ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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朝の戯れ

 

          ⅩⅥ

 

 目覚めたとき、微睡む瞳に見知らぬ天井が映って操祈は刹那、

 ここはどこ――?

 と、首を傾げた。不思議そうに薄目をぱちくりさせる。気づいた所がいつもの自室ではなかったからだった。だからといって即座に身の危険を感じたわけでもない。

 頭のスイッチが入るまで、ベッドの上で白い天井のウォールライトをぼんやり眺めていた。

“そうか……あたし、紅音さんのペントハウスに来ていたんだっけ……”

 同時に自分が何も身に纏っていないことを思い出して、このうえもなく甘美な夜の記憶が甦ってきて操祈は顔を朱くする。

 心やさしい恋人に手取り足取りされて、身も心もすみずみまで深く愛されて、歓びの夢の中で遊び疲れた子供のように眠りに堕ちていたのだった。

 愛情深く無慈悲な少年は、けっして手抜かりをすることなく、手加減もなく男の愛を教えてくれたのだ。涙を流すと慰められ、歓びをうったえるとさらなる歓びへと導かれていった。

 女の体に運命(さだ)めというものを思い知らせようとするように、一途に、懸命に。

 気がついた時には、操祈はまるで恋の魔法をかけられたようになっていて、いま思い出すと、どうしてあんなことをしちゃったんだろう、と羞恥に身を揉むような大胆なことにまで挑んでしまっていたのだった。

“……わたし……どうしよう……あんなひどいこと……もう、あの子の顔がみられなくなっちゃったわ……”

 操祈はベッドにころん、とうつ伏せになって顔を埋めて羞恥に堪える。満たされた女の頬笑みをつくりながら。

 だから――。

 いま傍らに、自分に魔法をかけた悪い魔法使いが居てくれないことが不満なのだ。

「レイくん……」

 呟くように愛する人の名を呼んでみる。

“どこいっちゃったのかな……”

 化粧室かな、と思って耳を澄ますが、ドレッシングルームからは人の気配は感じられなかった。

“いま、何時だろう……?”

 見回しても、広いベッドの上には何もなかった。毛布も枕もベッドの足元の方で落っこちたままになっている。

 部屋の一隅に置かれた書き物机の上に置き時計があるのが見えたが、操祈の居るところからは文字盤までは読めなかった。

 寝室の壁面照明は時間に連動するように調整してあるらしく、部屋の明るさからみても、もうとっくに夜が開けているのはわかったが、いまの操祈は午前なのか午後なのかもわからないくらい時間の感覚が麻痺していた。

 そうなってしまうほど濃密な時を過ごしていたからだった。

 目が覚めては時を惜しんで愛しあい、歓喜のなか心地よい疲労を感じては再び眠りに落ちる、こうしたことを一夜の間に何度となく繰り返していたように思う。

 それなのに、愛を育んだ相手の少年はなかなか戻ってきてはくれなかったのだ。

“もう、どこいっちゃったのよぉ、女のコをひとりにして……”

「レイくんっ――」

 今度は声を少し大きくして恋人を呼んだ。

 するとすぐ、寝室の扉の外にタッタッタッタと駆け寄る足音がして、ドアがノックされた。

 操祈は「はい――」と返事をしてから、自分が全裸でいることを思い出して身を覆うものを探したが、手の届くところにはなにもなくてベッドの上で半身を起こすと膝を揃え、両腕をまわして胸を庇った。

「先生、お目覚めですか?」

 ドアが薄めに開いてレイが顔を覗かせる。

「うん……」

「あれ、先生、どちらに居られるんですか?」

「ここよ」

「おかしいなぁ……声はすれども姿は見えじ……操祈先生……」

 どんなに情を重ねても“彼”は律儀に今も折り目正しく敬称をつけて彼女を呼んでいた。それが他人行儀というよりも、少年らしい崇敬の示し方であり、大切にされていると感じられて操祈は嫌ではなかった。

「ベッドの上よ、見えないの?」

 寝室に入ってきた少年は既に腹を着ていて、キッチンにでも居たのか制服の長袖のワイシャツを両腕の肘のあたりまで捲り上げている。

「え……ベッドの上ですか……?」

 なおも少年は視線を彷徨わせ、あらぬ方を見ていて、操祈は自分の周りを見回して真っ白いシーツの上に居るのに気づくと、ようやくレイがふざけている理由を察したのだった。

 そっちがそうくるなら、こっちだって――と、

 操祈は、エイっ、とばかりにベッドに仰向けに横たわる。明るい部屋で全身を晒すのは恥ずかしかったが、そんな大胆な振舞ができるくらいに恋人を信頼していて、そうなれる自分が嬉しくもあった。

「おや、子猫ちゃんが居る……どこから迷いこんできたのかな……?」

 ベッドの脇に腰を下ろした少年は、操祈の股間に視線を落としてそう言った。

 飴色のヘアは睦みあった証として毛羽立ち、かき乱されていたが、少年はそこに手を伸ばすと、指先でくすぐるようにして毛並みを整えはじめる。愛情といたわりを感じる指の動きに操祈は目を細め、されるままになっていた。

「いい子だね……とっても可愛いよ……」

 操祈のデリケートな毛並みをくすぐり、あやしていたが、やがて本当に子猫を愛撫するように、やさしいキスの雨を振らしてくるのだ。しっかりにおいを嗅ぎとられて、また操祈の股間がうずきはじめた。

 愛撫を覚えている体は、ちょっとしたきっかけですぐに自然に熱を帯び始めてしまうのだった。

「レイくん……ダメよ……」

 たちまち薄桃色に上気した体がベッドの上でくっきりとなって、負けきった無防備な姿を見せつけている。

「あ、先生、こんなところに居られたんですか……」

 なんて空々しいと思いながら、操祈はすなおに「うん」と、応えた。

「よくお休みになられましたか?」

「ぐっすり……レイくんこそ、どこ行ってたのよぉ」

「先生がお休みだったので、お昼の用意をしていたんです」

「お昼――? もうそんな時間なの……」

「まだちょっと早いですけどね……」

「今、何時?」

 操祈の言葉には蜜が含まれていて、男への甘えを隠さずにいた。もうどちらが年上なのかわからなくなっている。

「もうすぐ11時になりますよ」

「ずいぶん朝寝坊しちゃったのね……」

 身を起こすと、まだ眠り足りない子供がするように両手の人指しゆびの関節で目を擦った。

「可愛いな……操祈先生は……」

 操祈は無自覚にそうしていたのだが、幼い仕草と豊満な胸のいただきを飾る乳暈の成熟ぶりがアンバランスで、新鮮なセックスアピールをふりまいているのだった。

 唇を求められて自然に口づけを交わす。

 彼の手が髪のほつれを整えながらさすっていて、大好きな人から頭を撫でられるのがこんなにも嬉しいものだなんて……と、操祈は胸を熱くしながら思うのだった。

 少年は間近で彼女の顔を見つめていて、その包み込むようなやさしい眼差しに、不意に涙腺がゆるみそうになって男の胸に顔を埋めて甘える。

「ねぇレイくん、あなたはちゃんと眠れたの?」

「眠るなんてもったいなくて……ずっと先生の寝顔を見ていたから……」

「……ダメじゃない……そんなことしてたら、体をこわしちゃう……」

「平気です……それより先生はお食事にされますか? それともその前にお風呂に入られますか?」

「そうね……お風呂にしようかな……」

「ボクがいっぱい汚しちゃったから……先生のこのきれいな体を……ごめんなさい……」

「汚されたなんてちっとも思ってないわよ……大切にされたんだってお姉さんにはちゃんとわかってるんだゾ……」

 操祈がそう言うと少年は回した腕に力を込めてきてぎゅっと抱きすくめられる。操祈の胸が熱く高鳴った。

「……大好きよ、あなたのことが……レイくん……愛してるわ……」

 恋人の手が操祈の頭から背中にかけて愛撫の範囲を拡げていた。

 ただ触れられるだけで女の肌が歓びに目覚めていくのがはっきりとわかるのだ。女にとって大好きな人から愛されるということがどんなに幸せなことなのかを操祈は全身でかみしめていた。

「先生……」

「なぁに……」

「ボクもいっしょに、お風呂に入ってもいいですか?」

 訊かれた操祈は男の胸の中で顔を上げると瞳を大きくして愛する人を見つめた。

 どうしようかなと、少しだけ迷って、

「うんっ」

 笑顔になってこっくり頷くのだった。

 

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