ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
「ん……んん……やっ……めて……」
美由紀は細い手に精一杯の拒絶の意思をのせて俊介の胸を押し返そうとしていたが、力が入らないままに唇を吸われ続けていた。男の舌が深く差し入れられて舌の裏がわにまで潜りこまれ、唾液とともに貪られている。
それは挨拶程度のキスではなく、真夜中にベッドの中で交わされる欲情をかきたてるときの接吻なのだった。
椅子越しに背後から抱かれて、セーターの中に忍び込んできた手はフロントホックのブラを外して美由紀の乳房をじかに包み、大人の男のしっかりした指先の間に挟まれた乳首はすぐに固くなって愛撫に応えてしまっている。
「……俊介くん……やめて……もう……こんなところを誰かに見られたら……」
「それなら大丈夫、エレベーターが着いたら音でわかるから……」
旧本社ビルの近く、麹町の新社屋に移ってからは月刊春秋の編集フロアは十二階になり、ここまで非常階段を駆け上がってくるような酔狂な社員がいるとはさすがに考えられなかった。七時を廻ったばかりの職場には、美由紀と俊介の他にはまだ誰も出社してきてはいない。
「僕の言うこと聞いてくれてますよね?」
柔らかくウエーブする豊かな髪をかき分けて、細いうなじに唇を這わせながら俊介が訊き、美由紀は物憂げにうなずいた。
彼女の体には、サイズにピタリと
昨夜、俊介のアパートを出るときに装着されて、命じられた通りにそのままにしているのだった。
「おねがいよ、会社ではなにもしないで……約束……」
「わかってます、今夜、また家に来たらその“ぺいこのいんぽクン”を外してあげますよ、どれぐらい溜まってるか楽しみだな」
「………」
美由紀は土曜日の夜に、はじめて俊介のアパートを訪れて、それから丸一日、日曜日も夜が更けるまで彼と共に過ごしていた。その間中、いつでも迎え入れられるように、ほとんど裸に近い状態のままにされて。
やさしいが凌辱者でもある若い恋人は、妖しい小道具まで持ち出してきて、地団駄を踏むほど乱れて、女の誇りを搾り取られていた。
前ばかりか後ろまでも――。
今まで知らなかった歓びの極みへと幾度となく導かれ、寝返りさえも疎ましくなるほど体は熱と精とを放ちきって全身がくたくたになってしまっている。
無慈悲な男の手によってそんなふうにされてから、ほんの十時間余りしか経っていなかった。
まだ体中のあちこちに、愛撫のあとの残り火が燻っている。
「翔馬くん、週末に戻ってくるんでしょ? 先輩が自由に外泊できるのは今週いっぱいだから、それまでは思いっきり楽しみましょう」
仕方なく美由紀は黙って首を縦に振った。
俊介と男と女の関係になってまだひと月――。
それまでは息子のことしか頭になかった美由紀だったが、いまは二人を天秤にかけるような感じになってしまっている。
母親である自分と女である自分との間で揺れ動いている。
待ち焦がれていたはずの最愛の息子の帰還を、ようやく――ではなく、もう――と、感じている気持ちの変化に彼女自身が驚いていた。
それは母親として、罪の意識を抱かずにはいられない心の移ろいだったが、こと性愛という場面になると罪障感はむしろ女の動機になってしまうのだ。
性の誘惑は刹那的であるがゆえに、なにものにも代えがたいほど強いものなのだった。
もちろん、翔馬のことは誰よりも愛している。しかし別の意味で俊介のことを美由紀は愛してしまった。自分の体をどこまでも愛そうとして一途に振る舞う男に心が動かされない筈がなかったのだ。
「濡れてますか……?」
なにを訊かれているのかは判っている。
「ええ……今朝、あなたの顔を見た瞬間に……」
「それは光栄だな……」
「仕方ないでしょ、あんなものを挿れられてるんだから……」
「見せてくれませんか?」
「ダメ……」
わけ知りに笑んで椅子の前で跪いた男の前で、美由紀はスカートの前をおさえて拒んだ。気を許すとスカートの中に潜り込んできそうな気配だったからだった。
幸い、男はそれ以上を求めてくることはなくてホッとしたが、それもつかの間、股間に秘めていたものが、ビュンと一度、身じろぎをして美由紀は艶っぽい声を上げていた。
「ここではしないでっていったのにっ」
男をなじる。大切なものを守ろうと股間に両手を押し当てながら、目元をバラ色に染めて恨みがましい眼差しで見上げる表情は、清潔感のある色気があって美しい。
「もうしませんから安心してください……でも先輩のその顔がたまらないんです……とても可愛いいから……」
「バカ言ってないで、席について仕事、始めなさいっ、なんのために早朝出勤したかわからないでしょっ」
「ハイ、副編集長っ――」
俊介は気をつけの姿勢をとった。が、またすぐに男の顔になって、
「でも、もうひと言だけ……」
かがみ込んで顔を近づけ、美由紀をまっすぐに見てささやきかけてくる。
「先輩は、僕が想像していた通りの人だったから……本当に嬉しかった……」
「……?!……」
「どんなに抱いても抱き足りない……こんなにひとりの女の人を好きになるのは初めてです……」
女心をかき乱さずにはおかない物言い。
「……そのセリフ、付き合った人みんなに言ってるんでしょ……?」
「そう思いますか? 昨日、僕が美由紀先輩にしたようなことを誰とでもやってると?」
「………」
「先輩も、僕の気持ちをもう判ってくれてると思ってたんだけど……」
恋人から真顔で詰め寄られて美由紀は長いまつげの瞳を伏せた。
「美由紀先輩はオトコを本気にさせる本物のオンナなんですよ……幸運な男が一生に一度、巡り逢えるかどうかっていうくらいの……普段はスッキリカッコいいのに、あんな女の子みたいな可愛い声を出して……」
「女の子? こんなおばあちゃんをからかって……」
「僕をババ専みたいに言わないでくれますか」
頤を持ち上げられてまた唇を奪われる。
「それにもし先輩が自分自身のことを、マジでそんなふうに思ってるのなら、あんなセックスなんてできないハズですよ……僕が先輩を抱いていていつも感じるのは、人からの賞賛の視線に馴れた、美女に特有のプライドだから……」
「私に……そんなプライドなんてないわ……」
「意識していないだけですよ」
「………」
「そして男にとってそうした一流の美女を抱くのに優る歓びはないんです……美由紀先輩は僕のただ一人の女――」
「……そんなこと言って……俊介くんは、私をどこに連れて行こうとしているの……?」
「……僕にもわかりません……行く先がわからない旅は不安かもしれませんけど……でも……」
俊介が珍しく口よどんでいた。
しかし彼が本音を言っているのだと察して、美由紀は優雅に口角を上げて白い歯を覗かせる。それはまさに誇り高い美女の微笑みなのだった。
「それでいいわ……十分よ……」
大人の恋は、そもそも行く先を訊く方が無粋というものだった。
「先輩……」
「さあ、席に戻りなさい。今日は十時に梶原先生のところにお伺いする予定だったはずよ、用意は出来ているの?」
「大丈夫です、間に合わせますので……」
俊介の回答は管理職にあるものとして十分に満足のいくものではなかったが、
「頼むわね、あなたもウチに来て、もう丸三年になるんだから、そろそろ下を引っ張る側になってくれないと困るの」
「わかってます――」
廊下の先に、ピーン――と、エレベーターの到着音が鳴って、見つめあう二人はハッと顔を上げた。
美由紀はセーターの中に手を入れて外されたブラを整え、身だしなみに隙がないか素早く全身を見回して確かめた。
「俊介くん、口紅、ついてるから――」
「あ、そうですねっ」
ティッシュで口の周りを拭いながら自分の席に戻っていく後輩の背中を見やりながら、美由紀は彼がすっかり満足するまでお付き合いするのも、女の務めなのかもしれないと思うのだった。
いつもより短めです
美由紀ママは操祈先生の次にお気に入りのキャラかもしれません
脳内再生されるのは・・・だったりします