ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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学園祭初日

 

          ⅩⅫ

 

「分析はどうだ? 得票予想はでたか?」

 コースケがマコトに訊いた。

「ああ、ここ三日の得票数推移から三百万票以上は行けそうだ、順位は十八、九位ってところかな」

「ギリギリか……」

「でもないぞ、カットラインの二十位とは十二万票以上の差があるから、たぶんほぼ当確だから」

「そうか、よしっ、おいっヤッさん、そっちはどうだ? コラサイトの方は?」

「こっちも快調、昨日の深夜に開設してわずか十五時間足らずの間にアクセス数が五万に迫る勢いだぜっ、これって操祈ちゃんの人気があるからってことだよな」

「おうよっ、あんな化石のようなメディアの週刊誌なんかに負けっかよ、っていうか負ける気がしねぇっ」

 ヤッさんのとなりで同じく“コラ対策班”の純平が(いき)っている。

「おいレイっ、オマエ、なにチョコバナナクレープなんてチンタラ食ってんだよっ、このクソ忙しい時にっ」

 コースケが呆れ顔でレイを叱咤した。

「ゴメン、さっきトイレに行った帰りに二年三組の模擬店につかまっちゃってムリヤリ押しつけられちゃったから……すぐにマコトくんたちの応援に入るよ」

「オマエってホント、空気読めねぇなぁ、脱力させんなよぉ……っていうか、美味そうだな、俺にもひと口食わせろっ」

「いいよっ」

 釣り研究会の展示スペースとなった校舎二階の空き教室は、さながら食蜂操祈の選挙対策本部の様相を呈していた。そこには今、会長のコースケの他、ユーレイ会員のレイ(将棋部のユーレイ部員も兼務)、ヤッさん、将棋部のマコトと純平の他、コースケのルームメイトの後輩が一人居るだけで、客は一人も居なかった。

 みな鹿爪(しかつめ)らしい顔をしてパソコン画面やスマホに向きあっている。

 常盤台中学学園祭の初日、釣り研究会の企画は例年通りの“釣り堀”で、例年通りの閑古鳥だった。

 教室の真ん中にビニールプールを置き、そこに水を張って小魚を放流しただけの見るからにやる気の無い展示なのだから仕方がない。いっそのこと釣り竿ではなく“ポイ”を用意しておいて金魚すくいにした方が売り上げがあるんじゃないかとの声もあったが、それだと生徒会に睨まれかねないとのことで自粛したのだ。

 もっとも今年に限って言えば、みなが展示紹介そっちのけで揃ってミスコンの方に関心を向けていたので、客の相手をせずに済んで結果オーライといえる状況でもある。

 学園都市を震源として今や全世界からも注目される“西東京プロムクイーンダービー”は本日午前零時をもって投票数を非公表とし、明日の午後六時の締め切りまでの三十時間の獲得投票は全て専用AIによって機械的に管理されるために主催者側も結果を与り知らぬ、ということになっていた。またそれに先立つ本日午後零時――つい二時間余り前――には明日のファイナル進出権を残した予備候補者百名を発表していたが、そこでの各候補者の得票数も当然のことながら示されておらず、各陣営ともに自陣が応援する候補者の票読みと当落予想について無い知恵を絞り、最後の支持工作の追い込みをかけているのだった。

 公開投票締め切り時におけるトップは、下馬評通りに霧ヶ丘の北條真澄が強く、ただひとり五千万票越える得票数を誇り、それを追って藍鈴女子高の新居坂シルディアと常盤台の山崎碧子、それに長点上機の蔵本瑠樹亜が、それぞれ三千万票に迫る得票で、ビッグフォーと呼ばれる超美少女たちの強さを見せつけていた。

 しかし、操祈を応援するコースケたちはまだ彼女のクイーンを諦めてはいなかった。本選に出場さえできれば、彼女の生の魅力は必ずや観衆に届くと確信していたからだ。

 学園都市内のほぼ全ての学園、それと国内外のパブリックビューイングを含めて約七百カ所の特設スクリーンの周りに実際に集まることが予想される百万の観客は、その場で登録することでおのおの百ポイント――百票に相当する――の持ち点を与えられ、それを自由に振り分けてファイナリスト二十名に投票することができるからだった。つまりはまだ少なくとも三割もの票の行方が定まってはいないのだ。

 数字的には厳しいかもしれないが逆転可能といえる範囲にあって、彼ら操祈応援団はそこに望みを託しているのだった。

 また懸念された昨日の週刊誌記事の影響だったが、票の伸びにはさしたる変化が見られていないとの分析結果が得られていて、その点についても少年たちは勇気づけられていた。

「つまり、あのインチキ週刊誌の工作は無駄だったってことだな、要するにガセってことだ、ヤローふざけやがってっ」

「目には目を、歯に歯をってことでコラにはコラで対応したから、その効果もあったのかもな」

 外から教室に戻ってきたゆうちゃんこと黒川田勇作が、今も憤然としているコースケの肩を叩きながら言った。

 マコトが、件の週刊誌に対抗して操祈のコラ画像を多数作ってネットに流し、記事のネタにぶつけてみてはどうかと言い出し、それを受けたゆうちゃんが漫研や美術部の部員にまで声をかけて昨晩から操祈のエロコラを多数ネットに上げていたのだ。

 木を隠すなら森の中のたとえにもあるように、多数のデコイを撒くことで多少なりとも記事の影響力を削ぐことになれば良いと思って始めたものだったが、これまでのところネット界隈ではなかなかの反応があって結果はまずまず成功といえるものなのだった。

「漫研の方はどうだった?」

「おうっ、また三枚貰ってきたぜ、これで合計で十四枚。アイツらサスガにプロだわ、手早い手早い、三次元ソフト使ってディープフェイクをサクサクっとな、大したもんだぜ」

 勇作は手の中のメモリをコースケに示しながら言った。

「スゴいじゃん、みしちくれやっ」

「へっへっへ、今度のは操祈センセのオールヌードの絡みもありまっせぇ、ダンナ」

「おー、それは楽しみぃっ!」

 少年たちが湧き立った。

 レイも一応、みなに合わせていたが、当初はコラ企画については消極的なのだった。

 画像の所有者を不必要に刺戟することを懸念していたからだったが、ただ結果からすると、サイト内の掲示板にはそういったことを仄めかすような書き込みは一切無くて、逆に、キワドイ画像が“あれ”だけだったとの観測が強まって密かに胸を撫でおろしてもいたのだ。

「おー、すっげぇなぁ……なんか本物って言われたら信じちゃうかもしれねぇよ、俺……」

 居合わせた少年たちはヤッさんのパソコンのモニターに群がり、勇作が調達してきた新作コラのお披露目のお相伴にあずかっていた。

 画面には大柄な黒人男性の腰のあたりに馬乗りになった“操祈”の画像が映し出されている。

 本当の彼女はもっと肩が華奢で、胸のラインはずっと優美だし、何より乳首が本人のものとはくらべものにならないくらい大きくてふてぶてしい感じで、少女のような初々しさが魅力の操祈とはセックス経験の濃さがまるで違うとレイは思ったが、むろん口にはしなかった。

 ただ出来映えは見事で、それからすると週刊誌のピンボケが他愛も無いものにも思えてくる。あれこそ本当の操祈の美しさの片鱗を捉えたものだったが、如何せん画角も画質も悪すぎていた。

「俺、ちょっとトイレいてくるっ」

 画像に興奮した一人がそう言うと、

「部屋に戻るまでガマンしろやボケっ!」

 たちまち他の誰かに窘められて頭をかいた。

 いよいよレースのゴールまで残すところ二十七時間あまり、明日夕方六時には、二十名の中の最初の一人がランウェイを歩くことになる。レイを含めてほとんど全ての生徒は体育館の特設スタジオに集まり、美女たちの艶姿に目をみはることになるのだろう。

 ただ操祈本人は、“明日はお家で過ごす――”宣言をしていて、その場には居合わせないことが分かっていた。

 彼女が居れば、学内に密かに紛れ込んだマスコミにつけまわされることは確実だから、その方がいいと少年も思う。結果として、操祈が著名人の仲間入りをすることに手を貸してしまったことが良かったのか悪かったのかと言えば、おそらく後者だろうと思ったが、それでも恋人として彼女の美しさを多くの人に認めさせたい、という男の欲が優ってしまったようなのだった。

 きっとみんなびっくりするだろうな――。

 ホログラムは殆どリアルと同じに見える。

 明日の夜には、モニターでは伝わらない彼女のはちきれんばかりの魅力を世界が知ることになる。

 そう思うと期待と興奮とで今夜は眠れそうにもないのだった。

 




夜、もう一本書けるかどうか
三日もサボったので・・・
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