味音ショユの短編集   作:味音ショユ

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この摘まれた花に幸福を!2話

 天使様の魔法陣で送り出された私が最初に見たものは、まさにファンタジーといったものだった。

 レンガ造りの街に、剣を持って鎧を着た人や杖を持ってローブを纏った人たちが何の違和感もなく街を歩いている。

 今は私が日本で死んだときと季節が違うのか、どこか暖かく春先を思わせる。

 空は晴れ渡り、青い空が吹き抜けていた。

 

「私、本当に異世界に来たんだ……」

 

 話に聞いて分かっていたつもりだったけど、こうして実感するとどこかドキドキしてしまう。

 でも私もこの世界の住人になったんだし、頑張っていこう。

 そう思って足を一歩踏み出したところで、私は根本的なことに気付いてしまった。

 

 ――あれ? 私これからどうしたいいんだろう?

 

 そもそも私、この世界のこと何にも知らない。

 武器をもらった以上、魔王軍とかモンスター? みたいなのと戦う覚悟はしている。

 でもこの世界、モンスターと勝手に戦っていいの?

 仮によかったとしても、お金は入ってくるの?

 というか、それ以前にモンスターってどこにいるの? 街の外?

 とりあえず辺りに歩いている人を捕まえて聞くという手もあるけど、どう考えても不審者でしかない。最悪通報されそう。

 あ、そうだ。

 

「佐藤和真さんなら……」

 

 先にこの世界にやってきた日本人なら、間違いなくこの世界に慣れているし、同郷ということで助けてくれるかもしれない。

 でも私、佐藤さんと何の繋がりもない。

 向こうで知り合いだったとか親戚とかならともかく、同じ故郷であること以外何の接点もない私に会ってくれるの?

 うーん、他に当てもないし行くしかないかな……。

 そう思い、とりあえず佐藤さんの家を探そうとしたところで

 

「フンフンフーン♪」

 

 とても楽しそうに鼻歌を歌いながら歩く、水色の髪をした女性が歩いてきた。

 凄い。とっても綺麗な人。天使様も綺麗だったけど、同じくらい綺麗……。

 私が思わず視線を向けていると、むこうも気付いたのかこっちを向き、訝し気な目をしてきた。

 そのまま私に近づき、ジロジロと私の全身を見つめている。

 

「あの、何か用ですか?」

 

 私が遠慮がちに尋ねるも、女性は特に怯むことなくガンガン私に話しかけてきた。

 

「あなた日本人?」

「え? はい、そうですけど……」

「やっぱり! この私の前ではどんなことでも直ぐに暴かれてしまうわね!!」

 

 特に隠してたつもりはないんだけど……。

 というか、よく考えたら私の服装、血とか汚れは取れて綺麗になっているけど死んだときのままだから、この街の住人じゃないことはすぐ分かるんじゃ……。

 

「ねえねえ、アクセルにはいつ来たの?」

「ついさっきです」

「そうなの!? ねえねえ、ワン〇ースって今何巻まで出たの? 私こっちに来てから全然読めてないのよねぇ。良かったら教えなさいよ」

「いえ、私漫画はあんまり読まないので……」

 

 私が謝ると、目の前の女性は凄く意外そうに目をぱちくりとさせた。

 

「へぇ~、珍しいわね。異世界転生なんて、漫画とかアニメ大好きな子しか希望しないと思ってたわ。もしくは『俺が底辺なのは社会が悪い!』とかいう捻くれたニート」

「ニート!?」

 

 魔王軍が倒せないの、送り込む人のチョイスが悪いんじゃ……。

 ってそうじゃない。この人にならこの世界のことを聞けるかも。

 

「あの、私この世界のこと全然知らなくて。良かったら教えてもらえませんか?」

「う~ん。まあ、いいわよ。暇だし」

 

 暇だったんだ……。

 私が内心でツッコんでいると、女性は私の腕をとってそのまま歩き出した。

 

「まずは冒険者ギルドに行きましょう! せっかく武器があるんだもの、モンスターと戦ってみたいでしょ!?」

「すみません、まず冒険者ギルドってなんですか?」

 

 引っ張られながら私が聞くと、女性は唖然とした表情を見せた後「そこから……?」と小さく呟いてから頭を大仰に抱えていた。

 やがて女性が頭を抱えるのをやめると、私にいくつか質問をしてきた。

 

「まず聞くけど、異世界って聞いてどんなイメージ湧く?」

「えっと、剣とか魔法があって、モンスターと戦うみたいな……」

「あなた、深夜アニメとか見る?」

「見たことないです」

「ゲームはする?」

「あんまり……」

「ナーロッパって分かる?」

「何ですかそれ?」

 

 やがて女性が質問を終えると、いきなり虚空へ向けて叫びだした。

 

「あああああああああもぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉう!! ちょっと道案内すれば恩を売れてシュワシュワを奢ってもらえた後、アクシズ教徒にできると思ったのに、何でこんな面倒なことになってんのよ!!」

「あ、あの……。やっぱり私一人で行きますから……」

 

 私は思わずその場から離れようとするが、その前に再び私の腕を掴んで離さない。

 誰か助けてほしいと周りを見るけど、誰もこっちを見ない。

 いや、正確には一瞬だけ見るけどすぐに目を逸らす。どうしよう、私とんでもない人に絡まれてるんじゃ……。

 

「大丈夫よ。悪いのはあなたじゃなくて、転生させたあの天使だもの。ちゃんと教えなかったあいつが悪いわ」

「えぇ……」

 

 正直今すぐ逃げ出したいけど、女性は意外なくらい親切に教えてくれた。

 冒険者のこと、この世界の通貨のこと。あとこの世界の成人が十五歳なこと。

 正直、最後の情報はいらなかったと思う……。

 そうしていると大きな建物についた。ここが冒険者ギルドらしい。

 ギルドのドアに手をかけた女性は、急に手を止めたかと思うとこっちを向く。

 

「そういえばあなたの名前を聞いてなかったわね。なんていうの?」

「私は、野崎春花です。あなたは?」

 

 私が尋ねると女性は「よくぞ聞いてくれたわね!」と言った後、得意げに名乗り始めた。

 

「私は最高峰のアークプリーストにしてアクシズ教の御神体。水の女神、アクアよ!!」

 

 本物ならいいけど、もし女神を自称する痛い人だったらどうしよう。

 

 


 

 

 冒険者ギルドの中は結構広く、いくつもの長テーブルと長椅子が置いてある。

 アクアさん曰く、酒場も兼ねているらしい。夜は仕事を終えた人で一杯になるとか。

 ちなみに夜だけ開いてる訳ではないので、昼からでも乗ることはできるみたい。

 その証拠に、金髪の男の人が飲みながらウエイトレスさんに絡んでいた。

 私はその人を無視して、冒険者の登録をする受付の人に話しかけた。

 

「すみません、冒険者登録したいんですけど」

「登録ですか? では登録手数料が千エリスかかりますがよろしいでしょうか?」

「え?」

 

 お金、かかるの? と思いながらアクアさんの方を睨む。

 そんなこと言わなかったのに……。

 

「そういえばそうだったわね」

 

 忘れていただけ?

 

「ハルカはここに来たばっかりだからお金なんか持ってないでしょ。アクシズ教に入信するっていうなら、特別にお金貸したげてもいいわよ?」

 

 アクアさん足元見てくる。凄い足元見てくる。

 絶対女神じゃないよこの人。悪徳な宗教勧誘してくるし。

 ダメ。この人にこれ以上関わっちゃいけない。

 

「あのすみません。この辺りに古着を売れるようなところはありますか?」

「古着……ですか?」

「ダメよそんなの!!」

 

 ということで持ち物を切り崩して登録料を稼ごうとしたら、アクアさんに物凄い勢いで止められた。

 

「ブルセラなんて絶対ダメよ! あそこにいるダストみたいなのが『ゲヘヘ。せいぜい安く買いたたいて一通り堪能した後、高く転売してやるぜ』って言うに決まってるわ!!」

「言うかあああああああああああっ!!」

 

 アクアさんの言葉に、さっきまでウエイトレスさんに絡んでいた金髪の、ダストと呼ばれた男の人が怒ってこっちに突っ込んできた。

 

「俺があの頭のおかしい爆裂娘と同じような体系の奴をエロい目でみると思ってんのかてめえ!?」

「だってダストだし、ねえ?」

「そうですね……」

 

 怒るダストさんに対し、アクアさんと受付の人は「それくらいやりかねない」と言いたげな目で見つめている。

 正直少し可哀そうだけど、入り込む隙間がない。

 

「というか、そうまで言うならあんたがハルカの冒険者登録代出してあげなさいよ。そしたらさっきのことは謝ったげるわ」

「んな金あるわけねえだろ。今日だって飲んでたシュワシュワはツケで済ますつもりだったんだぞ」

 

 あ、ダメだ。この人もダメだ。

 私、アクセルに来てからダメな人にしか会ってない。

 どうしよう、と思って悩んでいると、今度は別の人が話しかけていった。

 金髪碧眼のポニーテールで、鎧を身に纏った美人だ。

 綺麗な人多いなこの街……。

 

「何をしてるんだお前たちは……」

「あら、ダクネスじゃない? どうしたの?」

 

 アクアさんが尋ねると、ダクネスと呼ばれた金髪の女性は呆れたような表情で、懐から小袋を取り出して言う。

 

「アクア、お前財布を忘れていっただろう。届けようと思って追いかけたら知らない少女と一緒にいるし、何事かと思ったぞ」

「え、本当?」

 

 ダクネスさんの言葉にアクアさんは慌てて自分の体を探る。

 そしてしばらくしてから、やっちゃったと言わんばかりの表情をしてから、こっちを見て片眼を閉じながら舌を出して一言。

 

「てへぺろっ」

 

 そこはかとなく、イラっとした。

 すると、今度はダクネスさんが私に話しかけてきた。

 

「すまないな。私の仲間が迷惑をかけた」

「いえ、そんな……」

 

 確かにこれ以上関わりたくないオーラはあったけど、今のところお世話にしかなってないのでやんわりとダクネスさんの言葉を否定した。

 

「ならいいが……。そうだ、ダストから聞いたが登録料がないのだろう。何かの縁だ。私が出そう」

「……いいんですか?」

「おいおい大丈夫かよ。踏み倒されても知らねえぞ」

 

 私がお金を受け取ると当時に、ダストさんがそんなことを言ってくる。

 正直言い分は正論だと思う。

 しかしダクネスさんは自信満々にこう言った。

 

「まあ、そうなったらカズマに頼んで借金取りになってもらうさ」

「おっかないわね……」

 

 何だか気になる会話が私の後ろで繰り広げられているけど、私は登録料を受付の人に払う。

 そのまま冒険者について説明を受け、必要な書類を書いていく。身長と体重これであってたかな……?

 多少不安な面もあるけど、とりあえず受付の人に提出した。

 そして冒険者カードを受け取り、ステータスを見せる。これで適性のある職業を判断してくるらしい。

 

「幸運と魔力は低いですが、後は全体的に高めですね。特に耐久力が凄いです。これならプリーストやウィザードは難しいですが、それ以外なら割と何でもできますね。個人的には戦士がお勧めですよ」

「あの、私の武器はこれなので出来れば遠距離攻撃が得意な職業がいいんですけど……」

 

 そう言いながら私は持っているクロスボウを見せる。

 すると受付の人は特に悩むそぶりも見せず、すぐにこう言った。

 

「でしたらアーチャーですね。耐久力のある後衛というのもありがたいものですよ」

「じゃあ、アーチャーで」

 

 こうして私の職業はアーチャーになった。

 そのまま受付の人の教えに従い、弓、狙撃、千里眼のスキルを習得。

 正直千里眼以外を使う機会があるとは思えないけど、一応習得した。

 

 とにもかくにも、これで私も冒険者だ。

 私は早速、依頼が貼ってある掲示板を見に行くことにした。




ちなみにこのすば側の時系列は三巻終了後から四巻開始の間くらい。
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