ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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この世の果てで愛をささやくあなたへ 後編

 両肘をついて切なく泳ぐ視線の先に映るのは、元は白かったのだろう薄黄色く褪せた壁紙と簡易ベッドのヘッドボード替わりのスチールパイプだけ。きっと二つ折りにたたんだ際に移動しやすくするためなのだろうパイプの端にはキャスターが付いている。

 マットは薄く粗末なもので僅かに身じろぎするだけで、ギシギシと安っぽい音を立てるのだった。

 レイらしいともいえる実用的で殺風景な部屋、大好きな彼のにおいのするベッド――。

 その上で操祈は四つん這いにされている。

 すんなり長い二の腕の間に、肉感も見事に膨らんだふた房の白い果実がゆっさりと垂れて、豊かなひろがりも(あや)な乳暈の真ん中で愛くるしい桜色の尖りの先がシーツに擦れんばかりになっている。

 いつもはお茶目に明るく輝くこともあるつぶらな瞳は、時に何かに驚いたように大きく(みは)ることもあるが、すぐに憂いを宿して昏く沈んでいった。

 細かく揮える伏し目がちの長い睫――。

 宵闇の迫る少年の寝室で、いま操祈は二人にしか許されない禁忌の口づけに身を委ねている。

 服を脱いですっかり裸になると、少年ははっきりとしたいことを言葉にして求めてきたのだ。

 いきなりの要求に、さすがにそれは――と、たじろぐが、結局、彼女には拒み通すことなどできはしないのだった。

「……ああ……レイくんっ……ダメ……」

 無慈悲な詮索に小さな悲鳴を発して許しを願うと

「大丈夫ですよ、先生のはいつでもとってもステキですから……かわいくて、胸がつぶれてしまいそうなくらい愛おしくて……」

 頭にするのと同じようにお尻の山の頂きを丹念に撫でられる。大切にされていると感じるやり方で。それ以上に口づけはもっとやさしくて、惜しみない愛情が注がれているのがわかるのだ。

 女にとってとりわけ抵抗感のある、この上なく淫備で背徳的ないとなみ。

 たとえどのような惨めな姿になっても、そのことで少年が彼女を憎んだり疎んだりすることはないのかもしれない。それでも尋常ならざる行為に女の安息はないのだった。

 甘美な歓びに逃げることもできずに、意識は少年の繰り出す愛技の一つ一つを必死に追って身を守ろうとしてはかなく抗っている。そんな彼女を(くじ)こうとする舌の動きは執拗で、強い愛着と興味を伝えて女の心と体とを蝕んでいた。

 初めてそれを経験させられた、去年のあの夏の日――。

 本気になった男の子の一途な愛撫に、女としての歓びを知った暑い日の午后、シエスタ。

 夏休みも終わり近くになって、休暇を楽しむ親子連れの姿も目立つ都内のホテルでのこと。

 それを身に受けたとき、操祈は少年が気でも狂ってしまったのかとひどく驚いて、そして恐れもしたのだった。

 さすがにそんなことを許してしまってはいけないと拒んだが、逃れられない体位でそれをされていた彼女には、そこが侵されていくのをただ呆然と堪えて受け容れるしかなかったのだ。

 そして最後には見知らぬ歓びの尾根に誘われて涙していた。

 女の誇りを一度に全て失ってしまったような失楽感と喪失感の中で。

 恥ずかしい秘密のベーゼの先に、さらにもっと大きなタブーがあったことのショック、人が踏み外してはいけない一線を少年はいとも易々と乗り越えてきた。

 多分そのとき、きっと自分の中でも何かが変わってしまったのかもしれないと今では思う。

 少年の手に導かれるままに平穏な楽園から逃れて、愛と性の冒険に身を投じる覚悟のようなものが生まれたような気がしている。

 

 

「また、泣かせちゃったみたいですね……」

 愛の嵐の後、少年の胸に抱かれて慰められる中、激しい羞恥が蘇ってきて肩を震わせた。

「……ひどい……あんなひどいこと……あたし……」

「だって先生だから……ボク、もうがまんできなくて……」

「………」

「この世でいちばん美しい女のひと……心も体もなにもかもがステキな人だから……想像していた通りでした……いいえ、それ以上にずっとステキで……こうしている今も夢のよう、ボク、信じられないくらい幸せです……」

 言葉でも行為でも辱めを受けた後の操祈に、少年は自身の歓びと感動をすなおに口にして、傷ついた女心に寄り添おうとしてくれる。体を丹念に撫でるやさしい手の温もりが肌に浸みた。

 相手の顔が見られないほど恥ずかしかったが、少しずつ諦めと受容の感情が胸の中でひろがっていくのがわかるのだった。

 同時に強い愛情が膨らんでくる。

「……泣いてなんかいないわ……ただびっくりしたの……レイくんが変なことをするから、おかしくなっちゃったんじゃないかって思って……」

「ボク、少しもおかしなことなんてしてませんよ、だって、とても自然なことだと思うから……先生は、やっぱりイヤだったですか……?」

 イヤ――というのではなくて、とてもいけないことなのだと思う。レイの嗜好は常軌を逸していて、明らかに一線を越えていると。

「ボクは先生にしかできないこと、したいとは思わないことをしただけなんですけど……ずっと憧れていて、ずっと大好きだった人に……今はもっともっとずっと大好きな先生に……」

「……そんなこと言って……とても、いけないことなのに……ああいうのは……」

 ああいうの――と、曖昧にするしかなかった。

 言葉にすることも憚られる、女の口からはとても言えないことなのだ。

「イケナイことなんでしょうか? きっと先生は少し勘違いをされてるんだと思います。だってボクは人の子として女神に抱く当然の思いを、ただ祈りに変えているだけだと思うので……」

「祈り……?!」

 予想もしない物言いをされて、その瞬間、恥じらいも忘れて少年の顔を見上げてしまう。が、優しさと憧れを隠さない黒い瞳と視線が重なって、たちまちまた真っ赤になって少年の胸に甘えてしまうのだった。

「歓びも、誓いも祈りも、みんな愛の二つ名だから。だから、もしも先生がおイヤじゃなければ、イケナイことなんてなにもないはずなんです」

「……ずるいわ、そんな言い方して……もう騙されないんだから……温順(おとな)しくていい子だと思っていたのに……ワルい子……」

 拒めなくしているのは少年の方なのに、と恨みがましい気持ちになる。

 優しくされて何度も何度も挑まれたら、きっとどんなに身持ちのいい女だって最後には言うなりになるしかなくなってしまう。

 そうやって操祈は、ついには籠絡されていた。

「ダマすだなんて……でも、そうかもしれませんね……だって、出逢った時からの夢だったから……」

「――!?――」

 少年はこれまで操祈に対して抱いていた思いを隠さず口にして彼女を驚かせるのだった。

 (よわい)、まだ十二、三の、ついこの前までランドセルを背負っていたような児童が、よもや大人の女に対してそのような欲情を抱くものなのかと俄かには信じられなかった。

「……男の子って……みんなそうなの……?」

 訊きながらも、さすがにそんなことはないだろうと思う。レイが特別だというのは心でも体でも、もう十分すぎるほどよく分かっていた。

「どうかな……でも、大なり小なりそうなんじゃないかな? だって女子のスカートを捲ろうとする連中の中には、本気の奴もきっと混じってるハズだから……ボクはしないですけどね……でも、先生のスカートの中はこの世で最も遠くにある憧れだったってことは本当ですよ」

「……バカ……」

「……その気持ちは、こうしている今も少しも変わりませんけど……」

 そういうと少年は再び操祈の体を這い降りて行き、もうダメっ――と、思うよりも先に両脚を肩に担いで、また彼女を悩ませるようになるのだった。

 今度もまっさきに寄り道をされて、操祈は唇を噛んだ。

 否応もなく、それも少年の愛撫のメニューに加えられてしまったようである。操祈の体が忘れないうちに、しっかり復習させられているような具合に。

 実際、一度(ひとたび)ほころんだ体はすぐに運命のパートナーとの再会を歓んでたちまち馴染んでしまっている。

 ぺたり、と貼りついて生まれる(あや)しいくすぐったさは、その先にある遥か逸楽の途へと確かに続いていた。

 こんなふうにして体に条件付けをされていったら、あたしはどうなってしまうんだろう……。

 くやしいな……悪魔……ちっちゃい悪魔……女の扱いが、こんなにも巧みで心やさしい男の子が居るなんて……。

 また隅々にまで及ぶ一途な愛撫を受けた後、彼の胸の中で慰められて、操祈は恋人のためならどんなことでもしたい、そんなふうに感じてしまうほど恋の虜になっていくのだった。

 

 

 

 以降、二人の間は少し年の差のある、けれどもひたむきにお互いを思い合う親密な恋人、というものからより濃厚な男女関係に、操祈に対していかなるアブノーマルなプレイも躊躇うことなく挑んでくる貪欲な性の探求者である少年と、それを拒めずにただしどけなく崩れていくしかなくなった女教師、というような危ないなものになっていったようである。

 レイは愛し合うときになると当たり前のようにそれを求めてくるようになったからだ。そして彼女の方も躊躇いながらも望まれるままに体を開いていた。

 ただ、愛されている間にも罪の意識は常にあって、自分が良俗に背いていること、人としての掟を破ってしまっていることの自責と嫌悪感は消えずに(わだかま)っている。

 それから数ヶ月――。

 操祈は生来の美貌にますます磨きがかかったように美しくなっていった。

 良く知る古くからの友人たちであれば、ひとめ見て彼女の変化に気がつき、あの食峰操祈が熱い恋に身を焦がしているのを察したことだろう。

 本人には自覚がなかったのかもしれないが、能力を失った後にはまるで憑き物が落ちたように、それまで隠されてきた本来の性格が表になって、恋愛にはどこか消極的な潔癖な少女のようになっていたのだ。

 そんなややおくてな美女が恋を知って、女の弱さを教えられて、表情は愁いを含んでさらに(たお)やかなものになっていったのだった。

 柔らかな三日月を描く眉、ひっそりと大人の女の翳を宿した白皙の瓜実顔、愛くるしいつぶらな瞳は時に寂しげな光を湛えて潤んだようになる。

 いま(にえ)となって辱めに堪える姿は、人の手によって(けが)されて白き羽を毟り取られた悩める女神そのものに聖と俗とが溶け合っていて、少年の目と心を愉しませていた。

 口づけ一つで慎ましい美女にこんな顔をされたら劣情の炎に油をそそぐようなものだった。男からすれば挑発されているも同じでいっそう奮い立たずにはいられなくなる。

 それはミドルティーンのレイにとっても少しも変らない。

 それどころか性癖を形作る上での決定的な時期に、こんなにも豪華な獲物を得た少年を有頂天にさせている。

 健康な若い牡にとって女教師の充実した肉体は、この上もなく甘い食べ物、蜜たっぷりの芳しくも美味な果実に他ならないのだった。

 だが、心を読む力をすっかり無くした操祈にはそうしたことに気付くこともなく、優しい年下の恋人の閨での変貌ぶりにただ驚かされて動揺するばかりになっている。

 まだ未経験で、自分ほどにも性を知らない筈の男の子が寄せてくる思いは、受けとめきれないと感じるほど深く情熱的で、セックスというものが単に秘めごと、という言葉で片付けられる以上に女にとっては覚悟のいる、とても恥ずかしい経験であることを教えられたのだ。

 まだ一線を越えないが、結ばれるよりもずっと淫らなことをしていた。

 今もそこに身を寄せたまま粘っこい温もりを伝えて、なかなか離れてはくれない舌の感触が悩ましいのだ。しつこく舐めとられて、時に、ボクは先生のカラダにこんなことだってできるんですよ――と、いわんばかりの執拗さで指のはらで因果を含まれて、その危険なくすぐったさに、刻々、心が負けて(なび)いていくのが判るのだった。

 そしてついには唇を圧しあてられて、ためらいを窺わせることなく、あいせつな凹みを深く吸われてしまう。そっとしておいて欲しい女の秘密のなにもかもを知り尽くされて、操祈は観念して目をきつく閉じ合わせた。

 どうしてこんなことをするんだろう……?

 なぜこんなことをしたがるのか、今もよく解らずにいる。

 これも愛の行為なの――?

 たしかに少年の愛情は強く感じている。

 レイが言うようにオーラルセックスは直接、生殖に繋がらない分、男女間でのより純粋な愛情表現といえるものなのかもしれない。

 けれども、たとえ愛を伝え合うのにしても、はたしてこのような方法を取ることが許されるのだろうか?

 まして相手はまだミドルティーンの教え子なのだ。

 どんなに賢くても、どんなにオトナ顔負けの振る舞いをしても、責任は大人であり教師でもある自分の側にある。

 それなのに……。

 悔いや畏れの感情を抱きながらも屈していくという虐げられる感覚が、さらなる強い感動を呼び込む促進剤になっているようで、一度でもその甘さを知ってしまった操祈はもう抗えずに堕ちていくしかなかったのだった。

 少年は狡智を巡らせて時をかけて、愛を言い訳にすることで彼女を二度と後戻りのできない性的倒錯へと見事に引きずり込んでしまったようである。

 巡り合うまではキスさえも知らなかった初心な女教師の真っ白な心と体に、思い通りの淫靡な絵を描いて、けして逃れられない恋の魔法をかけていったのだ。

 強い羞恥とそれにともなう快感に加えて背徳感という異なる糸で(あや)なされた官能のアラベスクは、デートを重ねるたびに鮮やかで豊潤な、けして打ち消せない記憶となって操祈の心に折り重なっていったのだった。

 

 

「あ、ヤダっ、あたしっ――!」

 まだ我を忘れるような具合になっていないにもかかわらず、不意に体の奥があのときのようにゆるんだ感覚になってたじろいだ。

「スゴイっ、先生のカラダから、こんなにいっぱい」

 感嘆の声が背後から聞こえる。

「いわないでっ、そういうことっ……」

 しどけない肉は少年の愛撫を待ちきれずに歓迎の涙を流してしまっているらしい。

 葛藤をよそに、体だけがさっさと応えてしまっているのが情けなかった。いつでも真っ先に官能の踊り場にたどりつくと、勝手にグズグズになって心が追いついてくるのを急きたてるのだ。そして再び心と体が一つになるや、一気に天上を目指して駆け上がっていく。

 身も心もとろけてしまうほどの、それはそれは甘美な口づけの味。

 自分がどんなにだらしなく、哀れなことになっているのか、ただその瞬間、(そら)の彼方を目指している時だけはどうでもよくなっていた。

「……キラキラしてる……先生の愛の蜜が……きれいだ……」

「レイくん……」

「ご褒美を下さいな、ボクの女神さま……」

 ようやく待ちかねていた本当の愛撫になると思った操祈は、その甘やかな衝撃に備えて腕の間に頭を垂れた。歓びを求めて自然にお尻をさらに突き上げる形になる。

 けれどもいつものように痺れるようなキスをされる代わりに、そこを何かで拭われているような、もどかしい感覚になって当惑に目をパチクリさせていた。

「……?……」

「今日はボクのベッドに、先生のにおいをたくさん遺していって下さいね」

 背後で少年は捲り上げたシーツをタオル替わりにしていた。

「……もう、なに言ってるのよぉ、イヤよ、そういうのは……」

 恋人から自身のにおいを好まれて嬉しくても、女の矜持があって素直にはなれないのだ。

「それじゃあ今度は横になってください、仰向けに」

「え、仰向けに……仰向けになるの……?……いいけど……」

 求められるままに気怠げに身を返して少年と向き合う。当惑の視線をチラリと送って、彼が股間のものを高々と屹立させているのに気がつくとギョッとしてすぐに目を逸らしてしまった。

「ホラ寝て、先生――」

 促されて、ころん、と身を倒して今度は体を長らえる。すばらしいプロポーションの裸身は横たえても少しも変らなかった。

 豊満でありながらも張りのある乳房はだらしなく流れてしまうことなく、山の頂きに(おお)きめの乳暈をしっかりとのせている。股間を飾る飴色のヘアは、すでにしとどに蜜を含んで毛羽だっていて、くさむらの中に愛らしい秘密のスリットが覗いていた。

 男の視線が全身のそこかしこに注がれているのを感じて操祈は少しばかり緊張していたが、やがて女の体にどこにも欠点がないのを見届けたように、少年は顔を綻ばせるのだった。

「膝を抱えて」

 再び命じられる。

 レイが自分に何をさせたいのかは分かっていた。その体位も女にとってはひどく屈辱的なものだが未経験ではなかったからだ。

 デートの際に、少年が好んで持ちかけてくるものの一つ。

 女神――と、持ち上げる一方で、その舌の根も乾かぬうちに、動物のように四つん這いにされたり、おしめを替えられる赤子のように無防備な姿にされている。

「先生がイク時のいちばん可愛い顔を見ていたいから……」

「………」

 おずおずとした物憂げなしぐさで、少年の要求に応じて膝を抱えて身を丸くした。長い(もも)の裏をすっかり上向けて、女の隠しどころを全て(さら)けてしまう大胆な格好に。

 今度はレイもベッドに上がってくると、操祈のお尻の下に膝を()じ入れてきて、更に腰が高々と持ち上げられてしまう。体にしっかり腕を廻されて抱きとられ、身動きさえもままならなくなっていた。

 ここへ来てわずかの間に教師と生徒の間柄から、(いまし)めるものと虐げられるものの関係に堕とされていて、操祈は目を閉じて顔を横に背けた。

 細い(くび)に哀しみの筋を浮かせて思いをうったえる。それが女に許された僅かな、そして最後の抗い方だった。

 けれども――。

「先生、目を開けて……」

 少年の手が胸をあやして彼女に起きるようにと促している。

「ボクがすることを見ていて……」

 この小さな暴君は、もう無言の抗議も、黙認も、哀しい諦めさえも許すつもりはないらしく、操祈にも当事者であることを求めているようなのだ。

「きっと、その方がキモチがいいはずだから――」

 薄く瞼を開いた視界に、黒瞳を妖しく輝かせて見つめている少年の顔が映った。目と目が合うと少年は真顔になって視線をさらに強くして絡みつかせてくる。

「ボクをちゃんと見て――」

 操祈も必死のせつない思いをのせて少年と相対していた。

 恋をして知った男と女の立場の違い。

 たとえ相手が年下であっても、教え子であったとしても、裸になった後、愛されるものは愛するものには敵わない。

「……こんなにも美しい女の人がこの世に居るなんて……今だって信じられないくらいなのに……」

「………」

「……ショックだったんですよ、“キミ”を初めて見た時は……ボクは自分の目を疑って……」

 自分への呼びかけがいきなり、キミ――という親称になって、それがどこにも子供っぽさを感じさせずに響いて胸を突いた。なんだか大人の男性に囁かれたようなのだった。

 実際、ベッドの上のレイは、することも少しも子供らしくはなかったのだが。

「……だから何度も確かめて、本当に生きている女の人だと判った時にはものすごく嬉しかった……」

 そう言いながら目の前で彼の指がやさしく、けれども意思をのせてやわらかな肉を左右に展いていた。

 健気にしっかりと結んでいた口を割られて、ひんやりとした外気に晒されて、それが奥の方にまで届くと心がいっそう頼りなくなってくる。

 けれども、こんなにも惨いことをされても、操祈は声をあげることもできずに、ただ固唾をのむばかりになっているしかなかったのだ。

「……なんて綺麗なんだろうな……先生は、コンテストになんか出なくたって世界でいちばんだってことをボクはよく知ってますから……」

 少年は操祈の顔と見較べるように視線を前後させて言う。

 そして彼女が目を閉じていないのを確かめると、今度はそこをしっかり覗き込むようにした。けれども(うね)をなぞられて、甘い感覚と羞恥からたまらず目を閉じようとすると、少年は視線を向けてきて許さない。

 操祈は潤んだ瞳で少年が顔を寄せるのを見ているしかなかったのだった。恐れと不安と恨み、そして期待とがないまぜになった眼差しで。

「……いいにおい……心のやさしい、とっても美しい女神さまのにおいがする……ボク、キミのどっちのにおいも大好きです……」

 どっちも、というのが何のことを指すのか判っていた。きっと、つい今しがたまで彼の舌がしつこく貼り付いていたところのこと。そう思うともう心がくじけてしまいそう。

 それを意図してのことか少年は長く舌を伸ばして見せつけていた。

「ボクは人間です……人間の男……」

「………」

「……だから、先生にはするんです……どんなことでも……」

 だからするってなによ……わたしだってただの人間よ、人間の女……なのに――。

 操祈はそう胸の裡で叫んで、レイにもこれまでも何度も伝えていたのだが、彼に翻意のつもりがないことは判っていた。いつも行為でそのことを教えられている。

 祈り――。

 なんて都合のいい言葉なのかしら、と思う。

 けれども、女の自尊心をくすぐられている面も確かにあるのだ。

 けっして自分を傷つけたりしないという彼のやさしさと、思いやりと、その決意の表れでもあると。

 どんなにひどいことをされても、イジワルをされても、それでも少年が彼女へ向けてくるロイヤリティー、ギャラントリーには偽りはなかった。

 我が身に置き換えると、少年が訴える、愛するが故に、というのはきっとそうなのだろうと胸に落ちる。

 自分だってこんな姿を見せられるのは彼を信じて、愛しているからに他ならなかった。他の誰にもできないことをレイにだけはしてしまっている。

 膨らんだ思いを伝えようとして、言葉にならない気持ちを行為に換えるとき、ちょっぴり極端に(はし)ってしまったとして、それのいったいどこがいけないの?

 もしかすると少しも悪いことではないのかな?

 むしろ、許されるべきことだったり……。

 愛って、どんなことよりも正しい、魔法の言葉?

 愛し愛されて、愛されて愛する――。

 男と女……。

 恋をするって不思議……。

 だってわたしは、この人を愛しているんだから……誰よりも……。

 自分よりも大切な人――。

 それなら恐れることなんて、もうなんにもないはずじゃない?

 操祈は大きな目をぱっちりと開いて恋人の顔を見つめた。

「……レイくん……好きよ、大好き……」

 ついには自分の方から言葉にして愛撫をねだっていた。

 可愛がって――と、言わなくてもすぐに思いは伝わって、少年は幸せな頬笑みを向けると長く舌を伸ばしてみせる。

 それはけして嘲弄するのではなく、彼も一途な愛を形にしようとしていたのだ。

 操祈が息をのんで必死の思いで見守る中、今度は迷わずに妖精の(おとがい)の下に舌先を差し入れてきて、そのどこまでも甘い衝撃の中、たちまち彼女の視界はピンク一色に染まっていくのだった。

 




実家編は、3回のつもりでしたが、あともう一話続きます


誤字等、一部修正しました
申し訳ありません
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