ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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バースデープレゼント2

          ⅩⅩⅫ

 

「ごめんなさい、わたし、プレゼント、何も用意していなかったわ……あなたのお誕生日だったこと、忘れるなんて……」

 と、しょんぼりする。折角のデートを自分のうっかりが台無しにしてしまったような気分だった。

「でも、もう昨日のことですから……」

 少年は恬惔(てんたん)としている。

「だからって……ねぇ、何がいい? 欲しいもの、あるでしょ?」

「ボクのバースデープレゼントですか? そんなの気にされなくてもいいんですけど」

「そうはいかないわ、だってわたし……あなたのガールフレンドとしては……」

 少し勇気が要ったが、ガールフレンド――という言葉を思いきってつかってみたのだったが、相手がニッコリしてくれたので操祈も嬉しくなった。

 そう、わたしはこの人のガールフレンドなんだ――と、自分の胸にも言い聞かせる。

 だから――。

 普通の女の子たちのするようなことを自分もしてみたいのだった。

 今はできないことがいっぱいあるけれど、でもいつかは――。

 スイーツを分け合いながら一緒に街を歩いたり、お買い物をしたり、映画を見たり……。

 そんなあたりまえのことをしたかった。

 それができないからこそ、せめてプレゼントくらいは、と思う。

 二人だけの和やかな食事をおえて、大きな長椅子の隅に体を寄せ合うようにして座って互いの温もりを感じながらの会話は、ほとんどピロートークに近い親密さを確かめ合うものになっているのだった。

「じゃあ、お花を……」

 ボソリ、と言う。

「お花? 男の子が? 珍しいわね……普通は腕時計とか万年筆とか、ネクタイとかなのかな?……それともゲームソフトとか? そう言ったものがいいのかしらと思っていたから……」

「そうなのかなぁ……でも、ボクはお花がいいなっ」

「いいわ、じゃあそういうことにしましょう。このつぎ逢う時には忘れずに用意しておくわね」

「いいえ、その必要はありませんよ、お花ならもういただいているので……」

「……?……」

「世界でひとつの、じゃなかった二輪ですね……この世でいちばん美しい花々を……」

 操祈は一瞬、自分のことを花に喩えてくれたのかと思ってはにかんだが、二輪、と言われて意味がわからなくなって小首を傾げた。

「ねぇ先生……これに着替えていただけませんか?」

 少年は制服のジャケットの内ポケットの中から小さな紙包みを取り出すと、操祈に手渡した。

「なぁに、これ?」

 操祈はつぶらな瞳をさらに大きくして恋人の顔を見やる。

「服をみんな脱いで、それを着て下さい」

 着替えというにはあまりにも小さな包みに、操祈は怪訝そうな顔になって中味をあらためた。袋の中に見えたのは黒いリボン状のものなのだった、というよりも取り出してみるとリボンそのもの。

「ただのリボンじゃない!?……これに着替えるって言っても……」

 少年のニンマリした顔を見て、やっと意味がのみこめた操祈は華奢な肩を上下させて、大きなため息をひとつ吐くのだった。

「またイケナイこと、考えているのね?」

「ハイ――」

 レイは少しも臆することなく操祈をまっすぐに見て頷く。メガネを外して甘い顔立ちを向けていた。

「もう、レイくんったら……」

「どうしても嫌だったらいいですよ……」

「イヤだなんて言ってないわよぉ、エッチなレイくんはわたしに、これを“着て”欲しいんでしょ? いいわ」

「ほんとに?」

 少年は顔を綻ばせた。

「だって、あなたのお誕生日のお祝いを兼ねているんだから……わたしにできることなら……」

 操祈はキスを求めて少年の方に身を屈めた。ところがまた、唇に人指し指を立てて制されてしまうのだった。

「……?……」

「お楽しみは後にとっておくほどステキになるものですから……」

 今度も同じ理由で拒まれてしまった。こう繰り返しが重なると、なんだか焦らされているような感じにもなっている。

「先生のビキニ姿、スゴかったから……それに着替えたらきっともっとずっと綺麗になるんじゃないかなって思って……大活躍でしたね、ミスコン、お疲れさまでした」

「大活躍って、あんなことがあった所為で今週は大変だったんだからっ」

 少年がその話題を振ってきて、操祈は待ちかまえていたように胸に抱えていた不満を訴えた。授業がやりにくくなっていること、職員室でのセクハラまがいのこと、マスコミとの対応に追われていたことなど。

「取材だと言ってつきまとわれて、あの人たちってアパートの敷地にまで入ってきちゃうのよ、ご近所さんにも迷惑がかかって」

「えーっ、やっぱりそうだったんですか? それは大変でしたね」

「やっぱりって、もう――」

 操祈はむくれた顔を作って唇を丸めて尖らせる。そうすると広い額の幼顔が子供っぽくなってさらに愛らしくなるのだった。

「連中はじきに居なくなりますから心配しないで下さい」

 一般公開されるようになったとは言っても、そこは学園都市である。外から来た者が自由に活動できる部分は限られていた。いかなマスコミといえど、許可なく留まり続けようとすれば通信器やカード等の一切が使用できなくなってしまうのだ。宿泊どころか糧さえも得られず、結局しぶしぶ外へ出て行くしかなくなるのだった。そして違反者として次の許可申請ではペナルティが課せられて入城許可が降りなくなる。

「でもボクは嬉しかったな、ボクがいちばん素敵だなって思っている先生のことを、世界中の人も同じように感じて、いちばん綺麗だって讃えてくれたんだから……」

「一番じゃなくて五番目よ」

「それって、実はちがうんですよ」

「ちがうって――?」

「やっぱりご存知じゃないんですよねぇ、先生らしいけど……」

「知らないって何のこと?」

 ミスコンについての無頓着ぶりを、さすがにこのままにしておけないと思ったのか少年は事情を諄々、説いて話したがそれでも操祈は浮かない顔をしたままなのだった。

 各マスコミのインタビュアーのウエイト配分がミスコン三位の碧子よりも、明らかに操祈の方に割り振られているのが不思議で、教師という立場への関心からそうなっているものとばかり思っていたのだが、レイの言うような背景があるとしたら分らないわけではなかった。

 ただ納得したわけではなく、断固異議あり、迷惑この上ないという気持ちには変わりがない。

「もっと喜んでくれると思ったのにな……」

 少年は少し不満げな顔をしている。

「だって、その影響だと思うけどぉ、ここに来るだけでも大変だったのよぉ」

「そうだったんですか?」

「一人でエレベーターに乗ろうとしても、はっと気がつくと後ろからくっついてくる人が居たりして……」

「それって、もうストーカーじゃないですか」

「たぶんそういう人とは違うとは思うの、でもここのエレベーターにはなんども乗りそびれてしまったわ」 

 一夜にして学園都市の外でも著名人となった操祈には、これまで以上に周囲から関心が寄せられているのだった。

「それでどうされたんですか?」

「紅音さんに相談したら、もうひとつの奥の手を教えてくれて」

「もうひとつの奥の手っ?!」

「でもそれはレイくんにも言っちゃダメだって言われてるから、ナイショ」

 ビル三階の女性用トイレの奥に、家族専用の二人乗りの非常用直通エレベーターがあるのだった。

「それって危ないことではないんですよね?」

「それは大丈夫よ、かえって楽なくらいよ」

「ならかまわないですけど……」

「でも、念のため多用するのは避けた方がいいって紅音さんが言っていたから、なるべく使わないようにはするつもりだけど……」

「秘密の裏口の他にもさらに奥の手を用意しているとは……やっぱり栃織さんは侮れないなぁ……」

「ええ、そうよ、とっても賢い人なの」

「ついこの前ですけど、ボクも彼女には助けられたことがあったから……ボクたち、栃織さんには借りをつくってばかりですよね……いいのかなあ、これで……」

 当惑気味なレイの様子に、操祈も紅音から持ちかけられていたことを思い出すのだった。

 セックスしているところを見たい、と言われていたのを――。

 とても受け容れられないと感じていたことだったが、レイとのデートを重ねるようになって、こんなにも彼女に頼り切りになるとは思ってもいなかったのだった。

「大丈夫よ……紅音さんはとてもいい子だから、無茶を言うような人ではないわ」

「そうですね……でも彼女ひとりに過度に依存するのもどうなのかなって……」

「ええ……」

「だからって、今のボクたちに何ができるってわけでもないんですけど……」

 少年は不意に何事かを思い出したのか、気がかりでもあるような顔をする。

「どうかしたの?」

「え――?」

「なにか心配事?」

「いえ、べつに大したことじゃないです」

 少年は笑顔を向けたが、無理につくっているようにも見えるのだ。

「大したことないって、そんな顔して言われたら、心配しないわけにはいかないでしょ?」

「あれ、ボク、そんなにおかしな顔してたのかな?」

 レイは茶化そうとしていたが

「何か、あるのね――?」

 操祈が踏み込むと、少年は観念した様子で真顔になるのだった。

「実は今、ちょっとしたトラブルを抱えていて……」

「トラブル?」

「それでまた栃織さんの力を借りる事になりそうだから……」

「どんなこと?」

「それはまだお話できないんです……でも、けっして大事(おおごと)にはしませんからご心配なく」

「私にも関係がある事……?」

「それも今は言えません……」

「そう、なのね……」

 どうやら操祈も絡む話のようだったが。少年が言えないという以上は、追求することもできなかった。

「私じゃ力になれないのかな? 紅音さんには頼っても……」

「そういうんじゃないんです、ただボクと先生との線がつながるとマズいので」

「そう……そういうことなの……でも何かあったら、私にもちゃんと相談してね」

「ええ、わかってます……それより先生、ナマ着替えはどうされたんですか?」

 真面目な話になって重くなった空気を払おうとするように、少年は話をむりやり切り替えるのだった。

「もう、急かさないでっ! しょうがないわねぇ、じゃあ、わたし着替えてくるわ……このおリボンに……本当にイケナイ子なんだからっ」

 操祈は戯れに少年をキっとひと睨みすると、やわらかい笑顔になって長椅子から立上がった。

 




今夜はもう1話、書ければ・・・
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