ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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サタデーナイトフィーバー ~リア充たちの夜~ Half a Dozen & 1

 

「せ、先生っ――」

「うん、よく書けてる。前回、僕が指摘した部分について丁寧に修正してあるね。これなら文句なく学位論文として纏まりそうだ」

「………」

「ただ一点だけ、この第二節でバーナード・ショーとケルト神話について論じた部分なんだが、もう少し引用文献を足して議論を補強しておいたほうがいいと思うが……どうかな?」

「………」

「アンナ・レッジオの著作にはあたってみたかね?」

 野々村凛子(ののみやりんこ)武巳(たけみ)の執務用デスクに両手をついてうなだれたまま、物憂げに首を横に振った。

 常盤台で教職に就いて以降、教員としての務めに追われて文献の調査は少しおざなりになっていた。

 控えめな性格を映すようにセミロングにした黒髪がサラサラと揺れて、その奥に隠れていた切なげな表情が垣間見える。

「そうか、たしかこの部屋の書架にも幾つかあったはずだから、あとで探して持っていくといい。彼女はジョイスの研究者として知られているが、ショーについてもなかなか良い議論をしているよ」

「………」

「それと僕が著したものにも、アイルランドの民族伝承について幾つか言及していた部分があった筈だが……それも文献リストに載せられるんじゃないかな?……君も持ってるよね? 十年ぐらい前にうちの出版部から出したヤツを……あれを入れた方が議論が更に深まるんじゃないかと思うんだが……」

「……はい……」

 倦み疲れたように頷いた凛子だったが、

 コツコツ――。

 不意にドアをノックする音がして彼女はビクッとして肩をすくめた。もしも誰かにこんなところを見られたらと思うと縮みあがってパニックを起こしそうになる。

 しかし部屋の主の十河武巳(そごうたけみ)は平然としていた。

「大丈夫だよ、ただの警備ドローンの巡回だから……」

 と、言ってから

「どうぞっ――」

 声を上げてドアの向こう側に応えた。すると、

「シツレイイタシマス」

 男声とも女声ともつかない人工的な声がして、教授室の扉が開かれた。

 現れたのは武巳が言った通り、高さが1メートルほどのドラム缶型の警備ドローンだった。

 ひと気の絶えた夜間は、十数機あるドローンが学内を巡回していて、四十八分毎に一度、各教室、研究室等の前の廊下を通ることになっているが、それに先立って午後九時半になると、まだチェックアウトをしていないIDの記録から居残っている教員、研究者や学生たちの所を廻って帰宅を促したり帰宅時間を確認したりしているのだった。

「ソゴウタケミキョウジュ ノノムラリンコサマ オシゴトチュウモウシワケアリマセン モウアト サンジュップンホドデ ジュウジニナリマス ホンガクノヘイモンジカンガセマッテオリマスガ イカガナサイマスカ」

「僕らも、もう少ししたらひきあげるよ、ありがとう」

「ワカリマシタ オカエリノサイハ ヒノモト トジマリノゴカクニンヲオネガイイタシマス」

「うん、わかってる、君も毎晩ご苦労だね」

「ドウイタシマシテ センセイモオツカレサマデス ドウゾオキヲツケテオカエリクダサイ」

 ドローンがドアを閉めて去ると、凛子は緊張を緩めると同時に傍の武巳に対して非難の流し目を送るのだった。

 初老の痩せた男のやや癖のあるごま塩の頭を見やりながら、ずいぶん白髪が増えたと思う。

 五年あまり前、初めて逢った頃は今よりもずっと髪色が濃くて、まだ少壮気鋭の青年研究者の雰囲気も残していたが、さすがに五十の坂を越えると老いは隠せなくなってきていた。

 ただその分、性格は生来の粘着的な気質がよりいっそう顕著に、執拗になった気がする。

 彼女は今、指導教授である武巳から、自分が手がけている学位論文の草稿のチェックを受けていた。しかし確かめられていたのは原稿だけではなかったのだ。

 むしろそちらの方が凛子にとっては、はるかに気がかりで切実な試練になっている。

 武巳はデスクの上に広げた凛子の論文原稿のページを繰りながら、片手を彼女のスカートの奥深く肌着の中にまで差し入れてきていて、さらに先を探ろうとする指とそれを拒む哀切な締まりとの間で必死のせめぎ合いとなっているのだ。

 花冠周りの繊細な飾り毛の感触を探るように円くなぞられて、さらにそれを指で摘もうとする辱めに堪えきれず、凛子は小さく悲鳴をあげて訴えた。

「……もう……勘弁っ、してくださいっ……」

「どうしてだね? 小道具は受け容れてくれるのに僕の指はもうダメなのかい?」

 詰め寄られて凛子は口をつぐんだ。

 たしかに武巳の言ったようなことは過去にもあった。しかし彼女にはけっして受け容れたつもりなどなかったのだ。結局、否応もなく受け容れさせられたのだと思っている。

 褥を共にした男に、ひとたびそこを侵すという決意をされたら最後、女の身には逃れられる術など残されれはいなかった。

「以前は悦んでくれたじゃないか……ここを……こうされるのを……」

「いやっ、いやですっ……それ……先生っ……ああっ――!」

 ついには有無を言わせぬように無慈悲な男の指が潜り込んできて、凛子は唇を咬んだ。ほっそりとした色白の面差しに前髪がかかって恨みの表情を匿している。それを男の指が払うと女の顔を覗き込むようにして言った。

「いい表情だ……とてもきれいだよ、凛子くん……」

「………」

「こういうところを愛されるのは、君が特別な女の子である証だよ、女の誰もが興味をもってもらえるわけじゃない……愛らしく生まれた者は愛され方も深く豊かになる……人よりも多くの歓びを経験するようになるんだ……」

 指をゆっくりと抜き差しさせながら、誘うように囁きかけてくる。

「……先生っ……やめてっ……くださいっ……」

 凛子は悩ましげにお尻を蠢かして甘い責め苦に堪えていた。

「僕は君が好きだ……教え子の中でも、いまでもピカイチだと思っている……」

「はあっ……イヤぁっ……」

 長い指が肉を隔てて女に特有の部分を探ろうとしていて、凛子の背中がクッと仰け反って女らしい優美なアーチを描いた。

 十河武巳――。

 文久大文学部教授。

 凛子の学部時代のゼミの指導教官であり、自身の少女時代を名実ともに終えさせた憎い男でもあった。

 以降、妻子のある教授との肉体関係は、彼女が卒業するまでの間、数ヶ月にわたって続き、もともと陰影のある凛子の性格にさらに影を落とすことになっていた。

 そして今では武巳の歴とした愛人になっている。

 認めたくはなかったが現実はそうだった。

 不倫を続け、彼の家庭を崩壊させようとする性悪女の役回りを演じさせられていた……否、演じている……。

 親娘ほども年の離れた男女関係――。

 実際、武巳には良家の出身らしい上品そうな妻との間に、自分と三つしか年の違わない娘と、来年には大学四年生になるその妹がいて、平穏な家庭と社会的にもステータスのある何不自由のない生活があるのに、彼はリスクを犯してまで娘のような年頃の教え子の体を弄ぶことを選んだのだ。

 それが今も凛子には不思議だった。

 自分にそれほどの価値があるとはとても思えなかったからだ。

 例えば、これが食峰操祈のような非の打ち所のない美女であるのなら、大人の男が分別を失ってのめり込んだとしても頷ける。

 その彼女も、容子から察するに曰くのある恋をしているようだった。

 無理もない――と、思う。

 あれほどの美貌なら、男ならきっと誰でも、ひと目見てすぐに虜になってしまうだろう。彼女が自分のようなタブーを犯しているとは思えなかったが、いろいろな性経験を重ねているだろうことは疑いなかった。

 武巳の言葉を借りると、人並み外れた美貌には豊穣な性を経験する権利と義務とが生まれるのだそうだ。美しい容姿をもって生まれた女には男に歓喜をもたらす責任があり、その引き換えに常人には得難い快楽を知るのだ、とも。

 席を隣にしていて時に感じることのある操祈から漂う官能のオーラは、彼女の充実したセックスライフを窺わせるものなのだった。

 しかし、翻って我が身を省みると、特別容姿に恵まれているとも思えない。

 実に平凡だと思う。

 目だってそんなに大きくはないし、胸だって日本人女性の標準サイズだ。

 どうしてこんな自分に男は興味をもつのだろう――?

 たしかに野々村凛子はいわゆる正統派の美女、わかりやすいタイプの美貌というのではなかったのかもしれない。しかし彼女自身には自覚が乏しかったが、(うぶ)そうな中にも時に垣間見せる蠱惑的なしぐさや表情が男心をくすぐるのか、十代のころから男子生徒たちからは懸想されて、勝手に妄想を膨らませた挙句に言い寄られることが少なくなかったのだった。

 凛子にとってははなはだ迷惑な話だったが、その所為もあってクラスの女子たちからはひどく憎まれ、結果、友人付き合いが苦手な孤独を好む文学少女になっていた。

 彼女が長じるまで異性を寄せ付けようとはせず、孤閨をまもり続けていたのにはそんな事情もあったのだった。

 だが、大学に進んで知り合うことになった十河武巳はさすがに大人の男だった。しかも文学者として女の心理にも通じていて、ゼミの中に居ても何かと孤立しがちだった凛子の心の機微に巧みに寄り添いつつ、やがては自らの褥へと招いたのだ。

 初めて知った性の世界。

 敬うべき男が、このような振る舞いをするのが意外で、それによってもたらされる逸楽の世界は想像を超えて甘く眩いものだった。

 ゼミの中では何食わぬ顔をしていて、その陰では甘美な果実を盗み食いしていた。

 ただ、こうした関係を続けていると、やがては愛人関係へと堕落してしまうことになる。武巳には守るべき家庭と社会的信用があった。自分のような碌に取り柄も無い一女子学生が、それらを台無しにしてしまうのは許されざることだ。

 師弟から男女の仲になってしまった時点で既に不倫をしていたことになるのだが、それでも自分が恋をしているのだと信じていたかった凛子は、いつかは終わらせなければならない関係であることも良く分かっていて、卒業はまさにその契機となる筈だった。

 凛子は勇気を持って、師であり恋人であった武巳に別れを告げると、イギリスへの留学に踏み出したのだ。内定していた通信社への就職も辞退して。

 東京に居れば卒業後もなし崩し的に、また武巳との関係を続けてしまうことになるのが判っていたからだった。

 ところが――。

 そうすることで一度は清算したつもりだったのだが、帰国をするとやはり彼の元に舞い戻ってきてしまっている。

 以前と同じように体の関係を重ねてしまっている。

 自分の人生を取り戻そうと留学までして武巳と距離を置き、渡航先のイギリスでは結婚まで考えた恋人もできたのだが、結局は元の黙阿弥だった。

 ひとつには学位論文の指導教官として、彼を頼るしかなかったから――という事情もあった。

 だが、それが体のいい口実にすぎないことを凛子自身も気がついていた。

 武巳は教育者としてだけでなく、女の体に歓びを教えるという意味でも才能を発揮する導師だったのだ。

 女にとって最初の相手が武巳のような男だった、というのは、ある意味で不運だったのかもしれない。

 とりわけ凛子のような女にとっては。

 成人するまで異性との接触を務めて避けていた彼女が、あろうことか二十五歳も年上の男の手によって、めくるめく性の扉を開かれたのだ。

 女体の細々とした部分にまで躊躇うことなく分け入れられて、ひと度、ろうたけた男の手によって火をつけられた体は、たとえ別れてからも普通の男との通り一遍の淡白なセックスでは満足できないものにさせられてしまっていた。

 もっと愛されたい、武巳先生ならきっとこうしてくれるのに……。

 好きな男とのセックスの最中にも、別の男のことを想ってしまう。

 結婚まで考えていた恋人と別れるきっかけとなったのも、相手の男が凛子の側にのめり込めない何かがあることに気がついたからだろうと思う。

「あはぁっ……先生っ……」

 二つの指に前と後ろを犯されて、境の肉の壁をもみほぐすように擦り合わされて、その拷問のような快感に屈した凛子がついに自ら歓びの海に身を投げ出そうとした時、不意に武巳は指を引き抜いて彼女をそこに置き去りにしてしまった。

「――!?っ――」

「今はここまでにしよう――」

 無下に告げられる。

「えっ――!?」

「もう十時になるから――」

「………」

 生殺しにされた凛子は乱れた息を整えるしかなかった。

 デスクに両手を突いたままの、歓びを迎え入れようと決意した時の姿のままで。

 余韻にお尻を震わせ、肩を大きく上下させて、体の奥に溜まった熱をやり過ごそうとする。

 武巳は濡れた指と手をティッシュで拭いながら、凛子のスカートの中にも両手を入れて彼女の潤いを拭っていた。

「こんなに蜜を溢れさせて……君は温順(おとな)しくていい子だね……今夜はウチに来るといい、この続きをしよう……今の埋め合わせはちゃんとするから……」

 凛子は薄い肩をすくめてしおらしく頷いた。

「あの、先生……あとはもう自分でできます……」

「いや、可愛い女の子の(しも)の世話をするのも、男には楽しみの一つなんだよ、それを取り上げないでくれないか?」

 淡いヘアを悪戯な指先になぞられて凛子は、その甘いくすぐったさに目を細めた。

「君はとても素敵な子だよ、自分で思っている以上にいい女だ……カラダもすばらしいし……僕の自慢の教え子だよ……」

 股間をすっかり拭い終わっても、武巳の両手は凛子の下腹部をさするように撫でつけていて愛着を伝えていた。お尻とお腹、体の両側から挟まれるようにして広く手のぬくもりを感じていると、子宮にまで男の優しさが伝わってくるようで大切に守られていると思うのだった。

 中途半端にされた愛撫のことにも、今は恨みよりも期待の方へと気持ちが置き換わっている。

「論文のことも心配しなくていいよ、さっき言ったちょっとした修正を加えれば僕の審査はオーケーだから。あとはウチの流儀だと教授会に諮って学科に審査委員会発足の申請をしてもらい、君には主査の僕を含めて副査の先生方への正式な論文の提出をしてもらう。副査をお願いする先生はもう定めてあるから、これも問題無しだ。その上で学位審査会の日取りを決めて、君の口頭発表と質疑、そのあと形ばかりの審査会議があって……順調に進めばあと二、三ヶ月といったところかな……この春には文学博士、野々村凛子先生の誕生だね」

「先生……」

「とても嬉しいよ……僕にとっても君は最初の博士の学位を取得する教え子になるわけだから……それにもし君にその気があるのなら、文科女子大の助教のポストを紹介してあげてもいい、僕のところに今、再来年度に新設予定の比較言語文化学講座に配置する教員の紹介依頼が届いているんだ……もっとも助教のギャラは安いから、もしかすると給料は今よりも少し下がるかもしれないけどね……」

 凛子はため息をついた。安堵と希望、そして不安……幾ばくかの罪の意識がないまぜになった長い息を。

 武巳に将来を委ねてしまうということは、今の関係が今後もずっと続くことを意味していた。

 それは女として決して花を咲かせることのない日陰者の人生を選ぶ、ということでもあった。

 仮に結んだとしても他人目を憚る徒花の実でしかないのだろう。

 あるいは子を成した際にはシングルマザーとして生きる、という道もあるのだろうか……?

「前祝いというには、まだ少し気が早いとも思うが、この後、寿司でもつまんで行かないかい? 十時過ぎに、また“やまぎり”の予約を入れてあるんだが……」

 やまぎり、というのは大学近くにある寿司の名店だった。以前に一度、武巳に連れられて入ったことがあったが、自分が普段利用しているようなロボット寿司チェーン店などと比べると、支払いが一桁どころか二桁も違うような高級店である。

「体のメンテナンスを気遣う若い女の子をこんな時間に食事に誘うというのも申し訳ないが、付き合ってくれると嬉しい」

 凛子の同意を取り付けると、武巳は洗面台に行って丁寧に手を洗い始めた。凛子は自分でも股間を拭い、ちょっと迷ってからもう数枚ティッシュをつまみ取ると丸め、それをライナー代わりに押し当ててから、ずり下ろされていた肌着を引っ張り上げて穿きなおすのだった。

「準備ができたら帰ろうか……」

「はい……」

 痩身に明るいパステル調のダウンジャケットを身に纏った武巳は、若い頃からの体型を維持していることもあって、少し前までの初老の教授から、また少壮の研究者然としたものに雰囲気を変えていた。

 凛子も脱いでいたオーバーコートに身を包む。

「真冬の今は赤貝の旬だからね……久しぶりの今夜は楽しみだ……」

 寿司ネタについて特に詳しいわけでもない凛子はそういうものなのかと思ったが、武巳の容子から、どうやらそれだけでは無いことに気がついて、当惑したように唇を引き結んだ。

「そんな顔しないでくれよ……まぁ、そういう表情をする君もまた可愛く見えるんだけどね……触ってごらん……」

 武巳の手に導かれて男のジーンズの股間に触れる。そこは厚手の生地を押し上げて盛りあがり、とても固くなっていた。

「これが僕の本当の思いさ」

 そこに触れていると、いったんは宥めた筈の凛子の股間もまた不穏な感じになってくる。

「でも、先生……奥様は……?」

「美紗子は実家に帰ってる――」

「何か……あったのですか……?」

「いや、あいつの家は兵庫の旧家だからね、家内行事があると兄妹たちの手前外せないのさ……面倒な話だよ。だが、僕たちにとっては好都合でもある……今夜は本宅に帰らなくても済むから」

「でも、お家に帰らないとお嬢様が心配されるのでは……?」

「なぁに、美香は今頃、男の家に転がり込んで楽しくやってるだろうから、アレは口座の残高が六桁を維持してさえいれば父親なんて別に居ても居なくてもどうでもいいんだよ。上の美由はとっくに家をでて一人暮らしをしているし……」

「………」

「君みたいな子が娘なら良かったのにな」

 凛子には武巳の眼鏡のむこうの奥二重の眼差しが、少し寂しげであるように映る。

「もっとも、実の娘を抱くわけにはいかないから、これでいいんだと思うが……」

 教授室の扉を開ける前に、武巳に抱き寄せられて唇を重ねられる。

 肌に馴染んだ男の匂い、背の高い男の腕の中に包まれると、

 やはり自分の居場所はここにしかないのかもしれない……。

 凛子はそんな風にも考えてしまうのだった。

 どんな人間にも表の顔があれば裏の顔もある。正しい行いをするときもあれば間違いを犯すこともあった。

 確かに自分はいま間違いを犯しているのかもしれない。

 それでも、人を愛する事が間違っていると、どうして言えるのだろう?

「先生、十時をすぎてしまいましたよ……」

「ああ、そうだね……」

 凛子は教授室を出ると一人の若手研究者の顔に戻って、師から半歩遅れて従うように長い廊下を歩き出すのだった。

 

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