ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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学園祭二日目

 

          ⅩⅩⅢ

 

#……みんなでわたしのことをバカにしてぇ……なにがミスコンよぉっ……学園祭なんて大ッキライっ……あーあ……つまんないな……

 ガサガサ――。

 カリカリ――。

 もー学校には絶対に行かないんだからっ、ストよっ、ストライキよっ、先生だって怒る時は怒るんだゾぉっ――。

 ガサガサ――。

 ポリポリ――。

(空白――男女の話し声、時に操祈と思われる鼻歌)

 ……この身死すとも……地をさまよいし我が心、歓びに震えんって、シェリーよね、キーツじゃないわ……そうだった! クリームシェリーみたいな甘いお酒にはぁ、苦ぁーいチョコレートがいいのよねぇ……うん……シェリー、シェリーっと……

 トクトクトク、コポコポコポッ――。

(空白――テレビの音声とみられる話し声、時にカウチの軋む音)

 あらぁ、もうなくなっちゃったの……だらしないわねぇ……もうちょっとガンバリなさいよぉ……あなた七百五十ミリリットル入りなんでしょ、なんでそんな簡単になくなるのよっ……早過ぎるじゃないのよぉ……。

 ゴクゴクゴクゴク――。

 ふーっ……。

(空白――テレビの音声、時に咀嚼音)

 んん? 足の指の爪が伸びちゃったかしらぁ? たしかぁ……あれと同じやつでミニチュアのレプリカのお土産があったはずなんだけどぉ……でも正直者の操祈ちゃんに、あれは“爪切り”にはならないのよねぇ……うーんと爪切り……どこだったかしら……。

(空白――テレビの音声、パチンパチンと爪を切るらしき音、時に嚥下音と咀嚼音)

 パタパタ、カタンカタン――。

 んーん、おっかしいなぁ……たしかこの棚に、とっておきのヤツがあったはずなんだけどぉ……いったい誰が呑んじゃったわけぇ……変でしょっ……あるはずのものがないなんてぇ……棚の後ろに穴でも空いてるのかしら……うーん無いっ!……。

(空白――テレビの音声)

 ふわぁ~あ……眠たい……もーお布団で寝ちゃおうかな……。

 ガサゴソ――。

 カリポリ――。

(空白――テレビの音声)

 なーにがアメリカンニュースサービスのジョー・ブラッドレーよぉ、そんなにあたしのことが好きならさっさと(さら)って逃げちゃえばいいのにっ、ホント、男って肝心な時に意気地がないんだからっ……って思うわよね、オンナならぁ……。

(空白――エンドクレジットの賑やかな音楽)

 あったまいたーい……もう、イヤぁ……オレンジジュースが飲みたいっ……!#

 突如、烈しいノイズ――。

 音声データはここで終わっていた。

 唯一、聴取できたデータの再生が終わると、碧子は不機嫌そうに頬をひきつらせた。

「なんなの、この呑んだくれの酔っ払いが昼間からクダ巻いているのはっ」

「休日をどうすごされようと勝手じゃないですか?」

「男の声がしていたようだけど……」

「あれはたぶん、テレビかと」

「舘野さん、ちゃんと私にわかるように説明してっ、他のが何も無いってどういうことっ?」

「わたしはあなたからお与りした盗聴器と盗撮器を食蜂先生のバッグに忍ばせておきました。ご命令通りにやりましたよ」

 唯香は碧子の指示に従って一週間ほど前、操祈の目を盗んでオープントートの中に超小型の三つの盗撮器と六つの盗聴器を忍ばせていたのだ。どれも自走式のもので、ターゲットの部屋に侵入すると小虫のように勝手に室内に散らばって記録を始め、それを特定の受信機に向けて送信するようになる卑劣なスパイグッズだった。

 ただひとつ碧子に言っていなかったのは、操祈にはスパイグッズの件と、もし()だなら“アシダカ軍曹”の購入を勧めるように伝えていたことだった。“軍曹”は意識高い系女子の間で密かに拡散している強力なアンチスパイグッズのひとつである。

「あのモデルはレベル3の能力者でも探知できない最新型の筈なのに、初日に盗撮器が全滅? 盗聴器も一週間と保たないなんて……」

 碧子は憮然とすると同時に珍しく当惑げな顔もしているのだった。目論見が外れたことは彼女でも予想外だったらしい。相手の力量を測り間違えたかもしれないという疑念が胸に浮かんでいるのが伺えた。

 しばし思案中の碧子を前に、唯香は間を持たせるために会長専用室をぼんやりと見回した。

 山崎碧子の個室は他の寮生の合い部屋に較べても倍以上の広さがあった。

 いかに彼女が学内で特別扱いされているのかが窺えたが、背景を思えばそれも宜なるかな、なのだ。

 八年前の巨大スキャンダルで失脚を免れた唯一のビッグファミリーの血族――。

 ベッドもデスクも小物にいたるまで、どれも華美ではないが上品なものばかりが誂えられている。

 いかにも高級感のある整った調度、良い香り……。

 きっと男子がこの部屋に招かれれば、一瞬で彼女の虜になってしまうのだろう。

 でもどこか作り物くさくて自分の肌には合わない、と唯香は思うのだった。

「操祈先生の能力が戻っているなら不思議じゃないですよね……私がやったことにも気づいておられたのかもしれませんけど何もおっしゃられなかった……そういう方なんですよ……もういいですよね、私はこれで失礼させていただきます」

 唯香は息苦しい部屋から外へ出ようと背を向けた。

「お待ちなさいっ、話は済んでないわ」

「まだ何か――?」

「あのオンナに男が居るのはわかってるのよ、舘野さん、あなた何か気がついたことはなくて? 代表に選ばれたことで一緒に居たことも多かったハズよね」

「いいえ、なにも――」

 唯香は嘘をついたが、操祈とのこみいった打ち明け話を碧子に話してやる気など毛頭なかった。

「例の雑誌のことについてはどう? あれは事実だと思うんだけど……澄ました顔で裏ではあんなハシタナイことしてるなんてっ」

「雑誌? あの週刊誌のことですか? あれはあなたが手を回してやらせていたんですよね?」

「私が? 冗談を言わないで、私にはなんの関係もないわ。いま調べさせているんだけど情報の出所がなかなか掴めないのよ……食蜂先生はあの件で何か言ってなかった? 感じたことはない?」

「いいえ全然、記事のことさえご存知ないのではないかと思いますけど。そもそも低俗誌のレベルの低いコラに拘るひとなんて限られるんじゃないですか?」

 唯香は皮肉ったが、碧子は感情を表にはしなかった。しかし逆にそのほうが威圧感がある。

「あれはコラなんかじゃないわ……」

「どうしてそう思うんですか?」

「わかるのよ……感じるの……」

「私には能力が無いので、そういうのはさっぱりわかりません」

「ねぇ、あなたわかってるわよね……もしもこの私を裏切るようなことがあれば……」

「また脅しですか?」

「脅しているわけじゃないわ、これは取引だから。だからこちらもそれに見合うものを戴きたいと思っているだけよ」

 碧子は近くまで歩み寄ると、唯香の前に立って彼女を見上げていた。

 背は唯香の方が少し高かったが、見下ろされているのを感じる眼差しなのだった。美しく妖しく輝く碧い瞳が唯香の心の奥を探るようにひたと見据えている。

「また私に水を使うんですか?」

「いいえ、今日はもういいわ……私も忙しいし……」

 その言葉に唯香はホッとした。だが努めて顔には出さないようにする。サイコメトラーはメンタリストではない、そこが少女の心の支えとなっていたからだ。

「私も演劇部の方があるのでこれで失礼させていただきます」

 唯香はノブを引いてドアを開いた。外の廊下の空気が芳しく感じる。

「……ああそれと、ファイナル進出、ほぼ確定しているようでおめでとうございます。夕方、私たちは体育館には行きませんけど、きっと会長にはマスコミの方からの取材もあるでしょうからお忙しくなりますね――」

 

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