ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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ファイナルステージ

 

          ⅩⅩⅣ

 

 あらかじめ場所取り要員として一年生のルームメイト四人を送り込んではいたものの、予想を遥かに超える盛況ぶりで、少年たちが体育館を訪れた時には既に人が出入口から溢れるような状態になっていた。押し掛ける人々によって館内はまさに立錐の余地もなく、レイを含む六人は一歩前進二歩後退の遅々とした歩みで中央の特設ランウェイステージを目指したのだった。

 彼らが這々(ほうほう)(てい)でステージのまわりの着座スペース――五列ほど、二百名分ほど用意されていて、ここが在校生徒たちに割り振られた場所だった――に辿り着いた時には、時刻は午後五時五十五分をまわり、体育館正面壇上に設置されたスクリーンはカウントダウンを始めて居た。

「こりゃ千人なんてもんじゃないな、ウチだけでもその数倍は居そうだもんな」

 コースケが後ろを振り返りながら驚きに顔を輝かせた。数が増せば増すほどファイナルステージでの獲得票のウエイトが増し、操祈に有利になると考えているからだった。

 一階の簡易着席スペースが十列、八百席ほど用意されていたが満席、その外側には座れなかった立ち見客が鈴なりになっている。二階席を見上げても同様で、さながらNBAファイナルのような熱気なのだ。

「おい、そろそろだぞっ!」

「「「10、9、8、7……」」」

 コンテストの開始を待ちかねた観客が一斉に唱和して、建物を揺るがせるような大音声になっていく。

「「「……3、2、1、ゼロっ!!!!」」」

 耳をつんざくようなファンファーレとともに、正面の巨大スクリーンに『NEO一端覧祭特別企画 ミス学園都市コンテスト ファイナル』の文字が映し出され、次いでさまざまな言語による表記に変わっていった。

 壇上下手からホスト役の男性アナウンサーとアシスタント役の女性タレントの二人のホログラムが入場して、挨拶をする。日本語で行われていたが、海外の百六十三カ所の会場ではリアルタイムで現地の言葉に翻訳されているとのことだった。こうしたイベントの運営、規格の管理、映像の権利等を全て主催者である学園都市の学園側がにぎり、全世界に一斉に同時配信をしているのは、さすが――と、言えた。

 ホストによる一般へ向けての解説によると、公平を期すためにファイナルの二十名は得票順でも名簿順でもなく、全てAIによってランダムに選ばれて登場するということだった。投票はどのタイミングで行われても有効で、コンテスト開始の六時から終了の八時までの間であれば何度でもやり直しが行えるという。現在、会場に居る登録者数は三千八百二十七名、この会場だけでも約四十万票を巡っての美しき女たちの闘いが間もなく開始されるのだった。

「先生は出るよね?」

 レイも気持ちが(たかぶ)っていて確かめずにはいられなくなっていた。

「ああ、ぜったいまちがいないっ、あの後も何度も計算しなおしたから」

 分析責任者のマコトが請け合った。

「たぶん、今、三百二十万から三十万票ぐらいで十八位だと思う」

「でも、北條真澄はもっと伸ばしてるんだろ?」

「まあね……もう五千五百万ぐらいになってるかもしれない……」

「五千万以上の差か……きついかな……」

「ヤス、なに日和ってんだよ、この観客数を見ろよ、予想の四倍だぞっ、ってことはもしかすると全世界で三億から四億の票の取り合いになるってな話かもしれないんだぜっ。これまでの倍の票がこれからの二時間の間に動くんだから、まさに勝負はこれからってことよ」

 コースケがまともなことを言って仲間を鼓舞した。

「おまえらみんな、操祈ちゃんに全振りだよなっ」

「「「とーぜんっ!」」」

 全員がそれに応える。

「よしっ、はじまるぞっ!」

 

「エントリーナンバー一番……」

 ホストがバックヤードから廻ってきたメモを受け取り読み上げる。そのタイミングに合わせて正面巨大スクリーンに選ばれた美女の名前が大写しにされて、会場全体がどよめいた。

「桂川結衣奈、香椎坂中学所属、十五歳、身長百六十三センチ、スリーサイズは八十二、五十五、八十四……」

 同時に、アシスタントの女性が壇上正面の扉を開くと、そこにはビキニ姿にされた色白の美少女が一人、佇んでいた。不安そうな眼差しをあたりに配りながら出てくると、ランウェイをまっすぐに歩いて観衆の間を分け入っていく。

 ステージの端近くまで来たところで足を止めると軽くポーズを決め、

「桂川結衣奈です、香椎坂中学の三年生で……」

 自己紹介とアピールをした。

 この演出の全てがホログラムで、世界中で同じ映像が配信されている筈だったが、まったくリアルと見まごうばかりの高い完成度で、手を伸ばせば触れられるのではないかと思えてしまうのだから驚きの技術力だった。

 まさに学園都市の面目躍如である。

「可愛いなぁ……桂川結衣奈ちゃんか、すっげぇカワイイじゃん……」

 レイやその仲間たちも思わず見蕩れてしまう正当派の美少女だった。ストレートのサラサラヘアの黒髪に色白の体、繊細な印象だがつくべきところにはしっかり肉がついてメリハリのあるプロポーションをしている。それが幼さの残る声で自身のチャームポイントを訴えていくのだから、間近にしている男子には堪えられない見ものになっていた。

「いまの子って何位だったっけ?」

 純平がマコトに訊くと、すぐにマコトはスマホから自分のサイトに入ってデータを照会した。

「七位かな……うん、七位だ……千九十万票――」

「七位か……さすがにシングルはレベル高ぇなあ……」

「シングルに限らず、ここに上がってくるのはみんな超A級、S級ばっかりだよ。なんせ美人度が高いとされる学園都市の中にあってさらに選り抜きの四千人の中の二十人だからね、そりゃハイレベルは当然さ。これから一時間半ほどの間、じっくり目の保養をさせてもらおうや、こんな目の前で見られる機会なんてもう二度とないかもしれないんだからな」

「おいマコトっ、能書きはいいが、俺らが何のためにここに居るのかってことだけは忘れんなよっ」

 コースケがマコトをつかって一同に念押しをする。

「俺らの操祈ちゃんはもっとずっと凄いにキマッテルんだからな」

「たしかにっ、いよいよ楽しみになってきたなっ」

「食蜂先生のビキニ姿をこの距離で見られるってだけでも、楽しみだし嬉しいよね」

 レイがそう言うと、全員が大きく頷くのだった。

 

 

「……うーん……あたし、寝ちゃったのか……」

 カウチの上で目を覚ました操祈は、レースのカーテンの外がすっかり暗くなっていることに気がついて、眠そうに目をしばたたかせながら壁の掛け時計に目を遣ったのだが、暗くて何時なのかわからなかった。

 テレビはつけっ放しになっていて、見なれないスポット番組をやっているようである。

 ローテーブルの上には食べかけのスナック菓子の袋や、飲みかけの酒類がそのままになっているという荒れようだった。

「そっか……文化祭だったっけ……」

 頭がはっきりしていくとともに、今日が学園祭の最終日二日目で、妙なイベントがあるのを嫌って、一日、自室で自堕落な生活を送っていたことを思い出していた。

 酔い覚めで体が冷えてしまったのか、何度も盛大にくしゃみを繰り返してしまう。

「あによぉ、もう……風邪なんてひいてらんないんだからっ! さむっ」

 カウチから身を起こすと、乱れたままの頭を掻きながらリモコンでリビングの照明を点けた。

 パッと明るくなって眩しそうに眼を細める。

「え、もうこんな時間なのっ!」

 時刻は間もなく九時になろうとしていた。

 




今夜からアニメの方も新シリーズの再開で
新鮮な操祈が楽しみです

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