ボーイ8メンタルアウトアウト~学園都市編~   作:真夜中のミネルヴァ

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ペントハウス3

 

          Ⅴ

 

「……もしかして京都でのデートがはじめてだったりするの? それとももっと以前から?」

 少女のワーディングは直裁(ちょくさい)で少年をたじろがせるものだった。

 栃織紅音についての印象は融通の利かない杓子定規なクラス委員で、地味、腐女子っぽいネクラなイメージしかもっていなかっただけに、少年の中にある紅音のプロフィールファイルはいろいろと修正を迫られていた。

「京都って? まさかっ、きみは勘違いしてるよ、ボクたちはそんなことしてないから、そもそもそういう関係じゃないっ」

「プラトニックラヴだとでもいうの? それは嘘よっ、だってあなたたちが自由時間のときに熱愛デートしてたのは先生にも確認済みなのよ。バスの中で操祈先生が真っ赤になって恥ずかしさを(こら)えているのがわかったし、密森くんは女をものにした時の男の雰囲気バリバリだったし」

「………」

「だから、てっきりあのとき先生はロスバーしたのかなって思っていたんだけど……でも一緒に温泉に入ったとき、ちょっと予想が外れたかなっていうか、先生の体のどこにもキスマークなんてついてなかったし、傷ついた体を気にするような仕草もみられなかったから……まあ、そういうのって個人差もあることだから一概には言えないんだけど……でもそんなに前から関係してたって感じでもないのよね。先生の身体、綺麗なだけじゃなくて、すごく初々しい感じがしたから……まだ男の人からの愛撫になれていないような……」

「きみは先生のことをそんな目で見てたのか……」

「見てたんじゃなくて、そう見えたってだけよ……操祈先生を可哀想な女のコの顔にさせちゃう密森くんには言われたくないわ、そんなことっ……でも、あの人がどんなセックスをするのかにはとても興味があるわ……」

 少女はちょっと頬を上気させて言った。言いながら眼鏡をズラして裸眼で少年の顔を盗み見る。レイは唇を一文字に結んで抗議の意を示した。

「今まで何回ぐらい先生としたの?」

「やめてくれないかな、差し支えあることは訊かないって言ったばかりなのに……」

「ほら、やっぱり差し支えあることしてるんじゃない……ねぇ、どんなセックスをするの? 教えてっ」

「そういう質問には答えたくない、だいたいボクたちはセックスなんかしてないっ」

「そうなの?……密森くんが私に嘘をついたってすぐわかっちゃうから無駄なんだけど……」

 少女はまた上目遣いになって眼鏡の枠の外から少年の様子を伺っていた。

「あれ? おかしいわね、嘘はついてないみたい……でも……?」

「ボクは嘘なんかついてないよ……ボクも先生も一線は越えてないし、越えたこともない……」

「先生がまだヴァージンだっていうのっ!? そんなハズないわっ、だって……ねぇ……もしかして密森くんって病気? それとも急にできなくなっちゃうとか?」

「ちがうって!」

「おかしいわよ、そんなのって……絶対に変……」

 少女は怪訝そうに長椅子から立上がると、

「コーヒーのお代わり要るでしょ?」

 そう言いながらまた背後のアイランドキッチンへと向かった。

「……うん……そうだね、いただこうかな……これマンデリン?」

「わかんない、おじいちゃんのだから……」

「美味しいと思うよ、淹れ方もいいのかも」

「そうなのかな? わたしはボタンを押しただけだから。あとはコーヒーメーカーが豆量を勝手に計って、勝手に抽出してくれるの。生豆からローストすることもできるらしいけど、わたしには興味ないし」

「すごいね、羨ましいよ。自分だとなかなかこんなふうにはならないから」

「じゃあ、ここに居る時は自由に使ってもらっていいわ」

「……うん……」

 頷くべきかどうか迷ったが、返事をしてしまっていた。

 コーヒーメーカーのミルが豆を挽く微かな音が聞こえてくる。

「密森くんってそういうのに結構、詳しいわよね、味とか香りとかに敏感っていうか……」

「べつに普通だと思うけどな……」

 それまでがとても中学生の男女のものとは思えない露骨な内容だっただけに、こういう差し障りのない会話だと身構えずに済んでホッとできた。

「お菓子焼いたり、お料理したり、わりと食べることにこだわりがある方よね……」

 コトコトコトコトと実に静かに抽出される音とともに、また心躍る香ばしい香りが漂ってくる。

「そうかな、ボクはただ数少ない楽しみを大事にしたいって思ってるだけだけど」

「………」

「栃織さんと違ってしがない奨学生だからね……」

「………」

「食費だって切り詰められるところは切り詰めないと……」

「………」

 会話の最中にリアクションが途切れ、不意に紅音が口を閉ざしたのを訝しく思ってキッチンを振り返ると、少女は凝視するでもなく黙って中空を見つめていて、思考を巡らしている様子でいた。

「……どうかしたの……?」

「……そっか……」

「え?」

「……そういうことか……」

 やがて少女は分け知り顔になって、フロアーよりも数段高い位置にあるアイランドキッチンの上から少年を見下ろしていた。

「わたし、わかっちゃったわ、恋する二人がこっそりなにをしているのか……たしかにセックスしてないって言えばそうなのかもしれないけど……」

「………」

「でもね密森くん、ふつうのセックスよりもオーラルセックスの方がずーっとエッチでアブノーマルなプレイよ。とくに経験の浅い女のコにとっては抵抗感が強いもの……私にはぜったいに無理だからっ」

「――!――」

「操祈先生みたいな身持ちのいい方にはとてもショックだったと思うわ、クンニリングスなんてあんな恥ずかしいこと……ずいぶんひどいことするわね、あなたって見かけによらずりっぱなヘンタイよ……べつにもう驚かないけど……」

 

 

 

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