ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
国道16号線を横浜方面へ向けて疾走するウルスが速度を九十キロに減速しはじめて、コクピットでフロントディスプレイを眺めていた藤城多顕正は
「……ちっ……」
と、舌打ちした。
ナビシートを倒し、優美な体を伸ばして手にしたフィルムPadでペーパーに目を通していた山崎碧子も肩肘をついて半身を起こし、百メートルほど先を走っている灰色のセダンに視線を送りながら、
「どうしたの? また渋滞?」
と訊く。
「ああ、この分だと着くのが遅れそうだ……」
「遅れるってどのくらいよ?」
「ナビゲーターによる到着予定時刻は十三分ほど遅れて三十七分後、十時十分過ぎだ」
二人がいま向かっているのは葉山にある顕正の別荘だった。そこで一晩、過ごして、明日の夜には学園都市に戻る予定でいる。
「そんなにっ? まったく、愚民が増えるとロクなことにならないわね――」
美少女は忌々しげに吐き捨てた。
「まぁメーカーは車が売れさえすればいいから、枯れ木も山の賑わいさ、どんな蒙昧な連中にも使い道はあるんだ。その使い方を決めるのは我々だがね」
「でも環境負荷が増すと、こっちにもとばっちりが来るでしょ? D計画の方はどうなってるの? さっさと人口削減しなさいよ」
「ミドリの心配には及ばないよ、先進国での人口は計画通り減少している――」
「でも途上国での人口爆発は? あれだけ劣悪な条件でも増加するんだから、人類って種はしぶといわよね、ゴキブリを嘲られないわ」
「この先、仮に数十年、第三世界でいくら人口が増えたところで彼らのもたらすエネルギー負荷は大したことはないよ」
「それはわかるけど……」
「問題なのは彼らが豊かになろうとすることだ。もちろんそんなことはさせないがね。われわれが途上国の独裁政権に対して寛容なのはそのせいさ。それよりもいま上が優先して考えているのは、先進国の中間層を今の三分の一以下にまで絞ることだ。そのためには今後、数回のショックドクトリンが必要なんだが、これも二十年以内には達成できるだろう、まぁ全てはシナリオ通り」
「たとえそうだとしても二十年なんて時間のかけすぎよ、私なら三年でできるのに。このまま繁殖力だけ旺盛な劣等種が増えつづけるなんて我慢できないわ。この国にも流れ込んでくるし……ちょうどいまロングデールの論文を読んでいたんだけど、彼女は今世紀中に人口減少に転換するのは無理だって言ってるのよ」
「ロングデール? キャルテックのアナベラ・ロングデールか? あいつもこっち側の人間だよ。そこに描かれているのはあくまでも表向きの想定だ。彼女自身、そんなことをこれっぽっちも信じてなんかいやしない」
「あら、そうなの? じゃあこんな論文には用はないわね――」
碧子はPadを些かぞんざいに脇に置いた。
「なぁミドリ、実は人口を減らすのは簡単なんだ。増やすよりも遥かにね。一見、野放途のように見える第三世界の人口増加にも意味があるのさ。あれは物を言うばかりで飼うのに金のかかる中間層を削るための
「またおきまりの大規模な感染症を演出するの? いままで何度やっても大して減らせなかったのに」
「否定はしないよ。それも一つの手立てではある。だが、人口を減らすためのカードなんていくらでもあるんだ。われわれが返り血を浴びない確信が得られたら、より大胆な手を打てるようになる。それまでもう少しの辛抱だな」
「ねぇ……顕正さん、中間層ってなぁに? いったいどこにラインがあるの? ことによっては貴方だって用済みにされる側になるのじゃなくて? 一介の企業経営者で一介の研究者に過ぎないあなたなんか、上から見れば芥子粒のようなものでしょ?」
「たしかに経済的な線引きにはあまり意味がないかもしれないね。資産が数百億あろうが数千億あろうが大した保証にはならないだろう。ほんの僅かな金でどうにでもなる政治家や役人なんて言わずもがなだ。一方、我々は切り札を握っている、いや、まだ握りつつある……途上にあるというべきだろうか……」
「切り札――?」
碧子は片方の眉を吊り上げて促していた。
「これからの覇権に必要なのは経済力でも軍事力でもないのさ……知力なんだ――」
「知力? つづけて……」
「例えばミドリ、君が、一杯の水から等量の金を簡単に生み出せる方法を見つけたとする。そのとき君はどうする?」
「もちろん徹底的に秘匿するでしょうね、誰にも教えたりなんかしないわ。そして密かに経済覇権を握るように動く……無尽蔵の富を支配しているのだから……」
「知のもたらす力とはそういうことさ――」
「ふーん……」
「更に教えたところで人類には実現できないし、理解もできないものであればもっと好都合だろ? 隠す必要すら無いんだからね」
「それが顕正さんの考えるラインなのね」
「知らず、解らず、出来ず……そうした古い人類と我々との間には、やがて壁が作られることになる、遠からず……我々が学園都市で能力者の研究に血道をあげていたのもそのためだった」
「でも上手くいかなかったじゃない――」
「いや、理解は進んだ。あと一歩というところまできている」
「そうなの――? まあいいわ、今はそういうことにしておいてあげる」
碧子はシートを起こすと、コクピットに居る顕正のジーンズのチャックに手を伸ばした。
「おい、ミドリ――」
思いがけない行動をする美少女に、男はちょっとびっくりした顔をしていたが、そのままやりたいようにさせていた。
華奢な白い手がブリーフの中にあったものを取り出すと、両手に包んで愛しげに上下させる。たちまち硬度を増してそそり勃つのを見て、女は妖しく微笑みながら言った。
「だって、顕正さんは未来の王様になるんでしょ? それなら私は王妃? 王妃としての務めを果たさないと」
ごちそうを前にしたときのように唇を丸めると、当惑げな男を一瞥するやそこに顔を伏せるのだった。
「あ……ああ……ミドリっ……」
「こんなに固くなって……おもしろいっ……」
「おい……そいつはオモチャじゃないんだぞ……」
顕正は目を細めながら股間でゆっくり上下をはじめた栗毛の頭をやさしく撫でた。
「で……その後、どうするつもりなの?」
「どうするって――?」
「思いどおりになった未来の話よ」
「……僕はべつに……王なんかになりたいわけじゃないから……誤解しないでくれ……」
「わかってるわ……そんなことぐらい……」
「そうか……やっぱりミドリは賢いな……」
「顕正さんこそ、いつまでもわたしを子供あつかいしないでくれるかしら……」
「ああ……すまない……葉山に向かっていると、つい昔のことを思い出してしまって……いいのかい? 本当に先生のところに行かなくても……?」
「べつにいいわ……行くって言ってないし……」
「そうか……」
二人はともに山崎清十郎の屋敷を訪うつもりはなく、あくまでもお忍びのデートなのだった。
「君が思うように、僕は……人を支配したいわけじゃない……自分が得たものの正当な対価を得たいだけなんだ……年寄り連中の使いっ走りをさせられた挙句に、使い捨てになんてされてたまるか……ただ、気になるのは……」
「なぁに? まだ何か気になることでもあるの?」
「いや……操祈くんのようなのが、あとどのくらい居るのかと思ってね……君の話によると、あの子は能力を再覚醒させているらしいから……」
「それはまだ確定してるわけではないわ、そういう情報が入ってきたというだけで……」
食峰操祈の話になると、おイタの途中でも碧子の表情は不快げに陰った。
「いずれにしても計画にとっての不確定要素だ……変数が増えるのは不味い……仮にあの子が我々に協力してくれるとしても……」
「こんな時に、あの女の話はよして……」
「そうだな……レディに対して失礼だった……うっ、ううっ……そろそろ勘弁してもらえないか……我慢が利かなくなる前に……」
「出してもいいのよ、わたしはかまわないから……」
「そうはいかないよ……車内に臭いがつくのはまずい……」
「心配しないで、わたしがちゃんと受け止めてあげるわ……」
美少女はさらに熱心に舌と唇を使って、お仕置きのように翻弄をはじめるが、彼はかろうじて持ちこたえていた。
「み、ミドリっ……それっ……そんなやりかたっ……誰から教わったっ……!?」
「失礼ね、べつに誰からも教わってなんかいないわよ、顕正さんにはわたしがそんな安っぽい女に見えるの?」
「いや……それじゃあっ……?!」
「教材なら、世の中にいくらでもあるでしょっ――」
「あんなものを君が見るなんて……」
「勘違いしないで、私がチェックしたのは解剖学の教科書よっ、神経の配置を見れば、どこをどうすればいいか判るでしょ?」
「そうか……君なら、そうなのかもしれないな……」
男の弱みを心得て、そこをしっかり責めたてられるとうっかり気をやりそうになるが、顕正は先の方に警告灯が回っているのが見え、警察車両が停まっているのがわかるとにわかに正気をとりもどすのだった。
「……ミドリっ……やっぱりダメだよっ……」
男の手が美しい貌を邪険にしないように気遣いながら、そこから追い立てようとしている。
「どうして――?」
楽しいお遊びを中断されて、端正な顔がちょっと不満そうになって見上げていた。
「検問みたいだ。前が減速していたのはその所為らしい……だからお行儀をよくしていないとまずいだろ?」
「そう、じゃあ仕方ないわね、勘弁してあげるわ――」
女が最後に軽くキスを一つして漸く解き放たれた男は、乱れた息を整えながらジーンズから飛び出していたものを中に押し込めた。居住まいを正して傍を見やる。淫らな振る舞いの直後であるにもかかわらず、端然と誇らしげな美少女の容子に心を打たれていた。
「ミドリもわるい子になったな」
「それはお
深い碧色の瞳をきらめかせて視線をはね返してくる。
「向こうに着いたら、今度はお返しに僕の番からだよ」
前戯を持ちかけた。
普段なら大抵、イヤ――と、即座に拒まれるのをダメもとで。だが、意外なことに
「いいわ――」
と、二つ返事で同意されて、顕正は目をまるくした。
「いいのかい? いつもは嫌がるのに……」
「そんなにしたいのなら、させてあげるわ」
「したいにきまってるじゃないか、男にとっての最高のご褒美さ」
「あら、顕正さんって変態さんだったのね……」
「君からそう詰られるのは光栄だよ」
見つめ合うまま美少女はジバンシーのシックなバイカラージャケットの胸ポケットから濃い色のサングラスを取り出すと、それをかけて目許を隠し悠然とナビシートにおさまった。
一瞬で大人の女の、それも女主人のオーラを纏った碧子に、顕正は自分が彼女の運転手になったような気分にさせられるのだったが、それも悪くはないとも思っていた。
誘導灯を持った警察官の指示に従って徐行し車を停めると、サイドウインドーを下ろして臨検に立った若い警官の顔を見上げた。
「ご苦労さま、何かあったんですか?」
と、訊いたが相手はそれには応えず、車内を一瞥しただけで「どうぞ進んでください」と、言ったきり後続する車両の方へと行ってしまった。
「事件でもあったみたいだ」
顕正は問われることもないままに、独り碧子に話しかけていた。
クリムゾンレッドのランボルギーニ・ウルスEをゆっくりと滑らせて検問を抜けると、すぐに一気に百二十キロにまで加速させてロスタイムを取り戻そうとする。
天候が崩れ始めたのか、フロントウインドーにポツリポツリと雨粒が落ちてきて、やがて本格的に降り始めた。視界が潤んで
ワイプ――!
と、命じようかと思ったが、あえてそのままにすると男はナビシートの女のスカートに手を伸ばして捲り上げ、白い肌着を露わにする。
相手が拒まないのを見て取ると、さっきのお返しとばかりに、その魅惑的な扇状地を指先でなぞり始めるのだった。
「むこうに着いたらって言ってたのに……」
「ああ……でも、我慢できなくなって……君のせいだよ、さっきあんなことをして僕をけしかけるから……」
「いいわ……好きになさい……」
男の思いが届きやすいように、少女は片足を持ち上げて脚を開き加減にして応えている。
「どうしたんだい、ミドリ……なにかあったのかい?」
「なにかって、なんのこと……?」
「いや、なんだかいちだんと可愛くなったからさ……」
「さぁ、べつに何も無いと思うけど……」
「そうか……」
了解を得たことで、男はさらに少女の肌着に指をかけて脱がそうとしていた。
「ちょっと……ホントに今するの……?」
「ああ――」
「じゃあ、待ってよ……脱ぐから……いま穿いてるのお気に入りのなの、破かれたりしたらイヤ」
碧子は自らスカートを手繰ると、長い脚に装着したガーターベルトにそって肌着を下ろしていった。その蠱惑的なしぐさの一部始終を、間近でつぶさに鑑賞して男は満足げに笑んだ。
「やっぱり君は変わったね……前なら、そんなこと絶対にしてくれなかった……」
「そうかしら……」
さっきまで肌着で覆われていたデルタに、髪の色と同じ栗毛のヘアが淡く繁って、愛らしい秘唇が覗いている。
「とても綺麗だよ……」
男は美少女の股間から一瞬も目を離さずに感嘆の賛辞を呟くのだった。