ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
ⅩⅩⅨ
「んっ……ちょっ、ちょっと待ってくれないかなっ……」
男はキーボードを叩く手の動きを止めて、肉悦に焦点の定まらなくなった顔でテーブルの下を覗き込んだ。剝き出しになった股間に顔を寄せている美少女の頭に手を伸ばすとやさしく撫でる。
「上手になったね……」
少女は屹立してはちきれそうになっている男の器官の先に軽く口づけをすると顔を上げた。
舘野唯香である。
「ちゃんと一成さんの教えを守ってるから……」
「もう少しでレポート、仕上がるんだけど……こいつが終わったら……」
「どうぞ、わたし、ここで待ってます……」
「待ってますって、少しも大人しくしていてくれないじゃないか、ワルい子だ……」
「だって……」
少女は唇をゆっくりと舐めながら、もの欲しげに瞳を潤ませて男を見上げた。
「しょうがないなぁ、おいで……」
男が両腕を拡げて招くと、唯香はテーブルの下から這い出してきて男の胸に抱きつくのだった。すぐに互いに舌をからめてのディープキスになる。
「レポートが仕上がるより、こっちが出ちゃうのが先になっちゃうよ」
「平気ですよ、わたし」
唯香は男の首に両腕を巻き付けたまま、少しも悪びれた様子も見せずに言いきった。けれども、
「僕は出すなら、唯ちゃんのを見ながら出したいな」
男からそう持ちかけられると、婉然と頬笑んでいた唯香の顔に少女らしい躊躇いが覗くようになるのだった。
前のデートの時、一成からはじめてシックスナインを求められ、恋人の顔を跨ぐのが恥ずかしくて、以来、ちょっとしたトラウマになっていたのだ。けして無理強いされることはなかったが、唯香にすると求めに応じられなかった負い目もあってどこかで気まずくなっていた。
それもあってか、一成とはこのところ少し疎遠になっていたのだ。
唯香は文化祭の演劇部の出し物の準備で忙しかったし、一成も卒論の追い込みに入って時間を作りにくくなっていたこともあったのだが、電話やメールのやりとりこそあったものの結局、一ヶ月近くもデートの間隔があいてしまっていた。
「やっぱりダメかな?」
唯香は首を振った。拒んでいるようにも見える曖昧な容子に、
「いいの?」
と、たたみかけられて、今度は顔を朱らめながらはっきり頷くのだった。それを見て男は嬉しそうに頬を緩ませると、
「じゃあベッドに行こうよ、唯ちゃんも服を脱いで」
と少女を誘う。
「えっ!? 一成さん、レポートはいいんですか?」
男の豹変ぶりには唯香の方が逆に慌てていた。面白がって攻めたてていたつもりが、一瞬で立場が入れ変わってしまったからだった。
「こんなのどうでもいいんだ、カワイイ女の子を可愛がる方がもっとずっと大事なことだから」
「でも……」
「だって唯ちゃんが誘ってきたんだよ、この始末、きっちりつけてもらわないとね」
男は股間のものを片手で軽くしごいていきり勃たせると、少女の手を導いて握らせる。
「唯ちゃんは、手もキモチがいいよ」
「もう、一成さんったら……」
外にはまだ陽が残っていて十分に明るかったが、端正な少女の面差しには既に真夜中の翳が差しこんできているのだった。
「ねぇ一成さん……」
ベッドの中で男の胸に白い裸身をあずけて休みながら、唯香はちょっと複雑な表情をしていた。
「どうしたの、そんな顔して……やっぱりイヤだった? ああいうのは」
唯香が思っていたのはまるで別のことだったが、どうやら男は他のことを考えていたようである。
「違いますっ、もうヤダぁっ、男の人ってすぐにエッチなことに頭がいっちゃうんだからっ」
顔を朱くして身を揉む。唯香も久しぶりのデートに自分がちょっと調子に乗り過ぎていたことを自覚していて、もう知り始めた頃とは違う、成熟した大人の恋人たちのように大胆に振る舞っていたのだった。
「じゃあなに? どうかしたの?」
口にすべきか迷っていたが、恋人にギュッと抱きすくめられ、さぐりさぐりになりながら、
「一成さんって……山崎さんと会ったこと、あるんですか……?」
と訊いた。
「山崎さん?」
男ははじめ、なんのことかとポカンとした顔をしていたが、
「山崎碧子……うちの生徒会長の……」
と唯香がさらに探りを入れると、
「ああ、わかるよ、こないだのミスコンで三位になったんだっけ? 凄い美人さんだよね……でも会ったことはないなぁ……」
「無いんですか?」
「無いよ」
「全然?」
「会ってたら忘れるハズがないから、あんだけの美人……でも唯ちゃんの方が僕は可愛いと思うけどね」
「もう、はぐらかさないで下さい」
唯香は怒った顔をしてみせるが、内心は胸を踊らせている。恋人から自尊心を満たされて舞い上がるほど嬉しかった。
「じゃあ、どうして……?」
「どうしてってなにがだい?」
「山崎さんは一成さんのことを知っているみたいだったから」
「ほー、そいつは光栄だねぇ、あんな美女からチェックされてるなんてさ」
「茶化さないでください」
「茶化してなんかないさ……でも彼女、すごい美人なんだけど、なんかちょっと怖いよね」
そう言って一成は屈託のない笑顔になった。ヒゲが薄い分まだ十代の少年の雰囲気が残っていて、表情に嘘やごまかしは感じられないのだった。
どうやら碧子の手はまだここまでは伸びてはいなかったようで、少女は少しほっとした。
「ごめんなさい、今のことは忘れて」
「唯ちゃん、その子となんかあったの?」
さすがに一成は察しが良くて唯香の心の機微を捉えていた。
「ううん、なんでもないわ」
唯香の懸念は、碧子が持っている件の差し障りのある写真の出所についてだった。二人の密会現場を捉えた写真がいったいどこから漏れたのか、ということ。
場所がここ一成のアパートであることは判っていたが、どうやって撮影されたのか今もその手口が掴めずにいた。
いちばん可能性として高いと思っているのは部屋の外、恐らくベランダ側から盗撮用小型ドローン等で撮られていたことだ。
今はカーテンをしっかり閉めているが、果たしてあのときは――?
思い返すと、その時は恐らく夏の午後、まだ陽が高く、十七階ということもあって遮光カーテンどころかレースのカーテンまで開けっぱなしにしていた。近くに高いビルは無く、誰も自分たちの交際を知らないし、まして恋路を覗き見しようなどとは思うまいと油断していたのだ。
ただ、ベランダからは寝室の全てを見渡すことはできない筈なので、もし外から撮影されたものなら、碧子が持っているという画像には決定的なシーンまでは捉えられていないのではないかと希望半分で思う。
室内での盗撮の可能性を排除したのは、思慮深く用心深い美少女の嗜みとして、自室以外の場所で服を脱ぐような際には盗撮を避けるためのセンサーを使って身を守るのが習いとなっていたからだった。それは一成の部屋に居る時も同じで、別に恋人を疑ってというのではなく、一成本人が盗聴、盗撮の対象にされている可能性も全然ないとは言い切れないからだった。
現に、過去にそうした事例は何件かあって、人気女優やアイドルがその都度、セックススキャンダルの中で消費されていったのは、恐ろしい教訓として少女たちの中では良く知られたことなのだ。
そのためのアンチスパイグッズだったが、これもイタチごっこが続いているのが現状で、今どき、精神系の高位能力者でもない限りは、こうした防犯器機の更新を怠るといつ自分が被害者になるかもわからないのだった。
つくづく女にとって生きづらいイヤな時代だ――と、思うがそれに馴れなければならないし、変化には機敏に適応していくしかなかった。
しかし、唯香がもっとも恐れていたのはそのことではない。
考えたくはなかったが、可能性として恋人の一成が自分を裏切っていることを棄てきれずにいたのだ。碧子ならやりかねないからだった。実際、唯香も操祈をスパイするように指示されて、そのように動かされていた。
幸いにして、いまのところは碧子の視界には一成は入っていなかったようである。しかし、だからといってこれからもそうであるとの保証はどこにもなかった。
一成もまた、大人の男とはいえ碧子からみれば、ただの凡夫の一人にすぎないのだ。
怖い女だ――。
と、唯香は碧子のことを考える度に、背中に冷たいものが走るような気がする。
恐怖とは人を容易く誘導できるツールだった。
そのことを碧子はよく心得ていた。
唯香に対しても、いざとなったらきっと今よりもさらに強いカードを切ってくるだろう。そして相反するような甘い餌をぶら下げてくるのにちがいない。
飴と鞭を使えば人は自由に動かせる――。
それは支配する側の思考類型だった。
善意とかお互いさまというような人とのつながりを軽視どころか蔑視している。碧子はそうしたリアリズム、力の信奉者であり、それができるだけの実力も備えているのだった。そしてもし彼女が本気になったときに自分は抗えるか、唯香には自信が持てなかったのだ。
ひ弱な一人の人間にできることには限りがあった。
意に反して決定的な場面で今度こそ本当に、自分にとって大切な人を裏切ることになるかもしれない――。
それがとても恐ろしかった。
そうならないようにするには、碧子にはこれ以上こちらの弱みを握られないように、さらに用心深く振る舞わなければならなかったが、それだけでは不十分なことも少女にはよく判っていたのだ。
「それより、食蜂先生って唯ちゃんのクラスの担任なんだって?」
「ええ、そうよ」
「知らなかったなぁ、教えてくれればいいのに……あの子、すごく可愛いよねぇ」
「あの子って、先生よ」
「僕から見れば、女のコだよ、歳も一緒みたいだし」
「それはそうだけど……」
「ねぇ、今度、紹介してくれないかな?」
「えーっ! よくそんなことが言えるものね、ほんと、信じられないっ」
ベッドで肌を接している相手と別の女の話をするばかりか、引き合わせるようにと云うのだから呆れた物言いである。
「いや、そういうんじゃなくてさ、リアルでも見てみたくなって」
「一成さん、ミスコン、やってたの?」
痛いところを突かれたように、男は少しまごついた顔になった。
「いや、だって……僕はちゃんと唯ちゃんに投票してたんだよ……たださ……」
「ええ、どーせ、わたしは本選に残れなかったあぶれ者ですよっ、イーだっ」
少女は白い歯を剥き出して、むくれた顔をしてみせる。
「ホラ、唯ちゃんだって、ちゃんとファイナルで出てきたじゃないか、すごく可愛かったよ。みんなにも評判が良くてさ……ただ友人の一人からアレ、オマエの彼女に似てないかって言われて焦ったけど……」
男がオロオロと弁解を始めるのを十分に見届けてから
「そんなフォローしてくれなくてもいいですよっ、操祈先生にかないっこないのは分ってるから、でもお
と、おしおきのカウンターをお見舞いしてやった。案の定、男は顔を顰めた。
「えっ、そうなのっ! そりゃ残念だなぁ……」
「ああ、ホントに残念がってるっ、もうっ、許せないっ!」
少女はキッとなって半身を起こすと、枕をつかんで男の顔に叩きつけようと持ち上げた。清潔感のあるほっそりとした二の腕と、ゆっさりとなった裸の胸が初々しい。
「ち、ちがうってば、ゴメン、唯ちゃん、僕が悪かったよ、ただキミの先生、本当に綺麗だったからさ、一度だけでも会って目の保養をさせてもらえればなって、そう思っただけだよ」
そう言いながら、男は少女の胸の膨らみに手を伸ばして包み、
「ねぇ唯ちゃん、またそろそろ二回戦目といかないかい……?」
男の欲望をちらつかせていた。
「えっ!?」
「僕の方はもうエネルギーゲージが充填率百パーセントになったみたいだから」
「いいですけど……」
「もし、唯ちゃんの体の準備ができていないのなら手伝うよ」
「手伝うって……」
少女の顔がたちまち朱に染まっていった。
「手伝ってくれなくてもいいですっ」
「そんなつれないこと言わないでよ、それも男の楽しみのひとつなんだから」
男の両手が唯香の細い腰のあたりを捕らえたかと思うと、さっと体位を入れかえて少女を下に組み敷いた。
「ちょっと一成さんっ、待って!」
何をされるのかわかっている少女は体を丸めて身を守ろうとしたが、男の強い力には抗えずにすぐに膝の間を割られてしまうのだった。片脚を男の肩に担がれて無防備に脚を開かされていく。
「いやぁっ、こんなのぉ」
女の秘所をあらためられて少女は両手で顔を覆って羞恥に堪えていたが、哀切な悲鳴はたちまち甘い喘ぎとため息にかわっていくのだった。
「一成さんって……変よ……変態……」
「そうかな……そうかもしれないね……」
恋人は愛撫の合間に顔をあげて睦み言を重ねている。
「……男って……みんな、変態よ……こういうのって……」
「唯ちゃんはキライなの?」
「うん……でも、一成さんだけは別……」
「それは良かった……とても嬉しいし光栄だよ……」
「……だから……一成さんも……私だけを見て……」
「……わかった……約束するよ……」
「本当にっ……約束よっ……ああっ……いいっ……一成さんっ……」
「ああ……約束だ……」
恋人と交わした肉の契りに、少女の緊張が