ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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ノーウェイアウト

 

          Ⅱ

 

 午後四時過ぎ――。

 今、レイは常盤台中学からほど近くにある生徒御用達の喫茶店の、窓際の奥のテーブル席に座って紅音と向かい合っていた。もちろんいちばん奥の上座には紅音が納まっている。

 ゆったりとした店内にはレイたちの他にも女子だけのグループやら、男女のカップルやらが数組居て、それぞれ楽しげに過ごしているようだった。

 確かにうわべだけを見れば、レイと紅音もたしかに男女、仲睦まじくデートをしているように見えるのかもしれない。

 『ふわふわスフレケーキに二種類のチョコレートアイスクリームと可愛いいちごのワルツ』と『ストロベリーとラズベリーとクランベリーの三種のアイスクリームに季節のフルーツデコレーションパフェ』などというとってもメルヘンなスイーツを額を寄せ合うようにして食べているのだから、他の席にいるマジもんの連中――頭の中があま~いクリームでいっぱいのカップル――がしていることとさほど違いはなかったのだ。

 だがもしもレイが他人から、クラスメートの可愛い女の子と二人、デートは楽しいか? などとイヤミたっぷりに問われれば、楽しいってのはそりゃ言い過ぎかも、と応じたい気分でもあるのだった。

 実のところ言葉にこそしなかったがパフェぐらいで懐柔されてなるものか、と思っていたのだ。

 これまでであれば、今の時間はたいてい将棋部か釣り研究会の部室でコースケやヤっさんらと楽しくトランプなどに興じているか、部屋でサクッと宿題を片付けてからルームメイトのヒサオとゲームをしていたりするなど、有意義に過ごしていたはずなのだが、碌でもない役を仰せつかったがために、このところ放課後の自由時間はほぼ失われていた。

 今日も授業が終わった後は空き教室で独り居残って、生徒会の一大方針である歳費削減――クラブ活動費などの年次予算の大幅な見直し――のため、各クラブ、同好会が提出してきた上半期会計報告書の中味についての総点検を行っていた、もとい、行わされていた、のだ。

 レイにしてみれば、え、コレ、ボクがするのっ――!?

 と言いたくなるようなドブさらい、汚れ仕事だった。

 魔法使いや超能力者は居ても、予算を削られて歓ぶヤツなんてこの世のどこに居るっ!

 大切な予算を削った張本人がレイだと分れば、みな顔を真っ赤っかにして自分のところに押し寄せてくるのは必至なのだ。

 どこからみても憎まれ役、貧乏籤もいいところだった。

 生徒会にしてみれば、めんどうな苦情処理担当をいつでも代わりの利く――毒にも薬にもならず、悪目立ちもしないうってつけの尻尾切られ役――“男子生徒”に押しつけて生徒会の外部に置くことが出来たのだから、一石二鳥、いや、三鳥、四鳥の妙手だった。

 会長に言われて仕方なく――という言い訳が通じるほどこの世の中は甘くない。

 皺寄せは常に弱いところに集中する。これは力学の原理でもあった。もはや法則と言ってもいいほどの人間社会の必然なのだ。

 罵声の火だるまぐらいで済めばいいが、血気盛んな運動部の連中から血だるまにされるのだけはゴメンこうむる、というのが今のレイの正直な気持ちだった。

 身の安全保障を生徒会がどう担保してくれるか、それが彼にとっての喫緊の関心事項なのだった。

 だが――。

 紅音がきり出した話はレイにとって予想もしていないものだった。

「密森くんと操祈先生の話がしたかったの――」

 虚を突かれ、一瞬、言葉を奪われていた。

「先生がどうかしたの?」

 紅音は眼鏡を外すとレイの顔を見つめた。

「あなたが動揺するなんて珍しいわね」

「動揺? どうしてボクが? 栃織さんが何を言いたいのかわからないよ。今日はボクが今やらされている仕事のこと、今後の方針や見通しについて説明してくれるものだとばかり思っていたんだけど」

「ねー密森くん、いつまでそんなネコを被っているつもり?」

「ネコを被る? いったい何の話?」

「人畜無害のお人好しの優等生、おとなしくてもの静かなジェントルマンで男子からも女子からも気のおけない仲間だって思われてる……実際、誰に対しても(あた)りはやわらかいし、優しいから女子の間でも評価の高いイイ人、だから誰も密森くん、あなたのことを警戒なんかしないし、恐れたりもしない……実際、私もずっとそう思っていたぐらいだから……」

「栃織さん、きみは何が言いたいの……?」

「ほら、もう仮面が剥がれかけてる……」

 レイは相手の目をじっと見つめていた。操祈以外の相手にはしたことのないことを、紅音に対してもやってしまっていたのだった。

「でも、本性は学園最強の肉食動物……というのとはちょっと違うのかもしれないけど、見かけと中味はかなり違うわね……もっとも、ちっとも怖いとは思わないけど、でも手強いとは思ってる……」

 少女は顔を寄せると、囁くようにして言った。

「だって、あの操祈先生を口説き落としたくらいなんだから……」

「ボクが操祈先生を口説いた? 冗談を言わないでよ紅音さん、さすがに荒唐無稽すぎて話についていけないよ」

「口説いたんじゃないわ、口説き落としたのよ……みんなの憧れの、あの学園都市の女神さまをね……いったいどんな魔法を使ったのか教えて欲しいくらいのミステリー」

「栃織さんは勘違いをしてるんじゃないの? ドラマの見過ぎかなにかかな?」

「心配しなくてもいいわ、私、このことは誰にも話していないし、話すつもりもないから……まだ誰も気がついてないし……」

「話したところできみの妄想につきあう人は居ないと思うよ。ボクでも信じられないから……そりゃそうなったらステキだなとは思うけどね……」

 紅音は薄く笑って、刹那、レイは背筋がヒヤッとする。

「警戒、疑念、不安、不審……」

「……?……」

「今の密森くんの心の動きよ、今、赤黒いスパイクが出た……これは怒りの衝動ね……」

「ボクの心を読んでいるの?」

 このとき初めてレイは、自分の劣勢に気づいたのだった。

「ムダよ、ガードしてもムダ。あの元メンタルアウトの操祈先生にもできなかったことが、レベルゼロのあなたにできるワケがないでしょ」

「でもきみはテレパスといってもたかだかレベル1……高い精度で人の心を読むことなんてできないはずなんだけど。勝手にノイズをつないでおかしな物語を作っちゃったんじゃないのかな?」

「そうかもしれないわね……」

 少女はまた、レイがギョッとなるような冷たい笑顔を向けていた。勝者の頬笑み、絶対に有利なポジションを取った側の嗜虐性を含んだ愉悦の表情だった。

「じゃあ、いまから操祈先生に電話してみましょうか? 密森くんとデートの約束ができそうなんですがいつにしますか? って」

 言うなり、紅音はスマートフォンを取り出すとレイの目の前で操祈に電話を掛けはじめたのだ。

 送信音が幾つか鳴って、やがて通話が始まった。

「あの、操祈先生ですか……栃織紅音です……お忙しいところ申し訳ありません、実は例の件で今、彼と話をしているんですけれど……」

 二人の間での他愛もない会話だったが、そばで聞き耳をたてているレイの顔色は驚きの為にみるまに白茶けていった。

「いまお忙しいらしいので、一時間後に先生の方からまた電話をかけてくださるって……だって、こんな話、まわりに人が居るところではできないでしょ? じゃあ私たちも、そろそろお店を出ることにしましょうか」

 




読みにくい箇所があって微修正をしました
申し訳ありませんでした
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