロに細工をするくらいしか思い当たらないけど……)

美晴がジッとサイコロを見ながら考えていると露伴がその視線に気付いたらしい。3つのサイコロを美晴に差し出してきた。

「ちょうどいい。これはうちにあったサイコロだからまずないとは思うが……細工がないか確認してくれるかい?僕の方がイカサマをしただなんて言われちゃあ堪らないからな」

サイコロが3つ、美晴の手の中に収まる。彼女はそれをひとつひとつ摘んでその目を確認し、どこにも不審な点がない事が分かると露伴に返す。

「どこにも変なところはなかったです。大丈夫だと思いますよ」

「ン!よろしい。じゃあ、先攻後攻を決めようか」

露伴と仗助がサイコロをひとつずつ振り、それぞれ露伴は4、仗助は6が出て露伴はフッと笑みを零す。

「幸先いいな、東方仗助。君からだ、振りたまえ」

頬杖をつきながらピンッとサイコロを弾く。しかし——、

「イテッ」

どこからかそんな短い悲鳴が聞こえてきてキョロキョロと露伴と美晴は辺りを見回した。

「今……」

「誰でしょうか、確かに今"イテッ"って……」

互いに耳に入ったその声に眉間にシワを寄せていると、ガンッ!とテーブルを叩く音が聞こえてそちらに視線を向ける。

「わーっ!イテーッ!先攻が決まったんでつい興奮してぶつけちまいましたーッ!」

見ると仗助が手を押さえながら強がるようにへらりと笑っている。

「……はぁ。まぁいい。早く賭けて振れよ。チップ1枚千円だ。さっき決めたの、忘れたとは言わせない」

「わ、分かってるっスよォ〜!じ、じゃあー……始めだから2枚くらいでいこっかなァ〜……2千円!」

呆れたように溜息を吐く露伴とへらへら笑っている仗助。その間に立つのは心配そうに見守る美晴。

チップ2枚がそれぞれ場に出され、仗助はサイコロを握ると腕を上下に振る。

「ふぃ〜ッ……123のヒフミは出るとまずいんだよなァ〜……ヒフミはだめなんだよなァ〜……」

そんな事を呟きながら。露伴が突き刺すような視線を仗助に向け、何やらただならぬ剣幕が漂い始めているのを感じて美晴もハラハラと心臓を高鳴らせる。

「じ、仗助くん……大丈夫?」

思わずそんな風に声を掛けると、仗助の動きがピタリと止まった。

「ん、へへ……心配いらねーよ、美晴ちゃん。ちょちょいっとデートのお金稼ぐだけだぜ〜っ」

その微笑みは引きつっているようにも見えて、嫌でも疑心が芽生えてしまうのが心地悪く感じた。

「最初だから軽〜くね、肩慣らしのつもりでね。行きますよ…!」

サイコロが仗助の手から離れ、チリリンと音を鳴らしながらお椀の中を駆け巡る。やがてそれはお椀の中央に3つ固まるように集まって回転をやめ、目が出揃う。

 

——が。

「……ッあ!?」

「なんだと…!?」

「え、うそ…ッ!」

3人の視界に映ったのは6のゾロ目——滅多に出ないと先程説明された5倍付の役、"オーメン"だった。

 

「ば、バカッ!いきなり出るヤツがッ、」

しかし次いで出た仗助の誰かを咎めるような声に反射的に露伴がガタッと椅子から立ち上がって睨み、美晴も思わず戸惑ったような目を彼に向ける。

それにハッと息を呑んだ仗助は両手を右往左往させると手をパンッと合わせ愛想笑いを浮かべた。

「い、いきなりバカヅキだーッ!って言いたかったんスよォ〜ッ!いきなり5倍付のオーメンが出るとか!まるでまるでッ!イカサマみたいっスねぇ〜ッ!!アッハッハッ!!」

ベシーンッと勢いよく己の額を叩きながら大笑いする仗助。その様子を見ていると嫌でも疑心が胸の中に渦巻いてしまう。美晴が露伴に視線を向けると、彼もまた美晴を見ていて視線がかち合う。

「ろ、露伴先生……」

「……君がサイコロを調べてくれたんだから信用するよ。まだ1回目だ。それに出る可能性もなくはない」

露伴のその言葉を聞いて美晴は背筋がゾッとした。

もし仗助がイカサマをしていた場合、サイコロを調べた己にも疑いが掛かる可能性がある——と、気付いてしまったからだ。美晴は仗助の恋人だし、現に彼が露伴とチンチロリンをしたいと言い出す前、2人で話をしていたのでそういった作戦を話し合う事も可能ではある。

だが美晴はこのゲームに一切関与していない。潔白を証明するにはどうしたらいいか。まだ彼がイカサマをしたと決まったわけではないのに、美晴は視界をぐらぐらと揺らしていた。

「フフ……早くも小遣い1万円稼いだってわけか」

「いやぁ〜っ、俺も信じらんないなぁ〜!今年の運使い切ったかもしんねーっ」

ザラザラと露伴のチップが仗助の方に流れていく。まだケラケラ笑っている仗助を尻目に、今度は露伴がサイコロを握った。

「次は僕の番だな。さっきのを取り返したいから——10枚でいくよ。1万だ」

「えっ、10枚!?」

スッとチップ10枚の束が差し出され、仗助が驚いたように声を上げるや否や露伴の手の中からサイコロが離れてお椀の中を駆け巡る。

チリリン、とまた涼しげな音が響き、誰もがお椀の中を覗いて息を潜める。

 

そして——、

「ああーっ!!」

「ゲッ!?」

「そんな!!」

お椀の中央で止まった3つのサイコロ。

それが示すのは123の連番——2倍払いの"ヒフミ"。

 

重い沈黙が辺りに流れる。

仗助のオーメン。露伴のヒフミ。どれも狙ったかのようにピンポイントで出た。

(こ、これは一体……!!)

偶然にしては出来過ぎている。美晴が仗助に視線を転じるが、彼はそれにすら気付かない様子でお椀の中にあるサイコロを見つめている。その顔には汗も滲んでいるように見えて、やはり何か企んでいたのかと疑心が沸いてしまう。

「露伴先生……」

「…………」

気付けば美晴の身は自然と露伴の方へ寄っていた。

露伴はそこらの人間に比べれば確かに金銭的には余裕がある。しかしそれはギャンブルでイカサマをしてまで金を巻き上げていい理由にはならない。

なにより、来宮美晴は曲がった事は嫌いである。それはいくら相手が恋人だろうと変わる事はない。寧ろ恋人なら尚更である。

(それにこれは……相手が悪かったわね、仗助くん。露伴先生はこういうのしつこいわよ……隠し通せるわけないわ)

 

7月の上旬、汗もじっとり滲む蒸し暑さ。

そんな中、疑惑渦巻くチンチロリンは更に激化していく事になる。





全然関係ないけど露伴と美晴を描いてみました。そういえばこの2人、カラーで描いてなかったなー、みたいなノリで。
所詮斎草の絵だと思ってあまり期待せずに見てやってください。

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