ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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シュトーレン

 

          ⅩL

 

 また今週もデートがお流れになった。

 それにもかかわらず操祈は未練がましく『デリカ・ナショナル』に来てしまっている。バースデーデート以降、もうこれで三週連続でレイとは逢えずにいて、冬の訪れとともに孤閨(こけい)の寂しさも身に沁みるようになっていた。

 デートの時なら買い物をしたらエレベーターに乗り、そのままペントハウスへ――と、胸を躍らせているところだが、今日は特に目的も無く、ただワゴンを押して店内をうろうろするばかり。

 あーあ――。

 つい、ため息がこぼれてしまう。

 心ならずもミスコンなどに引っぱりだされてしまったがために変に目立つようになって、結果、以前よりもデートがしにくくなっているとしたら、あんまりだった。

 なによぉ、いまは他人目(ひとめ)があるからデートを控えようだなんて、そんなことっ、よく言えたものよねっ――。

 昨夜は、

 

“あらぁ、それって心変わりをした男が言いそうな台詞じゃないのよぉ――”

 

 と、裡なる自分からさんざん煽られて、すっかり悄気(しょげ)ていたが、今日になって一通の封書が届いてからは、斜めだったご機嫌もいくぶん元に戻っている。

 その郵便物はいかにもありがちなDMを装ったもので、中味も不動産広告が入っているだけの他愛も無いものだったが、操祈であれば、それがレイからの私信だと気づく仕掛けがしてあるものだった。例によってチラシの裏の余白に手書きの数字が並んでいて、字謎だと判るようになっていたからだ。

 本当に別れ話をもちかけられたのかと思って、不安に胸を騒がせながら読み解いたのだが、そうではないとわかると、ホッと安堵するとともに目頭を熱くするくらい嬉しかった。

 

 くりすますは

 ずっといっしょに

 かくごして

 いっぱい

 かわいがる

 

 いっぱい可愛がるって、なによぉ……もう……それにクリスマスなんて、まだ二週間以上も先じゃない、その間、ずーっとわたしを放っておくつもりなのぉ――?

 喜び半分、不満半分で操祈は泣き笑いになっていた。

 なんといってもイヴをいちばん大切な人と一緒に過ごすのは乙女の憧れでもある。今年は、生まれて初めてそれが叶うのかもしれないと思うと期待に胸がときめいてしまうのだった。

 早くお休みにならないかな――。

 同時に、まだこれから期末試験の準備やら採点やらのイベントが控えていることを考えると、もどかしくなって、恋人の匂いが恋しくてたまらなくなってくる。

 逢いたいなぁ――。

 どうして逢ってはいけないのぉ?

 彼が未成年だから?

 でも、ちゃんと本気で愛しあってるのなら罪には問われない筈でしょ?

 

“でも世間はそうは思わないわよねぇ、なんていったってぇ、教え子に手を出しちゃったんだもん、それはマズいわよぉ、胸囲力で子供を誑かした淫乱女教師ってことでぇ、一発アウトのチェックメイトになるのは明白よねぇ”

 

 部屋で独り悶々としていると心の隙間を衝いて、またもう一人の自分が気持ちをかき乱そうと忍び寄ってくる。それもあって気分転換をはかろうと外へ出てきたものの、行くアテがあるわけでもなく、気がつくと紅音のペントハウスのあるスーパーの下りエスカレーターに乗っていた。

 買い物カゴを乗せたワゴンを押して店内を散策する。しかし、何故か常に無く人の視線が向けられているような気がして居心地が悪いのだ。通路をすれ違う時、多くの客が自分を振り返るのを感じる。

 やっぱり、あたしだってバレてるのかしら――?

 ミスコン以降、明らかに以前よりも他人目を意識させられることが多くなっていて、どこへ出かけても、日に一度や二度は全然知らない人から「食蜂操祈先生ですよね」と声をかけられるようになっているのだった。

 あげく、握手にサイン、写メまで求めようとするものが現れて、

「あたし、タレントやアイドルじゃなくて、ただのガッコのセンセーなのよっ」

 と窘めなければならなくなっていて、メンタル負荷が増しているのだ。

 そんな憂き目に遇うのはゴメンだったので、今日は誰にも判らないようにとバッチリ変装をして出てきたつもりだったのだが、どうやら不十分だったらしい。

 頭にはダークグレーの中折れ帽をかぶり、顔には暗い色のゴーグル、そしてスラックスにトレンチコート――。

 大胆にイメージチェンジを図ったので、よもや誰もあたしが食蜂操祈サマとは気がつくまい、と思っていたが、そんなに世間の目は甘くはないようだった。

「先生……ですよね……?」

 とうとう声をかけられてしまった。

 聞き覚えのある声に振り返ると、そこに居たのは舘野唯香である。

「やっぱり先生だぁ」

「あらぁ、唯香さん」

「どうされたんですか、その格好? さっきからものすごーく目立っていて、きっと先生なんじゃないかなって思いながら、なかなか声をかけられずに居たんです」

「目立つって――?」

「だってバリバリに格好良すぎるじゃないですか、長い金髪にコートが似合い過ぎてて、うわーなんだろ、あの綺麗な女の人って、誰だって思いますよ」

「うーん……」

 別の意味で悪目立ちをしていたと判って、思惑外れに絶句する。

 操祈は手短にイメチェンの理由を説明したが

「無理ですね、美人の宿命だと思って諦めて下さい」

 と、あっさり片付けられてしまった。

「お買い物ですか?」

「うん……晩ご飯のお惣菜でもと思って出てきたんだけど……唯香さんも?」

「わたしは、もうすぐクリスマスだから、彼に手作りのプレゼントをしようと思って」

「まぁステキっ、手作りって何を作るつもりなの?」

「シュトーレンとかならちょうどいい時期かなって、それで材料を買いに」

 操祈も、その手があったか――! と、曇りがちだった表情を明るくする。

「それならわたしもやってみようかな……」

「ステキじゃないですか、きっと彼氏さん大喜びしますよ、操祈先生の手作りのシュトーレンをもらったりなんかしたらっ」

「そうかしら……うん、そうよねっ……作り方、知ってるの?」

「ええ、だいたいなら分ってます」

「じゃあ、これからウチへ来ない? 教えて、一緒に作りましょっ」

「え、いいんですか?」

「ええ――」

 美女二人がニコやかに立ち話に興じるまわりには、いつしか何ごとかと遠巻きにする他の利用者の人垣ができ始めていた。

 

 

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