ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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本日2度目の投稿になります

ドラマを進めたかったので・・・


怪文書

          ⅩⅪ

 

「どうしたの、なんかあったの?」

 室内を見たとたん、人の数の多さと沈鬱な空気にレイは目を丸くしていた。

 その理由はわかっていたのだが――。

 夏上康祐から至急の呼び出しを受けたレイは、ルームメイトのヒサオとのゲームを切り上げて康祐の部屋にやってきたのだった。室内には既にコースケの他にゆうちゃん、純平、ヤっさん、マコトのいつものメンツの他に、それぞれのルームメイトの一年生も三名ほど来て居て、男子寮の狭い室内は晩秋にもかかわらず男くさい熱気がこもっていた。

「みんなどうしたの、そんな不景気な顔して……」

 訊いてもしばらくの間、誰からも返事は戻ってはこなかった。

「あーあ、俺、もう生きていく気力、無くなったかもな……」

 床にへたっていたコースケが虚ろな顔を上げると、それをきっかけにしたように、「死にたい……」といううめき声があちこちからあがるのだった。

「みんな……なんで急にそんなこと……」

 昨日の夜はミスコンで操祈がとうとう二十位以内に入ったと判って、全員、報われた努力に快哉(かいさい)を上げていたのだが、今夜はうってかわって意気消沈、みんなこの世の終わりのような顔をしていた。

「それ、見てみろよ、そうすりゃすぐにオマエも俺らみたくなるから……」

 コースケはみんなが囲む床の真ん中に置かれた雑誌を大儀そうに顎でしゃくった。

 そこには騒動の発端、週刊センテンスプリンの最新号があった。

 問題となるその内容については、その日の午後に紅音からの報せを受けてレイも確認していて、いくばくかの衝撃を受けたのだが、それは友人たちが受けたものとは違う種類のショックだった。

 レイは初見のフリをして件の雑誌に手を伸ばすと怪訝そうにページをパラパラさせる。

「これがどうしたの……?」

 友を裏切るようで後ろめたかったが、韜晦(とうかい)に努めた。

「袋とじの記事、見てみな」

「袋とじ……?」

 袋とじの方は既に破ってあり、中味の確認がされていたが、レイはひとまず記事の方を開いた。

 そこには――。

 

『衝撃!! 学園都市屈指の名門校の超美人教師のマル秘×××ペロチュー画像流出かっ?!』

 

 という例によって低俗ゴシップ誌に特有の扇情的なタイトルが大見出しで打たれていた。大活字に掛かる吹出しには、わざわざ“ミスコンクイーン有力候補”とまで書かれて、ひと目を惹くようになっている。見開き記事の右ページには、目許に黒海苔が貼られていても彼女を知っている人であれば誰でも、食蜂操祈、と判る若い女性の網点写真が大きく掲載されていて、左側のページにも同様に目許を隠したビキニのバストショットと全身像がレイアウトされて読者の好奇を誘っていた。

 

#……世界的にも注目を集めることとなった学園都市主催の一大ビューティーページェント、ミス学園都市コンテストであるが……(以下略)……もいよいよ本選まであと二日(今週号発売日現在)と迫るなか、過日、本誌に気になる情報が寄せられていたものを本号において掲載し読者の判断を仰ぎたい……#

 

 オキマリのお為ごかしの空々しい文句が並んでいた。

 

#……学園都市屈指の名門校である常○台中学の教諭、食○△祈さん(22)は優秀な教師であるとともに、ごらんのように容姿にもめぐまれ、八面玲瓏、身持ちの良い女性として生徒たちにも人気の評判の美女で、今回のミス学園都市コンテストにもただひとりの二十代の候補者としてエントリーしている。当初は他の有力候補者と較べると知名度が低いこともあって評価は伸び悩んでいたが、エントリー動画のヴュワーの口コミによって徐々に支持を拡げていき先週末あたりから一気にブレーク、いまやコンテストの台風の目、クイーンの座を窺おうかというほどの注目を集める存在となっていた。だが、それとともに彼女の行状についての奇妙な情報も寄せられるようになって……#

 

 袋とじを開くとカラーページになっていて、いきなり目にとびこんできたのは緑色の虫のクローズアップだった。カマキリがこちらを威嚇するように上体を起こして鎌を振り上げている。物議を醸しているのはその背景に映りこんだ映像で、注視を促すように赤い破線で囲われていた。その部分を拡大した画像が次のページにあって、そこには白ニットのノースリーブで、ポニーテールの操祈と思われる被写体が壁に身を持たせかけ、白い喉元もあらわに頤を上げて何かに堪えるように虚ろな視線を彷徨わせていた。切なそうに両手でフレアースカートの前を抑えているが、何故かチェック柄の生地はこんもりと膨らんでいて、まるで中に人でも潜り込んでいるような具合なのだった。

 これがいつ、どこの場面であるかは少年にはわかっていた。修学旅行で泊まった奈良の旅館での早朝のことだと。あのとき少年は操祈との約束を少しだけ破って、彼女のカラダに女としての努めを思い出させていたのだ。普段着の操祈の愛くるしさと、それとは意外に思えるほどの豊潤なたくましい匂いとのギャップに理性の一部が蒸発して、自制することができなくなってしまったのだった。結局、操祈には女の涙をしっかり溢れさせることになって、少年は彼女と別れると誰にも会わないウチにと大急ぎで露店風呂へと直行していたので、愛おしいにおいを纏うという失態を繰り返すことはなかったが、まさかこんな写真を撮られていたとは、と、この事実を知ったときにはさすがに動揺を禁じ得なかった。

 だが冷静に振り返ると、あの場に自分たち二人の他に誰かが居たというのはありえなかったのだ。もし他人が居れば敏感な操祈は気がついたであろうし、盗撮されているとしても同様だった。そのいずれでもないとすると、偶発的な何か――しかない。そう考えて思い当たるのは、前の晩に一部の男子生徒がサイコキネシスを使って飛ばしたとされる超小型カメラ――レベル1の能力でできることなると、それは恐らく一円玉よりも軽いモスキートカメラと呼ばれる盗撮用の専用メカだろうとアタリをつけた――だった。そのことを思い出すと辻褄が合って、女子の念動力者たちによって跳ね飛ばされたカメラが、偶然、竹林の中に落ちたのだとすれば、カマキリのマクロ撮影という奇妙な構図の説明もつくのだった。

 ただ問題は二点あった。

 ひとつは誰がこの画像の持ち主かということ。そしてもう一つの懸念は他にも画像があるかどうか、だ。

 最悪なのは常盤台の生徒か関係者が持ち主で、他にレイ自身が映り込んでいるようなもっと決定的な写真がある場合だが、そのどちらも可能性は薄いのではないかと、少年は失態のダメージをやや楽観的に見積もっていたのだった。

 もしそうなら持ち主から少年に対して何らかのアプローチがある筈なのだが、今のところその気配はなかった。確信はないが、だからといって慌てる段階でもなかったのだ。もし動きがあれば対応を考えればいいだけで、今は静観で良かった。下手に動くと却ってやぶへびになりかねない。

 少年はそう冷静に現状を分析し、いたって静穏に事態の推移を見守ることに決めたのだった。ただ、紅音からの情報がなければ心の整理もつかないままに、まさに今この場でそれを知ることになって、友人たちの前で顔色を失うところだったが、幸いにしてダメコンのシナリオをつくる時間が十分にあったので、仲間たちと同じような顔をすることができたのだった。

 

 ピーピングトムの卑しさも臭う記事は更につづく――。

 

#……場所はどこかの公園か? フォーカスが手前の蟷螂(カマキリ)に合っているため肝心の背景はピントが甘く、残念ながらスカートの中に潜んでいる者が男か女かさえ定かではないが、彼女の官能的な表情からするとク○ニされているのはほぼ確実。ひと気のないとはいえ白昼、このように大胆な行為に及ぶとしたら、彼女のイメージは大きく毀損されることになり、ミスコンへの影響も……#

 

 記事に一通り目を通したレイは、しばし言葉もなく呆然とした風を装って無言でいた。が、いち早くたちなおって、

「よくできたコラだね」

 そう言って笑顔になるのだった。

 その言葉にすぐに居合わせた全員が反応を示した。みんな救いとなる言葉を待っていたようなのだった。

「コラ――?」

「どうしてそう言いきれるんだよ」

「ボクが逆に訊きたいのは、こんな記事をどうしてすぐに真に受けちゃえるのかってことの方かな? だってセンテンスプリンって低俗ゴシップの代表みたいなもんでしょ? あることないこと書き立てて、煽ったもん勝ちっていう編集方針の」

「だってな、コレ、操祈先生にしか見えないし……」

「それならどうしてこんなにピントがあまいのかな?」

「それは……」

「よく考えてよ、こんなのコラで簡単につくれるでしょ? 幾つかの写真を組み合わせれば、ボクらだってほんの数時間もあれば食蜂先生の全裸のラヴシーンをでっちあげるのだってできるし。ただそんな恥ずかしいこと、誰もしないだけで」

「コラ、なのか?」

「そりゃ断言はできないけど、でもわざわざピントをハズして虫の写真で隠すってところから言ってもかなり疑わしいよね。第一、食蜂先生がこんなことを屋外でするハズないし……屋内でだってして欲しくないけど……」

 レイの言葉に少年たちの中で少しずつ事体を前向きに捉えようとする空気が拡がっていった。

「時期を考えると、いちばんありえるのは、たぶん怪文書の類いかな?」

「怪文書?!」

「このミスコンは今や大注目となっている一方で、ちょっとした選挙戦の様相を呈しつつあるからね、伸張著しい先生の足をひっぱろうとして誰かが動いていたとしても少しも不思議じゃないでしょ。むしろ選挙に怪文書はつきものじゃない?」

「なるほど……」

「さすがはミツっちだ、やっぱアッタマイイっ!」

「うーん、そういう目もあるのか……ってことは俺らの操祈ちゃんはっ?」

「たぶん大丈夫だよ、だってあんなに清らかな人ってボクは他に知らないから。信じてあげようよ、先生のこと」

 レイの言葉に力を得て、少年たちの顔が再び明るさを取り戻していった。

「ホント、選挙っぽくなってきたね、怪文書まで飛び交うなんてさ」

「そうだなっ、よしっ、俺たちはそんな妨害工作なんかに負けずに、操祈先生をクイーンにするべく引き続き全力で支援していこうぜっ」

 夏上康祐がそう言ってみんなを鼓舞すると、

 一同、オウ! と、威勢を上げるのだった。

 

 

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