ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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操と祈りと初恋と

 

「……レイくん、それ、きたないですから……」

 申し訳ないことをしている負い目から、言葉遣いまでもが教え子に対するものではなくなっていた。

「……そんなことありませんよ、女神の美しい体に汚ないところなんて……それに、そもそも無菌のものだし……先生には不要でもボクにはとても尊くて貴重なものだから……だからどうか再利用をさせてください」

「………」

 ここに来るときには、レイくんのご両親とお会いするつもりで……不安と緊張で、胸をドキドキさせていたのに……。

 けれども――。

 待っていたのは彼ひとりなのだった。

 恋人たちが二人だけになれば家庭訪問はたちまちあぶない密会になってしまう。

 操祈にそのつもりがあろうとなかろうと彼の部屋に連れてこられた後は、ひたすら彼女の体をもてなすためのフルコースになって、さらには彼が欲しがるもの、欲しいというものをみんな与えることになってしまっていた。

 たっぷりと愛された後に、あられもなく乱れた姿をしっかり見届けられたあげくに持ちかけられれば、もはやお上品ぶった言い訳など通用するはずもなかった。

 おとなしそうに見えても、レイはことセックスに関してはとても貪欲で、けして無理強いはしないけれど妥協もしてはくれないのだ。いつでも詰将棋のように彼女を追い込んでは最後には自分の思いを遂げていく。

 結局、操祈は言われるままにベッドのヘッドボードのスチールパイプに掴まって体を支え、大胆に大きく膝を割って少年の顔の上にしゃがむと、促されるままに緊張を(ほど)いていったのだった。

 それはとても罪深いこと、不埒きわまる人の道にも外れた背徳の所業――。

 なのにどこか開放感、安堵感のようなものもあって、もう仕方のないことだから、と諦めて許してしまっていた。

 それが初めてではなかったのも、こうした心境の変化の支えになっていたのかもしれない。

 ただ、最初の時は逃れられない形でそうなってしまったのに対して、今日は自ら具合が良くなるように腰を微妙に動かして当たる位置を探るようにもしている。

 大人の女が未成年男子に対してそれをするのは、間違いなく性的虐待になるのに違いない。この一事をもってしても操祈は重大な法令違反を犯していると言える。

 実際には彼が強く望み、彼女は拒み通せずに応じてしまっただけで、求められたから仕方なく与えてしまった、あるいは女の感覚としては、奪われた、に近いものだったとしても――事実、決して逃すまいというように彼の両手が彼女のお尻をしっかりと抱き寄せていて、事が済んでもなお名残惜しげに舌先でなぞって、最後のひとしずくまでしつこいくらいに丁寧に(すす)っていた――それは操祈の演じたおぞましい逸脱行為の理由にも言い訳にもなりはしなかったのだ。

 そんな成熟したカップルでも躊躇うような爛れた肉体関係は、絶対に他人には知られてはいけない秘密だったのだが、にもかかわらず二人が熱愛関係にあることは既に少し前から栃織紅音と舘野唯香の知るところとなっていて、そればかりか唯香によれば、一年生の能力者の女子の中にも二人の関係に気がついているものがボツボツ出始めて居るらしい。

 噂は今も密かに拡散していて、まだ顕在化していないものの公然の秘密になる一歩前の状態に置かれているのだともいう。

 去年の新入生たちの中には、一定レベルに達した透視や予知の能力者がいることを操祈も知ってはいたが、よもや自分にその力が向けられていようとは思いもしなかったのだった。なによりショックだったのは他者の特殊能力の気配に気づかずにいたこと。

 仮にも元レベル5の心理系能力者でひと一倍、敏感であることを自負していたつもりが、身に迫るリスクに無頓着でいられたことの方に驚きを禁じえない。

 身を守る術を心得ていた筈なのに、そのつもりでいたのに、それがまったくのザル状態だったなんて!

 今更ながらに力をそっくり失った凡婦でいることを再確認することとなっていた。

 だからくれぐれも用心しなければいけないと、唯香からは軽率な行動は慎むようにとの注進をされていたのだった。

 けれども、それを受けた結果が今だった。

 彼のベッドで時を忘れて痴態を晒して、これまでにないほど淫らに奔放に振る舞ってしまっている。いつもは慎ましく閉じ合わされているものをいっぱいに(ひら)いて、愛する男に女の秘密をどこまでも(つまび)らかにされて一心に愛玩されていた。

 しかもまだその最中、終わったわけではなかったのだ。

「……?……」

 しどけないお務めを終えた彼女がようやく立ち上がりかけたところを、レイの両手が腰を捉えて引き止めようとしていて、操祈は切ない視線を股間に落として少年の容子を窺うのだった。

 思いを遂げて満たされた顔がやさしげに、幸せそうに微笑んでいる。黒い瞳を憧れに輝かせていて、醜態を演じて気おくれを感じている操祈の胸の扉を宥めるようにトントンと軽くノックしている。

「ありがとうございます先生、すっごくステキでしたよ……とても光栄です……嬉しいな、先生がボクにこんなことまでしてくれるようになるなんて……」

 ひどいことをしていたばかりなのに、そんな罪の影など微塵もうかがわせない屈託のない表情をして言うのだ。

「でも、せっかくですからもう少しだけ楽しみませんか?」

「……!?……」

 感じやすい腰のくびれを撫でる手の動きは愛着といたわりを感じるもの。それが彼女をまた誘惑していた。

「おイヤですか?」

 訊かれた操祈には、切なげに首を横に振ることしかできなかった。同意しているとも拒否しているともとれる曖昧なしぐさで。だが少年はそれを都合よく解釈したようである。

「じゃあ、この体位でも“お祈り”の続きをしましょうか」

 宣告するなり、その姿勢のままでもう何度目になるかもわからないことがまた始まってしまったのだ。

 今度の少年は喉を潤すのではなく、彼女を愛するときの口づけになっていて、それはまさに彼にしかできない愛撫なのだった。

 操祈のことを強く思っているが故の行為、だから、どこまでもやさしくて、そして残酷。

「……ん……あはぁっ……レイくん、そこっ……はあっ……」

 豊満な乳房のいただきを飾る可憐な尖りは、片時も安らぐことを許されずに男の指が(なぶ)るのを健気に受け止めている。

 みごとな広がりを見せている淡い(かさ)の外縁から、指の腹でまあるく螺旋を描くようになぞられながら丁寧に念を込められたり、目覚めた先っぽだけをクスクスと爪弾かれたり、あるいは指と指の間に挟まれて慈しむようにあやされたり、手のひらで大きく包まれて感じ易い部分全体を広く擦られたり……。

 揉んだりつねったり潰したりするのとは違ってとても柔らかい刺激なのに、どれもうっとりするほど気持ちが良いのだった。

 けれども、そんなすばらしい心地よさですら他愛もないものに思えてしまうほど、彼女のデリケートな場所にはさらに愛情たっぷりの深刻なお仕置きが加えられている。

「……ああっ、いけないっ……」

「大丈夫です、先生のことはボクが必ず守りますから……だから、心配しないで……今はリラックスして……」

 案じているのはそのことではなくて、また当然のように彼女のぬかるみを犯そうとしている二つの指の方。だがひとたび少年の唇に包まれてしまうと、そんな行き違いもたちまちどうでもよくなってしまう。

「……イヤぁっ……それ、だめぇっ……ねぇ……」

 抗いの言葉も幼い女の子が駄々をこねるように儚いものになっていた。操祈が恋人にせいいっぱい甘えている時の声音に。

「いい子だね、先生はカワイイな」

 反対に男の声には、思い通りに女体を支配する者の自信と余裕とがうかがえる。

 繰り返されてきた愛撫に既にすっかりほぐれていた体は、無防備な姿勢もあって守りも手薄で容易に受け容れてしまうのだった。前と後ろを深く侵されて、何かに堪えるように操祈の背中がピンとしなって優美な弓型を描いていった。長い髪が腰にまで届く豪華な金色の滝となって乱れ落ちている。

「レイくんっ――」

 啼いても愛撫に熱中を始めた男はもう応えない。代わりに行為で彼女に屈服を促している。どんなに優しくてもけして容赦のない愛の試練、逝くも留まるも男の口先ひとつで運命を操られていて、もう彼女の自由になるものなど何ひとつないのだった。

「いっ、いっちゃう……」

 きっと本能からなのだろうしなやかな両腕を懸命に伸ばして愛しい顔を閉じ込めようとしていた。それは少年が描いたスケッチブックにあったのと同じ、この上なく淫らで美しいポーズなのだった。

 優美な腰のラインを艶かしく蠢かせて、いまにも泣き出しそうな悩ましげな表情になって、彼女の方からいじわるな舌の動きを追いかけている。

 やわらかな肉をまとった白い内腿に時にピンと張り詰めた筋がたち、女体の尋常ならざる緊張と興奮とを伝えているのだ。熱気をまとって上気した肌は全身が薄桃色を帯びて、薄い皮膜が浮いているのか宝石をちりばめたように汗が玉をなしていた。

 それが未だ美少女の面影を留めた清潔感のある顔立ちとみごとなコントラストをなして、操祈をさらに凄艶に見せているのだ。

 女が本気になって歓びを求めるときの、褥を共にできる男だけが知っているいちばん美しい姿に。

「……愛してるわっ……大好きっ……レイくんっ……」

 快感の尾根を駆け上りながら、譫言(うわごと)のように胸にあふれる思い口にしている。

 誰よりも愛する男から心を込められて可愛がられるからこそ、素晴らしく甘美で幸せな経験になるというのを彼女はもう良く知っているのだ。

 この数ヶ月、レイと男女の関係を持つようになってからは恥ずかしいこと、淫らなことがそのまま歓喜へと繋がっていることを教えられて、心やさしい彼に励まされてひとつひとつ乗り越えながら学んできた。

 ベッドで見せる少年の忠誠と愛情深さは女を虜にせずにはおかないもの。

 愛してる――。

 どれほど繰り返しても足りない言葉。

 だから、気持ちを確かめるために体で伝え合っている、それなのに……。

 恋の甘さと男のやさしさを教えてくれた人が、たまたま教え子の一人だったというだけで、その人を愛することがどうしていけないことなのだろう……。

 中心から拡がる痺れるような快感に堪えながら、操祈の思いはまたひとり漂流しはじめた。

 教室にいるときには誓ってレイを特別扱いしたりしたことはなかったはずだった。

 教師としての倫理感を(あざむ)いたことなど一度もない。そんなことをしなくても彼は常に真摯にとりくんでいて、ベッドでの生真面目で緻密な振る舞いをするのと同様に、教室においても常にベストスコアで応えてくれていたからだ。

 彼と体の関係を持つのは罪なことなの?

 それはレイがまだ十五歳の男の子だから?

 たしかにそうなのかもしれない。年齢差を考えればきっとアンバランスなのだろう。

 けれども互いに初めての異性として巡り逢い、一緒に時を重ねてきたのだ。

 男を知らなかった操祈が少年と出逢って恋を知り、心と心、体と体の絆を結んで、堅い信頼と愛情を育んできた。

 深く愛し合っているから求め合う、セックスはかけがえのない相手となされる尊いいとなみ――。

 特別な人とだけかわされる、とりわけ大切なことだから二人だけの秘め事として隠され護られている。

 恋とは互いのプライバシーを共にすること、秘密を分かち合うことでもあるのだった。

 他人には見せない、見せられない姿を恋人にだけは見せ合って、許し合うこと。

 大切なのは二人の気持ちだけなのに……。

 他の誰かが、ましてやルールによって愛し合う者たちの心に制限を設けようとするなんて、その方が理不尽だと思う。

 今の自分たちがしているようなことだって半年前の操祈にはありえないこと、考えられないことだったのだ。それが互いを許しあう中で最も熱心に取り組まれるようになって、心と体の紐帯を深めるための真剣な愛の行為へと変わっていったのだった。

 信じ合っているからこそできること、密やかな経験を共にすることでさらに相手を大切に思えるようになっていく。

 この気持ちは、体の関係を結ぶようになって、デートを重ねるたびに濃厚なセックスをするようになる以前の「好き――」とは違って、ずっと大きく深く根を張ったものになっている。

 それなのに大好きな人を愛することが、許されないことなの?

 誰が、なぜ、どうしてそんなことになってしまったの……?

「あん――っ♡」

 予期せぬ刺戟に腰をキュンと浮かせて彼の舌先から逃れる。が、すぐにまた捉えられて、新鮮な感覚が彼女を悩ませるのだった。

 小指の爪先ほどの小さな場所の支配権を巡っての男と女の一途で懸命なせめぎあい。

 もっとも戦況は常に劣勢で敗色濃厚の防戦一方だったが――。

 こんなにも恥ずかしいことを、少し前の自分にはけしてできなかったことを、今は彼の(ねが)い容れて受け止めている。

 そんな自分こそが、いちばんすなおな、偽らない本当の姿なのだと操祈は思う。 

 でも、もしも生徒の誰かが今のわたしたちを透視しているのだとしたら……。

 自分たちの女教師がこのようなことをしていて、さぞやショックだろうと思う。中には、裏切りだと嫌悪する子も居るかもしれない。

 でも、これがあたしなんだから……。

 あなたたちだって、好きな男の人ができたら、きっと自分が変わっていくことに気がつくことになるのよ……。

 人には誰にでも見せられる公にできる部分と、家族にしか見せないプライベートな面とがあって、さらには家族にすら見せられない姿も見せ合う、恋人だけに向けられる秘密の顔だってあるの。

 だから、セックスは秘め事にしておかなければならない、隠しごと……。

 ああ、能力って、なんと呪わしいものなのかしら……。

 容易に他人のプライバシーを盗み見て、虚飾を剥ぎ取ってしまうなんて……。

 しかし、かつての自分がそうであったように、人の心の機微に無関心であったことの報いを受けているのだとしたら、因果応報、仕方のないことなのかもしれなかった。

 それだからって、今になって持ちだしてくるなんてあんまりだと思う。

 こんなに人を好きになってしまってから、それを台無しにしようと動き始めた運命の仕打ちに強い不満を覚えるのだ。

 意趣返しは、願わくば穏便なものにしてちょうだいっ――!

 手前勝手な希望だったが、犯した罪の償いは、これから時間をかけて少しずつ“善行”を積み上げていくことでチャラ――にして欲しかった。

 もしも許されるのなら……。

 操祈がなにより恐れたのはレイを失ってしまうこと。

 それゆえ願わずにはいられない。

 どうか、私から彼を奪わないで、と。

 どんな責めを受けようとも、それだけは容赦して欲しい。もしも代わりに命が要るというのならよろこんで差し出しますから……。

 愛しているの……彼のことを……神さま……だから、どうか……。

「んんんっ――」

 心も体も悶々とするなかで、その時は不意に訪れた。

 体の中心から頭の先まで一本の串が通されたように、体が一瞬、ピンっと突っ張ったかと思うと、ぶるんっ、と腰を痙攣させる。

 体の内部に、あの覚えのある絞り出すような感覚が何度も繰り返されて、また熱いものが流れだしていく感じがして恨めしい。

 彼がその全てを受け止めてくれているのがわかるのだった。

 いったい、この体はどうなっているのだろうと自分でも情けなくなるほど、愛されるたびにおびただしい放出感が()つ自身のしどけなさが哀しかった。

 ごめんなさい……レイくん……こんなあたしで……。

 今度はあまり焦らされることもなく操祈は安息の波打ち際にたどり着くのを許されたようなのだ。その代わり悦楽の極みからは離れているその分、我を失うこともなく、自分の体がどのようにダメになってしまうのか、もちくずしていくのかをしっかりと意識させられていた。

「はあっ……はあっ……はあっ……」

 汗ばむ白い腰を切なげにわななかせながらも、体からゆっくりと熱が引いていくのを感じている。

 やがて事後の心地よい気だるさが全身を満たしていった。

 少年の口づけは、彼女を歓びへと誘う時のものから、爆ぜて乱れたその部分を清め整える時のものに代わっているのだ。

 それは男の優しさを感じずにはいられないものなのだった。

「……レイくん……」

 恥ずかしさと申し訳なさ、それと歓びとが織りなす感動に鼻をくすりとさせて、誰よりも愛する人の名を呼んだ。

 傍にきて欲しいと、もう独りにはしないで、とせつない思いを込めて。 

「疲れたでしょ? 座ってもいいですよ……ボクの上に……」

 後始末を終えた少年は、彼女の体を両手で支えながら胸の上に腰を降ろすようにと促していた。

 操祈は両足を前に投げ出す形で、彼の面前に脚を大きく開いた姿で、秘所をさらしたまま最愛の男と視線を絡めて向き合っている。

「カワイイな、先生は……こんなにかわいい女のコの……」

 祝福のキスが寄せられる。

 固唾を飲んで見守る前で、少年はそこを両手でやさしくひろげるようにすると、愛おしげに頬を押し当ててきて、まだ(こわ)い髭の生える前のつるんとした感触が、デリケートな肌に感じられるようになった。そこを傷めることのないように心を配っているのがわかる、恭しさを感じさせる寄せ方で顔を埋めてきて、彼がすすんで匂いを纏おうとしているのが判ると、とても恥ずかしいのに泣きたくなるくらい嬉しくなる。

 遠い日、自分はこの人を産んだことがあるのではないか、ふと、そんな不思議な気持ちにもなってくるのだった。

 そう、この男の人よ――。

 女の肌がそう言っているようだった。どこよりも敏感である分、誰を愛したら良いかを知っている、愛する人が誰なのかを教えてくれている。

 逢えて良かった――。

 わたしを見つけ出してくれて、ありがとう……レイくん……。

「体を倒して……楽にして……」

「うん……」

 操祈は命じられるままに、少年の体の上に身を横たえていく。それは互いに楽な姿勢に戻って長く愛を確かめあうときの体位なのだった。

 蹲踞(そんきょ)の姿勢からのこの流れも、以前に経験したことのあったもの。

 普通に熱愛中の恋人たちなら、きっと逆向きに抱き合って慰め合う形になるところを、操祈の体を(ほしいまま)にすることにこだわりのある少年は、彼女の腰を後ろ抱きにすることで女の弱みを一方的に自由にできるこの体位を好むのだった。

 柔らかな毛並みを撫でられながらの、繊細なタッチの口づけはとても心地が良くて、操祈は全てを委ねるつもりで目を閉じた。

 大胆な姿になって性愛のシーンに身を投じてはいても、長い睫毛に愁いを宿した悩ましげな風情にはなお清らな処女性が失われずにいて、愛くるしさと艶めかしさとが損いあうことなく共存している。

 人にして人に非ざるものの正体を隠しきれずに、まるで操祈の魂の形、心の姿が滲み出してきているよう。

 少年が女神――と、慕うのも大げさではなかったのかもしれない。

 けれども当人には、相手の感動にまで思いが及ぶことはなく、彼がまたいつ本気になって彼女を逸楽の淵へと引きずりこもうとするのかわからない中で、スリルを感じながらのつかの間の安らぎの波間に漂っているのだった。

 ふと胸の横にあたるものに気がついて、

「ねぇ、レイくん……」

「え、なぁに、先生」

「わたしも、触ってもいいですか……?」

 おずおずと切り出してみる。すぐ近くの手の届くところに彼の情熱の強張りが、みごとにそそり勃っているのが目に入ってきたからだった。

「ダメです――」

 案の定、つれない反応が返ってきた。

「ずるいな……レイくんばっかり……」

「だって、ボクももういっぱいいっぱいになってるから、すぐに暴発しちゃいそうなんだもん」

「わたしだって見たいわ、あなたが暴発するところ……」

「つまんないですよ、ただ臭くて汚いだけで」

「そんなことないわ、レイくんのだもん……」

「それはどうかな……ボクと先生とでは立場が違いすぎるから……キミのはみんなきれいだけど……奇蹟のように美しいけれど……人間の男のものは女神であるキミにとっては穢れでしかないですから……」

「………」

「それに、ボクのベッドにはキミのにおいだけを残しておきたいな……」

「……そんなこと言って、わたしのベッドでもさせてくれないのに……」

 のらりくらり、いつも適当な言い訳をして逃げられてしまう。

「もう少しだけ待ってください、そうしたら好きにしてもいいですから……」

「もう少しって、どのくらい……?」

「ボクたちがオトナになるまで――」

「大人になるって……」

 ちょっと不満げに唇を尖らせる。優美な女神がおきゃんな堕天使になったよう。

「だって先生とボクは、まだそうじゃないでしょ? 結婚するまでは今のままで居ようって約束したじゃないですか」

「……そうだけど……」

 結婚――というのは、彼の口から出てくると胸に響くのだ。

 そう言われてしまうと返す言葉を奪われて、半ば諦めからかそれでもいいかという気持ちにもなる。

 ただ、そうなるまでにはいくつもハードルがあって、レイが法的に婚姻が認められる歳になるのには、まだ三年近くも待たなければならないのだった。

「先生は心配しなくても大丈夫ですよ」

 まるで子供をあやすように操祈のお腹をやさしく撫でながら言う。

「心配なんかしてないわ……」

 ぼんやり天井を眺めて、壁紙の一部が剥がれかけているのが目にとまった。

 糊付けされたシボのある部材は、シームレス加工がメインとなった今時、とても珍しいものなのだと思う。

 いったいいつの時代からの建物なのかしら……?

 昭和、平成、それとも令和……?

「……あなたがそう言うのなら、きっとそれがいちばん良いことなのよね……」

「そうです。それにもしもキミに異存さえなければ、この春にでも二人でどこか余所の国へ行って、そこで契りを交わすことだってできるかもしれないですし……」

「え――!?」

「婚姻の年齢制限が緩い国はまだいくつもあって……中には十五歳で夫に成れる国もあるみたいだから……」

「でも、それは……日本では通用しないものでしょ……」

「たしかに国内法では認められなくても、でもそうしておけば事実婚の体裁をとれるかもしれないし、少なくとも先生にとってのアドバンテージにはなりますよ。その他にもボクたちの関係を守るための手立てならいくらでもあるから、だからもうあまり心配しなくてもいいと思うな。大切なことはボクたちが真剣に交際しているということ……スケッチブックや先生の肌着のコレクションも、いざという時の真剣交際の証になったりして……」

「やめてっ! おねがいだからっ!」

 あんなものを公にされてしまったら、もう生きてはいけそうになかった。

「冗談です、冗談です」

「もう――」

 操祈はむくれた顔をしたが、ずっと先と思っていたことが前倒しにできるかもしれない、というプロポーズはとても魅力的なものに思えるのだった。

「でも、そうなのかなぁ……ちゃんと交際しているという実態があれば……」

「そうですよ、だって、こんなに愛し合ってるんだから……」

「あんっ――♡」

 ソフトなキスから、いきなり舌で深く探ってくるディープキスになって、くんっ、と脚を開いてしまう。愛撫に馴染んだ体は、とっさに逃れようとするよりも委ねる方を選んでしまっているのだった。

「……あはぁ……いいっ……」

 (おとがい)を上げて、露わになった白い喉許をわななかせて甘い責め苦に堪える。

「きもちいい? 先生……」

「……うん……すてき……とっても……」

 少年はまた舌の動きに情熱を込めてきて操祈の意識を刈り取ろうとしていた。無防備な女体に加えられる執拗な詮索。互いの純潔を保ったままで、男と女の秘儀を極める二人だけの愛のかたちになっていた。

 そのままの姿でいちばん敏感な尖りを包み込まれてしまうと、女の生身にはもう後がなくなってしまう。

 こんなふうにして追い詰めてから、少年はまた彼女を置き去りにした。

 操祈は長い睫毛を瞬かせて、疲れたため息をひとつつく。

 深く睦みながらも、おしゃべりができるのもこの体位ならではなのだった。

 こうして日々の学園での生活やそれぞれの日常にあった出来事ついて語らうことは、ちょっと濃い目のピロートークにもなっていた。

 もっとも主導権は常に彼に握られっぱなしで、会話のリズムもタイミングも少年の気分しだいではあったのだが。

「でもボクは先生とのこと、もう誰かに見られていても平気かな……」

 不意に少年は危ないことを口にした。

「どうして……?」

「透視ぐらいなら、むしろ見せつけてやりたいなって思うこともありますよ」

「……そんなの……ダメよ……あたし……」

 ダメと思っても、今の自分にそれを防ぐ手立ては思いつかなかった。

 自室にジャマーを設置するというのは、あまりにも仕掛けが大きすぎてかえって不自然になるばかり。コストや安全性まで考えるとおよそ現実的ではない。

「ですよね、先生は女のコだから……でも、大丈夫ですよ、ここでのことはすべてノーカウントになるはずだから」

「……うん……」

 企みについては知らされていて、レイのことだからきっと抜かりはないのだろうと思う。今はそこにすがるしか道がないようだった。

「だからキミは何も心配しないで、ただ自分が幸せになることだけを思っていてくれればいいんです……」

「……うん……ありがとう……」

「キミは必ず幸せにならなければいけないよ……」

 男の子というよりも、ずっと年上の男のような物言いをされる。

 なんだか父親が最愛のひとり娘を諭す時のような……。

「先生のような美しい魂が傷を負うようなことを、ボクはぜったいにゆるさないから」

 胸が熱く膨らんで、こみ上げてくる感情に嗚咽がこぼれてしまいそう。

 彼の言葉は肉体への愛撫よりも嬉しい、心への気持ちの込もった愛撫になっていた。

「……うん……うん、わかったわ……」

 操祈は上体を起こして、また少年と向き合った。手を伸ばして愛おしい彼の髪の中に指を絡める。

「……信じているわ……あなたのこと……」

「誓います……女神に……ボクの大切な、心やさしい女神さまに……」

 少年が深く顔を埋めて祈りの口づけとなって、操祈は気をやるまいと大きな瞳を瞠って愛しい顔を見つめていたが、そんな抵抗もほんのわずかの間のこと。

 彼女の体のなりたちを知悉する男が一途な情熱を込めてくると、たちまち黒い髪が飴色の和毛と溶け合っていき、二人の境が曖昧になってまた見知らぬ逸楽の世界を彷徨うようになっていくのだった。

 




およそ一ヶ月ぶりの更新

少し書き溜めもできたので、ちょっとは更新頻度を上げられたらいーな

もう少し、この年の差カップルの仲良しぶりを覗いてみたくて
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