ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
ⅩⅩⅥ
正面巨大スクリーンに『食蜂操祈』の名前が表示された途端、
「「「「「「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」
応援団の少年六人全員がその場で跳び上がって派手なガッツポーズを決めた。
「「「「座れバカっ、みえネェだろっ!!!」」」
後ろからの罵声さえもみな楽しげで、朗らかに聞こえる。
ホームタウン効果というべきか会場に集まっていた観客は、操祈の登場を期待し支持していたようなのだ。その歓声はクイーン有力候補の山崎碧子を凌ぐほどで、みなが心待ちにしていたのが伝わってくるのだった。ホストによる紹介に真剣に耳を傾けている。
「食蜂操祈、常盤台中学校教諭、二十二歳、身長、百七十一センチ、スリーサイズは九十二、五十八、八十九……」
「「「「待ってましたっ、操祈先生っ!!!」」」
館内のあちこちで歓声があがった。その声が本人には届かないにもかかわらず――。
壇上中央の扉が開かれ、そこにホワイトビキニの操祈の姿が現れると館内はドッと沸き、そしてすぐに静まり返るのだった。代わりに溜息とも呻きともつかない、声にならない声がそちこちに現れ、やがてそんなささやかな反応も圧倒的な静寂にのみこまれていった。
おずおずと躊躇いがちに歩みを進める容子は、それまでの候補者たちのように誇らしげに大きく脚を伸ばした颯爽としたものではなかった。恥じらいに頬を上気させた表情からは、自分が場違いなところに居て、不釣り合いなことをさせられているという当惑がにじんでいて、レイはすぐに、このホログラムがエントリー映像のものとは違っていることに気がついたのだった。何らかの理由で差しかえられたということに。
ゆっくりと足を運ぶ操祈の姿を、詰めかけた四千もの観衆が固唾をのんで追っていた。誰もが耳を澄ませ、まるで彼女の息づかいや足音さえ聴きとろうとしているように――。
居合わせたものたちは自分が今、何かとても特別な機会に巡りわせたのだということを本能的に察していたのかもしれなかった。当のレイでさえ、目の前のステージ上を通り過ぎていく操祈を見上げながら、不思議な、厳かな気持ちになっていたからだ。それとともに、公衆の面前で彼女をこのような姿にしてしまったことに罪の意識を感じてもいたのだった。
ホログラムでありながら、視線を浴びる女の肌の痛みが伝わってくるようだったのだ。
そして彼女がここに身を置くことを決意した健気さとともに、このような場所へと追いやった愚かな人たちへの、赦し――すらも感じられたのだった。
どこか非現実的で儀式のような
こうしたことは、それまでのどんな候補者からも感じられなかったことだった。
「食蜂操祈です……」
ステージの端までくると、彼女は足を止めうつむき加減の精一杯の頬笑みを作りながら、まわりを見回して語り始めた。
「……常盤台中学で教師をしています。生徒たちにこんな姿を晒してしまって、これからちゃんと授業を聞いてもらえるかとても心配しています。年齢は二十二歳、教え子のような若い女の子たちに混じって分不相応ですよね、おそらくこの映像が多くの人の目に触れることはないと思いますけれど、もしお目にとまるようなことがあれば、ごめんなさい……」
深々と頭を下げ、
「え、まだ時間があるんですか――?」
と、問いかけていた。誰かの指示を受けているのだとわかって、この映像が作りこむ以前のものであることが見て取れた。撮影者との間での自然なやりとりが彼女の素顔の魅力を伝えている。
「自己アピールって言われても……そうですね、お目にかかったみなさまに、今日よりも良い明日が来ることをお祈りします――それと……そうだわっ、私をここへ連れ出した男の子たちっ、あなたたちにはしっかり責任をとってもらいますからねっ、覚悟するんだゾっ」
そう言って観衆にちょっと悪戯な、やさしげな笑顔をプレゼントすると、もういちど頭を下げ、踵を返して今度は小走りになって戻っていく。
豊かな胸の膨らみの描く揺れが甘く肉感的で、その瞬間に“聖”が“性”へと転ずる奇蹟を世界中が目撃したのだった。
あるものは新しい女神の登場を喝采し、あるものは彼女をつかった新しい企画を思い描いた。
好むと好まざるとにかかわらず運命の歯車が動き始めたのだが、このときはまだ誰もその道行きと顛末を窺い知るものはいなかったのだった。
操祈が扉の中に消えてからも会場はしばし静寂に覆われていた。
一人一人が、今、目にしたものがどのようなものであるかを整理するために時間を欲しているようだったのだ。
操祈応援団の少年たちも他の観客同様に言葉を奪われたまま呆然としていた。
数瞬の間をおいて観客の心が漸く興奮と熱狂を思い出したとき、館内はその夜、最高のもりあがりを見せたのだった。
いつもお読みいただいてありがとうございます
今日はちょっと短めになります
明日の更新は難しいかも知れません
投稿ミスがありました事 お詫びいたします