ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
「行っちゃうのぉ……?」
ベッドサイドに座る裸の背中に気づいて操祈はまどろむ瞳を凝らして言った。
「うん、誰かが起きる前に寮に戻らないと……」
今週末は入試の結果が出た最初の日曜日ということで、レイは友人たちと相模湖にまで足を伸ばしてボート釣りをすることになっていると言っていたが、それがとても恨めしい。
いつものように帰省していたことにしてゆっくりしてくれたらいいのにと思ってしまう。
「行かないでぇ……」
声を甘くしてわがままを言いながら、ころんと身を返して恋人の背中に手を伸ばし、指先でツンツンする。
ほっそりと長くしなやかな二の腕とベッドの間に挟まれて豊満な乳房が二つ、はちきれんばかりに白い肉を輝かせている。乳先はまだ慎ましげに乳暈の真ん中で身を竦めているが、薄紅色の広がりはみごとなまでに官能的で、清潔感のある白皙の美貌とのコントラストを描いていた。
操祈本人にはいささか自覚に乏しかったが、その自然なエロティシズムは牡の目と心をどれほど楽しませ誘惑するものであったことだろう、未だ女を知らない少年の股間は固く勃起している。
「ボクだって行きたくないけど……ずっとここに居たいんだけど……」
「バレンタインデートの翌日にぃ、女のコを独りにするなんてぇ……お出かけするならあたしも一緒に連れて行きなさいよぉ」
振り返ってこちらを見る少年の顔が済まなそうに見えて、その大人びた雰囲気にちょっと駄々をこねて困らせてみたくなったのだった。
「それもいいかもしれませんけど……でも真冬のボート釣りは寒いしけっこうキツいですよ……先生にはどうかな……」
「それならわざわざ釣りになんて行かなくてもいいのにぃ、お魚さんならスーパーに行けば買えるんだしぃ」
口にしてから、さすがに自分でも無理スジだと思うが、レイが当惑しているのをみるとつい悪のりしたくなる。
「あたし、今日はレイくんの作ったチャーハンが食べたいんだゾ」
「そんな我がまま言わないでください」
「いいもん、あたし、独りになったら何も食べないんだからぁ、餓死しても知らないわよぉ」
髪をかき分けるしぐさも、指をくわえて拗ねたような物言いも無意識に婀娜っぽくなっていた。肌を許した男へ向けての精一杯の
「困ったなぁ……本当はボクだって先生と一緒に居たいんだけど……でも仕方ないじゃないですか、聞き分けてくれませんか?」
少年は訥々とまた事情を説明しはじめた。
自分が釣り研究会のユーレイ部員であること、企画はひと月も前からあったもので、よほどの悪天候等でもない限りひとりだけドタキャンはできないことなど。
ちなみに二月十五日の首都圏は天気晴朗と予想されていた。
「こうなると判ってたら予定を変えられたんだけど、当日に変更するのはさすがにできないので……ごめんなさい……代わりに埋め合わせは必ずしますので……」
年増女のおふざけにつきあって、なんてやさしい笑顔を向けてくれるのかしら、と胸がキュンとなる。
「先生のご飯はいまから用意しますから、つくりおきするってところで手打ちにしてもらえませんか?」
ベッドから立上がりかけた少年の手を慌てて取って引き留めた。
「ウソよウソ、ごめんなさい、いいの、もう行って、あたしは大丈夫だから」
そのままにすると本当にレイは今からお料理をしかねなかったのだ。少年のギャラントリーは常にまっすぐこちらに向けられていて、自分にはそんな値打ちがあるとも思えない操祈にすれば気詰まりを感じるほど一途なのだった。
「おひとりだからっていいかげんにしないで、ちゃんとしたものを食べてくださいね」
「うん……」
頭を撫でられて、頬や首筋をやさしく愛撫されて……。
「手抜きしてインスタントや冷凍食品ばっかり食べてちゃダメですよ」
諭される。
「わかってるわよぉ、そのくらいぃ……子供扱いしないでちょうだい……」
年下の教え子には違いなかったが、老成した物言いをされると気持ちの方がもたれかかりたくなってもしまうのだ。声音のトーンがおきゃんな女のコのものになっている。
「ボク、今夜もまたお伺いしてもいいでしょうか?」
「……っ?!……」
「ダメ……ですか?」
レイの提案は想定外で、そして一瞬で黄昏れかけた気分を湧き立たせてくれるものでもあるのだった。
「来てくれるのっ!?」
「だいぶ遅くになると思いますけど……1時過ぎぐらいに……やっぱり遅すぎますか?」
「ううん、いいのっ、来てっ、あたしはちっともかまわないからぁっ」
逢えると思うと心は踊る。
「ボクはいつだって先生と一緒に居たいんです」
「あたしもよ……」
「だって……ここは天国だから……」
立上がったレイの腰の物が猛々しく屹立したままであるのに気づいて目を奪われてしまう。少年は自分を慰めるようにその分身を片手で軽くしごいて切っ先を際だたせると、身を長らえたままの操祈にまた覆いかぶさってきた。
体にかかっていた毛布を剥ぎ取られて、白い裸身をすっかり露わにされて操祈は再び恋人の腕の中に捕われてしまった。
「……天国にあるもの全てがここにあるから……」
抱きすくめられ、欲望と愛情を感じる手に全身を撫でられて歓びに慄える。女の体を知悉する男の愛撫のなんと心地の良いことか。
くすぐったくも感じやすい脇腹をさすり豊かな乳房を掌に包むと、やわやわとあやしながら指に捉えられてたちまち目覚めてしまう乳先。すぐに口を寄せられて舌の上で転がされて、操祈は身を反らせて甘い刺戟に堪えるのだった。
口づけ。
チョコレートの香りのする彼の口元。甘く香ばしい薫りに隠れて、それよりもずっと危険な臭いがしていて、それは彼女を当惑させる一方で情熱をかきたてるものでもあった。
彼の望むままにスイーツにされてしまった夜。
最後には自ら進んで、彼の面前に大きく脚を開いて自分からチョコレートキャンディーになることを選んでいた。
なんてひどいこと、いけないことをしてしまったんだろうと思うが、もう悔いも後ろめたさもなく、ただ純粋に愛し合った感動の記憶として心と体に刻まれている。
二人だけの、二人にしかできないやりかたで愛を確かめあったのだから……。
それは誓いの契りであり、絆をたしかめあうための神聖な儀式のようでもあった。
男と女が互いの違いをこえて、どこまで認め合い許しあえるものなのかという冒険。
セックスは愛情の表れであり愛の深さによって性の姿もかわる。
操祈が選んだ恋は、とても密やかでそしてどこまでも情熱的なものなのだった。
自分がこんな恋をするなんて、こんなにも身も心も焦がすような恋ができるなんて……。
レイと巡り逢う前には想像もつかなかったこと。
男によって女の運命は変わる――。
彼がそれを文字通り手取り足取り教えてくれたのだ。
どんな相手とどのようなセックスをするか、ということは女にとって一生を左右する大事なのだということを。
そして女の命とは愛そのものであることを。
だから、後悔なんてもう微塵もなかった。
これでいい……否、これがいちばんいいこと、欲しかったことなのだと信じられる。
神さまから与えられた宝物を大切にしなければ、という感謝と決意。
「ここは天国なんだ……だから先生は女神さまに違いないんだ……ボクの、ボクだけの女神さま……」
「じゃあレイくん、あなたも神さまなのね……」
「ボクはただの凡夫ですよ……天上に迷い込んだ小さな魂に過ぎません……女神さまから愛情と慈悲を欲しがるばかりの……」
組み敷かれて真剣で懸命な眼差しが注がれている。
黒い瞳。
やさしいのに強く、繊細なのに逞しい。
控えめなのに大胆で、沈着なのに情熱的。
そしてなにより、つねにこちらのことを第一に大切にしてくれる。
こんな男の子……男の人が居たなんて……。
「先生……クンニリングスをしてもいいですか?……アニリングスも……」
上になった彼から訊かれて、操祈は大きな瞳をさらに驚きに大きくした。
刹那、どうしてそんなことを言うんだろう、と思う。
いつでも好きな時に思い通りにしてきた彼が、あらたまって同意を求めてくるなんて……。
でも、それが彼のロイヤリティの示し方だったのだ。
彼はけして無理を通そうとはしなかったからだ。どんな時にも決定権は操祈が握っていて、レイはそれに服する形を墨守している。
こちらが承諾するまで何度も何度も倦まずに問いかけはしても、否、という間はけして則を越えることなく尊重してくれる。
ついさっきまであんなにも深く愛してくれたのに、今もその一線だけは譲らずに蔑ろにしようとしない姿勢がレイらしくて好ましかった。
「また……?」
「うん、股に」
「もうっ、すぐそんなこと言ってぇ……レイくん、エッチなんだからぁ……」
「イヤですか?」
「本気、なのぉ……?」
「うん――」
「……だって……あんなにいっぱい愛してくれたのに……愛してくれたばっかりなのに……」
「でもボクには全然足りないな……いつだって先生のにおいが欲しい……キミのにおいが大好きだから……」
深く愛された後でこんな言葉をかけられたら、女には他にどんな逃げ道があるというのだろうか。その上、自分に注がれる愛情と思いやり、敬意は言葉以上に確かなものだった。そのことを肌と体とがよく知っている。
「いいわ……」
操祈は恥じらいを含んだ微笑みで同意を与えた。
真剣な顔つきをしていた少年が、その一瞬でとても幸せそうな顔になって操祈も満たされた気持ちになる。
でも枕をお尻の下にあてがわれて腰の位置を高くされてしまうと、やっぱり恥ずかしい。なにもかも剥き出しにされて全てを見られてしまう形、これまでにも幾度も求められ演じさせられたことのある大胆な体位のひとつ。
「愛してる……」
口づけが落ちてきて目を閉じた。赧らんだ瞼に長いまつ毛が羞恥の影を宿している。気高く整った鼻筋、慎ましく結ばれた口元。
ブロンドの髪がシーツの上に拡がって煌めいた。豪華な美貌、それなのに柔らかな面ざしは愛くるしさを際立たせることはあっても損なうようなことはけしてなかったのだった。
さながら褥に身を横たえて、人の世の穢れを身に受けることを決意した悩ましげな女神のように――。
実際、いまの彼女は自身のもっとも密やかな部分を男の子に舐りとられている。
展げられて、密やかな粘膜がひんやりとした外気にさらされて、彼の視線はほとんど物理的な力を持っているようで、愛撫と同じように甘くくすぐったくて反応してしまうのだ。
「先生は美しいな……どんなお花だって、キミの“二つ”のお花の優美さに比べたら遠く及ばない……うん、においもすばらしい……」
まだ書きかけの中途です
ただ二ヶ月も放っておくこともできず
急ごしらえのアップになってしまったこと
ご容赦を