ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
「……うっ……」
枕に顔を突っ伏したまま小さく呻くと、お尻の筋肉をかたく緊張させて粘っこい情熱の塊を放った。さらに感動の痙攣が二度、三度と続き、滾ったものを撃ち尽くそうとしている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
今夜はもうこれで三回目だった。だが、とうていこれで済むとは思えない。
熱い息をして束の間の衝動をやり過ごすと、森下翔馬はベッドの上で身を返して仰向けになった。ティッシュの中に包まれたまだ生温かいものが溢れ出す前に応援のティッシュをさらに何枚も取って股間にあてがい事後の処理をする。
もう慣れたもので、初めての頃のように肌着を汚してしまうようなことはなくなっていて、肌に付いた汚物も手際よく拭うとそれらを丸めてダストボックスへと放り投げた。
普段ならその後は賢者タイムになって、あとはすっきりしてぐっすり眠れるはずなのだが、今夜はそれも長くは続かなかった。
続くはずもなかった――。
放出した先からもう次弾のチャージが始まっていて、その上このところ味をしめて欲深くなった青い体は、さらなる刺激を求めて既に蘇ろうとしている。
食峰操祈――。
彼女こそ、この半年ほどの間ずっと翔馬の心を占めて悩ませるこの上なく美しい女神、愛の化身だった。
その人のことを想うと、たとえ幼くても猛々しい雄性に火がついてしまうのだ。
そして今日、さらに彼女についての、さらにいろんなこと♡――を、知ってしまった。
広げられて赤みを増したみごとなまでに美しい秘密の谷間と、そのすばらしい匂いと味とを“思い出す”と、しびれるような興奮にまた股間のモノが鎌首を擡げてきてエラを張り、精気が吹き出しそうになってしまう。
「……あの人は裸になると、もっとずっとスゴいから……あんなに可愛い顔をしてるのにこんなにスゴい匂いがするなんてっ……スゴすぎるっ!」
去年の夏の終わりに初めて彼女を目にした時のショック、その神々しいまでの美貌は、こんなにも美しい女性がこの世に居るのか、という鮮烈な驚きと感動をもたらしていた。
白く整った顔のやさしげな微笑みと柔らかく心地のいい声音、清潔感のある石鹸やシャンプーの素朴な香り……そのどれもが強烈な忘れることのできない印象を、まだ幼かった胸に刻みつけていったのだ。
その彼女が恋人らしき年下の男――自分といくらも年の違わないような少年に見えた――に抱かれて、彼の“目の前”で彼女の美しさの全てが何もかも奪われていくのをただ呆然として“視て”いた。
とても美しい人であったその分、彼女が恋人の前でだけ見せる姿は常との落差があまりにも大きくてさらに衝撃なのだった。
あんなにも綺麗な女の人が、こんな姿になるなんて!
あんなことまでされているなんて!
初めに感じたのは狂おしいほどの嫉妬、相手の少年への憎悪のような激しくも邪悪な黒い感情。
一見、真面目そうな顔をしたその少年――後にそいつは食峰操祈が受け持ったクラスの男子生徒の一人で、密森黎太郎という名なのだというのを知った――は、とても貪欲で、操祈の肉体に対してどんなことでも自由にできることを翔馬に見せつけたのだ。
大きく開かれた彼女の秘密に長くとどまっていた少年の歓喜の表情、あの日の午後、翔馬に優しく微笑みかけてきた彼女が羞恥に愛くるしい貌を耳まで真っ赤に染めて、瞳を愁いに潤ませて甘い声で啼きながら、豊満な白い肉を波うたせて肉欲の試練に幾度も呑み込まれていった。
窓から差し込む午後の日差しの中に、きっと彼女のものに違いない秘密の分泌物が、長く続く淫らな口づけの合間に幾度も、弄ばれて鴇色に染まった神秘の花びらと少年の唇との間に糸を引いてきらりと輝くのを、翔馬は激しく心をかき乱されて、いたたまれない思いで凝視していた。
しかもそれはまだほんの始まり、その日の陵辱劇のプレリュードに過ぎなかったのだ。
見知らぬ少年がみせた彼女の密やかな肉への執着は、さらに翔馬を驚かせ恐ろしさに
そいつは操祈の神聖な肉体に対して、もっと大胆で淫らなことをしようとしていた。
すぐ目の前のベッドの上で、彼女は獣のように四つんばいにされて、高々と差し出された豊麗な臀部の双丘が見えていた。非の打ち所のない真っ白な裸身に、どこまでも甘い曲線を描く二つの肉たぶ。もっちりと肉ののったお尻は触れると指が埋まるほど柔らかいのに、ヴィーナスのえくぼもくっきりと、ぷるんとしていて少しも形が崩れない。
その美の極みとも思える創造物に対して、あろうことかその谷あいを少年の手はさらに分け広げようとしていたのだ。
高貴な稜線の合間にちらちら垣間見える、無慈悲に露わにされていくものに翔馬の目も惹きつけられて釘付けになった。淡い色合いをした繊細な愛おしい姿に感動して心を奪われて魅入ってしまう。
それはやさしい女神の美しくも哀しい秘密にちがいない。
その時、ようやく翔馬もその少年の淫らな企みに気がついて、
ダメだっ――!
と、胸の中で叫んでいた。
どうかやめて、彼女にそれだけはしないで、と祈るような気持ちで固唾をのんで見守っていたのだった。
幼い倫理観からも、美しい女性が男にそのようなことを許しては絶対にいけないと思う。
まして操祈のような特別な人が、卑しい人間に対してそこまで自身の弱みを晒していい筈がなかった。
おねがいです、イヤだって言って、拒んでっ――!
だが、翔馬の切なる願いも空しく、そいつはそこにも当然のように顔を寄せていったのだった。
それは最も遠く働きの異なる二つの種類の粘膜同士による接吻。前と後ろの、普通ではおよそありえない形のできごと、それがいま密着して一つになっていた。
たちまち操祈の体に衝撃が駆け抜けて伏せた背中が弓なりになる。
「イヤっ! やめてレイくんっ!」
きっとそれは彼女にとっても予期せぬ出来事だったのだろう、声を上げて恋人の非礼を詰って逃れようとしていた。
けれども少年はそれを許さない。彼女の長い太腿に両腕をしっかりと絡みつかせてがっしりとお尻を捉えると淫らなキスから逃れられなくする。
哀しい絶望の悲鳴があがり、やがて女は諦めたのか肘をついた両腕の間に頭を深く垂れて恭順の姿勢を示すようになっていったのだった。
それから後は、彼女が仰向けになってされていたのと同じに、身を揉みながら時々堪えかねたように「はぁっ――」と、こぼれる熱いため息と、喘ぎとも悲鳴ともとれるせつなげな声、そして、ちゅくりちゅくりという淫らな音が奏でられるばかりになっていった。
人にして人ならざる彼女の、ある意味でもっとも清らかな部分が、貪欲な舌にしつこく舐りとられて、慎ましくきつく結んでいたものがやがてはヒクヒクと
「ああ、イヤぁっ――」
突如、哀切な声が迸り、操祈の肩口に緊張が奔って喉を長く仰け反らせて歓びを迎え入れる姿になった。
少年の顔と接したまま、彼女のお尻がぶるぶる慄えだすのを目の当たりにして翔馬は激しく動揺する。
まるで組木のように顔と体とがぴったりと一体化していて、いまどのようなことがなされているのか、翔馬にはただ少年の黒い頭の部分だけしか見えなかったのだ。
それでも、こうしたやり方でもオルガスムスを迎えさせられた操祈の姿に、翔馬は強いショックを受けて胃の中にあったものを戻してしまいそうになっていた。
美女の誇りを奪われて、純白の羽を毟り取られた痛みに彼女の大きな瞳からは哀しみの涙が溢れて、それは頬を伝って伏せた白い枕の上に落ちていく。
ほんの小半刻ほどの間に、前ばかりでなく後ろまでも、彼女の清らかな部分の全てが汚されて見知らぬ少年のものにされていた。
ベッドの上にはうつ伏せになって枕に顔を埋め、身を竦めて頼りなげにしている操祈と、この上ない美女の肉体を恣にして得意げにしている憎らしい顔があった。
少年は荒淫の余韻も露わに、口の周りをぬめぬめと光らせている。
奪う者と奪われた者、勝者と敗者……若い男と屈服させられた年上の女……。
少年が部屋にやってきた時、仲の良い姉弟のようにも見えた二人、実は先生と生徒の間柄であった筈の二人が、今はっきりと立場を変えて添い寝をしていた。
「先生のはすごく美味しくて、お口の中がとろけてしまいそうなくらい……においもとってもステキ……ボク、あんまり幸せで、夢の中にいるみたいです……」
少年は慰めるつもりなのかそんなことまで口にする。
けれども、その言葉は女には少しも救いにはならないばかりか、残酷な物言いとなっているのにちがいない。操祈は終始、無言だった。頑なさには精一杯の拒絶と瞋恚が窺えた。
それに何よりそうした散文的な表現は翔馬にとって堪えがたいものに響く。
「先生のカラダ、なにもかも想像していた通りにステキでした……いいえ、想像以上にもっとずっとステキだった……」
少年の手が操祈の裸の背中を広く撫でながら言った。自分が仕留めた獲物に対してするような遠慮のない動きで、馴れた感じに彼女の体を自由に触れ回っている。
見事にすぼまったくびれをなぞり、するすると駆け上った手はシーツの間に差し込まれて操祈の胸を探り始めた。豊満な横乳の肉が目にも艶やかに、はちきれんばかりに白く膨らんで、少年の手の中でやわやわと形を変えていく。
「夏休みが終わる前に、二学期が始まる前に、先生にはボクの気持ちをちゃんと伝えておきたかったから……」
シーツとの隙間が少し広がって、操祈の胸の先が翔馬の位置からも見えるようになった。
少年の指が豊かに広がった乳輪と、その真ん中の健気な尖りと戯れている。
「この世でいちばん大切な人に、ボクがどんなに大切に思っているかをわかって欲しかったから……だって、もう半年もしたらボクは卒業しないとならないし……先生と、もっとずっと仲良くなっていたかったから……」
「……だからって……あんなにひどいことして……わるい子よ、レイくんは……」
操祈がようやく少年に応えて言葉を紡いでいた。髪を払って枕から顔を覗かせたが、まだ目の周りを真っ赤にしている。眩しそうに瞼を細めて、少年と視線が重なると胸を衝かれたようになって、また枕に顔を伏せて逃れてしまう。
大人の女の人がこんなにも頼りなげになって、可愛い顔をするのはさらに新鮮な驚きで、翔馬の心を激しくかき乱していた。
「ひどいことですか……?」
「……いけないことよ……」
「どうして?」
「……どうしてって……そんなこと……」
「でも、先生みたいな綺麗な女の人は、いつかは経験することだから……」
「………」
「だから……それがボクでうれしいな……先生の初めてを、みんなボクのものにできて……すごく嬉しい……」
操祈の肩が、ピクッと慄えて固さが緩んだようにも見えた。長い沈黙。
やがて――。
「……あんなこと……もう二度としてはいけないわ……」
お姉さんの声に戻って操祈は諌めるように言った。
「そんな……ボク、これからもいつだってしますよ……だってしたいから……先生のことが大好きだから……」
「……そんなこと言って……本当に、いけない子……」
操祈はころんと身を返すと仰向けになった。恥じらいながらも微笑みを向けている。見事な乳房も、股間を飾る柔らかそうなふわふわのヘアも余さず少年の目の前に晒していた。
「……いい子だと思っていたのに……ウソつき……」
「ボク、ウソなんてついてません……ボクの気持ち、伝わらなかったのかな……先生に気持ちを届けたかったのに……ああするのがいちばん伝わりやすい方法だと思うから……」
「………」
「それに先生のカラダにいけないところなんてありませんよ、今日、ボクはそのことがはっきりわかりました……」
「……バカ……」
「ええ、そうですね……でも、先生のことを、ボクはどこまでも尊敬しています……」
少年がまた操祈の体に覆いかぶさってきて、彼女は驚きに目を見開いた。
「まだ時間がありますから、時間を無駄にしたくないから……ボク、先生のカラダを抱き足りない……先生のにおいがもっと欲しくて……」
「レイくん……」
「先生が好きです……大好き……」
また身を沈めていった少年は、今度は易々と操祈の両脚を肩に担ぐと、露わになった濡れた黄金色の草むらの中に顔を埋めていく。
「ああっ、レイくんっ……」
操祈も、もう少しも拒もうとはしないのだった。全てを投げ出すようにして身を仰け反らせると脚を大きく開いていた。
再び淫らな、けれども深い愛情と信頼に結ばれたものにしかできない愛の形になる。
「……愛してるわ……レイくん、わたしもあなたのことが大好きよ……」
体の作りだす感覚に喘ぎながら操祈も少年への思いをうったえて、翔馬の胸を無慈悲に刺し貫いていた。
レイと呼ばれる少年が、どのようにしてこのような幸福を、この上ない肉体的勝利を得たのかは知らない。だが、どんなにひどいことをされても彼女が相手の少年を怒ったり憎んだりしないのは、それほどまでに心を開いているからに違いなかった。
だから自分だけのものだったプライベートを、ありとあらゆる秘密を、それが彼――のものにされていくのを許したのだ。
女の隠し所の全てをくまなく詳らかにされてすっかり従順になった操祈は、もうどんな愛撫も強くは拒まなくなっていた。そして最後には自ら体を開いて、求められるままに少年の顔を跨ぐようなことまでするようになっていったのだった。
意外だったのは少年が男の行為を求めなかったこと。
長くそそり勃たせたものを見せつけながら、それだけはせずに去って行ってしまった。
だがそれがかえって翔馬が件の少年――密森黎太郎――を激しく憎むことに繋がっていたようである。
そいつの関心は、ひとえに彼女の体の仕組みと成り立ちを極めることに向けられているように思えたからだった。
そして事実、彼は女神の体から神秘のヴェールを剥ぎ取って、大切に匿され、守られていた神聖なもの全てに自分の手垢をつけ唾液で汚していったのだ。
アイツはみんな知っているんだ……。
あの人の体の隅々まで、本人ですら知らないことだって……。
それを想うと、強い嫉妬に気が変になってしまいそうになる。
その上、彼女を思うさま陵辱していった恋人が去ってから、ひとりになった女の姿が寂しげで、また一段といじらしく、憔悴しきった翔馬の心をさらに傷つけていた。
全裸でベッドの縁に腰をかけて、しばしの余韻、途方にくれた容子になって……。
情事の間、強いられていた時とは違って慎ましく揃えられた両脚、お行儀良くならんだ形のいい膝小僧を見ていると翔馬の目に涙が浮いてきて視界が潤んでくる。
体と心の変化を受けとめようとしているように物思いに沈む表情、長い金髪が顔にかかって胸を打つほど美しかった。
人の世に堕ちた悩める女神そのものだった。
たったいま目にしたばかりなのに、こんなにも尊い女の人があんなにも酷いことをされていたというのが信じられなくなってくる。
みんな悪い夢だったらいいのに――と、願わずにはいられなかった。
セックスというものが時に女の一生にとっての大事であり、とりわけ最初の経験は、その後の人生を変えてしまうような大きな出来事になるのを今の翔馬は知っていた。女の心と体に精神的にも肉体的にも消えない爪痕を遺していくものだというのを。
そのことをあのイヤらしい小僧――は良く心得ていて、操祈を性的倒錯へと誘おうとしていたのだ。そして事実、目論見通りにその企みはまんまと成功していた。
そんな特別な場面が、女の運命を変えてしまうようないとなみが、ほんの一時間余りの間に翔馬のすぐ目の前で演じられていた。
操祈が少年の望み通りの姿に変えられて、少年の色に染められていくのを見せつけられて、敗北感と喪失感に打ちのめされていた。
しかも彼はその後になって、そうなる前の、まだ彼女の体が取り返しのつかない経験をするほんの少し前の食峰操祈と出会って、彼女の魅力にさらに強く心を動かされることになるのだが、その時には自分が“目撃”していたことが、それが間もなく実際に彼女の身に起きることになるのだとも知らずにいて、それを後になって気づかされることでさらに手酷く心に傷を負うことになったのだった。
こうした因果の逆転こそが、先行透視――の奇妙なところだった。
ただの白昼夢で終わってくれればどんなに良かったか――。
胸に受けた衝撃の大きさは計り知れず、その後、暫くの間、翔馬はまともな精神ではいられなかったのだ。
操祈のことを思うたびに、彼女の体を知悉する少年の存在を意識してしまい、そいつの唇や舌、鼻が、彼女の密やかな部分のあらゆるにおいと味とを知りつくしていることを想って、喪失感による強い焦燥感から脂汗を流して悶絶することになる。
彼女への憧れが増すほどに、嫉妬の感情は翔馬の心を深く抉って切り刻んでいた。
繰り返される打撃に心の一部が蒸発して、草一本生えない不毛の焼け野原になったようだった。
そう――。
確かにその一件によって森下翔馬は心のある部分を喪失したのだ。
それは彼の子供時代の終焉を意味していた。
ただその結果として、この時のショックが今につながっているのだとしたら、それも良かったのかもしれないと、自分を取り戻した翔馬は思う。
強い精神的打撃は彼に力――の覚醒とさらなる能力の成長とをもたらしていたようだったからだ。
今、彼が持っているとされる特殊能力は、遠隔視、透視、未来予知、そして先行透視……。
いずれもレベル2以上、特に最初に発現した能力である先行透視は目に映るものの明瞭さ、精緻さだけを言えば既にレベル3に迫る水準にあった。
冬の間に参加した学園都市で行われた能力者育成キャンプでは、翔馬の指導にあたった白衣姿の指導員から、先行透視というのがいわゆる予知とは少し違うというのを教えられていて、予知の場合は観察することによって未来が影響される場合があるが、先行透視はけして影響を及ぼすことがないのだという。
その代わりに未来に介入することもできないのだ、と。
視え方も、予知の場合はイメージ、映像が頭に浮かんでくる、という程度のものだが、先行透視はもっと明瞭で、翔馬の意識だけが未来に跳んで、その場で起きる出来事を予め経験してくる、というもの。
“視る”というよりも、意識跳躍による予体験といえる。
そして翔馬があらかじめ“体験”したものは必ず現実になる、つまりは必然ということだった。
ただ、今も制御不能の力で、それが何時、何処で、どのようにして発現するか彼にはまだわからない。今のところ判明しているのは、ある場所の二十四時間後をその時空に対していかなる干渉もできない形で先行的に体験する、ということ。
ちょうどあの日、食峰操祈たち二人が居たホテルの一室でのできごとを覗き視た時のように。
透視能力についてはキャンプでは過剰に反応されて、その結果として能力を抑えるために鬱陶しいネックレスまでさせられることになり大層、不便を感じることになってしまったが、能力自体は人から疎まれるほどのものではなかった。
例えば女子の連中が懸念していたように、女の子の裸を透視しようと思えばできなくはなかったが、それには一定の距離――せいぜい数メートル程度だろう――で何分間も集中して対象を凝視し続けなければならず、凡そ現実的なものではなかったのだ。
一方、未来予知と遠隔透視は、多少、実用性もあって、関連する何らかの鍵となるアイテムなどがあれば、それを媒介させることである程度、意識的に視る確率をあげることができるようにもなっていた。
たとえば食峰操祈の写真が手許にあれば、それを手がかりにして五回に一度ぐらいは彼女が現在居るところを当てることができるくらいまでに。
こちらの思いが強ければ強いほど確率が増して、より遠くまで見通すことができる感じ。
仮にランダムならかなり正確に遠方の映像を受け取ることができるようだが、どこかもわからない場所を視ることができたとして、それにどれほどの意味があるかはわからなかった。
また予知については、見えたビジョンが現実になる確率は半々くらい。当たるも八卦当らぬも八卦では賭け事などには使えそうもない。しかしもしも悪い未来が見えたとしたらそれを避けるためのモチベーションを持つ契機となり得て、そういう意味では使い出がありそうなのだった。
だが何より、今の翔馬がいちばん能力の成長に期待をかけているのは、記憶共有能力――だった。
それはごく最近になって覚醒した翔馬の最も新しい力で、少しサイコメトリ能力に似ているのかもしれないが、他人の意識や記憶を覗いたり複製したりできるものだ。
それをするには対象との物理的な接触が必要なのだが、上手くすると相手の心のなかにあった情報――即ち記憶――をかなり正確に写し取ることができるのだ。
例えば、こちらが未見の映画を、既に映画を見た対象者の経験をコピーすることで、二時間あまりの情報を、一瞬とまではいかないがそれよりもはるかに短い時間で自身の経験に変えてしまうことができる、といった具合。
何かを学習するなどの際には非常に強力なチートツールとなるに違いなかった。
ただ、あくまでもそれは理想的にはということで、事はそれほど簡単ではない。感覚としては接触した相手の心の中に自分の意識だけがダイブするようなもので、相手の心の大海を漂いながら、獲物を探して竿を下ろして釣り上げるという、まさに何があたるか釣り上げてみるまでは判らないフィッシングだったからだ。
そんなやり方をしていては時間がいくらあっても埒が明かない。
大体、そんなに長く物理的な接触ができる相手は限られるし、短いアプローチででできることはさらに知れていた。
要するに課題は、個人の記憶という膨大な情報から、いかに効率良く必要な情報を吸い上げられるようになるかということ。目指す魚群を見つけたらトロールでごっそり一網打尽、根こそぎにしてしまえるようなやり方をしないことには大した稼ぎにはならないのだ。
もっとレベルを上げないと――。
計画――を、実現するには、少なくともレベル4以上の能力が必要になると思う。
自分にどこまで伸びしろがあるのかはわからない。
ただ、学園都市にはそうなるための手っ取り早い方法もあるらしく、新学期が始まって常盤台に通えるようになったら、まずはその方法の調査に取り掛かろうと思っていた。
そんな折、今日は予期せずとても大きな幸運が舞い込んできたのだ。
あくまでも偶然、どこまでもビギナーズラックのようなものだったのだろうと思うが、
でも、得られた――!
実に素晴らしい“経験”――だった。
それによって翔馬は密森黎太郎に対する憎悪や嫉妬の感情の多くをある意味で昇華することができたのだから。
狙いが上手く運んだのは相手がこちらを知らなかったことと、外部の小学校のランドセルを背負っていたことで無警戒だったこともあったのだろう。
だから今日の午後、家路につく途中の京王線の車内で彼――の姿を見かけた時、さりげなくロングシートの彼の隣に座り、大判のマンガ雑誌を読んでいるふりをしながら相手の指先に自分の手の甲をずっと触れさせてみたのだった。
新宿までの三十分ほどの時間を使って彼の意識にダイブして、可能な限りコピーをしたのだが、得たものの大半は取るに足らないものばかりだった。
たとえば友人たちとのクダらないおしゃべりの記憶や、いつのことか判らない昼食に食べたレストランのハンバーグ定食があまり美味しくなかったこと、試験勉強中のことなのか、かなかな解けずにいた問題に頭を悩ませていたことなど……。
しかし、たったひとつだけ見事な獲物を手に入れることができたのだ。
それを見つけて自分のものにした時の興奮と感動は、きっと彼――密森黎太郎本人が感じたものに比べても優るとも劣らなかっただろう。
翔馬は歓喜と強烈な性衝動で、穿いていた半ズボンに黒っぽい染みが浮いてしまうほど、車内でありながら何度も暴発させてしまっていた。
そしてそれは今も翔馬にとって最も貴重な“経験”となっていた。
“思い出す”だけでなんどでも際限なく蘇り、口中豊かに唾液があふれてくる。
「あんなにいろんな味がするなんて……」
翔馬はまたすっかり怒張したものにティッシュを何枚も巻きつけて、手で慰め始めた。
しょっぱかったりするだけではなく、舌を伸ばして奥へ進むと酸っぱく感じたり、また苦味を感じたりもする場所もあるのだった。
こんなにもいろんな味がするなんてびっくりだった。
どんな蜜よりも甘い、まさに味覚のパラダイスだ。
それに……。
あの人のダイジなところって、あんなニオイがするんだっ――!
あんなにも可愛くて綺麗な女の人なのに、まるで女神さまそのものなのに、でも凄く豊かで強いニオイがするっ!
多分に民族的、遺伝的なものなのかもしれないが食峰操祈の体臭は、きっと濃いタチだったのだろう。
少なくとも早川奈美や藤本絵美梨のものとは違っていた。
絵美梨のものはまだ十二歳ということもあって鋭角的で青い感じだったし、早川奈美のような複雑に熟れた感じとも少し違っている。
食峰操祈のは、もっと多くのいろいろな香りの成分が含まれていて、でも未熟な若々しさもあって、それがまた興味をそそるのだ。
それにトロッとした粘りのある温かい体液の量の多さも、三人の中では飛び抜けていた。
ちょっとしょっぱい味わいが口のなかに溢れてしまいそうなほどたっぷりで、それをあの少年――密森黎太郎――がどれほど好んで歓んでいるかも良くわかったのだった。
舌で尖りを包んだ時のせつない声で許しを請う彼女は、あの人があんなにも頼りなげで可愛い声を発するのかと、愛おしさに胸が痛くなるほど。
その艶やかな記憶の断片は、何度繰り返してもけして倦むことはなかったのだった。その都度、翔馬の体を激しく興奮させていきり立たせずにはおかずにいる。
「ああ……操祈さん……可愛い……」
翔馬はまた左手をせわしなく上下させながら、四回目の精を放った。
多分もうあと数回、これをしておかないと今夜はとても眠れそうにないと思う。
本当に彼女の事を考えると、尽きることなく情熱が沸騰してしまう。
「こんなに綺麗な可愛い顔をして、あんなにスゴいニオイをさせてるなんて、夢中にならずにいる方がむりだよね……操祈さん……」
スマートフォンのディスプレイに、優しく微笑む操祈の写真を表示させて翔馬はひとりごちた。
「あいつの記憶を全てものにできたら、君はもう僕の恋人になったのと同じだよ……だって今でも僕はもう君の体のこと、あいつと同じくらい良く知っているんだから」
操祈が密森黎太郎からもっといろんなことをされているのを翔馬は知っていた。
だから知るべきことはまだまだいっぱいあったが、それでもいつかはみんな自分のものにできる。できるかもしれない。
そう考えると、なんだか胸がわくわくしてくるのだ。
長く憎んでいた密森黎太郎の存在も、邪魔というよりも自分たちの仲を取り持つための装置、とでも考えると気持ちにも余裕が生まれてきていた。
「春になるのが楽しみだな……僕は君の恋人として、君の生徒になるのだから」
翔馬はディスプレイに表示された操祈の気高い鼻筋を指でなぞって
「君は僕のものだ……絶対に逃さない……」
口の端には十二歳の児童には不似合いなV字の笑みが浮かんでた。
誤記の修正をしました
申し訳ありませんでした