ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
満月の日の夜。今宵もまた何か起こりそうだとも思いつつも、こいしさんを探していた。
確か目撃情報だとこの辺なんだが……
「居ない……いや居るか?」
バルコニーを目を凝らしてみてみる。
そこには手摺りに座る、危ないこいしさんの姿があった。
「ちょっとこいしさん!?」
「うわっと!?危ないなあ」
「ごめんなさい……ただ、そこまで危険な真似をしないでください」
「危なくしたのはお兄さんじゃん」
「いや、そもそもやらないでと言う事でして……」
「考えておくー」
「はあ……」
そこに居たのは、いつもと変わらないようなこいしさんだった。
避けられていたのも気のせいだったかな?
「それで?何かあった?」
「……知っての通りかと」
まあ……初めから分かっていたんだろうな。
「まっだろうね、しょうがないしょうがない」
「……」
「それじゃあ寒くなって来たし戻ろっか」
「あのこいしさ……」
「戻らないよ」
やっぱりそうだ、機嫌がいいのは不思議だが……彼女は戻らないと。
「でも」
「約束したでしょ?」
話をまた遮られる。
あくまで自分から帰る気はないんだと。
さとりさんが来ない限りは……
「いつも通りならお姉ちゃんは来ない。ただそれがいつも通りでしょ?」
「嫌ってるわけじゃないんですよね?」
「勿論、お姉ちゃんの事は好きだよ?でもさ、お姉ちゃんがそうだとは信じられないんだ」
「それならまず話さないと……」
「お姉ちゃんは優しいからね、私をどう思っていても庇う筈」
「本当に大事だってあるじゃ無いですか」
と言うかさとりさんはそうだと信じたい。
「後はさ、ここも気に入ったし」
部屋へと扉を開く、そのまま中へと入っていく。
「本当に大事ならここから連れ去ってねって」
それだけを言い残し、もう話す事はないよとばかりにフランちゃんの元へと向かって行った。
「……何をしても無駄なのか?」
何をしても彼女に届かないのか?
どうにかしようにも、地霊殿に辿り着くことすら出来ない自分は無力にしか思えなかった。
無駄である、彼視点では。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よっ、久しぶり」
「ヤマメさんですか……?珍しいですね」
地霊殿には珍しい客が訪れていた。
土蜘蛛である彼女は地底の入り口付近に生息しており、地霊殿に訪れる事などほぼ無いからだ。
「いやぁ、偶にはいいじゃない?」
「当然、構いませんよ。お茶用意しますね」
「ああ、有難う。さとりのところのは美味しいしさ」
「それで、何用ですか?」
「いや、大した事じゃないけど気になった事があってね」
「気になった事……成る程」
相手の心を覗き込む。いつものようにごく自然に。
その後、やらかしたことに気がつく。
「ごめんなさい」
「いや、話す手間が省けて良かったかな」
「そう言って貰えると幸いです」
「それで、つまりそう言うことなんだよ。地底に人が来た」
「しかも迷子では無く……地霊殿に用があってですか」
「そう言うこと、念の為に言いに来たってわけさ」
「有難うございます。しかし……ああそう言う事ですか」
「また覗いたなもう……仕方ない奴め」
さとりの頭をぽんぽん叩く。
うっかりとやってしまった事に気付き赤面する。
「そんな悔やまなくていいさ。少なくとも私は味方だから」
「……はい」
「それで、なんで地上の人間が地霊殿を知っているか……誰かが噂してるのかねえ」
「噂ですか?」
「地霊殿の事を言いふらしてるとか?」
「知っている人は居ないと思いますし、何より来る意味が分かりません」
「それもそうだよなあ……だったら知ってるのが居たとか?」
「知っているの?」
「例えば……誰だろうな?妹ちゃんとか?」
「こいしが……!?」
こいしという言葉を聞いて立ち上がる。
今現在どこに居るか分からない妹。
心配ではあるがどうしようもない……その妹の話だ。
「例えばだってば……」
「そうですよね……すみません」
「ただ、可能性はありそうだけどね。知っていると言えば彼女だろうし」
「……そうですか、こいしが」
「彼女に何か言われたからさとりに何か用があったってのもありそうだし」
「……」
「さとり、どうしたの?」
「探しに行かないと……」
「ちょっと!!」
立ち上がるさとりを制止する。
このままだと向かってしまうだろうと。
「……どうして止めるのですか?」
「急過ぎだよ、分かるけどさ」
「あの子が何しているのか分からないのに……」
「今まで気にもして居なかったのに、急にどうしたのさってレベルだよ」
「気にして居なかった……こいしを……」
本当に自分は姉失格なのでは無いだろうか?
大切な妹なのに……いつも通りと妹を心配する事を無意識に忘れて居た。
「……さとり、あんたは自分を理解しているのかい」
「……理解していますが。それでもです」
地上はとてもうるさい。それでいて恐ろしい。
人間の心は触れる程、醜さに溢れている。
「ええ、分かっていますよ。分かってはいるんです……それでも」
大事な妹だから。
こいしには嫌われているかもしれない。
ただ……いつまでも放っておいたら心配でしか無い。
無理して連れ戻さなくてもいいが、せめて一目だけ見たいから。
「そもそもが関係無いかもしれないし」
「それでもいいわ。探す事には変わりないから」
「さとり様?」
「お燐、少し家を留守にするわ。お空と待ってなさい」
「どのくらいですかー?」
「妹を見つけるまでかしら」
「えっと……あっこいし様……今何処に?」
「それを探しに行くのよ」
「地上にですか?」
「ええ……少し怖いけど……それでもあの子に会いたいから」
「分かりました。お留守番してますね」
「ええ、お願いね」
「……なんかすまないね」
「いいえ、教えてくれて有難うね」
一人の男が取った行動は、その男にとっては無駄にしか思えなかった。
しかし、別の場所で……少女を動かしたのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
to be continued