ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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ビューティフル・ドリーマー

 

“あ、まただ……この夢……”

 坂下恵美(さかもとめぐみ)は眠りの中にあっても好奇と胸の高鳴りを覚えながら固唾をのんで目を凝らした。

“ああ、きれい……なんてお綺麗なんだろう……”

 視えているのは女の人の裸の胸、とても美しい。

 シミひとつ無いミルクのように真っ白な肌、すごくボリュームがあって肉感たっぷりなのに、誇らしげというよりも果敢(はか)なげな印象さえ抱かせる二つの乳房。桜色の乳暈のひろがりはみごとなまでに艶やかで官能的、くっきりとした輪郭を描いている。それなのに真ん中にある肉芽は羞ずかしそうに頭を覗かせていて、きっとまだ愛撫慣れしていないのだろうとても慎ましげなのだ。

 いまそれは背後から伸びてきた誰かの手――あんな(こわ)いペンダコのある指が女のものであるはずがなかった。異性、男のものだ――の中指の腹に愛しげに頭を撫でられて目覚めを促されていた。

 それは女の子が自分の体を慰めるときよりもデリケートなタッチ、なのに断固とした意思を感じる指の運びで丹念にくすぐったり、瘤のある指の背を渡らせて優しく擦ったりして、可憐な女の乳首を嬲っている。

 やがて指の爪先ほどにもなったそれは愛くるしい肉の尖りもけなげに、色づいた朧暈の中にも小さなツブツブが浮き上がってきて精いっぱいの興奮をうったえているよう。

 さらに男の手は二の腕の内側をじっくり撫であげながら女の両腕を頭の上へと導いて、露わになった腋の下と無防備にされた裸の乳房は、女の自分が見てもドキッとするほど甘くてエロティックなのだった。

 両手にゆっさりと包まれて、豊満な肉を眩しいほどに白く輝かせて深い谷間を作って盛り上がる胸。

 男が背後から顔を覗かせた。銀縁のメガネ、黒い瞳、ややくせ毛の黒い髪。

 やっぱり密森先輩だ――。

 目を細めてうっとりした表情で露わにした女の腋の香りを嗅ぐと、そこにも唇をあてて賛美のキスを送っている。

 すごい――。

 男ってこんなことまでするのっ!?

 彼がもっとずっとイケナイことをしているところを何度も視たことがあったが、少女にとっては腋の下へのキス、そこを舐めるのも予想もしないやり方で、倒錯的で異常なことのように感じてしまう。

 我身に置き換えると、恥ずかしいニオイを男の人に知られるのには強い抵抗があって身が竦むのだ。

 そしてそんなイヤらしいことをされているのは……長い金髪の……顔はまだ見えないがきっと操祈先生だ。

 だって、こんなに美しい体をした女の人を他には知らないから……。

 二人はこれからさらに懸命に、一途に愛を確かめ合うことになるのだろう、そしてそれを自分はまた覗き見ることになる……。

 初めはただの夢の中の出来事、自分の潜在意識が勝手に作り上げた幻想だと思っていたのに――。

 なんといっても自分の力は、せいぜいレベル1を少し超える程度の遠隔視能力で、精度も信頼性もおよそ不十分なものだとの自覚があるからだった。

 夢――を見るのが眠っている時に限られることもあって、それが現実とどこまでリンクしたものかを確かめるのさえ難しい。自身の感覚では的中率はせいぜい半分程度、当たるも八卦当らぬも八卦といったものだと思う。

 だからたまに視えていたものが現実とぴったり重なっていたりすると、かえってびっくりすることがあるくらい。

 でも、この二人のラヴシーンの夢はこれが初めてではなかったのだ。

 過去にも何度も繰り返し現れていた。

 見えるシーンもさまざまで、情事の初めから終わりまでを捉えた長いシークェンスだったり、部分的な短いカットだけのこともある。既にクライマックス寸前の先生が両肘をついて枕に顔を埋めたまま、お尻を高々と突き上げるようにしている姿で“それ”をされているところとか、きっと事後なのだろう一緒にバスタブに浸かって入れ()のようになって仲良く抱き合っている幸せそうな容子とかもあったりして、いろいろだった。

 中には先輩が先生のスカートの中に潜り込んでいく場面もあって、それこそが自分の見ているポルノチックな夢が本当なのではと疑うきっかけになった、あの去年の秋に週刊誌の記事になったものに酷似していた。

 きっと今夜もまた先生はイケナイことをいっぱいされちゃうんだろうな……。

 悪い人だな、密森先輩は……。

 だけどそれも仕方ないことだと思う。

 だって先生はあんなにもお綺麗で愛らしい人だから。

 常盤台に入学して、まず驚いたのは入学式での全教員の紹介で、先生が講堂の壇上に現れた時のことだった。

 豪華なブロンドヘアをさらさらとたなびかせて、一瞬、AIのホログラフィーかと思ったくらい。

 こんなにも美しい女の人が現実に居るなんて!

 生身で操祈先生ほど整った顔を見たことがなかった。

 それが自分たちのように生きて、同じ空気を吸っていることの不思議。

 ところが完璧そのものの見かけに反して当人はすごく気さくで人間的で、大きな目がいつもイタズラっぽい光をたたえているようで、すぐに大好きになったのだった。

 山崎先輩もすごくお綺麗な方だと思うけど、でもやっぱり操祈先生は特別。女の自分でもそうなのだから、男の子たちが夢中になるのも無理はなかった。

 美人で頭が良くて、そしてなによりとっても心やさしい人。いつも(たお)やかな微笑みを浮かべて。

 誰よりもスゴイ人なのに誰とでも分け隔てなく温かく接してくれる。

 なのに、どこか自分たちと同じ女の子の匂いもしていて……。

 大人の女の人でありながら、そこはかとなく漂う少女の雰囲気。

 それはきっと先生が纏った清らな気配の所為だと思う。

 真っ白な肌は無垢そのもので、まるで神秘を体現しているようなのだ。

 よこしまなことを考えるのも憚られるくもりのない清潔感は、安心して憧れることができるものなのだった。

 そんな先生がプライベートでは密森先輩にすっごいエッチなことをされてるなんて!

 初めはとても信じられなかったし、今でも夢の中ではあっても目を疑いたくなる。

 あんなにもステキな女の人があんなふうにされて――。

 もしも自分なら男からアレをされたら、恥ずかしくて死にたくなるかもしれない。

 でも好きな人からだったら、その人のことをたまらないくらい好きになってしまうのかな……?

 二人が本当に愛し合っていること、強い絆で結ばれた恋人たちであることは、少女の中ではもはや動かしようのない事実になっていた。

 だって、見たこともないほどの美しいセックスを視てしまうと、それが到底、自分勝手な想像の産物などとは思えなくなってしまうから。

 ただ事が事であるだけに他人に軽々しく触れ回るわけにもいかず、これまでずっと口を閉ざしていたのだが、ついこの間、うっかりルームメイトの華琳先輩に漏らしてしまいそうになって、それで慌ててオブラートに包んでごまかしたばかりなのだった。

 幸い、華琳先輩からはその後しっかり否定されてむしろ安堵していた。

 

 

「やっぱないわ、ないない、だいたいそんなのありえないって、あの操祈先生が生徒とキスしてる? レイっちと? 冗談にもありっこないし。それにね、週末はレイっち、密森くんは実家に帰っていて学園都市(ここ)には居なかったんだってサ、だからメグちゃんが見たのは、やっぱりただの夢よ」

「ですよね、わたしもそう思います。すみません、変なこと言っちゃったみたいで。だって私の力って、所詮レベル1ですから、きっと最近見た動画か何かのシーンが夢の中に混じったりかなんかしたんだと思います」

「混じったって、あんまり変な動画を見てるんじゃないわよっ、生クリームプレイってなによソレ? あのオクテな先生がそんな変なことしてるワケないじゃないのよっ」

「あ、あれは別の話で、お気に入りのパティシエ動画とごっちゃになっちゃたんだと思いますので、華琳先輩もサクッと忘れちゃってください――」

 

 

 事実、自分の遠隔透視力の及ぶ範囲は、だいたい数百メートルぐらいで過大に見積もっても一キロを超えるようなことは無いと思う。そしてその日、密森先輩が街の外に出ていたのだとしたら“視える”はずはなかった。普段ならただの幻想、気の迷いか妄想の類、とやり過ごす事ができることだ。

 でももしも、先輩が何らかの方法で街に戻ってきていたのだとしたら?

 そして先生のアパートでお泊まりデートをしていたのなら?

 学園都市の城壁は以前のように鉄壁なものではなく、アルマの監視もわりとルーズになってきているという噂も聞こえていた。

 あるいは知っている人については透視できる距離が伸びるのかもしれないし……。

 自分が興味を抱いたり、関心を持ったりすると共感の場のようなものが働いて、次元?――の扉が開きやすくなったりするのかも……。

 確信しているのは、夢で見ていることは今、現実に起きていること。

 その夢の中で彼――密森先輩がまた何か囁いた。声は聞こえない。恵美の力は視えるだけで、音まではカバーしていないからだった。

 視界に現れたのは、やっぱり操祈先生だった。

 先輩からいったい何を求められたものか、頬を朱らめて恥ずかしそうに目を細めて長い睫毛を(しばたた)かせている。でも躊躇いながらも小さく頷いていて、けっして拒んでいるのではないのが伺えるのだった。 

 きっと密森先輩からはまたアレをもちかけられたのに違いない。

 彼がいちばん好むことを。

 華琳先輩にはただ、キス――とだけ口を滑らせてしまったが、あの人がしているのは普通のキスなんかじゃなくて、

 クンニリングス――。

 セックスの時にいちばん時間をかけて取り組むのは、いつもそれだった。

 それは女のコにとって最も恥ずかしいこと、躊躇いのあること。でも内心では興味があって口にはできないけれど心惹かれるこの上なく淫らな愛撫だ。

 自分で触れるだけでもとても感じやすいのに、お口でされるというのだから。

 それも恋人から――。

 どんなにステキな気持ちになれるのだろうかと期待に胸がときめいてしまう。

 だから、生徒たちの中には思い余って女の子同士で試しちゃったりする子も居たりして。

 常盤台はもともとは良家の子女を集めた女子校で、今も容姿に恵まれた子は少なくないし、第一に男の子を相手にするよりもずっとハードルが低くなって冒険しやすいのかもしれない。

 さすがに自分の周りにはまだだとは思うけれど、既に密かに“恋人同士”になっているカップルは、同級生、上級生の別なく全然知らないわけではなかったのだった。

 でも、やっぱり男女でとなるとエッチのレベル感が一気に押し上がるのだ。

 それが美しい女の先生と生徒ということになれば、さらにイケナイこと、禁忌の香りが強くたちのぼる。その分、しびれるような感動があるのだった。

 とりわけ最初に見たときの衝撃は今もはっきり脳裏に焼きついている。

 そのときの先生は、そんなことをけっして望んでなんか居なかったのに……。

 全裸で抱き合っていた彼が体位をずらしていこうとすると、よこしまな企みに気がついたのか身を返して逃れようとしていた。執拗なまでに繰り返される先生の体へのキス。

 これもとってもイヤらしい感じがして片時も目が離せないものなのだった。

 豊かな胸から白く透きとおるようなお腹、わき腹にかけて丹念に唇を這わせていくと、また胸に返ってきて乳首を捉えて悩ませる。それを拒んで先生が背を向けると、今度は背中からふっくらしたお尻を窺うようになって……。

 どこからも攻められて、ベッドの上ではまるで言葉によらない体と体の会話が為されているようだった。女の命を燃やした愛の戦い。

 でも先輩の意思は堅くて、望みを遂げるまでは諦めるつもりなんかなかったのだ。

 やがて――。

 きちんと揃えて閉じていた立膝に先輩の手が掛かって割ろうとしていた。とうとう力なくそれを許す先生。

 しなやかに長い脚を大きく開いて、男の面前に自分のいちばん隠しておきたいところを見せなければいけないなんて、それも教え子の男子生徒を相手になんてどんなに羞ずかしかっただろう、先生の表情から窺えるのは運命に身を投げ出すことへの覚悟と諦めだった。それでも先輩の指がそこを左右に展げようとした時にはとても哀しげでお辛そうで……。

 やわらかな肉の膨らみがぷるんっと爆ぜるように割れて、煌々と降り注ぐ照明の光に隅々までさらされて、見つめる先輩の嬉しそうな顔と先生の不安気に曇る容子とが男と女の立場の違いを映してくっきりとコントラストを描いていた。

 初めて目にする大人の女の人のその部分。

 そこがどのような姿をしているか、もちろん女であれば知らないわけではない。でも、やっぱり先生はそうしたところまで先生らしかったのだ。

 肉厚の深い谷間に隠されていたものが露わになると、まるで多肉植物のような一対の花弁が真ん中にある繊細なフリル――くちゃっと閉ざしているのは先生がまだ乙女であるからかもしれない――を囲むように豪華な花を咲かせていた。

 うっすら蜜を帯びているのか粘膜の肌理もリアルに滑らかな光沢を放っている。フードを目深にしてうなだれているような花芯はまだ小さくとてもつつましげで、絢爛たる花冠の中でそこだけは先生の控えめな性格を映しているように思うのだった。

 あれが……操祈先生の体……。

 あんなふうになってるんだ……。

 学園都市の女神、世界の恋人とまで言われる比類なく美しい人のいちばん秘密の部分。

 きれい――。

 その美の極みを間近にして、先輩の歓喜が伝わって来る。

 それから始まったキスは少女が想像していたものよりもはるかに濃厚で、女にとっては過酷なものなのだった。

 あのいつも穏やかそうな密森先輩があんなに欲が深いなんて……。

 あんなにも先生のことを強く慕っているなんて……。

 先輩がしているのは、もはやキスなどと呼べるようなものではなかったのだ。

 舐めたり吸ったり、しつこいくらいに丁寧にしゃぶったり、そこに顔が寄せられることでできるあらゆることが試みられて、見ている方もハラハラさせられる。

 先生の体の秘密を何もかも知り尽くそうとするように、顔を上げると飴色のヘアをかき分けて、時々の姿を確かめては、またお口を寄せて挑みかかるのだった。

 体を与えてしまってから、その淫らな愛撫の恐ろしさに気づいたように初めのうちしばらくの間は、先生は脚を閉ざそうとしたり、身をよじって逃れようとしたり、先輩の頭をそこから追い出そうと必死に両手をのばしたりするなどして、なお健気に争う姿勢を見せていたが、本気になった男の愛撫にはいつまでも抗えるはずもなくて結局はただ身をもがかせるばかりになっていった。

 息づかいを乱して大きく上下している胸、半ば開かれた口許からは切ない喘ぎがこぼれているのに違いない。白いシーツの上で白い肌を上気させて、まるで淫魔のようになった生徒の繰り出す愛撫に堪えている。

 先輩の舌は当然のように、先生のもう一つのお口にもピタリと貼り付いて長くとどまったりもして、あんなところまでしっかり味をみられて、恥ずかしいニオイを嗅ぎ取られて、先生はいったいどんなお気持ちでいるんだろうかと胸が痛むのだ。

 

 これがそうなのっ!? 想っていたのと全然ちがうじゃないのっ!

 あんなひどいことまでされちゃったら……。

 

 きっと先輩はクサいとかキタないとか微塵も思ったりしないんだろうな――。

 だって、あの操祈先生のなんだもの。

 男なら誰だってみんな自分のものにしてしまいたくなるにちがいなかった。

 先生がウブだからなのか、それとも先輩が女の扱いに慣れているからなのかわからない。おそらくはその両方の理由からだろう、こんな風にしてベッドの上ではいつでも先輩が先生をリードして思いを遂げていた。

 先生にとってどんなに望まない愛撫でも最後に意思を貫くのは先輩の方。

 抗いきれずに許してしまったことを悔いているような姿は、愛する教え子が犯す過ちを自分が堪えることで償おうとしているみたい。

 操祈先生らしいな……。

 そんな凄艶な淫夢のなかで少女は思うのだった。

 これは人のいとなみなんかじゃない、見てはいけない女神の褥、寝乱れた姿なんだと。

 だって人間が演じればおぞましくて醜いことでも、先生の場合には少しもそうはならないから。

 辱められても堕落することなく、白い肌を欲望にくすませることなく、やがて歓びを迎えいれるときも、とても先生らしく静かに切なげに体をわななかせて女の情熱を解き放っていた。

 どんな姿にされても、どんなに恥ずかしい体位になってもイヤらしさや見苦しさがなくて、ため息が出るほど魅力的なのだ。愛を紡ぐ時、女の体はこんなにも美しくなるものなんだっていうことを教えてくれているよう。

 そしてそのことを密森先輩は知っている――。

 二人を見ていて気づいたのは、操祈先生の愛をひきだして、さらに輝かせているのは先輩だったこと。

 雄の本能のままに猛々しい情熱をぶつけてくるような一時のセックスではなくて、長い時間をかけてなされるペッティング、愛撫。女の体を愛することへの情熱は女性的とも言えるような優雅さで、細かなところにまで届く気配りを感じる繊細さは好ましかった。

 彼が惜しみない愛情を注ごうとしているのが伝わってくるのだ。先生のことをどんなに愛しているか、どんなに大切に思っているかを一つ一つの行為にのせているのかが窺える。

 その気持ちが先生に届かないはずがない。

 いちばん敏感なプライバシーに、あんなふうに心のこもったキスをされたら、女の子は……きっと誰だって心が萎えてしまうだろう、彼のことを忘れられなくなってしまうにちがいない……。

 いっぱい可愛がられて、羞ずかしい姿をバッチリ見届けられてしまったら、後にとり残された女にできるのはただ甘えること、男の胸に逃げ込むしかなくなってしまう。

 白い顔を耳まで真っ赤にして先輩の胸にすがりつく先生のなんと愛おしいこと、そしてそれを慰める先輩の手の動きのなんとやさしいこと。

 涙の滲む瞳を懸命にしてアイコンタクトに応える先生は恋する女の子の顔をしていて、もうとても年上にも教師にも見えなかったのだった。

 今だってそう。

 先輩からまた何を言われたのか、拒絶に首をうち振る容子はいたいけな少女の仕草だった。駄々をこねているように見えるのは相手を心から信頼していてすなおに甘えられるからだ。

 長い髪がせつなげに乱れて端正な顔に幾筋もかかるほつれ毛を作っている。

 逆に宥める先輩はとても穏やかで、もうどちらが年上なのか分からない。

 先生の前髪を整えて、ハッとするほど端整な白い顔を表にしながら先輩が耳もとに囁きかけていた。いったい何を説かれているのか、ちょっと怯えの色もちらつく瞳、普段はお茶目にいたずらっぽく笑んでいるようなブラウンの眼差しが、今は憂いを宿して揺れている。

 先輩はきっと懐柔するつもりなのだろう、せつなげに胸を庇っていた先生の両腕を取って背中に縛めると、ふたたび無防備に露わにされた乳房の先をくすぐりはじめた。

 指先の戯れに、羞ずかしげにキュンと身を揉む先生の体は細い鎖骨の窪みが際立って、なんと初々しい魅力に溢れていることか。

 

 

 かわいいっ――!

 だけど密森先輩、どうしてチョコレートなんか持ち出してくるんだろう……?

 

 すぐにも、いつものように愛を確かめ合うのかと思っていたが、今日は少し容子がちがうのだった。

 すっかり裸になっているのに、二人がいるのはベッドでもなく長椅子でもなく絨毯の上だった。

 膝をくずした先生を後ろ抱きにしている密森先輩。

 仲睦まじい恋人たちが身を寄せ合っている姿は微笑ましくも悩ましいもの。

 なのに先生は困惑している容子。

 どうやらまた先輩から、しきりに何か良からぬことをもちかけられているらしい。

 そして操祈先生がこんな顔をする時は、その後にはとても正視できないくらいのすっごくエッチなことをされていた。

 生クリームをつかったときもそうなのだった。

 お風呂場に連れて行かれて、そこで乳房の先や股間にクリームをたっぷり盛られて……。

 ああ、ひどい――。

 自分は夢うつつでところどころ意識が跳んでしまって全てを見ていたわけではなかったが、気がつくと二人が真夜中を過ぎて外が白み始めるようになってもまだ浴室に居たことから、先生への陵辱は延々と続いていたのに違いなかったのだ。

 ほとんど空になった生クリームのチューブと、精も根も尽き果てたようにぐったりしていた先生の肌が、全身、脂の皮膜で覆われていたようにテラテラと妖しく輝いていたのが思い出された。

 桜の花びらのような赤い湿疹――キスマークにちがいない――を身体中に散らして。

 あれは、つい三週間前の週末のこと。

 そして今夜はバレンタインナイト。

 女の子が大好きな人に思いにのせてチョコレートを贈る日だ。

 だからなのか、密森先輩の片手にはチョコレートが二つ載せられている。けれどもそれを前に先生は、恨みとも諦めともつかない哀愁のにじむ表情をされている。

 先輩の掌にあるのは一つは焦げ茶色のビターチョコレートで、もう一つはホワイトチョコだった。白い方が大きくて、どちらも縦長の椎の実の形をしている。

 チョコレート自体は特に珍しくもないごくありふれたもので、特別なデコレーションをされているわけでも、凝った加工がなれているわけでもない。

 つるんとしたデザインは

 なんだか、まるで生理用品かなにかみたい――。

 と、なにげなく思った途端、どんなにひどいプロポーズがなされたのか少女にも想像がついてしまったのだった。

 

 ウソっ、まさか、そんなことを先生にっ!?

 ……せっかくのチョコレートをそんなふうにしてしまったら……。

 あんまりよ……密森先輩……。

 ……先生がかわいそう……。

 

 でも好奇心の方が上回ってしまう。本当に先生の身にそんなにもひどいことが起きてしまうのか……?

 先輩は空いている方の手で重たげな乳房を愛おしそうに撫でてあやしながら、脇腹や腰のあたりにも淫らな感じのボディキスを重ねてためらう先生を誘っていた。

 慣れた感じの動きで白い肌をさする手がスルスルと体の前を這い降りていくと、諦めたのか操祈先生がそれまでお行儀よく揃えていた膝をわずかに緩めるのが見てとれるのだった。

 すかさず先輩の手が太腿にかかって更に股を割って大きく広げようとする。後ろから抱き上げるようにして足を絡めてきて、先生の長い両脚はあっと思う間も無く、グイッとあられもない形にまで開かれてしまった。

 腕の中の愛しい獲物を思いどおりにして、先輩は満足そうにストレートヘアのブロンドの頭を撫でている。そうしながらまたいくつか言葉を投げかけているらしい。

 一方、先生は無言で、くっきりと長い伏せた睫毛が悩ましげだった。

 疲れた容子で二度、三度と頷いていたが、その間も先輩の手は休みなく白い肌のあちこちを撫で(さす)っては先生の体への愛着を伝えていて、それは絡みつかれた男の足の(いまし)めに閉じることを許されなくなった股間にも及んだのだった。

 飴色のふんわりとした草むらの下に、面相筆で描かれたような一本の可憐なラインが覗いていて、少女の目が惹き付けられる。そこを男の指先がゆっくりとなぞるように上下していて、その痛々しいほどの白い唇は、今はまだひっそりと口を閉ざしているが、じきにいろんなことをされてかきみだされる運命にあるのだった。

 先生はもう拒めない――。

 これまでだってそうだった。

 先輩からどんなにひどいことを求められても、最後には受け容れさせられていた。

 でも……。

 ひどいことって――。

 本当にそうなのかな……。

 愛に溢れた辱めは無上の性の歓びと紙一重なのかもしれない。

 ただ体を重ねるだけなら動物と変わらないし……。

 こんなに素敵なセックスを、すごーいセックスをする男女は、他に見たことがなかった。

 淫らで、そして哀しいくらいに美しくて……。

 それは操祈先生がすごく綺麗な女の人だからというのもあるけれど、先生の官能美を際だたせているのは先輩の貪欲さによる面もあるのだ。

 どんなにイケナイことでも躊躇わずにできるのは、先生のことをとても愛していて尊敬しているからだ。

 ホラ、またエッチなことして先生を悩ませてるしっ――。

 先輩が濡れた指先の匂いを嗅いで幸せそうな笑顔を向けていた。何かを言われたらしい先生の顔がたちまち朱に染まっていく。

 ダメですよっ、男の人が女の子にそんなことしちゃ、恥をかかせるのはマナー違反のダメダメですっ!

 でも羞じらいながらも先生も仕方なさそうに微笑んでいるのだ。

 本当に仲良しなんだな……お二人は……。

 操祈先生も密森先輩のことを深く愛している。だからどんなに惨いと思われることでも彼のことを信じて身をまかせられるのだろう。

 男の両手が女のメリハリもみごとな体の線をなぞりながら下方へと撫で降りていった。

 開かれた左右の内腿から扇の要へと攻め寄られ、二つの手勢が一つになって操祈の体がクンっと(しな)る。先生も身を守ろうとする女の本能から両手を伸ばして、先輩の手を抑えようとしていた。が、すぐに両腕を背後へと縛められてまた無防備にさせられてしまうのだ。

 今度ははっきりとした意思を持った男の手に迫られて、固唾をのむような懸命な表情が痛々しかった。

 ついには是非もなくそこが菱に展かれて……。

 きゃあっ――!

 先生、スゴいっ!

 いま再び開花の時を迎えた美しき女教師の艶姿を、少女は期待に胸をときめかせて見守り続けるのだった。

 

 

 

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