ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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■ キャラクター設定 

食蜂操祈(しょくほうみさき) 二十二歳 常磐台中学数学科教諭 元メンタルアウト(能力ほぼ消失)

密森黎太郎(みつのもりれいたろう)(レイ)十四歳 常磐台中学三年男子 レベルゼロ?

栃織紅音(とちおりあかね) 十五歳 常磐台中学三年女子 三年二組のクラス委員 オーラリーダー(レベル1)

山崎碧子(やまざきみどりこ) 十五歳 常磐台中学三年女子 生徒会長 サイコメトラー(レベル2)

その他の生徒たち


蠢動

          Ⅰ

 

 

「……以上、挙手による結果を持ちまして、うちのクラスの庶務委員には密森黎太郎(みつのもりれいたろう)くんが選ばれました。なお任期は来年三月までとします」

 クラス一同、拍手。不服そうな顔をしている一人を除いて。

 一時限目の前のホームルーム、壇上に立ったクラス委員の栃織紅音(とちおりあかね)により、生徒会からの指導で各クラスに庶務委員を置くことになった旨、通知されたのだ。

 今後、体育祭、学園祭と忙しくなる学園生活において、クラス委員――とくに指導的なポジションにある三年生の委員は――ひとりだけでは対応が困難になるのではないかとの指摘に生徒会長がさっそく手を打ったということだった。要するにクラス委員の誰かが生徒会長に、今後なにかと仕事が増えるから手ゴマになる雑用係をひとりつけて欲しい、とご注進に及び、それを会長が是としたということだった。

 もちろんそこには生徒会における学園祭実行委員会への牽制といった政治的な意味あいも含まれている。

 こうした意向を受けてクラスに持ち帰った紅音が今朝のホームルームで二組の全員に諮り、自薦他薦を募ったところ、ほぼ即決と言っていい素早さで密森黎太郎に鉢がまわってきたのだった。

 雑用係なんかやりたがるものがどこに居るよぉ、オイうってつけのヤツがココに居るじゃん、そうだわ密森くんなら適任よね、私も賛成! それはいい考えだわっ!

 流れはあっという間にできてしまった。

「あの……辞退はできないのでしょうか……」

 挙手したレイが、おそるおそる尋ねると、紅音が、

「できません、決定事項ですから。ただし手続きに不満がある場合には生徒会に申し立て書を提出して下さい。審議の上、後日その結果をお知らせします」

 案の定、事実上のゼロ回答。

「あの、先生――」

 操祈にも救いを求めたが、彼女も困った顔をするだけだった。

 

 放課後――。

 民主主義という暴力によって強制的に栃織紅音の子分にされてしまった密森黎太郎は、少女の後ろ、半歩下がって付き従っていた。

 見ようによっては刑務官に刑場まで連れ出される死刑囚のようでもある。気が重く、生徒会室まで続く廊下がひときわ長く感じられるのだった。

 生徒会長の山崎碧子(やまざきみどりこ)に対して、新たに加わるメンバーとして挨拶するということなのだが、レイは彼女が苦手だった。できれば近寄りたくない手合いなのだ。

 美人でスタイルが良く、常に学年成績トップを維持する明晰な頭脳の上に人あしらいも巧み、彼女に魅了されない男子は稀だろう。

 リーダーとしての天性の資質を持った才媛である。

 それだけなら特にどうということはなかったが、碧子にはもうひとつ、天から才能が贈られていた。

 それは――。

 サイコメトリー能力、それも現在学園最強のレベル2の能力者。

 この力が厄介で、彼女が視界に入るといつでも緊張を強いられるのだった。特に大きな秘密を抱えているレイのようなものにとっては……。

 だから思念のコピーを取られるのを避けてなるべく距離を取っていたのだ。

「あなたが密森くんね、よろしく、会長の山崎よ」

 生徒会室に入ると、奥のデスクから山崎碧子が颯爽とドア近くまでやってきてレイを中へ迎え入れた。碧子の纏っている爽やかなコロンの香りが鼻腔をくすぐる。

「あの、今度、二組の庶務委員を承りました密森黎太郎です……」

「密森くんね、知ってるわ、あなたのことは紅音からよく聞かされているから」

「はぁ……あの会長、ボクは……」

「碧子でいいわ、だってお互い同じ学年なんだし、私も黎太郎くんって呼ぶから」

 レイの腕を取って室内へと導く。

「掛けて――」

 長テーブルの席のひとつに座らせると、碧子もその隣に座った。ミディアムストレートにしたナチュラルブラウンの髪、利発そうな大きな瞳の瓜実顔がすぐ近くにあって少年を見つめていた。

 これじゃあタイガイの男子はイチコロだ、とレイは思った。

 操祈で馴れているから抵抗できるが、普通だったら碧子にあっさり魅了されていたところだろう。

 たしかにとても魅力的な美少女だった。美少女と言われる他の少女たちと較べても一ランク上の高級感がある。

「祐太、黎太郎くんになにか飲み物をもってきてあげて――」

 二年のクラス委員の男子生徒が即座に動いて、やがて目の前に淹れたてのコーヒーが出されてきた。香ばしい薫りが誘っている。

 けれどもレイは用心していた。サイコメトラーにとって液体は心を写し取る際の効率のいい媒体となるからだった。

 防御手段は他愛もないことを強く念じて本意を隠すというのが定番だったが、今は碧子への親愛を演じるほうが容易いと思い、少年はそちらの手を採ることにした。髪の匂い、端正な顔だち、甘く香る体臭……すぐそばに使えるものがいくらでもあったからだ。

「ああ、これはいいコーヒーですね、ブレンドはなんですか?」

「生徒会ブレンドです。ミッドローストした粗挽きのブルーマウンテンを七にコロンビアを三の割合で、ゆっくり落とすとこんな感じになります。会長がお好みなのでいつもご用意させていただいております」

 裕太と呼ばれていた二年生は、畏まった様子で碧子の横に立ちつくしたままレイに説明した。

 レイはそれを見ていて皮肉っぽい気持ちが浮かび上がってきそうになったが、それを強く封印して意識の底へと追いやった。

 

「……まぁお話はそんなところね、何か質問はある?」

「いえ……とくには……」

 碧子との面談はとりたてて内容のあるものではなかった。

 生徒会の現状といま抱えている課題の説明があって、全般的に人手不足だから手伝って欲しい、ただそれだけのことである。二組の庶務委員として紅音のサポート役となるべく彼女の指示に従うように、と。

 要するになんのことはない、(ハナ)から想っていたとおりに新入りの子分が親分に連れられて大親分との顔繋ぎにお伺いした、ということだった。

 生徒会室の外に出たレイは、クワバラクワバラとばかりに小走りになって退散するのだった。が、途中、廊下で操祈の姿を見かけると、ぴたっと走るのを止めて徒歩になり、彼女の横を通り過ぎるときにはしっかりと黙礼をする。

 どこから見ても普通の生徒が担任教師に敬意を示しているように。

 子供らしい理由から、もっとずっと気がかりなことがあって先を急いでいる風に見えるように。

 レイは操祈から離れると振り返ることもなく、また小走りになって去って行った。

 そんな少年の後ろ姿を見送る操祈も、自然に大人の女の頬笑みが浮かんでいて教師の顔を保っていられるのだった。

 

 そのころ生徒会室では会長デスクに着座した碧子の横に立って、紅音が頭を下げて額を寄せ合うようにしてヒソヒソと話をしていた。部屋には他に二名の男子生徒と一名の女子生徒が居たが、上級生二人の会話に立ち入ろうとするものはなく、長テーブルで黙々と作業を続けている。

「どうだった、彼? 見てたんでしょ」

 碧子はレイが使っていたコーヒーカップと皿を膝の上にのせ、両手を添えて丁寧に摩りながら紅音に訊いた。

「最初は暗色系が多かったのでかなり緊張していたようです。しかし時間とともにリラックスしていったようで暖色系に変わっていくのがわかりました」

「……そうね……こっちもそんな感じだわ……でも、ちょっと気になるのよね……」

「何がですか?」

 同級生であるはずなのだが、あきらかに紅音は碧子に対して単に会長であると言う以上に(へりくだ)っていた。

「彼、何か隠し事をしているような気がするの……皮相なイメージしか見えてこないのよ……前の二人と違って、なんか作り物っぽいの……まるで心の中で愛想笑いをされているような感じ……」

「そうでしょうか……」

 紅音はつい眼鏡を外したままで碧子をまんじりと見つめてしまった。

「やめて紅音っ、いつも言ってるでしょっ、私を見るときには眼鏡をしていなさいって!」

 碧子の強い叱責の声に驚いて、テーブルで作業をしていた生徒たちは一斉に顔を上げ、一様に憧憬と畏怖のないまぜになった眼差しで会長の方を見ていた。

「もうしわけありません、会長……」

「いいのよ紅音、大きな声を出して悪かったわ」

 碧子は親しげに紅音の両肩に手を置くと、

「紅音……わたし、あなたにはとても期待しているのよ……」

「わかっています、会長……」

「計画の実現にはあなたの力が不可欠なの……いい? 今の学園都市はあきらかに間違った方向へと向かっているの。間違いは正さないといけないでしょ?」

 紅音は従順に頷いた。

「私たちの理想の実現の障害となるものは取り除かなくてはいけないわよね」

 紅音の耳許に顔を寄せて碧子は囁いた。

「そもそも学園に女王が二人も居るなんて、おかしいわ」

 




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