ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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週が明けてそれぞれの朝、女たちは己がさだめを振り返る Half a Dozen & 1

 長期休暇明け以降の最初のデートということもあって、島崎一成のアパートでの週末は一層、甘いものになっていた。些細なことから喧嘩をした後の仲直りということも手伝ってか、彼が時間をかけて惜しみない愛情を注いでくれたのだ。

 その夜は彼の言葉通りにスキンを使わないやり方で、昨日は一箱を使い切るほどの勢いで、ワルいこと、イケナイことをいっぱいしてしまった美少女は、未だ恋の酔いから醒めやらずといった感じで、どこかふわふわとした気持ちのままで教室にやってくると自身の机に着くのだった。

 さすがに朝帰り――と、なるといろいろと気忙しかった。

 眠りこけている恋人をベッドに残して、五時に起床。シャワーを浴びて身づくろいをして、朝食代わりのホットチョコレートを飲んでから三河島の古ぼけたタワマンを後にしたのが六時前。

 早暁ということもあってラッシュにはぶつからなかったものの、寮に戻ってきたときには既に七時半を廻っていた。

 ルームシェアをしている後輩女子の興味津々の視線を疎ましく感じながら、制服に着替えて化粧を落とし、恋にうつつをぬかす年頃の女の子から栄えある常盤台中学の女子生徒に戻ったのだが、中身はまだ完全には入れ替わっては居ないのだった。

 学園都市に戻ってくるまでの長い通学時間は、真夜中の雰囲気を拭い去るには丁度いい猶予期間となってはいたものの、まだ心と体は敏感さを引きずっているいるのか、外からのちょっとした刺激だけで肌がピリピリしてきて、また妖しいイメージが湧きだしてしまうのだ。

 ついよからぬことを考えてしまうのもきっとその所為だろうと思う。

 今も教室の隅でイケてない男子連中と、他愛もない話題で談笑している密森黎太郎を見ながら、舘野唯香は少年の別の一面、夜の顔を想って胸をときめかせている。

 奈良の温泉で垣間見ることができた操祈先生の体――。

 飴色のキラキラしたヘアが濡れて、深い切れ込みの唇がくっきりと浮き上がっていた。

 愛らしくてとても素敵で、こんなに美しい女の人があられもない姿になって脚を開くところなんて想像もできないけれど……。

 でも、先生は経験している――。

 彼の舌と唇が、敬愛する女教師であり尊敬する友でもある女性の秘密と接して、くまなく舐り尽くしていることに感じるそわそわとしてくる気持ちは、きっと嫉妬に近いものだと思うのだった。

 たとえレズビアンではなくても、同性を好きになる気持ちを解らないわけではない。綺麗な人への憧れから、その人のことをもっと知りたいと思うのは自然な感情だったし、それは直線的で衝動的なものではないのかもしれないが、男が女に対して抱く恋愛感情に、きっと似ているのだと思う。

 だから以前、操祈との語らいの中で彼女が、

「……彼……とってもイケない人なの……悪いこと、いっぱい知っていて……」

「そんなにワルい人なのに、未経験でいらっしゃるのですか……?」

「……だって……あの子……その……ああ、そんなこと恥ずかしくて、とても言えないわ……」

 顔を真っ赤にしてうったえた時、はっきり判ったのだ。彼女の身に常にどんなことが起きているかということを。

「それって……もしかしてずっとアレばっかりされてるってことですよね……」

 自分がまだヴァージンであるという、とっておきの秘密を打ち明けてくれたときの容子を間近にして、その時、クラスメートの件の男の子に感じたのは軽い殺意だ。

 こんなにも美しい人を淫らな愛撫で犯して、こんなにも愛らしい顔をさせていることへの強い憧れと羨望だった。

「……やっぱり、変よね……そういうのって……」

「ええ……その人、すっごくエッチでヘンタイです……でも、すごく先生のことを愛してるってのはわかりますよ……クンニはわたしの彼もやりたがるので……彼もすっごいヘンタイだから……」

 その頃はまだ、操祈の恋人が密森黎太郎であることに気づいてはいても、知らないふりをしていたのだった。彼女の心理的なハードルが下がって、話しやすいだろうと思ったので敢えてそうしていた。

「……唯香さんの彼氏も、そうなんだ……」

「仕方ないですね……愛情表現だと思って好きにさせるしか……でも、わたし、もうそんなにイヤじゃないですよ……やさしくされると、とってもステキな気持ちになれるから……先生はおイヤなのですか……?」

「……イヤではないけれど……でも、イケないことをしているって思ってしまって……」

「セックスの仕方は、べつに他人がとやかく言うことじゃないので、お二人の間で愛を感じることであれば、何をしてもいいんじゃないかと思うんですけど……」

「……うん……そうね……そうよね……」

 同じ悩みを持つもの同士の連帯感で、操祈との距離をさらに縮めることに繋がっていた。

 憎むべきは密森黎太郎――。

 よりにもよって操祈先生の恋人が教え子で、そいつが中坊のクセにとんでもないヘンタイだというのは、許すまじ、という気持ちにもなる。これでもしも先生のことを不幸にしようものなら、断固とした制裁を科さずにはおくものか――そんな気分だった。 

「ねぇどーしたの? さっきから密森くんの方ばーっかり見てるけど、まさか気になったりしてる?」

 いつの間に忍び寄っていたのか、隣の席の華ちゃん――篠原華琳――が耳許にささやきかけてきた。口許に悪戯な含み笑いを貼りつけたまま覗き込むようにして。

「えっ!? ナニいってるのよ、そんなことあるわけないでしょっ」

 唯香は取り合わなかったが

「えー、そうなの? だって彼のことケッコー真剣な目で見てたから……なんかあった? コクったとかコクられたとかで」

「だから、そんなんじゃないってばっ」

「ならいいんだけどー……」

「誰があんなヤツなんかにっ」

 友の手前、吐き棄てながらも胸がチクリとなる。

 操祈の恋人を腐すのには抵抗があっただけでなく、華琳に指摘をされて初めて自分が密森黎太郎のことを意識していることに気がつかされていたのだ。

「そうかな……でもあたし、最近、彼、ちょっといいかなって思うことあるわよ」

「あら、だって華ちゃん、アツアツホヤホヤの彼氏居るじゃない」

「だから別にどうこういうんじゃなくて、単にカレシにするのに密森くんみたいなのもありかなっていうだけで」

「どうして――?」

「わかんないけど、なんか気になるヤツっていうか……唯ちゃんだって、そうでしょ? 男の子の顔をガン見するなんて、好きか嫌いかしかないじゃない? 気になってるから、つい目がいっちゃう」

 確かに、操祈のボーイフレンド、というのはそれだけでブランド化する。

 気にならないかと言われれば嘘になるのだ。

 背は高く無いし、顔だってどうってことのない普通の男の子だが、よく見ると、ちょっとノーブルな雰囲気を放っているようにも見えなくもないし、明晰さと温和さ、それに何より寛容でやさしげなところは、女子目線で十分に加点対象になっていた。

「気になんてなってないわっ、だれがあんなヘンタイ、お断りよっ」

「あれ、どうして彼のこと、変態だって知ってるの? やっぱりなんかされちゃったりした?」

「ちがうわよっ、なんにもないわっ、私だって彼氏、居るしっ」

「そうよねー、今日は朝帰りだもんねー、それも週末二晩もだなんて、あーアツいアツいっ」

 顔の前で扇ぐように手をヒラヒラさせる。

「そんなんじゃないって、昨夜の内に帰るつもりだったけど、弟の宿題を手伝ってたら遅くなっちゃって、それだけよ」

「弟ねー、ふーん、まぁ、そういうことにしておいてあげるわ」

 阿吽の呼吸で停戦ラインが引かれた。

 お互いに際どい部分には踏み込まないのは暗黙のルールだった。

 唯香も華琳が週末はお泊りデートだったことを知っているのだ。相手は4コ上の都内の大学生。一端覧祭の時に知り合って以降、急接近、めでたくクリスマスイヴ・ロスヴァーして、仲間内での隠語となっている“オトナクラブ”に入会を果たした一番新しいメンバーでもある。

 因みにオトナクラブの会員数は、唯香も含めて現在四名。

 メンバーにならないと会員名が明かされないことになっているが、有資格者であるか否かに関わらず、女子たちは誰がそうで、誰がそうでないかをほぼ正確に把握していて、仕立ては秘密クラブめいているが実態は有名無実化していた。

 華琳も唯香と同様に、足――が、つかないように学園都市を抜け出して、主に都内でデートを重ねているものらしい。

「密森くんに、ガールフレンド居るのかな? 唯ちゃん、何か知らない?」

「わたしが知るはずないでしょっ」

「そっか……でも、アレは居るな……」

「そうなの?」

「だって見てるとわかるじゃない、今だって、あのポンコツども中で一人だけオットナーな感じに浮いて見えるし」

 華琳が小さくレイの居る方に顎をしゃくった。

「だからって別にかまわないけど――」

「そうなんだけどね……でも、ちょっと気になることがあってさ……」

 華琳は再び額を寄せるようにしてきて声をひそめた。

「わたし、変なことを耳にしてサ……」

「変なこと?」

「知ってるでしょ、うちのルームメート……」

「ええ、メグちゃんでしょ? 一年一組の坂下恵美(さかもとめぐみ)さん、それがどうかしたの?」

「実はあの子ね、リモートビューワーだったらしいのよ」

「へーえ、能力者だったんだ、あの子……それは初耳……」

「そりゃそうよ、わたしだってつい最近、知ったばっかりなんだから……レベル1だから大したことは無いって、本人は言ってるけど、でも、結構、見えたりするみたいなの」

「見えるって、なにが――?」

「まー見えるっていうか、あの子が言うには起きてる時にはぜんぜん見えなくて、寝ている間に夢に出てくるってことらしいんだけど……それに見えたとしも、せいぜい身の周り一キロ圏内ぐらいのことみたいらしくて……学校近くのビルで夜中に知らないオジさんたちがよく分からない話をしているところとか、近くのマンションでエロゲーやってる小学生の容子とか……脈絡もなくて確かめようもないことばっかりだって……」

「まあ、レベル1だとそうよね……無能力者の私たちと大して違わない……」

「ただね、この間は飼い主の元から逃げ出したトカゲが、自分が夢で見たところから見つかったってニュースになってたって言ってたわ」

「ふーん……」

「……それでね、大事なのはここからなんだけど……絶対、内緒よ、ここだけの話に……これで噂にでもなったりしたら、それだけで大変なんだから……」

「じゃあ、聞かないことにするわ――」

 他人に口止めを求めるような話は、そもそも聞くべきではない。唯香も友人の話の先が気になったが、一度は突っぱねることで筋を通すことにした。

「それなら私も教えてあげない――」

 華琳も話の腰を折られてつむじを曲げたのか、口を尖らせて宣言する。しかし、喉元から溢れ出ようとしていた言葉を無理に呑みこむ形になって、欲求不満が顔に表れてしまうのだ。

 とっておきの秘密を誰かと共有しないことには、収まらないという塩梅になっている。

「いいわ、聞いてあげるから……誰にも言わないからおっしゃい」

 唯香が助け舟を出すと、華琳も

「そうこなくっちゃっ……それでね……」

 待ってましたとばかりに唯香に耳うちする。しかし黙って聴いていた唯香の顔は、話が進むうちに次第に強張っていき、やがて驚愕を貼り付けたまま凝固まってしまった。

 ただ、それは華琳が期待するのとは別の意味でなのだった。

 華琳の話は唯香を驚かせるだけでなく慄然とさせるものだったのだ。

 動揺を相手に気取られぬようにして、

「華ちゃん、その話、私の他にも誰かにした?」

 訊く。

「うううん、まだ誰にも……唯ちゃんにしか言ってないわ」

「それなら、もう言わない方がいいわ……メグちゃんにも、そうするように言ってあげた方がいいかもしれない」

「……ねぇ、唯ちゃんはどう思う? 今の話……」

「マジにならないでっ、そんな夢みたいなことがあるワケないでしょっ、バカバカしいっ……だって密森くんも、たしか今週末は実家に帰省してた筈よ、彼も朝帰り組みたいだから」

「え、そうだったのっ――?」

「昨日も一昨日も、学園都市内には居なかった筈、出入履歴を確かめれば判ると思うけど……その子に見えるのが一キロ程度の範囲ってことなら、見えるはずがないわよね」

「じゃあ、やっぱり違うわね……ま、ただの夢ってことか、まぁそれならそれでいいわけで……」

「メグちゃんって、たしか漫研の子とかじゃなかった?」

「うん、そうだけど――」

「じゃあ、普段からBLとかNTRとか、いろんなことを考えてるうちに現実と夢とがごっちゃになっちゃってるんじゃないのかしら?」

「まぁ、そもそも夢の中の話だし、そうなのかもしれないわねぇ」

「変な噂をたてると自分にも跳ね返ってくるから、華ちゃんもそういうのってスルーしておいた方がいいわよ」

「やっぱ、そうなるわよね……うん、わたしもそう思うわ……ありがと、ちょっとスッキリしたかも……メグには後で言っておくわ、密森くんがその日、学園都市(こっち)には居なかったことも含めて」

「そうした方が無難ね――」

「なにが無難なんですか? さっきから二人して額を寄せてヒソヒソと……」

 窓際で容子を窺っていた小田切芳迺が訝しげな顔をして二人の元へやってくると尋ねた。

「別に大したことじゃないわ、週末の話をしてたの」

 唯香は巧みに辻褄を合わせた。

「芳迺ちゃんは今週、ずっと寮に居たんですって?」

 訊き返して攻守をすり替える。

「うん、わたしも彼も、まだ進路が確定してないから……試験の準備をしないといけなくて……いーなぁ、二人は行く先が定まっていて……」

 芳迺のボーイフレンドは同い年だが、他校の男子だった。幼なじみだそうで、交際期間は仲間内では一番長かった。

 もちろん彼女もオトナクラブの一人である。

 ショートヘアーのボーイッシュな容貌だが性格はもっとも女の子らしい。

「いいなって言っても、わたしは入れるところでいいやって妥協して高望みしないから……唯ちゃんは将来のやりたいことがもーちゃんと決まっていて、その上での選択だし……」

「ウチは実家が病院だから、医学系に進まないとならなくて……でも長点上機は無理だし、多分、靜菜も厳しくて……生物系ならなんとかなりそうなんだけど……それなら長点上機を志望してもいいかなって……」

 人にはそれぞれ悩みがある、抱えているものがあるのだった。

 芳迺の場合は、今はテストと進路――。

 わたしは……。

 と、考えて、唯香の気がかりは、自分のことというよりも、操祈先生についてかもしれないと思うのだった。

 本当に危なっかしくて、危なっかしくて――。

 とても綺麗な人であるだけに、なんとか守ってあげたいと思う。

 それなのに、これまでひた隠しにしてきたものの足元がいま崩れかけていた。

 その迫り来る危機について当人たちがどこまで緊迫感を持って受け止めているか、厳しい実態を知っているかどうかが、傍で見守っている者としてははなはだ心もとないのだ。

「たしか試験って、来週だったっけ?」

 華琳が尋ねた。

「うん、木曜に進振りの結果が出て、それを受けて二次審査請求を出して、課題レポートのテーマを貰って、来月七日の土曜日に提出、そのまま特考の筆記があって……この二週間は息が抜けないくらい大変……過去問を見てるんだけど、とても歯が立たないのが幾つもあったから……」

 芳迺は肩で大きくため息をひとつついた。

「ガンバってね、ヨッちゃん、応援してるから」

「できることがあったらするから、何でも言ってね」

「ありがとう……華ちゃん、唯ちゃん……」

 

 起立――っ!

 

 今日の日直の安西遥果が、操祈の入室にあわせて号令する。

 遥果もオトナクラブのメンバーだった。まだ進路が確定しているわけではないが、今週も週末デートは外さないという剛の者である。

「おはよう、みんな」

 操祈の声に合わせて生徒たちは素早く自分の席に戻ると立ち上がって美教師を迎えるのだった。

「「「おはようございます、先生」」」

 教壇に立った操祈は、グレーのスーツにスカート、白のブラウスのコーデがシックでエレガント、スカートのつくるゆったりとしたドレープと広襟の胸元を飾るブラウスのフリルが大人可愛いインパクトがあって、教室の中が一気に華やいだ印象へと変わっていく。

 今一度、端然とした礼を交わしあってから操祈がホームルーム開始の口火を切った。

「いよいよ今週は進路振り分けの発表よねぇ、みんな心の準備はできてるかしらぁ?」

「ハイ、大丈夫ですっ」

 いつものように教室の隅の方から男声が応じ、

「いっちばん大丈夫じゃない人が大丈夫って言ってるぐらいですから、全員、大丈夫だと思いますっ」

 日直の遥果がそれを受けて斬り返して教室内のそちこちから賛同の冷笑があがった。

「ハイハーイ、でも特考を受けることになる人たちは、今が踏ん張りどころだからしっかりね。各校の過去問は教員室にも用意してあるから、必要な人たちは取りにいらっしゃい」

「もー、とっくに集めてまーす」

 コースケが胸を張るが純平に

「お前のは集めるだけな、ただのコレクションだろっ」

 と、混ぜっ返されて

「うっせー、オメーにはぜぇってぇ負けねぇからなっ、俺は操祈ちゃんの後輩になるべく、長点上機一直線!」

「そういうコースケ、奈落の底に一直線――」

 二組の朝の恒例、イケてない男子同士の掛け合いが始まると、教室は活気に溢れて、厳しい選考が控えていると思いつつも各位の顔には笑顔が浮かび、裡に決意を秘めたものになっていく。

 イケてないと言われつつも、けっして底割れしないのがこの男子たちの良いところであり、凄みでもあると女子たちも認めているのだ。

 スクールカースト下層を担ってくれたこの男子たちは、クラスのムードメーカーとしては優秀で、久しく馴染んだこの風景とも、あと二ヶ月あまりでお別れしないとならないというのは唯香も少し寂しくなってくる。

 ただ、美少女の表情がひとり冴えないのはそれだけではなかった。

 華琳に対しては明確に否定したが、唯香にはたぶん後輩のメグが見たというリモート映像は、やはり現実だろうという感触があるのだった。

 なにより、一年生の少女が想像するものとしてはあまりにも生々しすぎるのだ。

 先生の全身に生クリームを塗りたくって、それを男子生徒が舐め回すなんてことは十二、三歳の未経験の少女にはとうてい思い描けるものではなかった。

 一方で、密森黎太郎の持つ嗜好とはぴったりと重なる。

 恋に酔ったあの二人は、どうやら今週末、また一段と挑戦的な試みに溺れていたようだった。

 ついにはベッドに小道具を持ち込んできた一成もかなりの変態だが、密森黎太郎はその上を行く猥褻漢ぶりだった。

 バカ……。

 密森くんの、バカ――。

 先生にそんな非道いことをしてるなんて……。

 でも、彼、どうやって学園都市の出入管理をかいくぐっているんだろう?

 ただ、いざとなれば裏技、奥の手の類は、自分が知らないだけで幾らでもあるのかもしれなかった。所詮、相手はコンピューターだ。

 欺くことにかけては人間ほど抜け目のないものは居ないだろう。

 たぶん、現場は先生のアパートだったのだと思う。それならここから三百メートルも離れてはいない。

 坂下恵美のスペックからすると、彼女の能力に捉えられていたというのも頷けるのだ。

 考えると頭が痛くなってきた。

 目下、操祈先生と密森くんの関係を知っているのは栃織紅音、山崎碧子、そして自分を入れて少なくとも三人。それだけだと思っていたが、実際はもっと拡がっているのかもしれない。

 なんといっても、ここ学園都市には様々なタイプの能力者たちがいた。

 当人たちがいくら気をつけていたところで、能力者の前では限界がある。

 もしも操祈が以前のような強力な能力者であれば封じる手だては幾らでもあるのかもしれないが、レベル1の能力者の透視にも気づかないというのは、彼女たちにはもはや身を守る術がないということだった。

 言ってみれば何時、誰が入ってくるかもわからないドアが開けっ放しにされた寝室で、丸裸になって絶対に秘密の恋を必死に紡いでいるということになる。

 二人にしか許されないようなアブノーマルなプレイを重ねて。

 危なっかしいにもほどがあった。

 このことを操祈には注意喚起しておく必要があると思う。

 実際、今朝、関係に疑いを持つものが二人もあらたに加わってしまったのだ。

 今日はごまかせても、二度、三度と重なるとそれも難しくなってくるだろう。

 密森くんにも一度、きつく言っておかないといけないとは思うが、さて今、こちらから接近を計るというのはどうしたものか……。

 かえって他人目をひくことになってしまわないだろうか……。

 目敏い山崎碧子のような者の存在を考えると、動くに動きづらい。

 本当に、手のかかるお姉さまたちだわ――。

 みんな、あなたがイケナイのよ――。

 美少女は密森黎太郎の方へ非難の鋭い一瞥をくれると、まずは今日の放課後、食峰操祈と密談をする時間が作れるかを探ってみようと思うのだった。

 

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