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「業……ですか?」
「はい、貴方は余程深く見える」
霧が晴れてまず目に入ったのは珍しいタイプの帽子である。
過剰な装飾と言わんばかりに金色の縁取りがされており光ってすらいる。
そのように堅苦しいかと思えば、まるで服かのようにフリル状にも見える。
ただしその帽子の下から覗かせる緑髪が彼女に似合っていると思わせる。
背は、少し低めに見えるが……それすらも気にさせないような威厳さを彼女から感じる。
「そこまで俺って業深く見えますかね?」
「余程、自分自身の事を気付いていないらしいわね」
犯罪をした記憶はないが、そもそもそれを言い出す彼女は何者だ?
「俺の事を知っているようですが、そこまで有名人になった記憶は無いのですが」
一部の人達は知っているかもしれないが、それでもごく一部でしか無いだろう。
街を歩けば多くが気付くなんて事はありはしない。
「記憶が貴方と言う全てを物語っているのよ」
「記憶……?」
「……そう言えば貴方は記憶を一部失っていたわね」
「……やっぱりそうなんですか?」
幽々子さんにも言われたが……やはり自分は何かが欠けているのか?と、誰かも知らない相手に尋ねる。
口ぶりから、もしかしたら記憶を失う前の知り合いだったかもしれないが……
「ええ、貴方が持っている記憶は全てではないわ」
「そこまで分かっているって事は、知り合いだと思うのですが……全く思い出せなくて申し訳ありません……」
「いえ、私と貴方は初対面で間違いないわ」
「だったら何故俺の事を知っているのでしょうか……?」
「浄玻璃の鏡と言う物を知っているかしら?」
「聞いたことはある気がしますが……思い出せません」
名前から特別な鏡である事は分かる。
ただしそれがどんな鏡かまでは……
「本来であれば死者を裁く為に使う物。しかし……奴から聞いたのだけど貴方は把握し得ない存在である為、急遽使わせて貰ったわ」
「死者を裁く……まさかそんな閻魔様みた……」
言葉が途切れる。そうだ、確か浄玻璃の鏡と言うものは閻魔様が罪人の過去を見るために持っていた物で……
「四季映姫・ヤマザナドゥ。私が誰なのかは……そうね貴方の思った通りよ」
「……」
閻魔様って地獄に居るのでは無いのか?
確かにここは無縁塚で死と隣り合わせな場所なのかもしれない……ただそれにしたって地上だぞ?
「それで……閻魔様は鏡を使い何を見たのですか?」
「貴方の今までの人生よ。行って来た善行も悪行も全て……死んでまた蘇る輪廻から逸脱している死に戻りと言う行為もね」
「……本物、ですね」
流石に死に戻りと言う存在を知っているものは限られるし。
前に知っていても他の皆のように記憶は消されているはず……幽々子さんは分からないけど。
なら本当に浄玻璃の鏡を使ったと見るべきだろう。
「疑っていたのかしら?」
「……流石に唐突に言われても信じ難い存在ですよ。死んでも居ないのに閻魔様が目の前に現れました!って言う事は」
「……いい加減にしないと本当に輪廻に戻れなくなるわよ?」
「したくてしているわけでは無いのですが……」
一種の妹紅さん達のように死ねないに近い形であって。自分の力で……では無いと思う。
「と言うか閻魔様……何が俺が死に戻る原因となったのですか?」
「それすらも失われているの?……貴方自身が交わした事だと言うのに」
「はい申し訳ありませんが……え?今なんて?」
聞き間違いじゃなければこの原因は俺にあると聞く。
なんで?俺が何故死に戻りをする事に?
「……止めておいた方が良さそうね」
「なんでですか!!貴方は何を知っているんですか!!」
「……言うべき事では無かったわ」
「何を……見たんです?」
「今のままの貴方であれば徳を積み続ける事は可能でしょう」
「……そうじゃなくて何を!!」
「断言するわ。取り戻さない方がいい」
「……なんだよそれ」
俺は何をしたんだよ?思い出さない方がいい事までもをしたのか?
「それなら尚更過去を知るべきでは無いのでしょうか?同じやらかしを再発するわけにはいきませんし……」
「少なくとも、今の貴方に言うべきでは無い」
「……」
また情報を目の前にして立ち止まれと言うのか……?
何度も何度も……
「諦められません。叶わないと思っても」
「貴方の記憶を奪った存在がこの幻想郷に存在する」
「それは……一体?」
八雲紫……なのだろうか?
「その子は必要があるから、貴方の記憶を奪ったの。私が好き勝手言いふらすわけにはいかないの。見た所今の貴方はマシな筈よ」
「……それで納得しろとでも言うんですか?」
「納得するしないの話ではないわ。そうする必要があるからするだけなの」
「なら、何も知らないまま幾度も死に戻りを続けろと?」
「世界を混乱に巻き込むのはいただけないけど」
「何も知らないままならそうしかないでしょう」
……閻魔様に言われるなんて相当だが、本当に何をしたと言うのだろうか?
今が幸せだとしても欠けたままのモヤモヤは永久に消える事がない。
何より、知らないままならまた俺はいつまでも死に戻り続けるだけだろう。
「私から言うことはこれ以上は無い。小野寺蓮司、去るといいわ」
「こちらで勝手に探させて貰います。いつまでも死に戻るわけにはいきませんから」
「そこまで言うなら止めはしない。ただ貴方は絶対にまた……」
「こんな異変のようにも思える死に戻りを続けることは……もう……」
「異変……ね……」
「何か?」
「なんでも無いわ」
「そうですか」
「……来年は六十の時が巡る。精々罪を消せる程の徳を積むことね」
「……知りもしない罪を背負わされても困りますよ」
悪態を吐きながら来た道を戻って行った。
思い出さない方がいいと言われた。
自分が何をしでかしたかの不安はある。
ただそれでも知らなければ対応も出来ないだけでは無い……また死んで巻き戻るそれが永久に続くだけだろう。
そんな事を続ければいずれは俺だって壊れる。
だからどんな最悪で罪深い過去でも知らなければならないと改めて思わされた。
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to be continued