ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~ 作:真夜中のミネルヴァ
Ⅳ
「往生際が悪いわね、私にはあなたの心が判るって言ったでしょ、あなたと先生が熱愛中であることを私は知ってるのよ、感じているのでも判るのでもなく、知っているの」
「きみは……きみの能力はレベル1じゃなかったのか……?」
「公式評価のレベル1のテレパスっていうのは相当だと思うわ。でも私はテレパスじゃないの。私の本当の能力は人の体から放射されているオーラを読む能力、オーラリーディングよ。だからたとえ相手が心を閉ざしていても生理的な反応である感情は見えてしまうのよ。それに気づかせてくれたのは他ならぬ操祈先生だったんだけど」
紅音は旅先での操祈とのやりとりを話して聞かせ、レイは沈黙するしかなかった。
「私の能力について知っているのは、密森くんで二人目……そうね、会長も感づいているから、三人かな……あまり他の人には知られたくないから、言わないでくれると嬉しいんだけど」
「ボクには他人の秘密を吹聴したりする趣味は無いよ」
「わかってる――」
「………」
「まだ先生からお電話をいただくまでには時間がありそうだから、どこか適当なところに座っててよ、何か飲み物を用意するわ……甘いものを食べたばかりだからコーヒーでいい?」
レイは頼りなげに頷くしかなかった。状況が思っていた以上に困難であることがわかって索漠とした気分に陥っていた。
これまで操祈との関係は慎重にも慎重に、注意にも注意を重ねて密やかに進めていたものが、いきなりその秘密のヴェールを剥ぎ取られてしまったのだ。
先のことを考えると心細かった。
「お砂糖は?」
レイは首を振って応えた。
「じゃあミルク?」
「うん……」
紅音のコーヒーの趣味は良かった。少なくとも碧子よりは自分に近いと思う。少年はコーヒーは酸味のないものの方が好みなのだった。
「……それで……どうするつもりなの……?」
恐る恐る尋ねた。
「あなたが心配するのはそれよね?……もしこの件が露見でもしたら大変なスキャンダルになるから。学園都市の女神とまで言われている美人教師が密かに教え子を食べまくってた、なんてことをマスコミが嗅ぎつけたら……下衆な連中が大悦びするネタでしょうからね」
「先生はそんな人じゃないよ……」
「わかってるわよ、あなたがあの人を
「………」
「怒ったの? でも密森くんがまともな人だって事は疑っていないわよ。あの人のパートナーとしては、まぁ、これはこれでアリかもしれないぐらいには思ってるんだから」
「栃織さん、きみは……何がしたいの? ボクたちをどうしたいの?」
自分では緻密であったつもりが、こうも易々と尻尾を掴まれるようではと、無力感に苛まれていた。
知らないところで操祈を悩ませるような事態が進行していたとすると、能天気に生徒会の雑用のことばかりを案じていた鈍感さが口惜しい。
「いいわね、いい反応よ……愛情、尊敬、忠誠、そして決意……まさに
揶揄されたように感じて、レイは毅然となった顔で少女を見返した。
「やめてくれないかな? 心を読むのは」
「心じゃなくて感情よ……でもそうね……卑怯よね……裏に印のついたカードでトランプをするようなものだから……なら、お互い嘘は無しってことでいい?」
レイが頷くと、少女はスカートのポケットから眼鏡を取り出して顔に掛けた。
「……?……」
「こうするとなぜかオーラが見えなくなるの、理由はわからないけど」
確かめる方法がない以上、信じるしかなかった。
「私が何をしたいかってことだけど……何もしないわ、強いて言えば、応援したいってことかな?」
「応援?」
「そう、あなたたち二人の恋路を応援してあげたいの。だって大変だったでしょ? この高度に監視化された学園都市で密会するなんて……今までどうやってたのかは知らないけど」
「………」
「でもここでなら何に気兼ねをすることなく二人だけの時間を過ごすことができるわ。シャワーもベッドもお風呂も自由に使えるし、ね、魅力的でしょ?」
「そんなことして、きみになんの得があるの?……きみは慈善家ってタイプには見えないから」
「そうね、自分も慈善家だとは思わないわ。でも、こう考えてくれない? 操祈先生のハッピーが私にとってもハッピーなんだって」
「そんなこと……」
少年は半ば呆れたように首を振った。
「おかしな新興宗教にでも入ってたりする? 変な
「そういうのじゃないわ、たぶん、私の気持ちは密森くんに近いと思うの……私ね、あの人のことが大好きなの、でも勘違いしないでね。レズっ気があるわけじゃないから」
怪訝そうな面持ちのままで相手の様子を窺っていた少年だったが、少女の口からいきなり、レズ、というようなキワドイ言葉が出てきて、どんな顔をしていいかわからなくなり、気まずさをやり過ごそうとテーブルのコーヒーカップに手を伸ばした。ひと口含んで仕切りなおした。
「操祈先生ってね、私の子供の頃からの憧れの人だったの。あんなに綺麗な女の人、他に知らないから。だから、あの人がどんな恋をしているのか、ずっと気になっていて、どうか幸せな恋をして欲しいって、そんなふうに思っていたのよ。これは本心。だから私にあの人を傷つける意思なんてこれっぽっちもないわ。密森くんなんかどうなったって構わないんだけど……でももし、そのことで操祈先生が悲しむようなことがあるのなら、私はあなたの味方になる、そういう話よ」
少年は長く息を吐いた。それは半ば安堵の、緊張感から解放されたときのものだった。紅音の言葉を全て真に受けることはできなかったが、一方で悪意も感じられなかったからだ。とりあえず最悪の状況ではなさそうだと胸を撫で下ろしていた。
「これで安心してもらえたかしら?」
「え?……うん……」
「私が何か要求してくると思ってたんでしょ?」
レイは認めた。
「ご覧のとおり、私、お金には不自由はしてないわ、密森くんのなけなしの奨学金を巻き上げようだなんて、そんなこと思うハズがないでしょ?」
「だから、ここに連れて来られてからよけいに気になっていたんだ……何を持ち出されるかわからなくなって……」
「ただ、先生には一つだけお願いしたことがあったの。これは要求でも条件でもないから、嫌なら嫌で構わないからって、断られたからって不利になることは絶対にないからって納得してもらってから……」
「……?……」
「そうしたら先生は、密森くんの意向に従うって言われたわ」
「そのお願いってどんなこと?」
「ねぇ、差し支えなかったら教えてくれない?」
「なに――?」
「いつからなの? 先生とは……その……セックスをするようになったのは?」